プロジェクト管理とPMO業務
新人プロジェクトリーダー『新米太郎』は、部門メンバが持ち回りで担当する委員会のうち、『PMO委員』に任命された。
前回(※Vol85へリンク)は、PMO委員としての役割について先輩から色々と教わったようだ。
PMO委員を経験したことで、俄然PMOというものに興味が沸いた様子で、今日はPMOの、その他の役割(教育、啓蒙活動、ルール改定、管理品質の責任所在など)について、情報を得ようとしている。
太郎:センパーイ!
先日は色々とアドバイス、ありがとうございました。
あれから、PMO委員としての活動を始めて、実際に部門のプロジェクトチェックを実施するようになりました。
先輩:おー、そうかそうか。実際やってみてどうだった?
太郎:そうですね、ObjectBrowserPM(OBPMNeo)の入力ルール違反のチェックは、ツールが用意されていて、結構サラっとやれますね。
それと、ルール違反ってそんなに多くないようでした。
皆さん、きちんとやってくれるもんですね。
それと、進捗報告などの中身を読んでいますけど、こちらについても、あきらかにやっていない人はいないようでした。ちゃんと進捗報告の内容も記載されていましたし、課題や障害の管理も、放置などほぼありませんでした。
先輩:そう、ちゃんと管理されているようだね。いいことだ。 ところで、今、太郎君は、みんな非常によく管理してくれているので、それほど指摘することが多くないと感じているかもしれないけれど、それは、プロジェクトを『ちゃんと管理』してくれるように、時間をかけて色々と活動をしてきた結果なんだよね。
実は、ここまでの管理品質になるまでには、沢山の苦労があったんだ。
ちゃんと管理してもらうための活動も、その管理品質を継続的に保つことも、PMO部門の重要な役割だっていうこと。
太郎:そうですよねー、そう思います。
そこで、今日なんですけど、今のプロジェクト管理品質になるまでに、PMO部門がとても頑張った結果、今があると思っていて、その辺の話をお聞きしたいなと思い、声を掛けさせてもらいました。
先輩:そうだね、前回の話の最後に、全社のプロジェクト管理力を向上するために、PMO部門のもう一つの重要な役割があると言いかけて、途中だったからね。
じゃぁ、今日は、PMO部門の役割のうち、ルール改定や啓蒙活動なんかについて触れていこう。
太郎:はい、お願いします!
プロジェクト管理のルール制定と現場からの反発
先輩:うちの会社にOBPMNeoを導入した当初のことを思い出すと、一番印象にあるのは、まぁ、少しではあるけど、現場から『反発』されたっていうことかな。
あぁ、最初に言っておくと、うちの会社にOBPMNeoを導入したときの導入担当者は私だったんだ。その後にPMO部門が立ち上がってきたっていう流れね。
太郎:え、え~!?先輩がOBPMNeoを社内に導入した担当者だったんですか!?
どうりで色々と詳しいはずですね。なおさら、色々教えてくださ~い。
先輩:そうだね、OBPMNeoを社内導入するときにやった、最初の活動はこんな感じだね。
- 現状のプロジェクト管理業務のヒアリング(エクセル中心)
- 部門、プロダクト、開発手法、案件種類、規模に応じた利用ルールの作成
- ドメイン(標準化)の作成(WBSのひな型、品質基準等の定義)
- プロジェクト管理の運用フロー、ルールブックの作成
- 全社員へ新運用の説明会
ツールの利用ルールや、各部の業務事情を考慮した運用フローなどを作って各部に説明して回ったんだ。
でも、なかなか最初は理解を得るのが難しかったことを覚えているよ。
太郎:え~、そうなんですか!?
先輩:やっぱり、今までうまくやってきた自負がある現場の人達には、ただ単に新しいツールを導入したので、このルールに従って利用して下さいと説明会を実施しても、なかなか納得してもらえなかった。
使わなかったらどうなるんですか?とか、変えるメリットはあるんですか?
なんていう反発、というか納得してくれない雰囲気が少なからずあったね。
現場から理解を得るために
太郎:最初、反発していた人たちは、その後どうなったんですか?
先輩:うん、そういう現場の反応を見て、ただの機能説明会だけではダメだと気付いたんだ。
ちゃんと、プロジェクト管理の重要性を説明して、そのためにツールの導入が必須だと考えた背景、導入することによって得られるメリット・効果など、
個人個人が、なぜルールを守ってツールを使う必要があるのか、ルール違反をすると会社全体にとってどういうことになるのか、など全体像を説明することで、徐々に現場の納得感を得られるようになってきたのさ。
先輩:理解してくれると、ツールへの情報入力にもまじめに取り組んでくれて、OBPMNeo内の情報がどんどん正しい値になって、信頼できるツールになっていった。
そうなってきてからは、あまり反発する人もいなくなって、どちらかと言えば、もっとこういう使い方にしたらどうだろうとか、逆に現場から前向きな意見が出てくるようになってきたんだ。
もちろん、使い方やルールに関する質問については、決して放置することをせず根気よく丁寧に対応もしてきた。
太郎:た、大変そうですね。
先輩:確かに大変だった部分もあるけれど、考えてみれば当たり前のことだったなぁ、とも思ったね。
これまでやってきたことをなぜ変える必要があるのか、それにどういう目的や効果があるのか、そもそも、現場がプロジェクト管理の重要性やツールの必要性を理解していないうちは、やらされてる感たっぷりだし、決してきちんと管理(入力)してくれるはずもないとね。
先輩:そこで、各自が入力する情報がどこで利用されるもので、間違った入力をしたらどれほどの影響が出るのかを説明して、入力責任、管理責任を意識してもらったんだ。
・各自が入力した情報は、上位の人のインプットに繋がる重要なものであること。
・上位の人は、自身の管理責任を全うするためには、正しい情報を入手すること。
そのために、全員が責任意識をもってルールを守るようにしましょうって感じでね。
<図1:OBPMNeoの情報・報告の流れと責任の所在>
先輩:こういう話をする時には、絵で説明する方が理解してもらいやすい。
こんなイメージ(図1)で、各個人のインプットする情報が、全社レベルで見た時にどういうところに繋がっているのかを知ってもらうと、かなり理解度が上がったよ。
それと、ルールを守らせる、インプットされたデータの正当性に対しての責任者も明確になっているから、TopDownで強い統制を取れたのがとても大きく、運用の定着に寄与したと思う。
PMO部門の立ち上げと継続的活動
先輩:と、まぁ、こんな感じで定着に向けてスタートしたわけだけど、その後がとても大事な時期だったと思う。つまり、PMO部門を立ち上げた時っていうこと。
太郎:お、ここでPMOができるわけですね。
先輩:そう、新しい運用の定着が見えてきた時点で、私のミッションは一旦終了になったわけだけど、そのまま、安心して現場任せにしてしまうと、たちまちルールが形骸化して、管理品質は低下していくと考えたんだ。
太郎:どうしてですか?一度はルールに従って運用が定着してきたわけですよね?
先輩:やっぱり、統括する人(や部)がいなくなると、運用が、バラバラになってしまう可能性が高いっていうことかな。
前向きに使ってくれる人達であっても、良かれという思いから独自ルールを発案する人も出てくるし、適当にやっても叱られることがなくなってくると、途端にルールを守らなくなる人も出てくる。新しく入社した人はルールも知らないし、
いちメンバからリーダーに昇格した人も、その立場での運用ルールを知らない。
そうなると、どんどん運用がおかしくなってしまうんだよ。
太郎:あぁ、なるほど。確かにそうかもしれませんね。
その時点では多くの人が理解して、高い管理品質を実現できたとしても、時間の経過とともに状況は変わるから、その状況に応じてサポートする人(や部)がいないと、高い管理品質を保っていくのは難しですね。
先輩:そう、そこでPMO部門を立ち上げることで、その部分を統括管理してもらうようになったわけ。ルールを守らせるとか、定期的なプロジェクトチェックをやっているというのは前回話した通りだ。
定期的なルール改定、勉強会などの啓蒙活動
先輩:なぜプロジェクト管理が重要か、高度な管理をするためにツールをどう使うか、各立場における運用ルールがどうなっているか、など継続的に情報を供給し続けることで、色々な変化が生まれたとしても、継続的に高い管理品質を保つことが出来るようになっているってことさ。
太郎:なるほど、PMOという管理者がいるからこそ、管理品質が保たれているんですね。
納得です。
先輩:現場からの意見を取り入れて、経営層からの指示を受け入れ、常に運用ルールを改善していくこともそうだし、定期的にプロジェクト管理の重要性を現場に発信し続ける、継続的な啓蒙活動が、PMOの重要なミッションだね。
PMOから現場への情報発信については、各部門にいる委員会メンバを通じて行うなど、状況に応じてやり方を工夫する点については、前回話をしたプロジェクトチェックの運用と同じような考え方で、効率よくやってるみたいだよ。
先輩:まぁ、PMO部門そのものはコスト部門でもあるから、どこの会社でもそう簡単に作るわけにいかないのかもしれない。でも、そこにコストを掛けたとしても、運用の品質が保たれ(より向上し)て、プロジェクト管理がきちんとでき、結果的に、失敗プロジェクトが減ると考えれば、その存在は決して軽視できないし、コストを掛けるだけのメリットがあるはずだ。少なくともうちはそう考えて、PMO部門が存在してるし、実際
その効果も出ている。
太郎:そうですね、そう考えればPMOがいるからこそ、会社の利益が上がる(赤字が減る)と考えれば、なくてはならない存在と言えますね。
PMOには力(権力)が必要
先輩:そうそう、あと一つ重要なことがあったわ。
それは、PMOのように、統一ルールを作って理解させ、取り締まるような活動をする人(や部)には、必ず力(権力)を持たせるべきだっていうこと。
太郎:力(権力)ですか?
先輩:そう。
例えば、ルールを守っていない人が、カリスマ的に声(影響力)の大きい人だったり、役職的に上位の人だったりした場合、ルール違反を指摘して是正してもらうのってとても大変なことだと思わないかい?
太郎:んー、確かにそうですね。
先輩:身近な話をすると、太郎君は部門のPMO委員を担当してるから、部内メンバに対して、ルール違反や業務の改善を指摘する立場なわけだ。もし、指摘しなきゃいけない相手が、自分の上司にあたるマネージャーや部長だったらどう思う?
太郎:え~、、、それは辛いっすよ。ちょー言いにくいっすよ~。
先輩:まぁ、そうだろうね。
だから、力(権力)が必要だっていうことなんだ。
PMO委員は、ルール違反を発見して、それを是正してほしいと指摘するんだけど、その活動のバックにはTOP権力がいるんだっていうことで、たとえ相手が部長であっても、そう簡単に無視できないように牽制することができるんだ。
太郎:なるほど~、TOP権力配下の活動にすることで、たとえ委員メンバからの指摘であっても、それは会社TopDownでの指示、指摘ということになるわけですね。
それなら、僕も少しは言いやすくなるかもしれません。
仮に指摘したことをうやむやにして、もしも問題が発生したときには、さっきの絵(図1)を見る限り、責任を追及されるのは部長ってことになりますしね。
先輩:他社では、PMOに権力がないばっかりに、現場がなかなか言うことを聞いてくれなくて困っている、なんていう話もちょいちょい聞くこともあるからね。
先輩:前回は、PMOによるプロジェクトチェックの業務、PMO委員の役割について、今回は、プロジェクト管理の運用ルールを作り、その管理品質を保つための活動について話をしてきたけど、どう?PMOのことが少しは分かってきたかい?
太郎:はい!とてもすごい部門なんだなぁ、ってことがよく分かりました!
ありがとうございました。
先輩:すごい部門って、その一言で片づけちゃうのかーい。
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