「1on1ミーティング」と、通常の人事評価面談との違いをはっきりと認識しているでしょうか。1on1では、評価よりも「対話」を重要視しており、比重が上司ではなく部下に置かれているのが特徴です。
1on1を効果的に活用すれば、部下が抱えている悩みの解決やキャリア相談につなげられるだけではなく、部下から上司への信頼、ひいては会社への信頼につながることも期待できます。
この記事では、1on1を導入しているものの思ったような結果が出ずに悩んでいる方、これから導入を検討している方向けに、1on1の概要と導入する目的や実施するメリットの他、実施手順と1on1実施時のポイントを解説します。
1on1とは
1on1は元々、優秀な人材の争奪が激しいシリコンバレーの企業において、上司と部下が直接顔を合わせて質の高いコミュニケーションをとることを目的として実施されていました。1on1が社員に与える精神的な影響は、「企業エンゲージメント」の向上という形で表れることとなり、日本国内で取り組む企業も増えてきました。
1on1ミーティングは人事評価面談と異なり、上司と部下の間で双方向性の対話形式で実施される面談で、上司は主に聞き役、部下が話し役になります。頻度や時間は企業によって異なりますが、週に1回から月に1回、30分から1時間程度で実施されることが多い傾向です。
本来、部下の成長や精神的なケアを目的としている1on1ですが、「1on1は無駄」「1on1はやりたくない」という声があるのも事実で、これは1on1に対する正しい知識が不足しているからだと考えられます。
例えば、人事評価面談と同様に、上司が一方的に話すスタイルでは1on1が成立しておらず、部下側で話したい内容を用意していない場合も同様で1on1を実施する意味がありません。効果的な1on1ミーティングを実施するためには、上司と部下双方が正しい前提知識を持った状態で面談に臨む必要があるのです。
1on1で話す内容
では、1on1の場では具体的にどのような内容を話し合うのが適切なのでしょうか。大まかに、以下の3点に焦点を当てて話し合うのが望ましいとされています。
緊急性は低いが重要な話題
「業務上改善できそうな点」や「将来的に挑戦したいこと」などが挙げられます。緊急性の低さゆえに日々の業務では話す機会がない話題について話し合うことで、部下は“気付き”を得られ、上司は部下の“気付き”を得られるため、上司と部下双方にとって実りある時間となるでしょう。
部下の悩みやキャリア
「現状、業務で悩んでいること」や「キャリアアップの計画」など、ビジネス面に踏み込んだ話題が挙げられます。部下の悩みについては、傾聴した上で自身の経験に基づくアドバイスを与え、指針としてもらえるようにするのが良いでしょう。部下のキャリアについては、1on1の度に必ず聞く必要はなく、3か月に1回くらいの頻度で詳細に掘り下げるのが効果的です。
部下とのコミュニケーション
必ずしも業務に関する内容である必要はありません。失礼のない範囲で、趣味や休日に何をしたかなど、プライベートな話題を振ると良いでしょう。ちょっとした雑談を行うことで部下の内面を知る機会になり、部下は「自分のことを知ろうとしてくれている」という印象を持ち、信頼感につながる可能性があります。
1on1を導入する目的
1on1ミーティングを導入する目的の「部下の成長や精神的なケア」は、深掘りすると以下の2点に分けられます。
- 部下の成長とそれに伴う成果の産出
- 部下の離職防止
部下の成長とそれに伴う成果の創出について、1on1は部下が主体となる双方向的な対話であり、上司は聞き役に徹することが求められます。必要に応じて話題を振ったり、ヒントを提示してあげたりすることは問題ありませんが、上司が主体となって話してしまうと1on1の意味がなくなってしまうため注意しましょう。その点に気を付けて対話を重ねることで、部下は自身が抱える問題や将来への展望について、自らの力で明確化できます。
部下の自発的な成長が促されると、業務における成果物にも良い影響が期待できます。なぜなら、「自らの力で考え、動く」能力が1on1を通じて形成され、業務を遂行していくあらゆる場面での応用が期待できるからです。
1on1は、上司と部下という二者間のみで実施される特性上、部下一人ひとりの状態を詳細に把握できます。離職に至る要因としては「人間関係」「待遇」「業務」という3つ問題が代表的であり、いずれかの側面で問題を抱えていることが判明した場合、できる限り迅速な対応が必要です。部下が話しづらそうな場合や問題が顕在化していない場合は、上司から話題を振って話しやすい雰囲気を作ると良いでしょう。
1on1のメリット
1on1を定期的かつ適切に実施することで期待できるメリットはいくつか存在します。先述した「部下の成長」「成果産出の向上」「離職率の低下」「信頼関係の構築」などは代表例ですが、他にもメリットがあります。
チーム全体における生産性の向上
一つのプロジェクトに携わっている各メンバーと個別に面談を行うことで、チーム内で起きている事象を多面的に観測できます。プロジェクトの進捗状況はもちろん、対応すべき課題や評価すべき点など、一人ひとりと対話を重ねることで内部の状況がより鮮明になり、今後どのようにチームを動かしていけば良いのかが把握できます。結果として、チーム全体における生産性の向上につながります。
VUCA時代への対応力育成
「VUCA」とは、「Volatility(変動制)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」という4単語の頭文字を取った用語で、将来の予測が困難な状態を指します。現代は技術革新や環境問題、社会問題など、現状ではほぼ予測不可能な事態が突如として起きる確率が高い時代であり、そうした変化にも柔軟に対応していく能力が求められているのです。
1on1は短いスパンで定期的に対話を重ねていく形態を採用しているため、急な変化にも対応できる点がメリットといえます。つまり、VUCA時代にマッチした施策なのです。
部下のモチベーションアップ
部下にとって、1on1で自身の話を真摯に聞いてくれる上司がいる環境は、信頼関係の構築と安心感の創出という理由からモチベーションの向上につながるでしょう。それだけではなく、1on1で上司に伝えた改善案やキャリアプランが実現した場合、「認められた」「適切に評価された」という感覚が強まり、さらなるモチベーションアップが期待できます。
社員のモチベーションが高い状態は、会社にとって利益をもたらす可能性が高い状態とも言い換えられます。
なお、社員のモチベーション向上については、以下の記事も参照してください。
社員のモチベーションを向上させる効果的な施策とは?低下の要因と対策を解説
1on1の実施手順
続いて、実際に1on1を行う手順を解説します。実施にあたっては、目的を明確にし、事前準備を行うことが大切です。
1on1の目的を共有する
まずは、なぜ1on1を実施するのかという目的を確実に共有しましょう。部下の中には、「そもそも1on1が何をする時間なのか分からない」という人もいます。「ただの面談」という認識のままでは、部下の主体性を引き出すことは難しいでしょう。あらかじめ、部下に1on1を実施する目的と聞きたい内容を詳細に伝えておくことが重要です。
スケジュールを設定する
1on1は、定期的に実施することで効果が期待できる面談です。可能な限り、「毎週・毎月のこの日時」というように、日程を設定しておくと良いでしょう。
この際、部下の予定を考慮することも忘れてはいけません。一方的に決めるのではなく、部下とすり合わせをした上で予定を決めるのが理想的です。期初に仮スケジュールを立てておき、急な予定変更にも対応できるようにしておくと、1on1をほぼ確実に実施できます。
事前にテーマを決める
部下の中には、話すことが好きだったり自己認識が明確にできていたりする方がいる一方で、自分のことについて興味がなかったり、そもそも話すことが苦手だったりする方もいます。突然1on1を実施しても、部下の性格によっては業務連絡以上の話に発展しないでしょう。
そのような事態を防ぐためにも、あらかじめ1on1で話すテーマを決める必要があります。ある程度幅広くテーマを設定しておくことで、話下手な部下からも話題を引き出せる確率が高まります。
1on1を実施する
「目的共有」「スケジュール設定」「テーマ決め」が完了したら、実際に1on1を行いましょう。1on1は、基本的には以下の流れで実施します。
(1)アイスブレイク(チェックイン)を行う
アイスブレイクは会議などにおいて、設定されたテーマに基づいて参加者が順番に話をしていき、話しやすい雰囲気を作ることを意味します。1on1の場合は上司と部下の二者のみですが、はじめから本題に入るのではなく、ちょっとした雑談をして場を和らげると良いでしょう。その時の部下の反応によっては、部下の状態がある程度感じ取れるため効果的です。
(2)設定したテーマに基づき主体的に部下に話してもらう
ここから1on1が本格的に始まります。あらかじめ設定したテーマから広げていき、部下から話を引き出します。この際、上司は必要に応じて話題を振ったり、助け舟を出したりするくらいにとどめ、できる限り聞き役に徹しましょう。
1on1の目的は、部下が主体性を持って問題や悩み、将来の展望について話し、言葉に出して明確化することにあります。決して部下の話を遮らず、相槌を打ちながら傾聴する姿勢を徹底するのがポイントです。上司の話が3割程度、部下の話が7割程度になるようバランスを取りましょう。
(3)部下と一緒に対策を考える
部下から十分な情報を引き出せたら、部下が抱えている課題や展望への対策・対応をともに考えていきましょう。この際、上司としては率先してアドバイスや指摘をしたくなることがあります。しかし、1on1の目的は部下が抱える課題や展望について、部下自身でどうすれば良いのかという“気付き”を得ることです。部下の内省と自発的な学びをサポートする程度にとどめましょう。
(4)次回の1on1までに行うべき目標を設定する
その回の1on1で確認できた課題や展望への対策と対応に向けて、次回の1on1までに何をすれば良いか目標設定を行いましょう。1on1ミーティングの実施スパンは短いため、次回までに「現実的に実現可能な目標」を設定するのが重要です。
(5)次回の1on1で設定した目標の結果を共有する
前回の1on1で設定した目標を達成できたかどうか、詳細に確認し合う作業を行いましょう。達成できていたら評価と、次はどのようにつなげていくべきかを共有します。達成できていなかった場合は、なぜできなかったのかを冷静に考えます。頭ごなしに叱責することは厳禁です。
上記の手順で1on1を定期的に続けていくことで、「部下の成長」「離職の防止」という1on1の目的を達成できます。
1on1を実施するときのポイント
1on1では、これまで触れてきた「上司が聞き手になる」以外にも重要なポイントがあります。ここでは、1on1を実施する際に押さえておくと効果的な3つのポイントを紹介します。
上司側は「聞き手」
1on1ミーティングにおいて、主として話すのは部下です。通常の面談と異なり、部下が主体的に課題や展望、対策・対応に気付き、部下自身の成長につながらなければ意味がありません。そのためには、上司が一方的に、あるいは多めに話してしまうことを避け、あくまでも「聞き手」に徹することが求められます。
部下の悩みや展望について、上司の経験に基づいたアドバイスをしたいという気持ちはあっても、1on1ミーティングにおける本来の目的を忘れず、部下の話を傾聴する姿勢を崩さないようにしましょう。
ネクストアクションを決める
「ネクストアクション」とは、「次に取るべき具体的行動」を意味する用語です。1on1を重ねていくと、部下が今後どのような行動を取っていけば良いのかが徐々に明確になっていくでしょう。今後の「具体的行動」について部下と慎重にすり合わせを行い、目標設定に盛り込むことが重要です。
また、目標設定をして部下に投げっぱなしにするのではなく、上司として何か手伝えることはあるか確認することも必要になります。なお、1on1を行う度に必ず「ネクストアクション」を決める必要はありません。先述したような短期的目標設定で十分な場合もあるので、必要に応じて定めましょう。
話しやすい環境づくり
1on1を実施する際、まずはアイスブレイクを行うことをおすすめしますが、ただ雑談をする以外にも話しやすい環境を作る方法はあります。社内のミーティングルームで行うのではなく、よりリラックスできそうな場所に変えてみたり、ホワイトボードなどを用意して可視化できるようにしたりなど、部下の性格や傾向に合わせて環境を構築すると良いでしょう。
また、上司は聞き役に回るのが基本ですが、部下の緊張を解くために自らの話をしてみるのも効果的な場合があります。部下からすれば、上司の人間的な側面が感じ取れると安心感につながり、自発的に話しやすくなるでしょう。
プロジェクト管理を効率化して時間を捻出
1on1の実施にはメリットが多数あるものの、企業規模、部署の規模によっては抱える部下の数が多く、「1on1にばかり時間が取られて他の業務に時間が割けない」「プロジェクト管理に精一杯で部下一人ひとりに目を向ける暇がない」という場合もあるかもしれません。いざ1on1を実施しても、十分な準備ができず部下から話を引き出せなかった、という事態も想定できます。
こうした事態をできる限り防ぐためには、日頃のプロジェクト管理を効率化し、1on1にかける時間を確実に捻出することが重要です。そのためには、自力で全てをまかなおうとせず、外部ツールに頼ってみることも選択肢の一つです。
プロジェクト管理の効率化なら、弊社が提供しているプロジェクト管理強化ツール「OBPM Neo」が最適です。こちらのツールは、プロジェクトの標準化と見える化を可能にし、プロジェクト管理における無駄を省けます。
まとめ
1on1は、「部下の成長」と「離職の防止」を目的とした面談です。部下が主体となって考え、対話に臨むことで部下が抱える問題や展望が明確になり、取るべき対策・対応が見えてきます。上司には、部下の自発的な成長を促すために事前の準備を行い、有意義な時間を構築することが求められますが、日々の業務との兼ね合いで難しい場合もあるでしょう。1on1ミーティングを意味あるものとするためにも、業務の効率化は積極的に取り組むべき課題です。
弊社では、業務効率化の促進に寄与できるよう、プロジェクト管理強化ツール「OBPM Neo」を提供しています。また、「プロジェクト管理とは何か」「何から取り組めば良いのか」と悩んでいる方に向けて、プロジェクト管理全般に関する資料もご用意していますので、ぜひご活用ください。
- カテゴリ:
- キーワード: