WBS(Work Breakdown Structure)は、必要な成果物ごとに作業を整理するプロジェクト管理方法の一種です。
WBSは、スケジュール作成と進捗管理、見積の情報として利用されるプロジェクト管理のベースで、無くてはならない重要な存在です。
この記事では、WBSの目的やガントチャートとの違い、作り方、管理方法などを解説していきます。
WBS(Work Breakdown Structure)とは何か
WBSは、プロジェクトで作成する主な成果物(Work)を階層的に要素分解したものです。そのためWBSは作業分解図と訳されます。WBSを作成することで、このプロジェクトでは何を作るかというスコープを特定することができます。
WBSはPMBOKにおいて、スコープマネジメントで用いられるツールで、プロジェクトで何を完了するべきなのかを特定する際に作成します。WBSはツリー構造で表現するのが一般的です。ツリーの最下位になる成果物を「ワークパッケージ」と呼んで管理します。
注意点として「作業(Work)」とは、成果物や作業した結果である作業結果(サービス)を意味しています。つまり、作業(タスク)そのものではないため注意しましょう。
WBSとガントチャートとの違い
WBSとガントチャートは密接に関連しているため、混同されがちですが、それぞれの作成される目的が異なります。WBSはスコープを特定するものであり、ガントチャートはスケジュールをステークホルダーと共有(管理)するものです。ワークパッケージをさらに分解し、プロセスまで落とし込んだ上に日付情報を付与したものがガントチャート(スケジュール)です。
WBSを作成する目的
ここまでご説明した通り、WBSはスコープを特定するために作成されます。
プロジェクトに必要な成果物を定義することでスコープを特定するのですが、スコープを定義する目的についてご紹介していきます。
スコープに含まれているものと含まれていないものを簡単に識別できるようにする
WBSにてスコープを特定することで、WBSに記載がないものはこのプロジェクトでは対応しないスコープ外のものを簡単に識別ができるようになります。
WBSでスコープを特定し予めクライアントと合意をとっておくことで、プロジェクトの中盤で追加要望などが発生した場合、当初のスコープに含まれていないことを明確に示すことができるため、プロジェクト進行上のリスクヘッジに繋がります。
重複や漏れを防ぐ
WBSは要素分解を繰り返して作成します。作成する過程で成果物間の重複が発生する場合は、重複しないように調整する必要があります。これをWBSの100%ルールといいます。ロジカルシンキングに出てくるMECEと同じです。したがって、漏れなくダブりなくWBSを作成することが必要となります。
スケジュールの作成に役立つ
WBSはスケジュールを作成する際のインプットになります。Whatの部分が不明確なまま、Howを考えるのは難しいと思います。そのため、WBSで定義されたWhatをもとにHowを考えていくことで具体的な作業および現実的なスケジュールを組み立てることができます。
コストの見積りに役立つ
スケジュールと同様にコストを見積もる際のインプットにもなります。WBSから具体的な作業を洗い出し、その作業に対して利用可能な資源を割り当て、所要期間と合わせることでコストを見積もることができます。
WBSの3つの活用メリット
①メンバーが自分の作業を把握しやすい
WBSを利用すると、プロジェクト内で対応すべきタスクが明確になります。自分が担当するタスクがどの作業に内包されるのかを把握でき、連携を意識したタスクの遂行が可能です。また、WBSでは作業負担を考慮して、タスクの階層分けが可能です。階層ごとに作業を割り振ることで、一部メンバーへの業務の偏りを防止できます。ただし、WBSの階層分けがあいまいな場合は、かえってトラブルや遅延につながるため注意が必要です。
②タスクの抜け漏れが起きにくくなる
WBSでは粒度の大きな作業を徐々に分解するため、プロジェクトに必要な作業の見落としを防げます。また、プロジェクト全体を俯瞰することで、トラブルが発生しそうな作業やリスクを未然に検知でき、その対処も可能です。WBSの利用は、より高精度な計画の策定につながり、プロジェクトの作業効率や生産性の向上が期待できます。
③シンプルな手法で再現度が高い
WBSはプロジェクトを徐々に細分化し、粒度や順序を整理して再構造するというシンプルな手法ですCCPMのような大規模プロジェクト向けの手法は、PMの経験値によって結果が左右される場合があります。しかし、WBSのようなシンプルな手法は、PMの経験が少ない方でも実践することができます。自社のプロジェクトに合わせたテンプレートも作成できるため、新任のPMでも合理的なプロジェクト計画を策定できます。
その他にも以下のようなメリットがあります。
- 定義されている : プロジェクトメンバー、関係者が理解しやすいよう定義されている。
- 見積もりしやすい : タスクの期間、費用や必要な物が含まれているため見積が作成しやすい。
- 管理可能 : 具体的な担当範囲が個人に明確に割り当てられているため管理しやすい。
- 測定可能 : 進捗が正確に測れるよう、開始日と完了日、測定可能なマイルストーンが含まれている。
- 柔軟に対応できる : 締め切りの変更やタスクの追加などの変更に対応できる構造である。
WBSの主な種類
①プロセス指向のWBS
プロセス指向のWBS は、作業ステップ、作業のフェーズや機能の観点からプロジェクトを定義します。このタイプのWBSは、プロジェクト完了のために個別の部門で行うべきステップに重点を置いたもので、通常、個々の要素を動作形式で表します。
プロセス指向のWBSを成果物指向のWBSと組み合わせることで、機能の観点から作業を完全に分解でき、より一貫したプロジェクトのスコープを作成できるようになります。また、プロジェクト全体で質の高いプロセスが実装されていることを確認するためにも使用できます。
②成果物向けのWBS
成果物向けのWBSは、具体的な成果物のコンポーネントの観点からプロジェクトを定義します。成果物は通常、プロジェクト全体の完了に必要な物理的コンポーネントやアイテムを指します。
成果物指向のWBSは、PMがプロジェクトの全体的なスコープを確認し、成果物がそれぞれどう関連しているかを確認するのに特に役立ちます。また、さまざまな管理レベルで作業の概要をつかみやすくなり、費用とリソース見積もりの精度を高めるためにも有用です。
WBSの作り方と流れ
成果物の特定と分析
プロジェクトで求められている要求事項や制約事項が何かをまず確認します。また、過去に似たようなプロジェクトの実績があるかどうかを確認することも重要です。過去に実績がある場合は、そのプロジェクトのWBSを参考情報として用いることができます。会社標準のWBSテンプレートが用意されている場合もあります。
これらをインプットとして、制約事項などが及ぼす成果物への影響を考慮しながら必要な成果物を特定します(洗い出します)。やみくもに思いつくまま成果物を洗い出すことも1つの手ですが、手が止まってしまう場合は以下を取り入れると良いかもしれません。
・グループを意識する
たとえば、計画段階⇒要件定義⇒設計⇒開発・・・のように開発プロセスごとのグループを意識することで必要な成果物が考えやすくなります。
・最終成果物から意識する
プロジェクトに必要な最終成果物をもとに掘り下げていく方法です。
これは頭の中でWBSを上位階層から考えていることに近いですね。
・複数人で行う(ブレインストーミング)
1人だと限界がある場合(経験がないPJなど)は主要なメンバを集め、ブレインストーミング形式で洗い出すことも考えられます。
果物の構造化と要素分解
洗い出した成果物をツリー構造で表現します。この際、成果物の重複や階層間の成果物粒度を意識しながら100%ルールを満たすように行います。ツリー構造で表現ができたら、さらに分解できる成果物がないかどうかを確認し、ブラッシュアップしていきます。
現時点で要素分解できない成果物については明確になったタイミングで要素分解します。これをローリングウェーブ計画法(段階的詳細化)といいます。
各作業の担当者の設定
誰が何の作業を担当するのかを、ひと目で把握できるようにすることも重要なポイントです。
「1タスクにつき1担当者」と明確に決めてください。誰が行うのかをはっきり決めておかないと、プロジェクトのメンバー全員が「誰かがやってくれるだろう」と思ったまま、最終的に誰の手も回らない、といったトラブルにつながる可能性があるためです。
なお、担当割り振りの際にはメンバーに対し事前に確認し、合意を得ておくのもスムーズに進めるコツになります。担当者を明確にし、誰が何の作業をどのくらい行っているか把握しておくのもプロジェクトを進める上で重要です。
100%ルールの検証
完成したWBSが100%ルールを満たしているかどうかチェックします。満たしていない場合は3-2を繰り返し行います。最終的に問題なく100%ルールを満たすことができれば、WBSの完成となります。ただし、一度完成したら終わりではありません。フェーズの切り替わり時期など、適切なタイミングで定期的に見直していく必要があります(当初計画時に要素分解できなかった部分を分解していきます)。
WBSの作成・管理方法
WBSの作成・管理方法は大きく2つの方法があります。
エクセルで管理する方法と、専用のツールで管理する方法です。
ここからはそれぞれの管理方法ごとの、メリット・デメリットについてご紹介します。
エクセルでWBSを作成・管理する
最近ではエクセルではなくGoogleのスプレッドシートを使う場面も増えてきましたが、ビジネスで利用するPCにはかなりの割合でMicrosoft Officeがインストールされており、多くの業務でエクセルは利用されています。
WBSの作成にもエクセルは利用されており、現状多くの会社がエクセルでWBSを管理しています。
メリット
エクセルでWBSを作成するメリットは大きく以下の3点です。
1.誰でも使える
2.手軽に始められる
3.低コストである
エクセルは身近な存在で、その気軽さと自由度から誰でも使うことができます。そのハードルの低さから多くの企業でWBSを作成・管理するツールとして利用されています。多くの企業が利用しているツールですので、追加のコストは発生しませんし、利用するためのトレーニングもいらないため、パートナーやクライアントと共有することも容易です。
インターネット上にWBSのエクセルテンプレートが無料で用意されていることもあり、まず手軽にコストをかけずにWBSを作る際に適している方法と言えます。
デメリット
その自由度とテンプレートの多さから、エクセルでのWBSの作成・管理には以下のようなデメリットがあります。
1.標準化が難しい
2.バージョン管理が難しい
3.複数プロジェクトをまたいだ管理が難しい
Web上で公開されているテンプレートは確かに便利なのですが、様々なテンプレートが存在しており、使う人によって好き嫌いがあります。好き嫌いでテンプレートをバラバラで利用されてしまうと、厳密な制御ができず、標準化することができません。標準化するには利用するテンプレートを決めた上で、記載方法や保存場所、更新方法などを細かく運用でカバーする必要があります。
また、WBSを更新する際にファイルのバージョンを管理するには、日付ごとにシートやブックを分けるなど工夫が必要となります。運用ルールを細かく設定したとしても、誤って既存ファイルを更新してしまうことは起こりえます。
そして、プロジェクト間のWBSをマージするような機能がないため、ブックやシートごとに管理する必要があります。そのため、大規模な(複雑な)プロジェクトなどでエクセルによる管理は煩雑になり、作業効率が落ちてしまいます。単純なプロジェクトであればエクセルでも管理できますが、一定以上の規模のプロジェクト管理には不向きと言えます。
進捗管理ツールでWBSを作成・管理する
進捗管理ツール(プロジェクト管理ツール)は、システム開発を効率化するための専門のツールです。
WBSを作成する機能が標準で搭載されているため、WBSの作成・管理も効率化できますし、それ以外の便利機能も用意されているため、たくさんのプロジェクトを管理する場合や管理方法を効率化し、利益率を改善しようとする企業が採用しています。
メリット
進捗管理ツールでWBSを作成・管理するメリットは以下の3点です。
1.ガントチャートと連携ができる
2.メンテナンスが楽(制御されている)
3.見やすい
WBSとガントチャートの違いでご説明した通り、ガントチャートの元になる情報はWBSです。WBSをさらにタスクまで分解し、日付情報を付与することでスケジュール(ガントチャート)を作成することができます。進捗管理ツール上でWBSを作成すると、その情報をガントチャート側に反映することができるため、効率的にスケジュール作成ができます。エクセルのファイルで管理しているときのように、どのファイルが最新かわからない、なんてことも起きません。
また、編集箇所などを権限制御できるため、エクセルのようにセルの書式が崩れることや関係ない部分を誤って編集してしまうことを防ぐことができます。エクセルのように想定していない使われ方をされる心配がないため、管理方法を標準化することができます。
また、専用のツールですので、最初から見やすいフォーマット(レイアウト)のため、管理やメンテナンスも容易です。
デメリット
進捗管理ツールでWBSを作成・管理するデメリットは以下の3点です。
1.コストが発生する
2.使い方を覚える必要がある
3.利用を浸透させるのが大変
ツールを導入する必要があるため、既にインストールされているエクセルを利用するのとは異なり、コストが発生します。コストをかけた分効率化されるのですが、ちょっとしたWBSの管理にはハードルが高いと言えます。
また、基本的に使いやすいUIが用意されているのですが、より便利に使うためにはツールの使い方を習得する時間や教育が必要になります。使いづらいUIのツールだとその分利用するまでに必要な教育も増えてしまいますので、直感的に使えそうかどうかはツール選定の際の重要なポイントです。
そして導入後は現場での利用を浸透させる必要があります。導入後に放っておくと、いつの間にかエクセルが使われていたりします。せっかく購入したツールが無用の長物になってしまわないよう、導入後もフォローする必要があります。こちらもツールの複雑さに比例して浸透させるのが大変になりますのでツール選定は重要です。
WBSを作成する際のポイント
マインドマップで思考を整理する
WBS作成時は思考を整理するために、マインドマップの活用がおすすめです。プロジェクトの計画策定では、あらゆる事項を考慮しなければならず、考えがまとまりにくいものです。
マインドマップを使えば、事項の洗い出しやつながりを可視化できるため、思考を整理することができます。また、自身の考えを客観的に捉えられるため、問題点を見つけやすく、タスクの抜け漏れも防止できます。
プロジェクトに余裕を持たせる
WBS作成時には、作業の抜け漏れがないよう注意しながら計画を策定することが前提です。
しかし、プロジェクトを開始してから発覚する事象も多々あります。
また、プロジェクトを進める中で予想だにしないトラブルが生じるケースも少なくありません。
初期段階で把握できない事項がある以上、万が一に備えた余白(バッファ)を意図的に作ることが大切です。予想外の事態が発生した場合に、回避・リカバリーできる状態を想定しWBSを作成しましょう。
ツールを活用してWBSを作成
WBSの作成には、多くの時間・手間がかかります。少ない工数で高精度なWBSを作成するのであれば、プロジェクト管理ツールの利用がおすすめです。
プロジェクト管理ツールは、計画段階のみならず、プロジェクト開始後の進捗管理やコスト管理、完了後の検証までを一貫して管理できます。WBSのテンプレート機能やガントチャート機能を搭載した製品も数多く提供されています。ツールを利用することで、管理工数をおさえつつ高度なプロジェクト管理を実現できるでしょう。
WBSの管理を効率化するOBPM Neo
OBPM NeoはPMBOKに準拠した統合型プロジェクト管理ツールです。
WBSの作成においても効率化するためのたくさんの機能をご用意しています。
WBSの標準化が可能
OBPM NeoはWBSの標準化が可能です。雛形としてプロジェクトの種類や部署ごとに複数のWBSを用意することができるため、適したWBSの雛形を用いることでWBSを毎回ゼロベースでWBSを作ることなく、素早く作成することができます。
この雛形を利用しWBSが標準化されることで、管理方法が統一され、プロジェクト管理が効率化されます。
WBSとガントチャートが連携されている
進捗管理ツールのメリットでご紹介した通り、WBSがガントチャートに自動反映されます。これによりガントチャートをWBSベースで作成することができ、作業効率をアップすることができます。
メンテナンスが楽(制御されている)
WBSを作成、編集できるか否かをアカウントごとに制御できます。そのため、想定していないユーザの操作で変更されたり消されたりする心配がありません。また、画面上のレイアウト(表示項目)は決まっているためエクセルのような書式が崩れる心配などは不要です。
まとめ
WBSはプロジェクトのスコープを特定しリスクヘッジするとともに、スケジュールやコストを作成するために欠かせない情報です。そのため、プロジェクトにとっては無くてはならない重要な存在です。
精度の高いプロジェクト計画を作成し、成功を収めるためにも、WBSはきちんと作成することが必要です。
WBSについて詳しく解説する資料もご用意していますので、こちらもぜひご覧ください。
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