プロジェクト管理に欠かせない「WBS」。
WBSはプロジェクトをスムーズに進行させ、チームメンバー全員が目標に向かって効率良く作業できるようにするための強力なツールです。
「WBS」という言葉を耳にしたり、見たことはあっても、その基礎となる概念や具体的な作り方について深く理解している人は案外少ないものです。
本記事では、WBSの基本を理解したい方、メンバーに浸透させたい方向けに、WBSの基本的な概念から、目的やメリット、そして正しい作成方法に至るまで、わかりやすく解説します。
ポイントについて簡単にまとめた資料もご用意しておりますので、ぜひこちらもご覧ください。
WBSとは
WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)は、プロジェクト全体を細かな作業(Work)に分解(Breakdown)した構成図(Structure)です。平たく言えば、プロジェクトの作業を段階的に細かなタスクに分解して計画を立て、実績管理することです。プロジェクト全体でやるべき作業を洗い出す際にとても役立ちますので、「プロジェクト成功の鍵はWBSにあり」と心しておいてください。
簡単な例で説明します。ホームパーティにお客様を招いて10人分のカツサンドを作るとしましょう。奥さんも私も生まれて初めての手作りカツサンド作りです。張り切ってはいるのですが、なにぶん初めてなもので何から始めればいいかわかりません。そんなときに、どのような作業を行えばいいかを洗い出すのがWBSなのです。
図1は、マインドマップを使ってカツサンドの作り方をWBSで表したものです。このように作業を分解していくと、カツサンド作りは「材料を準備する」「下ごしらえをする」「調理する」という3つの大工程からなり、各工程でどのような作業(タスク)があるかが明確になります。
図1:カツサンドの作り方のWBS
【まめ知識】マインドマップとは マインドマップ(Mind Map)とは、1970年代にトニー・ブザン氏が提唱した図解表現で、頭の中に漠然とある考えやアイデアを構造的にブレークダウンして明確にする技法です。 |
WBSの種類
プロジェクト管理で使用されるWBSは、構造化の軸に応じて下記の2種類に分類されます。
- プロセス軸のWBS
- 成果物軸のWBS
プロセス軸のWBSとは、プロジェクトの階層に着目し、タスクを細分化・構造化する手法です。
一般的には、成果物が不透明な中長期プロジェクトに用いられます。
一方、成果物軸のWBSは、成果物が明確な短期プロジェクトに用いられます。プロジェクト達成に必要な成果物から逆算してタスクを分解し、順序立ててツリー構造を構築します。
WBSの目的とメリット
プロジェクトの計画プロセスにおいて、WBSはとても重要です。WBSでタスクの洗い出しを行わない限り、そのプロジェクトはタスク漏れや作業の手順前後などにより失敗リスクが高まります。WBSを作成する目的とメリットについて、整理してみたいと思います。
①やるべき作業が明確化される
WBSの特徴は階層構造です。階層の違うタスクを思いつくまま並べるのと違って、トップダウン式にタスクを洗い出すので「あ、あれもそうだ」というふうにタスクが思いつき易いですし、頭の中もきちんと整理されます。
WBS展開により、何をすれば良いか、どんな作業をしなければならないかが具体化されるので、「あ、バターを常温にしておくのを忘れた」というような作業の漏れを防止することができます。
②スケジュールを組める
WBSでタスクを洗い出すことができれば、タスクをガントチャートに展開して手際の良い作業手順を組むことができます。例えば、画面1はカツサンド作りを3つの工程と各工程におけるタスク洗い出し、これをにガントチャートに展開したものです。分解されたタスクの役割分担や作業手順が明確になって、初めてきちんとしたスケジュールが組めるようになるのです。
画面1:カツサンドを作る作業をガントチャートに展開
③役割を分担できる
タスク分解ができると、担当者を割り当てることができます。逆に言えば、タスクの分解が甘くて、“みんなでやる”というような決め方だと責任の所在があいまいになって遅延が発生します。
画面1をご覧ください。材料を買う(買い出し)が私、家にある材料を出すのが奥さんというように決めることによって、この2つの作業を実は並列に行って工程を短くする余地が出てきます。よく、担当者があいまいな(未記入)ガントチャートを書いている人がいますが、担当者を決めないと厳密なタスクのスケジュール化はできないのです。
④工数見積が可能になる
「10人分のカツサンドを作るのにどれくらいの工数がかかる?」。それくらいの質問であれば、「だいたい2人時(2人で1時間)くらいかなぁ」と答えることができるでしょう。でも、100人分だったらどうでしょうか。今度は、どれくらいかかるかすぐには出てきません。
WBSでタスクを分割して、例えば「カツを揚げる」タスクは4枚揚げるのに4分だから100枚で100分、というように計算して、各タスクを積み上げて全体の工数が明らかになります。
このようにWBSでタスク分割ができて、初めて工数見積が可能となるのです。逆に言えば、タスクの分割があまい工数見積は、どんぶり勘定で誤差が大きいのです。
⑤進捗管理が可能になる
画面1の各タスクの真ん中の棒グラフは進捗を表しています。ここでは、調理する>カツを揚げる>というタスクの配下にある「溶き卵に付けてパン粉にまぶす」タスクが完了しており、「油できつね色に揚げる」タスクが50%まで完了しています。この2つのタスクの進捗状況によって、上位タスクである「カツを揚げる」が75%完了、さらに上位の「調理する」が22%完了という進捗状況になっているのが見て取れます。
このようにWBSによってタスクを分解したことによって、各タスクの進捗状況が明確になり、何が遅れているのかが一目瞭然となるのです。
⑥スコープが明確になる
カツサンドを作るぞ! その言葉だけだと、どんなカツサンドができるのかはっきりしません。キャベツが入っているのかいないのか、からしやマヨネーズをつけるのか、ロースカツを買ってきて切るだけなのか、自分で揚げるのか…。
WBSによりタスク分割することによって、どんなカツサンドが作られるのかをプロジェクトメンバーやユーザーが共有することができます。WBSは、タスクの洗い出しと同時に、作業スコープとして何が計画されているのかを明確にする重要な役割を持つのです。
WBSの作り方
実際のプロジェクト計画では、どのようにWBS(作業分解構造図)を作ればよいのでしょうか。
WBSの作り方はいたってシンプルで、下記4つの手順で作成します。
- 成果物・プロセスから逆算し必要な作業を洗い出す
- 作業の粒度・順序を整理
- 作業の構造化と期日の設定
- 各作業に担当者を設定
成果物・プロセスから逆算し必要な作業を洗い出す
まずおこなうのは、プロジェクトに必要な作業の洗い出しです。プロジェクトの目的や成果物から逆算し、漏れや重複に注意しながらタスクを洗い出します。
必要作業が多い中長期プロジェクトの場合、大まかな作業フェーズごとにタスクを考慮するとよいでしょう。Webサイトを制作するプロジェクトの場合、主要フェーズは、企画 ・設計・ デザイン制作・ 実装・コーディング・ リリースといった感じです。
上記の作業フェーズをさらに細分化することで、抜け漏れや重複を防ぎつつタスクを洗い出せます。
ただし、あまりにも細かなタスクは、WBSの構造に含めないのがおすすめです。細かなタスクは、複数の親タスクにまたがったり、管理が煩雑化したりする恐れがあるためです。
プロジェクトの管理工数を考慮し、適度な粒度のタスクを洗い出しましょう。
作業の粒度・順序を整理
必要作業を洗い出したら、構造化に向け粒度・順序を整理します。作業の粒度とは、工数や所要時間のことです。万が一粒度にばらつきがあると、構造化した際にいびつなツリー構造となります。
プロジェクト開始後の進捗管理が煩雑化する恐れもあるため、工数や所要時間を軸にグループ化するとよいでしょう。
また、作業の依存関係を考慮し、順序を整理することも大切です。仮に優先順位の高いタスクが遅延した場合、他の関連タスクのみならず、プロジェクト全体にまで影響する恐れがあるためです。洗い出したタスクをいきなり構造化するのではなく、粒度・順序を整理することが重要です。
作業の構造化と期日の設定
プロジェクトの流れに沿って作業を構造化します。構造化する際は、親タスク・子タスクの関係性が正常であるか、同階層の業務負担がかけ離れていないかに注意してください。ツリー構造が完成したのち、各タスクに期日を設定します。プロジェクトを稼働させると、計画段階では気づけなかったタスクやトラブルが生じます。想定外の事態に備え、期日に余裕を作るとよいでしょう。
各作業に担当者を設定
最後に、各作業に担当者を設定します。すべてのタスクに担当者を設定することが大切です。
細かなタスクになると、担当者不在や複数のメンバーで担当しているケースが見られます。しかし、責任の所在が曖昧なため注意しましょう。ミスやトラブルが生じた場合、迅速に対処し円滑にタスクを遂行するためにも、すべてのタスクに担当者を割り振るとよいでしょう。
WBSを作成する際のポイント
プロジェクト管理でWBSを作成する際、下記3つのが重要です。
- あらかじめ思考を整理する
- プロジェクトに余裕を持たせる
- ツールを活用する
上記のポイントをおさえることで、効率的にプロジェクト計画を策定できます。ぜひご参考にしてください。
①あらかじめ思考を整理する
WBS作成時は思考を整理するために、マインドマップの活用がおすすめです。プロジェクトの計画策定では、あらゆる事項を考慮しなければならず、考えがまとまりにくいものです。
マインドマップなどのツールを駆使すると、事項の洗い出しやつながりを可視化できるため、思考を整理させられるでしょう。また、自身の考えを客観的に捉えられるため、問題点を見つけやすく、抜け漏れも防止できます。
②プロジェクトに余裕を持たせる
WBS作成時には、作業の抜け漏れがないよう注意しながら計画を策定します。しかし気をつけていても、プロジェクトを始めなければ気づけないことが出てきます。
また、プロジェクトを進める中で予想だにしないトラブルが生じることもあるでしょう。初期段階で把握できない事項がある以上、万が一に備えた余白を意図的に作ることが大切です。
予想外の事態が発生した場合に、回避・リカバリーできる状態を想定しWBSを作成しましょう。
③ツールを活用する
WBSの作成には、多くの時間・手間がかかります。少ない工数で高精度なWBSを作成するのであれば、プロジェクト管理ツールの利用がおすすめです。
プロジェクト管理ツールは、計画段階のみならず、プロジェクト開始後の進捗管理やコスト管理、完了後の検証までを一貫して管理できます。
WBSのテンプレート機能やガントチャート機能を搭載した製品も数多く提供されています。ツールを利用することで、管理工数をおさえつつ高度なプロジェクト管理を実現できるでしょう。
WBS標準を持つ
WBSは、計画プロセスにおけるスコープ管理とスケジュール管理の要です。プロジェクトごとに一からWBSを考えて作るのはナンセンスです。料理にレシピがあるように、プロジェクトのタイプに応じたWBS標準が必要です。良いWBS標準を用意していないと、必ずタスク漏れやWBS展開不足が生じます。
プロジェクトタイプに応じたWBSの標準を持ち、各プロジェクトでその標準を利用し、定期的に標準WBSを見直す。簡単そうで、これができていない属人的なやり方のところが多いので気を付けましょう。
WBSとOBPM
プロジェクトの計画プロセスにおいてWBSは非常に重要ですので「WBSでタスクをきちんと洗い出してください」と言うPMOは多いです。でも、そう言われても、各人のスキルと経験に依存するやり方ではうまくいくプロジェクトとうまくいかないプロジェクトが出てしまいます。
当社は、統合型プロジェクト管理システムOBPMを使って次の三段活用により、WBSからガントチャートのタスクに展開しています。
①WBS標準
プロジェクトのタイプ(ドメイン)ごとに、標準WBSを持つ
②スコープ定義
標準WBSをベースとして、タスクを洗い出して作業スコープを明確に定義する
③ガントチャート反映
定義した作業スコープをガントチャートに転記できる
画面2:OBPMのスコープ登録画面でWBSを定義(三段活用の②)
統合管理ができないExcelでは、属人的プロジェクト管理の闇から抜け出せません。上記のようなワン・ツー・スリーの一連の流れで、タスクの洗い出しからスコープ計画、スケジュール計画が完全に行えるのです。
この記事の著者
株式会社システムインテグレータ 代表取締役会長
梅田 弘之
1995年に株式会社システムインテグレータを設立。2006年東証マザーズ、2014年東証第1部、2021年東証スタンダード上場。ECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」、統合型プロジェクト管理システム「OBPM Neo」など独創的なアイデアの製品を次々とリリース。また、ERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発。2019年に著書「AIのキホン」を出版し、現在はThinkITで「エンジニアならしっておきたいGPTのキホン」を連載中。
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