単に製品をリリースすればビジネスが成功する時代は終焉を迎え、現代のビジネスシーンにおいては顧客のニーズ・ウォンツを深く理解して、それを満たせるプロダクトをリリースすることや、提供方法・アフターフォローまで注力することが求められます。
そこで重要となるのが、プロダクト全般について管理を行うプロダクトマネジメントと呼ばれる手法です。
当記事では、プロダクトマネジメントの概要・歴史・業務内容・必要スキル・従事する職種など、プロダクトマネジメントの全体像について解説します。プロダクトマネジメントについて詳しく知りたい方や、自社で実践したいと考えている方は、ぜひ参考にしてみて下さい。
プロダクトマネジメントとは
プロダクトマネジメントとは、プロダクト(製品)と提供対象となる顧客を主軸に据えてビジネス全般のマネジメントを行う組織機能および業務のことです。
直訳すると「製品管理」となりますが、単なる製品の品質などの管理に限らず、製品に関するビジネス全般のマネジメントを行い、目標達成を目指すことを言います。
かつてはプロダクトの質が重要視されていましたが、近年では顧客のニーズ・提供方法・顧客体験までもが重視されることから、プロダクトマネジメントに対する重要性・必要性は大幅に高まってきています。
プロジェクトマネジメントとの違い
プロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントはしばしば混同されますが、マネジメント対象が異なることから、さまざまな点において違いがあります。
以下は、両者の違いを分かりやすく比較した表となります。
プロダクトマネジメント |
プロジェクトマネジメント |
|
対象 |
プロダクト(製品) |
プロジェクト |
目的 |
製品価値・売上の最大化 |
プロジェクトの完遂・達成 |
期間 |
プロダクトがある限り継続 |
プロジェクトの開始から終了まで |
必要な知識・スキル |
製品開発・技術・ビジネスに関する知識・スキル |
プロジェクトを進行・管理するスキル |
どちらもプロダクトに関してマネジメントを行うため役割が重複する部分もありますが、プロジェクトマネジメントはあくまでプロジェクトの完遂が目標であるのに対して、プロダクトマネジメントは企業がプロダクトを扱う限り継続的に価値・売上を最大化し続ける点に大きな違いがあります。
プロダクトマネジメントの歴史
プロダクトマネジメントは、現代とは名称が異なりますが、古くから重要視され活用されてきた手法です。ここでは、プロダクトマネジメントが誕生してから現代に至るまでの歴史についてご紹介します。
- 当時P&G のマーケターニール・マッケロイ(Neil H. McElroy) 氏がブランドマンの解説とブランドに対する責任をメモに記しました。これがプロダクトマネジメントの起源であると言われています。
- マッケロイ氏が当時スタンフォードの学生だったHP(ヒューレットパッカード)創業者、ビル・ヒューレットとデビッド・パッカードに影響を与える。(HPは1939年創業)
- HPはトヨタ生産方式(Toyota Production System)に影響を受けて、カイゼンや現地現物などの考え方を取り込む。
- HPの卒業生たちは、顧客中心主義やブランド単位の管理、リーン生産方式などの考え方を急成長していたシリコンバレーに広める。
- トヨタ生産方式はアジャイル開発やスクラムにも影響を与える。アジャイルによってプロダクトマネージャーは膨大な仕様書を書く労力から開放され、より顧客と向き合うことができるようになる。
プロダクトマネジメントの主な業務内容
プロダクトマネジメントがカバーする範囲は広いため、具体的にどのような業務が行われるのか押さえておく必要があります。
ここでは、プロダクトマネジメントで行われる主な業務について解説します。
製品のプロトタイピング
製品開発におけるプロトタイピングを行います。プロトタイピングとは、製品の不完全モデルを作成し、複数名に確認してもらうことです。顧客にも確認してもらい、ニーズや改善点などを把握します。そして、最終的な計画立案を行います。
プロダクトターゲットの明確化
プロダクトのユーザー(ターゲット)が明確になっていると、ニーズに合った製品が作りやすくなります。ターゲット層や企業・人などを絞り込むと、それぞれの特徴やニーズを活かした開発ができます。
KPIを定める(ロードマップ、戦略)
プロダクトマネージャーは目的達成のため、ロードマップや戦略を作り、KPIを定めることが大切です。ロードマップとは、数年後はどのようになっているかのビジョン、それに至るまでの中間目標などが記載されたものを指します。
KPIとは「重要業績評価指標」で、プロセスが順調に進んでいるかを計測する指標です。事前にKPIで目標になる数値を決めておくと、指標を参考にした評価や優先度の決定・今後の目標設定ができます。
効果測定と機能開発の振り返り
開発した製品の機能などを効果測定し、分析して振り返るのもプロダクトマネージャーの仕事です。その結果を今後の開発や仕様設計で活かします。機能開発を振り返る作業をすると、目標や改善点が明確化します。
プロダクトマネジメントに関わるおもな人物
プロダクトマネジメントには、最高責任者であるCPOをはじめとしたさまざまな人物が携わります。
ここでは、プロダクトマネジメントに関わる主な人物について解説します。
CPO(チーフプロダクトオフィサー)
CPO(チーフプロダクトオフィサー)とは、最高プロダクト責任者のことです。企業経営におけるプロダクトの最上位ポジションとして、経営戦略・経営計画に応じたプロダクト戦略・ロードマップの策定を行い、あらゆる角度からその実現に注力する責任を負います。
業務範囲も企業により異なり、規模の小さい企業では実質的にCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)がCPOの役割を担っているケースも多く見られます。
PO(プロダクトオーナー)
PO(プロダクトオーナー)とは、プロダクトの価値を最大化する方法について考え、その成功・失敗について責任を持つ職種のことです。プロダクトの方向性・コンセプト・機能・要件等に優先順位付けを行って記述した詳細なドキュメント「プロダクトバックログ」の作成・管理が主な役割となります。
開発チームへの指示や管理は行わず、名称の通りプロダクトの所有者としてプロダクトログの提示・管理のみに努めるのが大きな特徴です。
PM / PdM(プロダクトマネージャー)
PM / PdM(プロダクトマネージャー)とは、企業が顧客に提供するプロダクトに対して全体的な責任を負い、利益の最大化を目指す職種です。プロダクトの製造・開発を管理するだけに留まらず、いかにニーズが見込める市場を見つけてプロダクトを販売していくかという、ビジネス・マーケティングの部分まで担当します。
プロダクトマネジメント全体のポジショニングとしては、CPOやPOがプロダクトの責任者・所有者に特化しているのに対し、PdMは実行の部分まで介入していくところに特徴があります。
プロダクトマネージャーについては、以下の記事で全体像をご紹介していますので、併せてご参考下さい。
プロダクトマネージャーとは?役割や業務内容、プロジェクトマネージャーとの違いを解説
PjM(プロジェクトマネージャー)
PjM(プロジェクトマネージャー)とは、開発プロジェクト全体の管理を行い、計画の完遂・目標達成を目指す職種です。プロジェクトの企画・計画立案・メンバー選定・進行管理・品質管理・課題解決など業務内容は多岐に渡ります。顧客との折衝や納品に携わる場合もあります。
プロダクトマネジメントにおけるポジションとしては、いわば開発現場の指揮官・管理者となる職種です。プロジェクトの一連の業務に精通していなければならないため、幅広い知識・スキルが求められます。
PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)
PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)とは、顧客が求めているプロダクトを見つけ出したり、顧客のニーズ・ウォンツを満たせるようなプロダクトの企画・設計やマーケティング・販売の方法を考える職種です。プロダクト全般に携わるプロダクトマネージャーの業務範囲が広すぎるため、ビジネス・マーケティング部分に特化するための新しい職種として誕生しました。
日本国内ではまだあまり見かけませんが、海外の大手IT系企業では既に一般的となっている職種です。
プロダクトマネジメントに必要なスキル
プロダクトの完成に携わり責任を負うプロダクトマネジメントには、高度なスキルが必要となります。ここでは、プロダクトマネジメントを行ううえで必要となる具体的なスキルについて解説します。
戦略設計能力
プロダクトマネジメントは、製品の管理ではなく製品を主体としたビジネスマネジメントです。そのため、製品の企画・検討の段階においてプロダクト戦略を導き出すための戦略設計能力が非常に重要となります。具体的に設計する戦略の内容は、市場調査からのセグメンテーション・ポジショニング・コンセプト設計・ライフサイクルマネジメントなど多岐に渡ります。
プロダクトマネジメントは戦略にしたがって進められるため、単に戦略についての知見が豊富なだけでは不十分です。実際にビジネスフレームワーク等を駆使して根拠のある戦略をロジカルに導き出せるスキルが必要です。
マーケティング能力
プロダクトマネジメントは、企業の経営目標達成のために行われるものです。つまり、プロダクトをリリースして改善を重ねて満足するのではなく、目標となる売上を達成することが求められます。そのため、プロダクトマネジメントの実践にあたっては、開発したプロダクトを「誰に」「どこで」「どのように」販売していくかを考えるマーケティング能力を有していることも重要です。
対象となるプロダクトに合ったマーケティング・セールス戦略を実践して売上を最大化させるためには、幅広いマーケティング知識・スキル・手法を駆使する必要があります。
分析能力
近年の消費行動は単に製品を購入して利用するだけに留まらず、製品がもたらす価値、さらには体験までもが重視されつつあります。そのため、プロダクトマネジメントには企業がどのような価値・体験を提供すれば顧客の支持を得られるのかを分析する能力が求められます。
顧客が抱える課題・問題を見いだしプロダクトのアイデアやコンセプトに繋げるためには、リサーチ・分析の手法に長けているだけでなく、優れた観察眼・豊富な知識・柔軟な思考も必要となってくるでしょう。
プロダクトマネジメントは深い顧客理解から全てが始まるため、成果に繋がるマネジメントを行うためには分析能力を鍛えておくことが重要です。
プロダクトマネジメントの参考書籍
ここでは、プロダクトマネジメントの知識・スキルを取得するために、参考にしたいおすすめの書籍を3冊ご紹介します。
プロダクトマネジメントのすべて
「プロダクトマネジメントのすべて」は、実際に国内外で数々のプロダクトマネジメントに従事してきた著者が、その知識・経験を余すところなく詰め込んで執筆した濃密な書籍です。
広範囲に及ぶプロダクトマネジメントに関する知識・スキル・ノウハウ・方法論などが網羅的に記載されており、プロダクトマネジメントの全体像を体系的に学ぶことができます。
これからプロダクトマネジメントを学ぶ方が知識的地盤を作るのには最適な一冊です。
INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント
「INSPIRED」は、シリコンバレーで実際に行われているプロダクトマネジメントの手法・ノウハウについて、上流工程から下流工程まで詳しく解説された実用的な書籍です。2008年に初版が発行されて以来多くの人々に読み続けられ、2019年に現代に合わせて内容を大幅に刷新されたという注目の一冊です。
プロダクトマネジメントに従事するのであれば必読と言われているほどの良書であるため、ぜひ読破しておくことをおすすめします。
トヨタの製品開発
プロダクトマネジメントは海外から日本に輸入された手法であるイメージが強くあります。しかし実際には、トヨタ自動車の製品開発手法「主査制度」がアメリカに伝わり、それをもとにプロダクトマネジメントの手法が生まれて現在日本に逆輸入されているというのが実状です。
トヨタの主査制度とは、企画・開発・生産・販売の機能の全般を主導して全てに責任を負うという、製品開発における非常に重要な職種です。書籍「トヨタの製品開発」は、主査制度を担当した経験のある著者が、実体験をもとに新製品開発のプロセスを綴ったドキュメンタリーとなっています。
完成度の高い製品開発手法である主査制度について学べるため、現在のプロダクトマネジメントの原点について理解を深めたい方にはおすすめの一冊です。
まとめ
ライフサイクルの短命化やトレンドの変化が激しい現代のビジネスにおいて、プロダクトマネジメントの重要性・必要性は高まってきています。近年ではプロダクトマネージャーをはじめとしたプロダクトの総指揮を執る人物を配置して、プロダクトマネジメントに注力する企業も増加傾向にあります。
プロダクトマネジメントは、製品管理はもちろんビジネス面にも注力する必要があるため、プロジェクトを管理する方法を知っておくことも重要です。
プロジェクト管理に関する詳しい資料もご用意しています。ぜひご活用ください。
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