「うちの会社ってほんとにプロジェクト管理が全然できてないよなぁ」
こんなふとした悩みから企業のプロジェクト管理業務の改善活動が始まります。
単に改善活動といってもその手法は様々で、思いつく限り、社内ルール見直し、研修の充実、ツール導入といった活動が挙げられます。
弊社ではプロジェクト管理ツール「SI Object Browser PM (以下OBPM)」の開発・導入を行っております。今回のブログでは、このOBPMが、ミニマムビギニング株式会社(仮名)に導入される物語を通して、プロジェクト管理業務改善におけるスモールスタートの重要性を説いていきます。
プロジェクト管理におけるスモールスタートとは?
そもそもプロジェクト管理におけるスモールスタートとは何でしょう?
一般的に明確な定義はないと思います。
今回のブログでは、プロジェクト管理業務の改善=OBPMの導入と仮定して、以下のように定義したいと思います。
「OBPM利用機能の範囲を徐々に拡げていく進め方のこと」
OBPMの導入後、まずは最低限の機能から利用を開始、次に利用の定着を当面の目標とし、定着後に利用機能を拡大、将来の活用浸透につなげていきます。
OBPMの活用浸透のゴールとは、シンプルに「多くの利用者がOBPMを使いこなしている状態」と考えます。この状態が実現できれば、自然と企業内のプロジェクト管理業務の改善が達成されているのではないでしょうか?
上記の活用浸透のゴールを達成するための第1歩として、まずは利用者に「OBPMって良いツールだな!」と思ってもらうことが必要です。
これを実現するためにもスモールスタートが大切になってくるのです(理由は後述します)。
さて、プロジェクト管理におけるスモールスタートの定義を明確にしたところで早速、ミニマムビギニング株式会社にOBPMが導入される様子を覗いていきましょう。
スモールスタートしないことによるリスク
物語のあらすじ ※すべてフィクションです。
ミニマムビギニング株式会社、情報システム部の部長、上見 守(うわみまもる)は、企業内のプロジェクト管理業務のレベルの低さを懸念、数年前よりプロジェクト管理ツールの導入を検討し、経営層への提案を行ってきた。
2020年を迎え、ついにプロジェクト管理ツール「OBPM」の導入が決定、社内のツール推進チームとして、情報システム部のホープである、活用 進(かつようすすむ)をリーダーとした4名のチームを発足した。
主な登場人物
活用 進(かつようすすむ)39歳男 情報システム部
→OBPM導入の中心推進者として抜擢。
本音 語(ほんねかたる)33歳男 情報システム部
→進の部下で、同じOBPM推進チームのメンバー。思ったことはすぐに発言しがち。
上見 守(うわみまもる)52歳男 情報システム部部長
→長年の夢であったプロジェクト管理ツール導入決定に尽力した立役者。
社内キックオフ会議
・・・2020年1月某日、ミニマムビギニング株式会社ではOBPM導入にあたって、OBPM推進チーム4名による社内のキックオフ会議が行われていました。
進:さて、先日うちに導入が決まったプロジェクト管理ツールOBPMだけど、新年度となる4月より現場での本格利用を開始しようと思っています。導入スケジュールは事前に私の方で作成してきました。
語:なるほど、2月~3月で推進チーム内での準備をすすめ、3月下旬に現場向け説明会を実施、4月利用スタートということですね。
進:そうです。スケジュールはこれでいけると思うんだけど、スタート時の利用スコープをどうしようかと思ってて・・・。
語:利用スコープって何ですか??
進:実はOBPMには150にも及ぶ機能があって、4月から現場利用スタートするにあたって、どの機能までを利用必須とするか決めかねているんだ。
語:そういうことですか!それはもちろん選択の余地なく全機能じゃないですか?笑
だって、このツールの導入って上見部長の長年の夢だし、うちだってそれなりの投資をしてる訳ですよね?
ヘルプマニュアルも付いてるんだし、4月から全機能開放して、もし現場が使いこなせないとなっても、それって現場が悪いだけじゃないですか?
進:そういうもんかなぁ・・・自分自身、こういったツールを導入するのは初めてだし、ちょっと社内の有識者に話聞いてみます。
他3人:承知しました、よろしくお願いします!
★スモールスタートしないことによるリスク考察
ということで、ミニマムビギニング社内のキックオフ会議を覗いてみました。
進さんは現場利用開始にあたってのスコープに迷っていて、それに対して部下の語さんは、全機能でしょ!といった様子です。
語さんの発言はごもっともで、せっかく導入するツールなのですから、全機能使っていきたいというのが本音でしょう。
ここでは、初めから全機能を利用、すなわちビッグスタートした時に考えられるリスクについて考察していきます。
リスクの1つ目として、現場がツールに対してマイナスイメージを持ってしまうことが挙げられます。
今回はツールの話ですが、同じように150もの業務管理アプリが入ったスマホを想像してみてください。ある日、会社の上層部からこのスマホが配られ、「今度からこれで全ての業務管理を行ってください」と言われたらどうなるでしょう?
中には、色々な機能があってワクワクする人もいると思いますが、大半の人は、「何となくこれからやること増えそう」「一からまた操作を覚えるのが面倒」「どの機能から手を付けたら良いかがさっぱり・・・」といったようにマイナスイメージが先行してしまうというのが現実ではないでしょうか。
人間は第一印象が大切といいますが、ツールもそれは一緒で、一度付いてしまったマイナスイメージを払拭するのはなかなか大変です。
マイナスイメージのまま使い続けた場合、最終的には「OBPMにログインしない」という状態まで陥ってしまい、結果として全体のOBPM活用が衰退することも想定されます。
リスクの2つ目として、現場からの反発が生まれやすくなる、という点が考えられます。
150もの機能をいきなり提供し、利用者全員が満足するという方が不自然な状態ではないでしょうか。価値観や好き嫌いは本当に人によって様々なので、機能の対象が増えれば、それに比例して「前のツールの方が良かった!!」といったような反対意見がたくさん上がる可能性があります。
こうした反対意見に対処するのが、一般的には社内のOBPM推進チームになります。
ミニマムビギニング社を例にすると、進さんのチームになりますが、彼らが現場の反発を抑えることに精一杯になってしまうのです。
本来であれば、将来のOBPM活用計画を立て、実行するのも彼らの役目ですが、こうした活動を行う余裕もなく定着が進まない、というのが最悪のシナリオです。
ここまで、スモールスタートしないことによるリスクの考察をしてきました。
では、どのようにしてスモールスタートを実現すればよいのでしょう?
どうやら進さんが社内の有識者から有効な方法を聞き出せたようなので、再び推進チームの打ち合わせを覗いてみることにしましょう。
スモールスタートを実現するために・・・
OBPM推進チームによる社内打ち合わせ2回目
進:先日のキックオフ会議後、以前社内に経費管理ツールを導入した有識者に話を聞いてきました。この経費管理ツールも100以上の機能をもつツールですが、5年前にうちに導入した時は10機能を利用必須とするルールでスタートしたらしいです。
語:そうなんですか!?だって僕はいまあのツールめちゃくちゃ活用してますよ!何機能使ってるか数えたことないですけど、10機能ってことはないです。
(ここで、進からメンバーに対して、経費管理ツール導入から、現在の活用浸透を達成するにあたっての当時の推進チーム活動内容について説明・・・)
語:なるほど~、ここまでそんな経緯があったんですね。
言われてみればたしかに『多段階利用計画』なるものが存在していたような気がします。
つまり、僕たちはここに至るまで経費管理ツール推進チームの術中にハマって、いつの間にかツールに慣れている状態となった訳ですね。
進:嫌な言い方するね。笑
まぁでも結果的に今、活用浸透状態が作れてるからね。
ここでポイントとなるのは語さんの言う通り、利用者がストレスや負荷を感じることなくツールを利用し続けたっていう事実にあると思う。
語:たしかにそうですね。そうと決まれば早速、今後の利用計画を検討しましょう!
★スモールスタートを実現するための「多段階利用計画」とは
どうやら前向きな社内打ち合わせが行われたようですね。
打ち合わせの中で出てきた「多段階利用計画」というキーワード、これがまさしくスモールスタートを実現するための手法となります。
具体的には、推進チームであらかじめフェーズを設定し、フェーズごとの利用必須機能や運用ルールを決める、といった手法です。
このような手法でツールの利用を進めていくことにより、利用者が徐々に自然とOBPMになじんでいく、という状態が作れます。
では実際にOBPMを導入しているユーザ様はどのような多段階利用計画を立てているのでしょう?一つ例を見てみましょう。
フェーズ1(本稼働月=現場利用開始月)
工数予実管理を最優先目標とし、OBPMの工数入力、リソースヒストグラム、ガントチャートの利用を必須とする。
フェーズ2(本稼働月から4か月後)
課題管理、マイルストーン管理などの機能の利用を必須とし、品質管理を強化する。
※実際にはこの段階で、フェーズ1にて利用必須機能を絞っていたことが功を奏して、工数予実管理はある程度定着していた。
フェーズ3(本稼働月から1年後)
推進チームにてOBPMにおけるコスト管理基準を明確化し、新ルールを展開。採算予実管理を強化する。
上記のような多段階利用計画です。
計画を立てる際にポイントとなるのが、各フェーズの利用方針はもちろん、各フェーズの間隔です(今回の例では本稼働~4か月後~1年後)。
これには決まったフォーマットなどは存在せず、あらゆる要素を加味して判断する必要があります。
代表的な検討要素としては以下が挙げられます
- 利用規模
OBPMを何名で利用するかです。人数が多ければ推進チーム側で共通的なルールを検討・作成するのに時間がかかることが一般的です。 - 他システムとの連携の有無
既存で利用しているシステムとOBPMとの連携有無です。
連携を実現するためにはIFの設計や開発が伴うため、時間がかかります。 - 調整にかかる時間
今回のスモールスタートというテーマは機能にスポットを当てていますが、会社内の複数の部門へOBPMを導入する場合、部門間の壁があれば当然、導入のフットワークは重くなります。反対勢力を納得させるにはそれなりの時間がかかるということです。
これらの要素を考慮した上で無理のない多段階利用計画を立てることが、計画段階の秘訣かと思います。
スモールスタートをしてからが本当の勝負
進から上見部長へ多段階利用計画を提出
進:上見部長!4月からのOBPM現場利用開始に向けて、多段階利用計画書なるものを作成しました。5年前に導入した、経費管理ツールの推進チームに話を聞き、当時の教訓をふまえた内容で計画を策定しております。
(進から上見部長に多段階利用計画書の内容を説明)
上見部長:ふむふむ、よくここまで考えてくれたね。まずはこの計画で進めてみよう、進くん、よろしく頼むよ!
スモールスタートを切った後
その後、進さんをはじめとしたOBPM推進チームは、4月の利用必須機能・ルールを絞り、見事にスモールスタートを切ることに成功しました。
ここで忘れてはいけない事は、スモールスタートをしてからが本当の勝負、という事です。
「導入」という意味では、現場がOBPMを使い始めればその目的は果たせていると思います。その段階で推進チームの体制が縮小してしまうというのがよくある話です。ミニマムビギニング社を例に挙げると、4月以降の推進チームのメンバーが進さんのみになってしまうイメージです。
しかし、このブログの冒頭で述べた、定着→拡大→活用浸透を目指すのであれば、ある程度の推進体制を維持し活動を継続していくことが大切です。
さらに、利用拡大に向けたもう1つのポイント、それは「トップダウン」です。
進さんがどんなに良い利用計画、そして推進を行ったとしても、進さんの社内の立場や、反対勢力の強さ等によりそれが抑えつけられてしまう場合があります。
そこは、上見部長からのトップダウンが必要不可欠になってくるのではないでしょうか。
さいごに。このブログの筆者である私は実際にOBPMの導入支援担当者としてユーザ様に対して実際にOBPM導入のお手伝いをさせて頂いています。
本ブログのテーマであるスモールスタートについて、当然、導入支援の場でも提案させて頂くシーンはあります。
ここで、誤解のないようにお伝えしたいこととして、「スモールスタート」は、決してネガティブな提案・活動ではないということです。
OBPMには150もの素晴らしい機能があります。時間はかかってしまうかもしれませんが、結果的に、それらの機能を気に入ってもらったうえでできるだけ活用してほしい、との思いをもち提案・活動をしています。
今回のブログではOBPM導入を例にスモールスタートの話を展開しました。
ツール導入に限らず、社内業務改善、人生計画・・・様々なことにこのスモールスタートの思想は有効であると考えます(もちろん、最初から大きく始めなければならないこともたくさんあると思いますが)。
スモールスタートはあくまで、将来の大きなゴールを目指しての施策です。
スモールステイにならないように気を付けて実施していきましょう。
統合型プロジェクト管理ツール「OBPM Neo」の事例集もご用意していますので、取り組みの詳細にご興味をお持ちでしたら、こちらもぜひご覧ください。
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