PMOを設置していない理由
ソフトウェア会社で専任PMOを設定していない企業は少なくありません。規模が小さい企業であればコストセンターであるPMOを置かないのは理解できますが、いろいろな部門で多くのプロジェクトが遂行されている中堅企業でも結構PMOを置いていません。
これらの企業がPMOを設置していない理由は3つあります。
a.PMOを設置しても効果が期待できるかわからない(コストをかけたくない)
b.PMOの適任者がいない(優秀な人はプロジェクトリーダーに回したい)
c.そもそもPMOの役割がわからない
しかし、多くの企業でPMOを設置してプロジェクト管理を徹底しているのを垣間見て、自社でもPMOを設置すべきか悩んでいるのも実態です。また、一応PMOは設置したけれど、あまり有効に活用できていないと感じている企業も多いようです。
そこで今回はPMOの役割について当社や当社のお客様企業の状況も踏まえてお話しします。
PMOの役割とは
組織のプロジェクト管理力を向上させて行く中で、はたしてPMOはどの様な役割を持っているのでしょうか。プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」を導入する企業を見ると、PMOの役割は意外と会社によって異なっており、次の4つに分類されます。
a.プロジェクト状況の監視・報告
プロジェクトの状態を監視し、プロジェクトに大きな問題が発生した場合、もしくは重要プロジェクトの進捗状況について部門長や経営層に報告する。
b.プロジェクト管理状況の監視・管理
組織のメンバーがプロジェクト管理をきちんと行っているかを監視し、きちんと行っていない場合は指摘して指導する。
c.組織のプロジェクト管理力向上
組織のプロジェクト管理力を向上させるために、方針立案、計画策定、ルール設定、教育・指導などを行う。
d.プロジェクトに参画して支援
特定のプロジェクトに参画して、成功に向けて支援する。多くの場合はトラブルプロジェクトに入って”火消し”を行う。
実はaだけ、もしくはaとbだけをミッションとしている企業が多いのですが、cの観点を強く持ち、目的達成に向けて経営層がバックアップすることで飛躍的にPMOの意義が高まります。
当社のPMOも、この4つのうちa~cの3つの役割をミッションとして持っていますが、長年cの実現に向けて努力し続けた結果、失敗プロジェクトは激減してプロジェクトの平均利益率も年々高くなっています。この効果をコスト換算すると、PMOを設置するのに要するコストなどは本当に微々たるものと感じます。
なお、dは本来のPMOの役割ではありません。特定の目先のプロジェクトに”焼け石に水”的な時間をかけるくらいなら、a~cのミッションを地道にやるべきでしょう。
ルール設定の重要性
PMOは、社内のプロジェクト管理を統括していく立場です。そのためにまず行わなければならないのは、プロジェクト管理のルールを策定することです。ルールが明確でないのにプロジェクトリーダーに対して指摘や指導はできません。
例えば、作業時間がプロジェクトに直課する工数入力は、みんな毎日入力しているでしょうか。一応、毎日入れることと口頭で言っていたとしても、その程度の指導ではほとんどの人が月末にまとめて入力していることでしょう。
これが、プロジェクト管理の運用ルールとして「3営業日以内に入力する」と明記されていたらどうでしょうか。PMOはルールを守れていない人に対して注意できますし、それでも改善しない場合は上長に言いつけることができます。
まず、ルールを作り、それをプロジェクトメンバーや上長に浸透させるのが、上記bを実現するのに一番効果があるのです。
運用ルールとチェックリスト
社内で立ち上がっているたくさんのプロジェクト、さあ、PMOはこれらのプロジェクトが円滑に進むように導いていかなければなりません。しかし、プロジェクト管理が緩い段階で運用ルールを作れと言われても、何から手をつけて、どう運用すれば良いのか戸惑ってしまうかもしれません。
運用ルールは作るだけでなく、定期的にチェックする必要があります。そのためには各部門のプロジェクトが運用ルールを守っているか確認するためのチェックリストがあると便利です。参考までに当社で使っているチェックリストの一例をここで紹介します。
項目 | 運用規定のチェック | 目的 |
---|---|---|
プロジェクト登録 | プロジェクトコードの採番ルール(枝番管理)は遵守されているか | 案件の紐付を明確にすることにより、管理としてのトレーサビリティ確保のため |
原価見積 | 明細を積み上げることにより、原価見積を作成しているか | 見積の妥当性を検証するため |
プロジェクト工程、タスク、成果物 | プロジェクト行程、タスク、成果物の登録はされているか | 工程単位での進捗や原価の状況を把握するため |
ガントチャート | ガントチャートの登録は行われているか | 進捗管理の精度を上げるため |
工程レビュー | マイルストーンの登録は行われているか | スコープで登録した工程ごとに品質管理を徹底することにより、最終的な成果物の品質を確保するため |
工数入力 | プロジェクトメンバーの工数入力はタスク-明細別に正しく行われているか | プロジェクトで発生しているコストの状況を週単位で正確に把握するため。 |
進捗報告 | 週に1度、進捗報告がなされているか(PMはコメントを記し、承認を行う) | プロジェクトの状況(危険要素)を早期に把握し、対策を講じるため |
プロジェクト採算管理 | 総原価の見込みが±20%を超えていないか。※超えている場合は実行予算の見直しが必要 | プロジェクトの状況、予測、展望を正確に捉えるため |
品質基準 | 規定の納品物のチェックを行ったか | 出荷時の品質を確保するため |
プロジェクト完了報告 | プロジェクト完了レビューは実施されたか | メンバーへ周知し、今後のプロジェクトへ生かす |
上記はチェックする項目の一例です。実際には細かい項目を入れるとおおよそ60項目ほどになります。これらの項目をプロジェクト完了までのプロセスの中で定期的にチェックを行います。当社では、これを継続して行っていくことにより、大規模プロジェクトの失敗をゼロにすることができました。
運用ルールを定めて定期的にチェックするのは、交通違反を取り締まるのに似ています。しかし、実は取り締まることよりも、正しいプロジェクト遂行の道筋を示すことが目的なのです。
プロジェクト管理をきちんと行っていない人は、必ずしも怠慢でそうしているわけではありません。今までやっていなかったから、正しいやり方がわからないから、きちんとできていないだけなのです。
みなさんが案内人となり、ルール違反をやさしく指摘することで正しいやり方を覚えてもらう。これもPMOの大きな役割と言えます。
標準の設定と改善
PMOのもう一つの重要な役割が標準化の推進です。プロジェクト管理では、良い計画を立てることが非常に重要なのですが、毎回、プロジェクトごとにイチから計画を考えていたら効率は悪いですし、計画の漏れも生じます。そのため、組織ごと、プロジェクトタイプごとに標準化を行い、その標準をベースにして計画を立てることが重要になります。
例えば、プロジェクトのタスク管理ではWBS(作業分解構成図)を展開して、作業タスクを洗い出します。この作業をプロジェクトリーダーひとりひとりが毎回行うのは大変なので、組織でWBSの標準を持ち、それをベースに個々のプロジェクトのWBSを作成します。標準は組織ごとに異なる場合があります。当社の場合でもERPシステムのWBSとeコーマースシステムのWBSの標準は異なりますし、それぞれにウォーターフォールモデル用とアジャイル用があります。
このような標準をPMOが作って使えと号令をかけるわけではありません(そういう会社もありますが)。PMOは、「標準を作りましょう」と呼びかけ、時期を見て「標準を見直しましょう」と号令をかけるのです。このようにホイッスルを鳴らし続けることにより、標準がブラシアップされていき、とてもいい計画がパッと作れるようになるのです。
社内のプロジェクトを監視している立場のPMOは、どの様な悩みを感じているでしょうか。
- 各プロジェクトにより管理が属人的でプロジェクトの成功が個人の力量に委ねられている
- プロジェクトの状況報告の粒度が粗く、プロジェクトの状況が把握できない
- 運用ルールを定めたが守られていない
など、さまざまな課題があるかと思います。これらを放置しておくと、プロジェクトの途中経過が確認することができず、成功か否かは結局終わってみなければわからないという状態に陥りかねません。これではプロジェクトの成功はある種、運に任され、また、失敗の反省も次に生かされないことになります。
当社ではプロジェクト管理に対して、以下の様にできるだけ基準、標準と言うもの定め、これを遵守することを求めております。
プロジェクト管理プロセスのルール化
プロジェクトのスケジュール管理、リソース管理、品質管理、課題管理、障害管理などの各プロセスの管理基準をルール化する。
定期的にルール順守をチェック
定期的にルール順守をチェックして、プロジェクトリーダーにルールが守れていない点を指摘し、ルール通りにプロジェクト管理を行う大切さを学んでもらう。
計画の標準化
WBSや品質基準などのプロジェクトの計画を立てるため標準化はとても大切です。PMOはこれらの標準の策定を支援するとともに、各プロジェクトで利用されているかをウォッチし、組織全体の標準化をリードすることも重要な役割となっております。
PMOに必要なスキル
PMOの役割は非常に多岐に渡るものです。視野を広く、いろいろな視点からプロジェクトを見ることが必要ですね。PMOからの要求や指摘はプロジェクトの現場から見れば面倒なものと思われているかもしれません。長い目で見ると、プロジェクトの成功の過程で必要な物だと理解してくれる人も多いのですが、プロジェクトが動いている場面ではどうしても、作業や手間が増えると思われがちです。
では、PMOにはどのようなスキルが必要なのでしょうか。
警察官のような厳格な姿勢
プロジェクトの運用ルールを設けたらその法律を守ってもらわなければなりません。それを監視し、逸脱している場合は厳しく対応する必要があります。嫌われたくないがために、許容してしまってはたちまち秩序が乱れていきます。警察官のような強い正義感が必要なってくるのです。
相手にも配慮したコンサルタントのようなコミュニケーション
PMOは機械的で上から目線の姿勢を持った人では務まりません。プロジェクトに携わる人たちも人間ですので、押し付けるような高圧的な態度は逆効果となります。時には相手の立場を考え、伝え方、言い方に気を使えるコミュニケーションを行える能力も重要な要素となります。
いつでも相談に乗れるカウンセラーのような雰囲気を持つ
プロジェクトに対して指摘ばかりをしているとどうしても近寄りがたい存在に思われがちです。「話しかけると仕事が増える」などと思われているかもしれません。PMOとしては、現場に合わせてばかりでは統率が取れなくなりますが、課題、悩みごとなどは相談してもらうことがプロジェクトの成功には重要です。カウンセラーのようないつでも相談に乗れる雰囲気を持つことも大切な能力です。
プロジェクト管理の成功はお客様のビジネスの成功へとつながります。カスタマーサクセスでPMOの経験を始めとしたノウハウを、積極的に、能動的に提供していくことにより実現できるのです。現場の部門の方々と一緒になり目標に向かって進めていけることを願っております。
カスタマーサクセスチーム
鈴木 宏明
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