不採算プロジェクトゼロ
仕事柄、私は年間400社程の企業を訪問し、プロジェクト管理に関する情報交換をさせて頂いている。その中で年に1社あるかないかという極めて低い確率で、「この企業はいずれノーベルプロジェクト管理賞を受賞するんじゃないかという素晴らしい企業がある。(そんな賞はない。)
受賞理由は、「不採算プロジェクトゼロ」。(だからそんな賞はない。)
プロジェクトの成功率が3割程度と言われる我が国において、そんな企業が本当に存在するのか?
そんな心の声を、目の前に座る担当者に投げかける訳にもいかず、私はただ言葉を失っていた。何しろ私は、プロジェクト管理ツールを提案しに来ているのだから。
「不採算プロジェクトゼロ」。
全ての企業が追い求める理想。一体どうやってその理想を手にしたのか。
プロジェクト管理手法 3つの要素
プロジェクトを管理の目的は他でもなく、プロジェクトを成功させることです。プロジェクトを成功に導くためには大きく次の3つの要素が必要です。
「理論」、「ツール」、「体制」
「理論」というのは、そもそもプロジェクト管理はどうやってやるのかといった知識やノウハウのことです。「ツール」は他でもなくプロジェクト管理をより効率化するための道具のことで、「体制」というのは文字通りプロジェクト管理をするための人・組織です。
「理論」がないのは論外ですが、「ツール」と「体制」については特定の条件を加えれば無くてもプロジェクトは成功させることは出来ます。先の受賞企業(だからそんな賞は、・・・もういい)は、「理論」と「体制」で不採算プロジェクトゼロを実現していました。具体的には、専任のPMOが2名体制で、Excelを駆使し、毎週木曜日と金曜日の2営業日をまるまる使い、全プロジェクトをチェックしていました。
1ヶ月で16人日(2名×2人日×4週)、1年で192人日、9.6人月というコストをかけて不採算プロジェクトゼロを実現していることになります。
これを考えると、効率的に無駄なくプロジェクトを成功に導くためには、やはり3つの要素は必須だと思います。
ここからは、もう少し具体的にプロジェクト管理手法の3つの要素について話していきたいと思います。
プロジェクト管理手法 「理論」
先ほども述べましたが、「理論」というのは、そもそもプロジェクト管理はどうやってやるのかといった知識やノウハウのことです。多く場合、この理論は属人的になっています。特定のPMやPL、もしくは特定の部署だけプロジェクトの成功率が高いということがよくあります。成功するためのノウハウが全社で共有されないことで、同じ失敗を繰り返したり、知識・ノウハウを持ったPM/PLが抜けるとプロジェクトが上手く行かなくなります。
プロジェクト管理の知識・ノウハウの代表例としてPMBOKという概念があります。資格取得に取り組む企業も多くいますが、実際にPMBOKを学習し資格を取得した方から「概念としては理解したものの、実プロジェクトにどう当てはめれば良いかがわからない。」という声を聞いたことがあります。
結局のところ、この「理論」いくら突き詰めたとしても、それをしっかりと組織で共有・活用する仕組みが無ければ意味が無くなり、共有するための「ツール」、活用するための「体制」も合わせて整える必要が出てきます。
プロジェクト管理手法 「ツール」
プロジェクト管理ツールを検索すると山ほどツールが出てきます。プロジェクト管理ツールを考える際に重要な視点は、機能性と操作性の2点です。やりたい事が出来る機能が実装されているか、入力効率や管理効率を向上させる操作性かを考えなければなりません。
操作性については、国産のパッケージやサービスであれば、さほど大きな差は無いように思います。一方で機能性は様々です。工数管理や進捗管理、課題管理のみに特化したもの、色々機能はあるものの痒いところに手が届かないものなど様々あります。
プロジェクト管理ツールではないものの、プロジェクト管理ツールとして世界一使われているツールにExcelがあります。Excelでもプロジェクト管理は出来なくはないですが、先の企業の通り、膨大な時間をかけなければ難しいと思います。しかもその時間は、組織の大きさ、プロジェクトの件数に比例して膨らんでいきます。
当然ながら、ツールの導入には目的があるので、その目的にあったプロジェクト管理ツールを選ぶ事が重要なのですが、導入する際にしっかりと考えなければならない事があります。それが、3つ目のプロジェクト管理手法の要素である「体制」です。
どれだけ目的にあったツールであっても、またどれだけ高機能なツールであっても、導入するだけで課題が解決できるものはありません。プロジェクト管理ツールを提供する側が想定している使い方をしてはじめて効果が出ます。せっかくコストをかけてプロジェクト管理ツールを導入したにも関わらず、現場に定着せず、失敗プロジェクトは減っていないという企業は多いと思います。
プロジェクト管理手法 「体制」
プロジェクト管理は誰が行なうものか?言葉から考えるとプロジェクトを管理する人、つまりプロジェクトマネージャー(以降、PM)が行なうものと思いがちです。PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)もその1人でしょう。弊社でも、PM/PLとは別で、プロジェクト管理ツールを定着活用、プロジェクトを支援するための体制として、専任のPMO1名、兼任のPMOが3名の計4名がいます。
PM/PLが自分の担当するプロジェクトの成功を目指すのはもちろんのことですが、客観的な立場からプロジェクトを評価し、必要に応じて支援をする組織は重要です。弊社の場合PMOは大きく3つの役割と権限を与えられています。
- 異常プロジェクトの検知と改善指示
- 運用ルール違反の取締り
- プロジェクト管理業務の改善検討と提案
PMO組織があるにも関わらず、プロジェクト管理が上手くいかない例として、PMOが役割だけで権限が与えられていない場合があります。権限のないPMOは結局現場に負けてしまい意味を成しません。
権限をもって役割を果たす組織を作ることで、正確なプロジェクトの状況をなるべく早く捉えられるようになります。そして言うまでもなく、どれだけ素晴らしいPMO組織を構築したとしても、Excelでは限界があり、「ツール」をしっかりと整えなければなりません。
もう一つの大切なこと
最後にもう一つ、プロジェクト管理にとって大切な事をお話します。
私はプロジェクト管理には大きく2つの能力が必要だと考えています。一つは他でもなくPMやPMOの管理能力です。実現可能な計画を立て、的確な指示を出し、現状を把握し、必要に応じて修正や支援を行なうといった能力です。しかしこの管理能力がどれだけ高くても、プロジェクトは失敗することがあります。その穴を埋めるのがもう一つの能力です。それは「被管理能力」です。
「被管理能力」。
耳慣れない言葉ですが、文字通り“ 管理される ”能力のことです。一方通行ではプロジェクト管理は絶対に出来ません。
「なぜ言った通りに動いてくれないのか?」「なぜ正確な報告を行なってくれないのか?」「なぜこちらから聞くまで教えてくれないのか?」こんな疑問や怒りを抱いたことがあるPMやPMOは多いのではないでしょうか。
言った通りに動いてくれ、向こうから正確な報告を毎回あげてくれる。これが実現するだけでPMやPMOの仕事は計り知れないほど楽になるはずです。
ではこの「被管理能力」はどうやって高めれば良いのでしょうか。
残念ながらこればかりはアナログでしか高められません。つまりプロジェクトメンバーと人間関係をつくるしかありません。普段から話がしやすい関係を作っているか?尊敬されるような振る舞いをしているか?感謝の言葉を伝えているか。その積み重ねの先にしか被管理能力の向上はありません。これらはプロジェクト管理の基本で、当たり前のことなのですが、本当にこれらがすべて出来ている人はいるでしょうか。関係構築は重要ですね。
プロジェクト管理は誰が行なうものか?
この問への答えは、「プロジェクトに関わるメンバー全員」です。管理する側、管理される側が双方向に関わり合って、はじめてプロジェク管理は成功に向かいます。
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