PMOを題材にしたブログが続いていますが、世間を見渡すとまだまだ「PMOって名前は知ってるけど、いまいち、何をしているのかが分からないなぁ」といった声や、「PMOが何をしているかは認識しているけど、何のために存在しているんだろう」という声が聞こえてくる気がします。
実際に筆者である私自身、プロジェクトリーダーという立場につくまでは、PMOという存在を何となく理解しつつも、役割を含めたその全容までは把握していなかった記憶があります。
今回のブログでは「PMOの役割」という部分に主なスポットを当て、実際にPMOとして業務を行ってきた私自身の実体験を基にして、「PMOあるある」エピソードをはじめ、できるだけ新鮮な情報を発信していきたいと思います。
普段、PMOとしてご活躍中の担当者様はもちろん、日々プロジェクト管理を行い、PMOからのチェックを受けているPLの方々にもご参考にして頂ける内容になっていますので是非最後まで読んでいただけたらと思います。
PMOの役割はプロジェクト失敗を阻止するための最後の砦
以前のブログでも触れられていましたが、弊社PMOの主な役割は以下の通りです。
PMOの役割
- プロジェクト管理をきちんとさせる
- 問題プロジェクトの早期発見、早期対応
- プロジェクト管理の習熟度アップ
また、これらの役割に沿って、以下のような業務を行っています。
PMOの業務
- 特定のPJに対しての運用状況チェック(専用のチェックシートを用いて)
- 週次の状況報告会議(部門⇒全社)
- 各工程終了時のQAチェック ★
- 運用ルールの見直し
- リスクチェックリストの見直し
これらの作業を、弊社が取り扱っているプロジェクト管理ツール「SI Object Browser PM (以下OBPM)」を駆使しつつ、日々の業務を行っています。
本章ではその中の一つ、上で★マークのついている「各工程終了時のQAチェック」業務について、説明をしていきます。
「各工程終了時のQAチェック」とは何か。
これ実は各社で微妙に呼び方が違っていて、○○判定と呼ばれたり、○○ゲートと呼ばれたりしています。要は、「単体テスト工程終了時にこのチェックがあって、OKがでたら結合テスト工程にすすめるよ!」というイベントです。
では、実際に弊社の運用例をみていきましょう。
1、【計画】品質基準チェックリストを作成する ⇒PMOの役割
各工程終了時のQAチェックに使用するチェック項目、これを弊社では「品質基準チェックリスト」と呼んでいます。実はこれ、OBPMでPJを立ち上げた際のテンプレートとして、各PJへ展開ができます。「品質基準チェックリスト」は、以下のようなイメージです。
まず、このチェックリストの項目を部門長やマネージャーと一緒になって考えるのが、PMOの役割の一つです。実際に私も項目を考えたことがありますが、これがなかなか難しく、どうしても形骸化するようなチェック項目となってしまっていた記憶があります。作成時のコツとしては「最初から100%を目指さない」ということでしょうか。実際にこのリストを使用しチェックしてみて初めて気づくことも多く、気づいた時点でこのリストを修正したり、部内の会議で、追加したい項目をメンバーから募ってみる、といった事などがより効果的で洗練されたリストの実現に必要となります。
2、【計画】スケジュール作成時にQAチェックのマイルストーンを置く ⇒PLの役割
各PJのPLはプロジェクト立ち上げ時、スケジュールを作成します。ここで各工程の最後に「QAチェック」のマイルストーンを置きます。前述の通り、OBPMの「品質基準チェックリスト」がテンプレートとして展開されていますので、各マイルストーンに対して、それぞれの「品質基準チェックリスト」の割り当てを行います。
これらの作業はPLの役割となりますが、PMOは何も役割が無いわけではありません。このマイルストーン設置の作業がきちんと行われているか確認をする必要があるのです。設置の確認をしないと、「QAチェック」が未実施のままどんどん工程が進んでいってしまう、なんてこともあるかもしれません。「じゃあPMOがマイルストーンの設置まですれば間違いないじゃん」と思われる方もいると思います。
しかし、PMOは冒頭でも挙げた通り「PLにきちんとプロジェクトを管理してもらう」という役割も担っています。プロジェクト管理の意識を高めるという意味では、PL自身が主体的に計画を行うこのルールはとても良い習慣となる、私はそう思います。
3、【実績】QAチェックを実施する ⇒PL&PMOの役割
PLは計画時に設置したマイルストーンの予定日に達した時点で速やかに「品質基準チェックリスト」の入力を行います。チェック項目1つ1つに対して、○×をつけていくイメージです。その後、PMOを含めたQAチェック会議を実施し、報告および精査を行います。弊社ではこのQAチェックがNGになった場合、PMOが次工程の着手を差し止めできるという権限を与えられています。つまり、PMOはPJの失敗を阻止するための最後の砦なのです。(もちろんその他すべての活動もPJの失敗を阻止するための目的を含んでいますが)
ここで大切なのはその権限を決して乱用しないこと。(つまり、むやみやたらに差し止めを行わないこと)意味があるのは当事者でなく第三者のチェックを介入させることで新たな発見を生み出すことにあります。最後の砦でなく、恐怖の砦とならないように注意しましょう。
また、最後の砦という言葉を使っていますが、私の経験上、PJ序盤のチェックがより重要だと感じています。単純に後の工程で不備を発見してもPJ全体としてリカバリがし辛いためです。PJ終盤の結合テスト工程チェックや出荷判定だけでなく、PJ序盤の要件定義チェック、さらに遡って見積時のチェックも手厚くすることで、プロジェクトの失敗件数をもっと減らしていけるのではないでしょうか。
POINT:スマートな運用ルール策定を
ここまで、弊社のQAチェックの運用例を紹介してきましたが、もう一つの大切なPOINT(PMOの役割)が運用ルールの策定です。誰がいつマイルストーンを設置する?誰がいつQAチェックを実施する?といったルールの他に、このQAチェックをどのPJで実施するのか?といった事も考えなければなりません。実際に弊社ではPJのタイプや契約金額の基準を設けて、合致したPJのみに対してQAチェックを行っています。チェックをする側、される側、共に労力を使うので、「意味のないチェックはしない」という点も同時に心掛けていきましょう。
PMOの役割は「警察」ではなく「カウンセラー」
前の章ではどちらかというとPMOの業務に寄ったお話でしたが、ここではPMOのスタンスに関するお話をしたいと思います。私の実体験およびOBPM導入先ユーザ様より聞いたお話をベースに「PMOあるある」を記載していきます。
PMOあるある「その1」:上から目線&お役所仕事感
ベテランPMO「ちょっとちょっと、このPJすごい進捗遅れてるじゃん、おまけにコストも超過してるし。どうなってんの?」
新米PL「あ、すみません・・・進捗率の更新を怠っていました。すぐに更新します。」
ベテランPMO「そもそもPJの進捗報告すらあげてないよね?これ100万円以上のPJだから報告必須のルールなんだけど、知ってる??」
新米PL「申し訳ありません。知りませんでした。」
ベテランPMO「えぇ、そうなんだ・・じゃあこれが運用ルール一式だから来週までに全部読んで理解しておいて!来週またもう1回チェックするから頼むよ。君がしっかり管理してくれないと今度は俺が部門長に怒られるんだよね~、ちゃんとチェックしてるのかって。なのでよろしく!」
新米PL「・・・承知しました。」
嫌な雰囲気が伝わりましたでしょうか?ここでの問題点は2つ。
1つはPMOが現場に対して上目線であること。
これをやってしまうと、現場は自分のプロジェクトのためではなく、PMOのチェックを回避する目的でプロジェクト管理を行っていくようになります。もちろん、時には厳しく指摘することも大切ですが、度が過ぎると現場のモチベーション低下につながります。これではPMOの役割を果たしているとはいえませんね。
もう1つの問題点としてお役所仕事になりすぎているということ。
たしかに新米PLがルールを確認していなかったのはよくないことですが、1度ルール違反をしただけで即レッドカード+運用ルール全て確認の罰を与えるのは少し機械的すぎる感じが否めません。また、自分が上司に怒られるからしっかり管理しろというのはいかがなものでしょう。何のためのPMOチェックなのか目的が分からなくなりますね。
運用ルールを守らせることは重要で、違反者は取り締まらなければなりません。それがPMOの役割です。しかし、それを前面には出さず、お役所感を出さず、PMOは現場の味方だと思ってもらう、そのテクニックがPMOに求められるスキルの一つではないでしょうか。
最終的には現場から相談も受ける「カウンセラー」のようなポジションが理想なのではないか、私はそう考えます。
PMOあるある「その2」:PMOの立場が弱い
PMO「工程のQAチェックお疲れ様でした。申し訳ないのですが、NG項目が多いのでこのまま次工程に進ませる訳にはいきません。NG項目について是正処置をお願いします。」
ベテランPL「え?君ってPMOだよね?PJの細かい実情も知らず、何の権限があってそんな事言ってるの?このまま次の工程進めないとお客さんにも迷惑かけちゃうし、責任とれるの?」
PMO「そ、そう言われましても・・・」
またまた嫌な雰囲気が漂っています・・・「その1」とは逆で今度は現場の方が強い場合のあるあるです。PMO、PLともに企業の1社員であるため、会社内の立場がPMOの方が低い場合だって当然にあります。そうなるとチェックを受ける側、つまり社内の立場が上の人間は面白いと思うはずがなく、「お前になにが分かるの?」というのも自然な感情のように思えます。
とはいえ、PMOの役割を果たすためには言う事を聞いてもらうしかなく、その時に必要なのが「後ろ盾」になります。
例えばPMO担当が部門長直属の体制であればどうでしょう。上記のようなケースの場合は部門長に介入してもらうことで丸く収まる場合もあるのではないでしょうか。いきなり部門長を登場させるのはさらに現場の反感をかってしまう可能性もあるので、予めPMO担当の権限や体制を明確にし、周知しておくことが大切だと考えます。
優秀なPMOは役割を意識し、意識させている
今回のブログでは、「PMOの役割」という部分にスポットを当てて話を展開してきました。ブログの中でいくつかPMOの役割を述べてきましたが、私が最も大切だと思うのはこれらの役割について、PMO担当者がしっかりと意識をする。また、チェックを受ける現場のPLもPMOの役割をきちんと把握している。この構図が出来上がって初めて、本来の目的である失敗プロジェクトの減少につながるのではと考察します。
そのための手段としてはやはりこれらの役割を明文化すること。そして、それを定期的に展開することであると思います。弊社ではOBPMにログインした後に表示されるTOP画面の左下にあるメニューに、OBPM運用ルールやPMOの役割の資料を添付し、誰でもすぐに見られる場所に資料をおいています。
新しく入ってくるメンバーもいるので、上記に加えて全社員が閲覧可能なポータルサイト等で定期的に啓蒙活動を行えばより効果が出ると感じます。
PMO担当者は日々の業務をこなすだけでなく、こうした業務や役割のアピールを地道にしていくことが将来の大きな効果を生み出す要因になるのかもしれません。
PMOについて詳しい資料もご用意していますので、こちらもぜひご活用ください。
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