ベースラインとは?プロジェクト管理における役割や設定方法を徹底解説

 2022.10.12  株式会社システムインテグレータ

会社で実施されるプロジェクトを成功させるためには、進行中の適切なプロジェクト管理が欠かせません。業務内容やリソースなどをうまく整理・分担しなければ、スムーズなプロジェクト進行が困難になり、失敗しやすくなります。

そこで効果的なのが、関連する要素を可視化して管理できる「ベースライン」の作成・活用です。ベースラインを有効活用することで、進行状況を把握できるため、プロジェクトの成功につながります。この記事では、ベースラインの定義や種類、活用方法や設定手順などについて解説します。

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ベースラインとは

プロジェクト管理におけるベースラインとは、プロジェクトの進捗・予算・成果物など、さまざまな要素の状況を図表化したものです。基本的に現在のプロジェクト状況を可視化する目的で使用され、プロジェクトの進捗を基準値や予定値で比較して、計画に沿って進行できているか判断します。プロジェクトを開始した時点と現在の進行状況とで測定すれば、進行中に何らかの問題が起きてもスムーズに計画の変更が可能です。

なお、ベースラインの定義は2種類あります。それぞれで内容が異なるため以下で確認しましょう。

PMBOKによる定義

ベースラインの定義の一つがPMBOKによる定義です。

PMBOKでは、ベースラインを「作業プロダクトの承認済み版」と定義しており、「正式な変更管理手続きを踏んでのみ変更可能であり、実績値との比較基準として使用される」としています。

参考:PMBOK 第6版 733ページより

ちなみにPMBOKは「Project Management Body Of Knowledge」の略で、プロジェクト管理に関する知識を体系的にまとめたものです。アメリカの非営利団体「PMI」によって定義されたものですが、現在では世界標準になっています。

なお、こちらの2記事ではPMBOKの詳細について解説しているので、併せてご覧ください。

【第1章】PMBOKを理解しよう:PMBOK とは
PMBOK7 変更点と第7版を読み解くポイントについて解説

ISO21500による定義

PMBOKとは別に、ISO21500によるベースラインの定義も存在します。

ISO21500では、ベースラインを「監視され、管理されるプロジェクト・パフォーマンスと照らして比較するための参照基準」と定義しています。

このISO21500はプロジェクト管理における国際標準で、プロジェクト管理のパフォーマンス向上のための概念とプロセスを提供する目的でつくられています。

ベースラインの4つの種類

プロジェクト管理に欠かせないベースラインは、主に4種類あります。作業範囲を確認する「スコープ・ベースライン」や、進行状況と比較する「スケジュール・ベースライン」、予算の基準に据える「コスト・ベースライン」が主要な3種類です。加えて、3種類を統合した「パフォーマンス測定ベースライン」が使用されます。

ここでは、それぞれのベースラインの特徴や使用場面について解説します。

スコープ・ベースライン

スコープ・ベースラインは、プロジェクトの作業範囲を確認する目的で作成されます。スコープは「範囲」「視野」という意味を持っており、プロジェクトの範囲を決める定義として用いられます。

スコープ・ベースラインは「プロジェクトスコープ記述書」「WBS」「WBS辞書」を作成する際に必要です。なお、WBSはプロジェクトの作業管理手法で、各作業を細分化して階層構造に管理します。

スコープ・ベースラインの作成には複数のステップが必要で、PMBOKでは「スコープ定義」「要求事項収集」「WBS作成」の3段階が定義されています。ベースラインに定められたスコープは、プロジェクトにおいて監視・検証・コントロールを行うのです。

WBSについてはこちらの記事でも解説しております。合わせてご確認ください
【第7章】WBSの目的とメリット:WBS とは

スケジュール・ベースライン

スケジュール・ベースラインは、プロジェクトの進行状況と比較するための基準値として作成されるベースラインです。プロジェクトの各作業やフォロー作業、現在までの過程をタスク単位でスケジュールに当てはめていきます。

スケジュール・ベースラインはプロジェクト全体のスケジュールを捉えているため、「プロジェクトマネジメント計画書」の作成時にも有用です。プロジェクトマネジメント計画書はプロジェクト進行に必要な作業を記載した文書で、プロジェクトの円滑な進行に欠かせません。実際、ベースラインを活用した計画書作成に加えて、ベースラインそのものをプロジェクト全体のマスタースケジュールとして活用するケースもあります。

コスト・ベースライン

コスト・ベースラインは、プロジェクトに必要な予算の基準値で「コスト・パフォーマンス・ベースライン」とも呼ばれます。時間軸を基準にして結果と比べて、プロジェクト全体の進行状況を判断するものです。プロジェクトにおけるコストパフォーマンスに対して、測定や監視、制御などを行います。コスト・ベースラインを設定することで、各工程で必要な資金の算出が可能となるほか、プロジェクト全体で必要な予算の配分も明確化できるでしょう。

コスト・ベースラインをグラフに表すと、一般的にS字型の曲線を描きます。中盤でコストが大きく増加するため慌てないようにしましょう。この予算には「コンティンジェンシー予備費」が含まれますが、「マネジメント予備費」は含まれません。コンティンジェンシー予備費とは、将来的に発生が予測されるトラブルのために積み立てられる予備費のことで、マネジメント予備費は予測できないトラブルに備えた予備費を指します。

パフォーマンス測定ベースライン

スコープ・ベースライン、スケジュール・ベースライン、コスト・ベースラインを統合したものです。それぞれの機能を併用可能で、スケジュールの遅れによるコスト面への影響などを詳しく把握できるものです。いずれかの要素に変更が生じた場合、別の要素にも影響が連鎖するかもしれませんが、その際でも影響の連鎖状況を効率的に監視・管理できるのが特徴です。

プロジェクトを包括的に見たパフォーマンスを管理するために、パフォーマンス測定ベースラインの活用が欠かせません。各ベースラインを効果的に連携させて、パフォーマンス測定ベースラインとして効果的に運用しましょう。

ベースラインの活用方法

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前述の通り、プロジェクトを進行させる際にはベースラインの設定が重要です。幅広い活用ができますが、ここではメインとなる3つの活用方法についてご紹介します。これらの方法を実践することで、プロジェクトの進捗状況と予定とのずれを早期に見つけたり、ステークホルダーとプロジェクトに関する共通認識を持ったりできるでしょう。

プロジェクトのパフォーマンスを把握

プロジェクトのパフォーマンスに対する基準を定める際に、ベースラインが役立ちます。計画段階で設定したベースラインを基準にして、実際のプロジェクトにおけるパフォーマンスを確認しましょう。プロジェクト進行の範囲やスケジュールなどが予定内に収まっているかを確認でき、予定とずれていた場合も迅速に修正可能です。

また、プロジェクトにおけるパフォーマンス把握の際には、3種類のベースラインを用いた同時計測が重要となります。ある領域での変更が別の領域に及ぼす影響を可視化できるでしょう。各ベースラインを確認すると、計画済みの進行範囲やスケジュールなどを変更する際に調整しやすくなります。

ステークホルダーと認識を合わせる

ベースラインを使えば、ステークホルダー(=関係者)とプロジェクトへの認識を共通化させやすくなります。ベースラインによって、達成目標・完了時期・必要なリソースをより正確に伝えられるためです。

また、「スコープクリープ」を防ぐためにも認識の一致は重要となります。スコープクリープとは、想定されていたプロジェクトの範囲を実際の要求が超えて、プロジェクトが失敗することです。ステークホルダーもプロジェクトの現状を認識できていれば、許容量を超えた要求を出さないため、スコープクリープの発生を未然に防げます。

初期の予測と比較する

プロジェクト終了後に、初期の予測と実際の成果を比較する際もベースラインが有効です。予測より良い成果を出せた分野や成果を出せなかった分野など、自社の技量を把握する助けになります。また、予算計算時に予測していなかった要素や想定外に時間がかかった成果物など、ベースラインの作成段階における改善点を見つけることもできます。

これにより、次回以降は得られた知識をもとにより正確な予測を立てることができ、効率的にプロジェクトを進行しやすくなるのです。

ベースラインの設定手順

プロジェクトをスムーズに進行させるには、良質なベースラインの設定が不可欠です。ベースラインを設定する際は、5段階の手順に沿って進めるのが効果的です。各ベースラインを効率良く作成し、そのうえで変更時のルールを定めましょう。

具体的に、ベースラインの設定手順について解説します。

スコープの決定

まずは、スコープ・ベースラインを作成します。スコープはプロジェクトのスケジュールや予算にかかわるため、最初に決定しておく必要があります。

スコープ・ベースラインの作成時は、成果物の分割から取り組みましょう。プロジェクトで達成したい成果物をリストアップして、実行可能なタスクや副成果物などに分けます。例えば「就職イベントを開催する」という成果物がある場合、「イベントの会場を予約する」「ゲスト講演者を決める」などの副成果物が考えられるでしょう。

プロジェクトの成果物・副成果物を視覚的に整理できるように、作業分解構成図を作成する方法もあります。主要目標を一番上に置き、成果物・副成果物を枝分かれさせましょう。

スケジュールの設計

プロジェクトのスコープを決定したら、スケジュールを計画・設計します。スケジュール・ベースラインを作成し、成果物や副成果物の締め切りを明確に定めましょう。同時にプロジェクト全体の最終的な締め切りも決定します。この段階では、現実的に達成可能な締め切りの策定が重要です。

スケジュールを決める際は、タスクごとの依存関係をはっきり示さなくてはなりません。無理なく流れをたどっていけるタスク順とスケジュールを考えましょう。

予算の作成

スコープ・ベースラインとスケジュール・ベースラインを作成でき次第、コスト・ベースラインを作成します。プロジェクトの成果物・副成果物を仕上げるために必要なリソースを全てリストアップして、リソースごとに必要な予算を予測しましょう。これにより、作業進行中に実際の出費額を確認して、ベースラインとの比較が可能になります。

最終的に仕上げる予算書には、予算項目・必要なリソース・予想されるコストを記載します。リソースやコストが必要になるタイミングを把握するために、プロジェクトのタイムラインを用意できればより便利です。各予算の要素を監督する責任者や、プロジェクト全体で必要な予算の合計額も記載しましょう。

ベースラインの変更ルールを決める

ベースラインは作成後も変更する可能性があるため、変更時に用いるルールを定めましょう。ベースラインによる規定を実際の業務がオーバーしても、ベースラインを変更して調整できれば遅れた分を取り戻せる可能性もあります。ただし、後述しますがベースラインは原則として変更しないことが望ましいという点には留意しましょう。

ベースラインの変更ルールを決めたら、あらかじめチーム内やステークホルダーなどにルールを説明します。成果物の追加や予算調整など各種変更をリクエストされた際に、チームとしてとる対応を周知させておきましょう。

なお、ベースラインを変更する際は、基本的に「開始」「評価」「分析」「実装」「終了」という5段階が設けられます。それぞれの内容については以下の通りです。

・開始

ステークホルダーから変更のリクエストが出される

・評価

変更リクエストの影響や変更に必要なリソースなどを考える

・分析

変更リクエストの承認・拒否を決定する

・実装

リクエストが承認された変更を実際に進める

・終了

変更完了後に、文書やコミュニケーションなどをステークホルダーが閲覧できる形で保存する

フィードバックを得る

ベースラインの原案を作成したら、ステークホルダーに共有してフィードバックを得ましょう。フィードバックの内容を原案に反映させて、正式なベースラインを完成させます。

フィードバックの収集は、ステークホルダーだけでなくチームにとっても重要です。重要な業務を担うチームとベースラインの原案を共有すれば、そのチームは自分たちが抱えるリソースの重要性を把握できます。そのため、締め切りやコストなどが実現可能か入念に検討できるでしょう。また、社外のステークホルダーからも、専門知識によるアドバイスをもらえるかもしれません。チームやステークホルダーからの意見を参考にして、より効果的なベースラインを仕上げましょう。

ベースラインは変更してもよいか

ベースラインは作成後も変更は可能です。しかし、変更は本当に必要な場面のみに留めて、原則的には変更せず進めましょう。ベースラインを安易に変更するとベースラインを作成した意義が薄まり、プロジェクトの方針がぶれ、トラブルの原因となるため注意しましょう。なお、ベースラインの内容と実際の進行が必ずしも一致している必要はなく、ある業務で遅れても別の業務で補うことができれば問題ありません。

ベースラインの変更が必要なタイミングは、主にプロジェクト内容への大規模な変更が生じた場合です。必要な成果物の数が変わったり期間が月単位で増減したりと、プロジェクトを根底から覆すような変更があればベースラインも変更しましょう。

まとめ

ベースラインの定義や種類、活用方法や設定手順などについて解説しました。プロジェクトを管理するうえでベースラインの作成・活用は非常に重要です。スムーズに業務を進めてプロジェクトを成功に導くべく、良質なベースラインを最大限に活用しましょう。

プロジェクト管理に関する詳しい資料もご用意しています。ぜひご覧ください。


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