プロジェクトマネージャーのためのリスクマネジメント

 2018.08.14  株式会社システムインテグレータ

プロジェクト管理において最も重要なタスクは“リスクマネジメント”といっても過言ではありません。リスクを管理し、回避することでプロジェクトを効率良く成功へと導くことができます。しかし、リスクマネジメントを適切に行えているというプロジェクトマネージャーは少ないでしょう。

そこで今回はリスクマネジメントの基本や手法などをご紹介します。

“リスク”って何?

リスクマネジメントを実施するにあたって「リスクの定義」が明確になっていないケースは少なくありません。なんとなくは理解しているものの、何がリスクに該当して何が違うのかを、正しく理解しているというプロジェクトマネージャーは案外少数派です。

ではリスクとは何でしょうか?プロジェクト管理に関するノウハウや手法を体系立てているPMBOK(Project Management Body of Knowledge)によるとリスクとは、「少なくとも1つのプロジェクト目標に影響を与える不確実な事象」あるいは「プロジェクトにプラスの影響を与える可能性のある不確実なもの」と定義しています。

つまりプロジェクトにマイナス影響を与える事象もプラス影響を与える事象も、総じてリスクと言っているのです。リスクマネジメントはプロジェクトに「悪影響」を及ぼす不確実性を管理するものじゃないの?と思った方も多いでしょう。

確かに従来のリスクマネジメントでは将来発生し得る問題を回避するためのものだと考えられていましたが、最近ではプロジェクトにプラス影響を与える不確実要素もリスクとして管理することに注目が集まっています。

その理由は「プロジェクトの問題は極力排除し、あるいはそれによる悪影響を低減しつつ、プラス影響になるものは積極的に取り入れるため」です。

プロジェクトに発生し得るマイナス要因を排除しただけでプロジェクトは成功すると言えるのでしょうか?答えは「No」です。そうしたリスクを回避しても、プロジェクトの追い風になるプラス要因を味方に付けなければ、達成すべき結果とは言えません。

マイナス要因のリスクを排除するだけでは、可もなく不可もないプロジェクトになるだけです。プロジェクトを“成功”させるためには、やはり新しい技術などプラス要因のリスクも管理してプロジェクトを推進する必要があります。

リスクマネジメントの基本

ここから具体的な手法に移っていきたいと思います。リスクマネジメントの基本は“把握”と“対策”です。プロジェクトにおいてどういったリスクが発生する可能性があるのかを把握して、その対策を立てることでリスクを回避します。ここで注意していただきたいことは、「リスク=失敗原因」だと考えないことです。マイナス要因だと思われていたリスクが顕在化したことで、プラスの影響をもたらす場合もあります。サッカー日本代表を例にして具体的に説明しましょう。

≪プロジェクトの目標 アジア予選を通過してワールドカップ本選に出場する≫

リスク①(定量的) エースストライカーが怪我をする

マイナス影響: 決定力不足により予選敗退

プラス影響 :代替として出場した若手選手が頭角を現して大活躍

リスク②(定性的) チームが過度に緊張してしまい本来の力を出せない

マイナス影響 :ミスが続出して試合に負ける

プラス影響 :緊張感を持つことで力を抜かずに試合に臨める

この2つの事象は現時点では発生していないもので、一見してマイナス影響をもたらすリスクに思えます。しかし、このリスクが発生することでプラスの影響もあり、それを味方に付けることができれば万が一リスクが顕在化した際は、マイナス影響を最小限にとどめるばかりかプラス影響に転じられる可能性もあります。

つまりリスクマネジメントの基本である“把握”とは、発生し得るリスクだけでなくそれによってもたらされるマイナス影響とプラス影響も把握することが大切なのです。その上でプラス影響が大きくなるような対策を立てておけば、リスクが顕在化した際もプロジェクトに影響は及びません。

上記の例の場合、プロジェクトマネージャーは日本代表監督にあたるので以下のような対策を立てることが適切だと考えられます。

  • 練習や強化試合でエースストライカーの過度な起用は避ける
  • 余裕のある試合では十分な休息を取らせる
  • 危険のある行動は避けるように命じる
  • リスクの発生に備えて若手選手を積極的に育成する
  • ほどよい緊張感を保つためにメンタルトレーニングを取り入れる
  • 試合場所を想定してトレーニングを実施して緊張感を和らげる

こうした対策を立てておけば、万が一リスクが顕在化した際もプラス要因を多く取り入れることができ、プロジェクトを成功へと導くことができます。

“個別リスク”と“全体リスク”という観点を持つ

通常、プロジェクトにおけるリスクというと「途中での仕様変更」や「不良品の続出」などのマイナス要因を想定します。先の例で紹介した「エースストライカーが怪我をする」や「チームが過度に緊張してしまい本来の力を出せない」というリスクも、発生しかつマイナス影響が強いとプロジェクトの目標であるアジア予選通過は達成できません。しかしこれらのリスクを管理することは、「アジア予選を通過してワールドカップ本選に出場する」というプロジェクトの目標そのものを管理するわけではありません。

ここで大切なのがリスクマネジメントに“個別リスク”と“全体リスク”という観点を持つことです。先の例でご紹介したリスクが個別リスクならば、「アジア予選を通過することは難しい」というのが全体リスクです。プロジェクトマネジメントの権威でもあるトム・デマルコ氏もプロジェクトリスクには「全体としてのリスクと部分的なリスクがある」としています。

日本代表がアジア予選を通過してワールドカップ本選に出場することは、単純に極めて狭き門です。2018 FIFAワールドカップ・アジア予選に出場した国は46ヵ国あるので、単純に計算すればワールドカップ本選に出場できる国は46分の5です。つまりワールドカップ本選に出場できる確率は10.9%であり、89.1%は敗退するという低い可能性です。

しかし実際にはワールドカップ本選へ出場できるための要素は単純ではないので、様々な要因を管理し的確な数値を出すことが大切です。その上で、プロジェクトを実行するか停止するかを検討することもリスクマネジメントには欠かせません。先述のように、リスクにはプラスの要素もあるからです。

さらに個別リスクは様々なリスクを洗い出し、すべて把握した上で優先度をつけて対策を立てることが大切です。予測できるすべてのリスクに対応することは難しいので、リスク発生確率やプロジェクトへの影響度を考慮して優先順位を付けて、対策を立てていくことが欠かせません。

まとめ

こうしたリスクマネジメントは、何もプロジェクトマネージャーだけが持っているべきスキルではありません。プロジェクトメンバー全員がリスクマネジメントに関する理解を深め、関心を示し、スキルを身に付けることで組織的なリスクの管理ができます。そうすればプロジェクトは確実により良い方向へと推進していくでしょう。まずはプロジェクトリーダーがリスクマネジメントについて明確に理解し、十分なスキルを身に付けた上でプロジェクトメンバーのお手本になりましょう。


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