近年、ビジネス環境が急激に変化するなかでプロジェクトも複雑化しています。特に大規模なプロジェクトになると、メンバーや工程、管理業務の負担も増え、PM(プロジェクトマネージャー)1人でスムーズな進行を実現するのは困難になります。
そこでプロジェクト管理の強化や生産性の向上を図るために、企業の多くが取り組み始めているのが「PMO」の導入です。本記事では、PMOの役割や必要性、メリット・デメリットと、必要なスキルや資格などについてご紹介します。
PMOとは?
PMOは「Project Management Office(プロジェクト・マネジメント・オフィス)」の略で、企業内でプロジェクトを円滑に進めるためにプロジェクトマネジメントを統括する部門や体制のことを指します。
プロジェクトマネジメントのノウハウを体系的にまとめたPMBOKを発行しているPMI(Project Management Institute:プロジェクトマネジメント協会)は、PMOを「組織内のプロジェクトを統制する仕組みを作り、実行していく組織であること」と説明しています。
主な目的はプロジェクトの品質向上、コスト削減、業務効率化などを図ることです。具体的にはプロジェクト全体のスケジュール管理やメンバーの育成、コミュニケーションの円滑化、リスク管理などの業務が含まれます。PMOは組織のなかで専任部署として設けられる場合と、外部にPMO業務を委託する場合があります。
PMOとPMとの違い
PM(プロジェクトマネージャー)は一般的に各プロジェクトの責任者を指します。プロジェクトを統括し、円滑に進行させるためのさまざまな意思決定を担う立場です。
それに対し、PMOはPMがスムーズに意思決定できるようサポートする組織です。情報収集や関係各所との調整などを担い、これまでPMが1人で統括していた個々のプロジェクトマネジメントを横断的に支援します。
それぞれ求められるスキルや業務は少し異なるものの、QCDを達成し、プロジェクトを成功させるというゴールは変わりません。
PMとPMOの違いについてはこちらのブログで詳しく解説しています。
関連ブログ:PMとPMOって、結局何が違うの?
PMOの役割と必要性
NPMO(Nippon Project Management Office Association:日本PMO協会)は、プロジェクトにおけるPMOの役割を下記のように説明しています。
- プロジェクトマネジメント方式の標準化
- プロジェクトマネジメントに関する研修など人材開発
- プロジェクトマネジメント業務の支援
- プロジェクト間のリソースやコストの各種調整
- 個別企業に適応したプロジェクト環境の整備
- その他付随するプロジェクト関連管理業務
引用:NPMO『PMOとは』
プロジェクト全体の責任を負う管理者であるPMをサポートする立場として、PMOはプロジェクトに必要なリソースの調整や、プロジェクトマネジメント方式の調整を行うことで、円滑なプロジェクト推進を支援します。
PMO導入のメリットとデメリット
プロジェクトの円滑な進行には優秀なプロジェクトマネージャーがいればいい、という考え方もありますが、PMO導入を判断する前にメリットやデメリットを理解しておくことが重要です。
PMO導入のメリット
現場視点のメリット
- プロジェクト教訓・手法・ベストプラクティスの共有
- プロジェクト品質の高度化
- プロジェクト関連リソース確保・調達の迅速化
- プロジェクトスケジュール管理の高度化
- プロジェクトスコープ管理の高度化
- プロジェクトコスト管理の高度化
- プロジェクトリスク管理の高度化
- プロジェクトメンバーとのコミュニケーションの高度化
- プロジェクトステークホルダー管理の高度化
経営視点のメリット
- プロジェクトマネジメントの進行に適切な環境の整備
- プロジェクトマネジメントの手法・知識の標準化
- プロジェクト進捗・状況の「見える化」および確認の最適化
- プロジェクト優先順位付けおよび経営判断の迅速化
- プロジェクトマネジメント人財の安定的育成
- プロジェクトへの経営者支援工数の軽減
PMOを取り入れた組織では、プロジェクトマネジメントに関する意思決定速度が向上し、より正確かつ利益を追求したプロジェクト推進が行えるという大きなメリットがあります。
情報システム専門誌の日経コンピュータが2003年と2008年、2018年に実施したプロジェクト成功率の調査によると、2018年のプロジェクト成功率は2003年から26.1ポイント上昇しており、赤字プロジェクトが大幅に減ったことがわかります。しかし、それでも半数のプロジェクトは失敗しており、プロジェクト失敗の理由は15年前と比べて変わっていません。プロジェクトマネジメントの現場は依然として多くの問題を抱えています。
出典:日経BP『プロジェクト失敗の理由、15年前から変わらず』
プロジェクトのスコープ管理・コスト管理・リスク管理などの管理項目を高度化し、プロジェクトメンバーとのコミュニケーションの高度化などを実現すれば、プロジェクトマネジメントによくある課題を解決して、プロジェクト成功率を飛躍させることができます。
PMO導入のデメリット
PMO導入によるデメリットがあるとすれば、まず導入コストが挙げられます。PMOの設立には、専門スキルを持つ人材の採用・育成や、システムの導入・運用が必要になるため、これらのコストが負担になる恐れがあります。
またPMOの導入には組織変革が伴います。企業文化との齟齬や社内からの反対などによって導入がスムーズに進まないケースもあるでしょう。
さらに、経験豊富な人材が集まるPMOの存在によって現場が委縮してしまう、または依存してしまう、といった状況になり、逆にスムーズなプロジェクト進行や人材育成の妨げになってしまうケースもあるようです。
PMOの導入に迷う企業が多い理由
経営側にも現場にも大きなメリットをもたらすPMOですが、すべての企業が導入に前向きであるわけではありません。「自社には不要」と考える企業もありますし「導入してみたいけれど...」と迷う企業もあります。その理由はさまざまですが、主な例として以下があります。
理由1:導入のコストとリソースに懸念がある
一般的に専門会社から派遣されたPMOはマネジメントの専門家であり、エキスパートです。必要なスキルを持ち、プロジェクトを円滑に進めることに特化しています。 多くのリソースを割いたプロジェクトが頓挫したり、特定のメンバーに負荷が集中したりといった事態を考えれば、導入コスト以上に得られるメリットは多いといえるのではないでしょうか。 「どうしてもコストのハードルが高い」という場合には、PMO業務の中から特定の業務のみを切り離して、請け負うサービスを提供する会社もあります。こうしたところから導入を始めてみるのもいいでしょう。
また社員を教育してPMOの役割を担ってもらうことも一つの選択肢です。
理由2:ツールが活用できれば不要と考えている
世の中には、さまざまなプロジェクト管理ツールが流通しています。機能も価格もまちまちですが、使いやすく高機能な製品が豊富にそろっています。これらのツールをうまく使えば作業効率が高まり、PMの負荷が軽くなるのではないか。それなら、わざわざPMOを導入することもないのでは、と思われているケースも少なくありません。
理由3:導入のタイミングわからない
PMOの導入に踏み切るボーダーラインがどこにあるのかということも、悩みどころかもしれません。 「この規模のプロジェクトに、PMOが必要なのか」と考え始めると、悩んだ末に「よくわからないから、やめておこう」となってしまうパターンもあるかもしれません。
PMOの3つの職種と役割
PMOに在籍するビジネスパーソンの役割は、組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を行うことです。そこで、PMO内ではいくつかの職種を設けて、支援業務の分担を行います。ここではPMOの一般的な職種とその役割をご紹介します。
PMOアドミニストレーター
プロジェクトマネジメントに関連する社内プロセスを円滑に進め、一般的な事務作業を支援する役割を持ちます。
プロジェクトに必要なデータの収集及び更新、プロジェクト情報の共有・展開・リマインド、会議体のコーディネート、書類作成や管理サポート、経費精算、プロジェクトメンバーの勤怠管理及び稼働管理などが主な仕事内容です。
これらの事務作業をPMが実施するとなると、その負担はかなり大きくなってしまいます。PMOアドミニストレーターがPMの事務作業を支援することで、PMはプロジェクトの統括により集中できます。
PMOエキスパート
プロジェクト環境を整備したりルールを策定したり、それらの改善を実施してプロジェクトマネジメントの標準化を実施する役割を持ちます。PMO内でも幅広い業務を扱う必要があることから、経験とスキルが求められます。
プロジェクト・プロセスの可視化及び文書化などを実施する「プロセス分析」、プロジェクト情報収集手法の確立や社内定着などを実施する「情報分析」、プロジェクト・ツール類の開発及び改善と標準化などを実施する「ツール分析」、プロジェクト・ステークホルダーとの連携を通じた要求事項やニーズ収集などを実施する「ビジネス分析」、そしてプロジェクトマネジメントの教育および社内定着化などを実施する「人材開発」が主な仕事です。
PMOエキスパートに、プロジェクトマネジメントに関する経験やスキルが豊富な人材を配置することで、より円滑なプロジェクトマネジメント支援が行えます。
PMOマネージャー
PMOという組織を管理するためのマネジメント業務全般を実施する役割を持ちます。
PMO組織戦略及び計画の策定、PMOメンバーの勤怠管理及び稼働管理、PMOメンバーの教育、PMO組織予算の管理、プロジェクト環境やルールの維持及び管理、プロジェクト・パフォーマンスの安定化などが主な仕事です。
PMOもまた組織であり、1つの部門なのでこれを管理するためのマネージャーが必要不可欠です。
PMOに必要なスキルや資格
PMOに必要とされるスキル
コミュニケーションスキル
各プロジェクトのPMとやり取りを行い、場合によってはプロジェクト間の調整を行うこともあるため、小回りの効いた立ち回りが求められます。 またPMに対しては高圧的な態度と取らず、相手に寄り添った形のコミュニケーションをとり支援するという姿勢が必要です。
プロジェクト管理の知識
プロジェクトを俯瞰してモニタリングし、適切にチェック&評価を行うために、幅広いプロジェクト管理に関する知識が必要です。また、効果的な改善支援を行うためには課題発見力や解決力も求められます。
PMOに関する資格
PMOとして活動するために必要な資格は現在特にありませんが、以下の資格はPMOの業務に役立つでしょう。
プロジェクトマネジメント・アソシエイト認定資格(PJM-A)
日本PMO協会が主催する認定試験です。プロジェクトの現場業務に必要な基本的な知識と技術のレベルを問われる試験で、新人PMOの登竜門的な位置づけとされています。
PMOスペシャリスト認定資格
日本国内におけるPMOの資格として最も権威があるとされる資格です。こちらも日本PMO協会が主催しており、プロジェクトマネジメント・アソシエイト認定資格を取得していることなどが受験の条件になっています。
プロジェクトマネージャ試験
IPA(情報処理推進機構)が主催する国家資格試験で、情報処理技術者試験制度の一つです。プロジェクトを管理する責任者としてのスキルを問われる試験で、情報処理技術者試験制度のなかで最高位のスキルレベル4に位置づけられています。
PMP
「Project Management Professional」の略で、Project Management Institute(PMI)が主催する国際資格です。受験資格としてプロジェクトマネジメントの実務経験が必要になっており、プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルとしての経験や知識レベルを問われます。
P2M資格
日本プロジェクトマネジメント協会が主催する、プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントの知識やスキルの認定試験です。P2Mは「Project & Program Management」の略で、PMBOKなどで整理されたプロジェクトマネジメントの仕組みに、プログラムマネジメントを加えた日本発祥の考え方です。
まとめ
プロジェクトの複雑化や規模拡大に伴いプロジェクトマネジメントの重要性が高まるなか、PMOはプロジェクトの成功に欠かせない組織になりつつあります。現在ではPMO設立のための支援活動も活発になっています。自社のプロジェクト管理の強化を図りたいという方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
PMOについて詳しい資料もご用意していますので、こちらもぜひ参考にご覧ください。
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