この連載では、プロジェクトマネージメントに係る話題を取り上げて、現場の技術者に分かりやすく、ポイントを絞って説明しています。
第一回のテーマは「工事進行基準」です。今年の4月から施行されたので、最近よく耳にする言葉です。この基準についてプロジェクトマネージャ向けに説明していきます。
「工事進行基準」とは、長期請負工事契約に関する会計上の収益認識基準の1つです。 簡単に言うと“発生主義”に基づく収益認識法です。目的物(ここではプロジェクトとする)が工事(開発)の完成度合いに応じて工事に関する収益と原価を計上し、各会計期間に分配する方法です。
いままで適用されなかった理由
では、なぜ今までは適用されていなかったのでしょうか。
従来、日本の会計基準では工事進行基準と工事完成基準の選択適用が認められていました。どちらを採用するかは会社が任意で選択することができました。そうなると簡便な方法(つまり工事が完了して収益がわかる工事完了基準)を選択する会社が多く、結果として日本の会社は、“実現主義”いわゆる工事完成基準を採用していました。
工事進行基準適用の要件
それでは、すべてのプロジェクトに工事進行基準を当てはめることができるのでしょうか。
工事進行基準を適用するための要件があります。要件とは「工事収益総額」「工事原価総額」「決算日における進捗度」の3つが信頼性をもって見積もれることです。
また、進捗度を表す方法として、「工事契約に関する会計基準」では原価比例法(工事原価の見積もり総額に占める実際原価の割合から進捗度を導く方法)を利用することを推奨していますが、プロジェクトににおいては受注(契約)の時点で仕様が未確定の場合も多く、開発の工数や難易度が不確定で正確な見積もりが困難な場合が多くあります。また手戻りや仕様の追加が発生することも珍しくありません。
このため、同基準の第51項でも「原価の発生やその見積もりに対するより高度な管理が必要と考えられる」と指摘していますが、具体的な対策については特に触れていません。
プロジェクトマネージャのメリット
ここまでの話ではプロジェクトマネージャに取って、メリットはまったく感じられません。いままで、QCDを中心に管理してきた方にとっては、経理の方に任せたくなるような話です。
でも、工事進行基準の側面、つまり法律で定められているわけではないが、経営を行ううえで必要となる管理体制に着目するとメリットが見えてきます。
工事進行基準を実行するためには、前述した要件「工事収益総額」と「工事原価総額」そして「工事進捗度」を高い水準で見積もり、精度の高いプロジェクト管理体制が求められます。裏返していえば、「どんぶり勘定」のプロジェクトで「適当にスタートして、終わってみないと収益は分かりません」は通用しなくなります。
また、各プロジェクトからいくら利益が出るのかを随時(毎月)高い精度でレポートする義務が生じます。その結果は、経営に必要な意思決定に大きな影響を与え、赤字プロジェクト撲滅に役立つはずです。
また、個々のプロジェクトの収支がはっきりすることで、会社全体の収支や着地点も見えてきます。また、会社全体としては、全プロジェクトを束ねてみることで、プロジェクトの傾向が可視化され、会社全体の開発作業の効率化の必要性に気付く様になります。その結果、全社を挙げて共通のプロジェクト管理ツールの導入やPMOの設置など開発の現場を助ける作業に取り組むようになります。
全社の協力が必要
今まで通り、コスト削減に努めることは当然ですが、重要なことは工事原価総額と予算実績管理です。
この2つが重要なテーマになります。開発を進める過程で、工事原価総額が変化することが想定されます。つまり随時適切に見積もりの見直しが実施される体制が不可欠になります。
そうなると開発の現場だけでは対応できません。経理も含め(開発の現場はもちろんですが)全社の各部門が協力したうえで、プロジェクト管理体制を構築していなければ破たんすることでしょう。
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