2. なぜ今EPMが重要視されるのか?その背景

近年、多くの企業でEPM(エンタープライズプロジェクト管理)への注目が高まっています。その背景には、予測困難な現代のビジネス環境と、企業が持続的に成長していくために解決すべき構造的な課題が存在します。ここでは、EPMがなぜ今、重要視されているのか、その2つの主要な背景について詳しく解説します。
2.1 企業の競争力強化の必要性
現代のビジネス環境は、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代とも言われ、変化のスピードが非常に速く、将来の予測が困難になっています。市場のグローバル化、顧客ニーズの多様化、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展など、企業を取り巻く環境は絶えず変化し続けています。
このような状況下で企業が勝ち抜くためには、変化に迅速に対応し、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を最大限に活用して競争優位性を確立することが不可欠です。しかし、多くの組織では部門間の連携不足や情報のサイロ化により、経営層の戦略が現場の活動にまで浸透せず、全社最適の視点でのリソース配分が困難になっているのが実情です。
EPMは、企業の戦略目標と個々のプロジェクトを連携させ、全社横断的な視点でリソース配分や進捗を管理するアプローチです。これにより、経営戦略に基づいた優先順位の高いプロジェクトに資源を集中させることが可能となり、市場の変化に対する迅速な意思決定と実行を支援します。結果として、企業全体の生産性が向上し、厳しい競争環境を勝ち抜くための強力な武器となるのです。
| 課題項目 | 従来の管理手法における課題 | EPMによる解決アプローチ |
|---|---|---|
| 意思決定 | 勘や経験に頼りがちで、判断に時間がかかる。部門最適の判断が横行しやすい。 | 全社のリアルタイムなデータを基に、迅速かつ客観的な意思決定が可能になる。 |
| リソース配分 | 各部門が個別にリソースを確保し、全社的な最適化が図れていない。 | 経営戦略に基づき、全社横断でプロジェクトの優先順位を付け、リソースを最適配分する。 |
| 戦略と実行の連携 | 経営戦略と現場のプロジェクトが乖離し、戦略が形骸化しやすい。 | トップダウンで戦略とプロジェクトを紐づけ、現場の活動が経営目標達成に直結する。 |
2.2 業務プロセスの可視化と改善
「組織は常に肥大化し、業務は目的とは無関係に増え続ける」という「パーキンソンの法則」が示すように、多くの企業では、目に見えない非効率な業務や無駄な作業が内部に蓄積されています。特に、管理部門の定型業務や社内向けの改善活動などは、コスト意識が希薄な「どんぶり勘定」で管理されがちで、業務プロセスのブラックボックス化が進んでいます。
このような状態では、「誰が、何に、どれだけの時間とコストをかけているのか」を正確に把握できず、業務改善も掛け声だけで終わってしまいます。どこに問題があるのかが分からなければ、的確な改善策を講じることはできません。
EPMは、これまで管理対象外とされがちだった間接業務や定型業務も含め、社内のあらゆる活動を「プロジェクト」として捉えます。それぞれの業務にWBS(作業分解構成図)を用いてタスクを洗い出し、工数や進捗を管理することで、業務プロセスが定量的に可視化されます。これにより、ボトルネックとなっている工程の特定や、無駄な作業の削減、さらには業務の標準化といった具体的な改善活動へと繋げることができるのです。業務プロセスの可視化は、継続的な業務改善サイクルを回し、利益の出やすい企業体質へと変革するための第一歩となります。
3. EPM導入による5つのメリット

EPM(エンタープライズプロジェクト管理)を導入することは、単にプロジェクト管理を効率化するだけでなく、企業経営全体に多岐にわたる好影響をもたらします。個々の業務をプロジェクトとして捉え、組織横断的に管理することで、これまで見過ごされてきた課題が可視化され、継続的な改善サイクルが生まれるのです。ここでは、EPM導入によって企業が得られる代表的な5つのメリットについて、具体的に解説します。
3.1 経営資源の最適化
企業が持つ経営資源、すなわち「ヒト・モノ・カネ・情報」は有限です。EPMは、これらの貴重な資源を個別の部門やプロジェクトの都合だけでなく、全社的な視点で経営戦略に基づいて最適に配分することを可能にします。
従来、各部門が独自にリソースを管理していると、ある部門では人員が不足している一方で、別の部門では手が空いている人材がいるといった「リソースの偏在」が発生しがちでした。EPMを導入し、全社のプロジェクトとそれにアサインされている人員の状況を一元的に可視化することで、以下のような効果が期待できます。
- 人員配置の最適化:各プロジェクトの負荷状況や個人のスキルセットを考慮し、最適な人員を配置できます。これにより、従業員の稼働率が向上し、特定の人員への過度な負担を軽減できます。
- 投資対効果(ROI)の最大化:複数のプロジェクトの優先順位を戦略的に判断し、限られた予算をより重要度の高いプロジェクトに集中させることができます。これにより、企業全体の投資対効果を最大化します。
- 設備・資産の有効活用:プロジェクトで使用する設備や資産の利用状況を把握し、重複投資を防ぎ、遊休資産を減らすことができます。
3.2 業務効率の向上とコスト削減
EPMは、業務プロセスを標準化し、徹底的に可視化することで、業務効率を飛躍的に向上させます。「誰が」「いつ」「何を」行っているかが明確になるため、業務のボトルネックや非効率な作業、重複したタスクを容易に特定し、改善策を講じることができます。
例えば、WBS(作業分解構成図)を用いて業務タスクを詳細に洗い出し、ガントチャートで進捗を管理することで、計画と実績の乖離をリアルタイムに把握できます。また、すべての業務で工数管理を行うことで、どの作業にどれだけのコスト(労務費)がかかっているかを定量的に分析できるようになります。これにより、以下のようなメリットが生まれます。
- 無駄な業務の削減:業務プロセスを見直すことで、付加価値を生まない作業や形骸化した手続きを排除できます。
- リードタイムの短縮:ボトルネックを解消し、業務フローを最適化することで、製品開発やサービス提供までの時間を短縮し、市場への迅速な対応を可能にします。
- コスト削減:正確な工数データに基づき、非効率な作業にかかる労務費を削減したり、外注コストの妥当性を評価したりすることで、直接的なコスト削減に繋がります。
3.3 組織全体の情報共有と意思決定の迅速化
EPMの導入は、組織内に散在していたプロジェクト関連情報を一元的なプラットフォームに集約します。これにより、部門や役職の壁を越えたスムーズな情報共有が実現し、組織全体のコミュニケーションが活性化します。
プロジェクトの進捗状況、課題、リスク、コストといった最新情報がリアルタイムで全関係者に共有されるため、担当者レベルでの認識の齟齬が減るだけでなく、経営層や管理職は常に正確なデータに基づいた判断を下せるようになります。これは「データドリブンな意思決定」の基盤となり、勘や経験だけに頼らない、客観的で迅速な経営判断を促進します。
情報共有が促進されることによるメリットは以下の通りです。
| 側面 | 具体的な効果 |
|---|---|
| 透明性の向上 | プロジェクトの状況がガラス張りになることで、問題の早期発見・早期対応が可能になります。 |
| コミュニケーションコストの削減 | 報告のためだけの会議や資料作成の手間が大幅に削減され、本来の業務に集中できます。 |
| 意思決定の質の向上 | 正確で網羅的なデータに基づき、より精度の高い将来予測や戦略立案が可能になります。 |
3.4 プロジェクト成功率の向上
EPMは、個々のプロジェクトの管理手法を標準化し、組織としてのプロジェクトマネジメント能力を底上げします。その結果、納期遅延や予算超過といったプロジェクトの失敗リスクを大幅に低減させ、プロジェクト全体の成功率を高めることができます。
EPMツールなどを活用することで、プロジェクト計画の策定から実行、監視、終結までの一連のプロセスが体系的に管理されます。特に、リスク管理や品質管理の面で大きな効果を発揮します。
- リスクの予防と早期対応:過去の類似プロジェクトのデータから潜在的なリスクを予測し、あらかじめ対策を講じることができます。また、プロジェクト進行中に発生した課題も即座に共有され、迅速な対応が可能となります。
- 品質の標準化と向上:プロジェクト管理のプロセスや成果物の基準を標準化することで、属人性を排除し、組織全体として安定した品質を確保できます。
- ナレッジの蓄積と活用:成功したプロジェクトのノウハウや、失敗プロジェクトから得られた教訓が組織の資産として蓄積されます。これにより、次のプロジェクトで同じ過ちを繰り返すことを防ぎ、成功の再現性を高めます。
3.5 内部統制の強化
EPMは、業務プロセスと承認フローを明確にし、すべての作業履歴を記録・追跡可能にすることで、企業の内部統制(コーポレートガバナンス)強化に大きく貢献します。「いつ、誰が、何を承認し、実行したか」という証跡(ログ)がシステム上に残るため、業務の透明性と説明責任が向上します。
これは、コンプライアンス遵守や情報セキュリティの観点からも非常に重要です。例えば、重要な業務プロセスに電子的な承認ワークフローを組み込むことで、不正やミスの発生を抑制できます。また、内部監査や外部監査の際には、要求された資料を迅速かつ正確に提出できるため、監査対応の工数を大幅に削減することも可能です。
内部統制の強化は、企業の信頼性を高め、健全な経営基盤を構築する上で不可欠な要素と言えるでしょう。
4. EPMの対象となる業務範囲

EPM(エンタープライズプロジェクト管理)の最大の特徴は、その管理対象の広さにあります。従来のプロジェクト管理が特定の開発案件やキャンペーンなどに限定されていたのに対し、EPMは企業内で行われるほぼすべての活動を「プロジェクト」として捉え、管理の対象とします。これには、明確な始まりと終わりがある「プロジェクト型業務」だけでなく、日々繰り返される「定型業務」も含まれます。ここでは、EPMが具体的にどのような業務を対象とするのかを詳しく解説します。
4.1 プロジェクト型業務と定型業務
企業活動は、その性質から大きく「プロジェクト型業務」と「定型業務」に分類できます。さらに、顧客向けの活動である「社外向け」と、自社内の活動である「社内向け」という軸で整理すると、EPMの対象範囲がより明確になります。
| プロジェクト型業務(非定常) | 定型業務(定常) | |
|---|---|---|
| 社外向け業務 |
|
|
| 社内向け業務 |
|
|
一般的なプロジェクト管理ツールは、主に左上の「社外向けプロジェクト型業務」を対象としています。しかし、EPMではこの表にあるすべての業務を管理のスコープに含めます。特に、これまでコストや進捗が可視化されにくかった「定型業務」や「社内向け業務」をプロジェクトとして管理することで、全社的な生産性向上とリソースの最適化を実現するのがEPMの目的です。
4.2 部門別に見るEPMの活用例
EPMは特定の部門だけでなく、全社横断的に活用することでその効果を最大化できます。ここでは、主要な部門におけるEPMの具体的な活用例を見ていきましょう。
4.2.1 開発部門での活用
開発部門はもともとプロジェクト管理手法に馴染みが深い部門ですが、EPMを導入することで、個別のプロジェクト管理から一歩進んだ、組織全体の視点での管理が可能になります。
- 複数プロジェクトの横断管理: 複数の進行中プロジェクトを一覧化し、プロジェクトマネージャーやエンジニアなど、限られたリソースの負荷状況を可視化。特定の人員に負荷が集中するのを防ぎ、最適なリソース配分を実現します。
- プロジェクトポートフォリオ管理(PPM): 各プロジェクトの投資対効果(ROI)や戦略的重要度を評価し、経営戦略に沿ったプロジェクトにリソースを集中させます。
- ナレッジの共有と標準化: 過去のプロジェクトで発生した課題や成功事例、成果物などを一元管理し、組織全体のナレッジとして蓄積。プロジェクト管理プロセスを標準化し、属人化を防ぎます。
4.2.2 管理部門・営業部門での活用
EPMの考え方は、これまでプロジェクトとして意識されることの少なかった管理部門や営業部門の業務効率化に大きく貢献します。
- 管理部門(人事・経理・総務): 新卒・中途採用活動や、社内規定の改定などを一つのプロジェクトとして設定し、WBS(作業分解構成図)でタスクを洗い出し、ガントチャートで進捗を管理します。また、月次決算や給与計算といった定型業務も「定常プロジェクト」として工数を記録することで、業務プロセスのボトルネックを発見し、継続的な改善につなげることが可能です。全社ミーティングや社員研修なども「販売管理費プロジェクト」としてコストを可視化できます。
- 営業部門: 個々の営業活動だけでなく、期初に策定する「年間営業アクションプラン」などをプロジェクト化します。目標達成のための具体的なタスク、担当者、期限を設定し、週次ミーティングなどで進捗を確認することで、計画倒れを防ぎ、目標達成の確度を飛躍的に高めることができます。
4.2.3 情報システム部門での活用
社内のITインフラを支える情報システム部門は、他部署からの多種多様な依頼に対応する必要があります。EPMは、これらの業務を整理し、円滑に進めるための強力な武器となります。
- 依頼業務の可視化: 社員からのPCトラブル対応、新規アカウント発行、システム改修依頼などをすべてチケットやタスクとして登録・管理します。これにより、対応漏れを防ぐとともに、依頼部門に対して進捗状況を明確に共有できます。
- 業務負荷の定量的把握: 各タスクにかかった工数を記録・集計することで、「どの業務にどれだけの時間がかかっているか」を定量的に把握できます。このデータは、業務プロセスの改善や、将来的な人員計画を立てる際の客観的な根拠となります。
- バックログ管理: 抱えているすべてのタスク(バックログ)を一覧化し、優先順位付けを行います。これにより、場当たり的な対応ではなく、計画に基づいた効率的な業務遂行が可能になります。
5. EPM導入を成功させるためのステップと注意点

EPM(エンタープライズプロジェクト管理)は、企業全体の業務を可視化し、経営資源を最適化することで、企業競争力を飛躍的に高める可能性を秘めています。しかし、その導入は単にツールを導入するだけでは成功しません。全社的な取り組みとなるため、計画的かつ段階的なアプローチが不可欠です。ここでは、EPM導入を成功に導くための具体的なステップと、事前に把握しておくべき注意点を詳しく解説します。
5.1 EPM導入の進め方
EPMの導入は、以下の5つのステップで進めるのが一般的です。各ステップを着実に実行することが、プロジェクトの成功確率を高めます。
5.1.1 ステップ1:目的とスコープの明確化
最初に、「なぜEPMを導入するのか」という目的を明確にします。例えば、「複数プロジェクトの進捗状況をリアルタイムに把握し、経営判断を迅速化したい」「部門間のリソース配分を最適化し、全社の生産性を向上させたい」といった具体的な課題を洗い出します。目的が明確になることで、導入プロジェクトの方向性が定まり、関係者の意識統一が図りやすくなります。
次に、導入範囲(スコープ)を決定します。最初から全社一斉に導入するのは、現場の抵抗が大きく頓挫するリスクがあるため、特定の部門や業務に絞ってスモールスタートするアプローチが有効です。まずは成果を出しやすい部門で成功事例を作り、その効果を全社に展開していくことで、スムーズな導入が可能になります。
5.1.2 ステップ2:現状業務の可視化と分析(As-Is)
次に、EPMを導入する対象部門の現状業務プロセスを詳細に可視化し、分析します。どのような業務があり、誰が担当し、どのような手順で進められているのかを洗い出します。このプロセスを通じて、非効率な作業や属人化している業務、管理上の課題などが浮き彫りになります。この現状分析が、後の理想的な業務プロセス設計の土台となります。
5.1.3 ステップ3:理想の業務プロセスの設計(To-Be)
現状分析で見つかった課題をもとに、EPMを導入した後の理想的な業務プロセスを設計します。プロジェクト管理の標準ルール(WBSの階層、進捗報告のタイミング、工数入力の基準など)を定義し、全社で統一された管理基盤を構築します。この際、現場の意見を十分にヒアリングし、現実的で実行可能なプロセスを設計することが重要です。理想を追求しすぎるあまり、現場の負担が過度に増える計画は形骸化の原因となります。
5.1.4 ステップ4:EPMツールの選定と導入
設計した理想の業務プロセスを実現するためのEPMツールを選定します。ツールの選定はEPM導入の成否を左右する重要な要素です。機能、操作性、拡張性、サポート体制などを多角的に比較検討し、自社の目的と文化に最も合ったツールを選びます。ツールが決定したら、システム設定、データ移行、既存システムとの連携などを計画的に進めます。
5.1.5 ステップ5:運用と定着化、継続的な改善
ツールの導入が完了したら、いよいよ運用開始です。しかし、導入して終わりではありません。社員が新しいプロセスとツールをスムーズに使いこなせるよう、丁寧なトレーニングやマニュアルの整備が不可欠です。また、導入後は定期的に効果を測定し、KPIの達成度を確認します。現場からのフィードバックを収集し、プロセスの見直しやツールの設定変更など、継続的な改善(PDCAサイクル)を回していくことで、EPMの効果を最大化できます。
5.2 導入における課題と解決策
EPM導入の過程では、いくつかの課題に直面することが予想されます。事前に課題を想定し、対策を準備しておくことで、プロジェクトを円滑に進めることができます。
| 代表的な課題 | 課題の詳細 | 解決策 |
|---|---|---|
| 現場の抵抗と文化の壁 | 新しい管理手法やツールの導入に対し、「業務負荷が増える」「監視されているようだ」といった心理的な抵抗感が生まれることがあります。特に、これまでプロジェクト管理に馴染みのなかった部門では、強い反発が予想されます。 | 経営層がEPM導入の重要性を繰り返し発信し、強いリーダーシップを示すことが不可欠です。また、導入のメリットを丁寧に説明し、現場の不安を払拭します。スモールスタートで成功事例を作り、その効果を具体的に示すことも有効です。 |
| 管理コストの増大 | EPMは業務の可視化を目的としますが、そのためのデータ入力や報告作業が過剰になると、本来の業務を圧迫してしまいます。「管理のための管理」に陥り、生産性がかえって低下するリスクがあります。 | 入力負荷の少ない直感的なツールを選定することが重要です。また、他のシステムとの連携によってデータ入力を自動化したり、管理項目を必要最小限に絞ったりする工夫が求められます。 |
| 導入目的の形骸化 | 「ツールを導入すること」自体が目的になってしまい、本来目指していた業務改善や生産性向上に繋がらないケースです。高機能なツールを導入したものの、一部の機能しか使われず、宝の持ち腐れになることも少なくありません。 | 導入前に「プロジェクトの遅延率を10%削減する」「リソースの空き時間を5%改善する」といった具体的なKPIを設定します。導入後は定期的に効果測定を行い、経営層も交えて成果を確認する場を設けることで、形骸化を防ぎます。 |
5.3 EPMツールの選び方
EPMの成功には、自社の目的や規模、文化に合ったツールの選定が欠かせません。多機能であれば良いというわけではなく、「現場が無理なく使い続けられるか」「導入目的を達成できるか」という視点で選ぶことが重要です。以下に、EPMツールを選定する際の主要なポイントを挙げます。
| 選定ポイント | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 機能の網羅性と柔軟性 | WBS、ガントチャート、工数管理、リソース管理、課題管理といったプロジェクト管理の基本機能が網羅されているかを確認します。また、システム開発のようなプロジェクト型業務だけでなく、管理部門の定型業務なども管理対象にできる柔軟性があるかも重要なポイントです。 |
| 操作性と視認性 | ITツールに不慣れな社員でも直感的に操作できる、シンプルでわかりやすいインターフェースかを確認します。入力の手間が少なく、日々の業務の中で負担なく利用できることが定着の鍵となります。また、全社のプロジェクト状況やリソースの負荷状況などを一目で把握できるダッシュボード機能の有無も確認しましょう。 |
| 拡張性と連携性 | 企業の成長や組織変更に合わせて、柔軟に設定を変更したり機能を拡張したりできるかを確認します。また、すでに利用している会計システム、人事システム、グループウェアなど外部システムと連携できると、二重入力の手間が省け、データ活用の幅が広がります。 |
| サポート体制と導入実績 | ツールを提供するベンダーのサポート体制が充実しているかを確認します。導入時のコンサルティングやトレーニング、運用開始後の問い合わせ対応など、手厚いサポートがあれば安心して導入を進められます。また、自社と同じ業種や規模の企業での導入実績が豊富かどうかも、信頼性を判断する上で参考になります。日本国内の商習慣に合ったツールかどうかも見極めましょう。 |
これらのポイントを踏まえ、複数のツールで資料請求やデモンストレーション、無料トライアルなどを活用し、実際に操作感を試しながら比較検討することをお勧めします。現場の担当者にも評価に参加してもらうことで、導入後のミスマッチを防ぐことができます。
6. EPMと関連用語の違い

EPM(エンタープライズプロジェクト管理)は、企業の経営管理において重要な役割を果たしますが、ERP、BI、PPMといった他の経営管理用語と混同されがちです。それぞれのツールの目的や機能は異なり、その違いを理解することが、自社の課題解決に最適なソリューションを選択する鍵となります。ここでは、EPMと各関連用語との違いを詳しく解説します。
6.1 ERPとの違い
ERP(Enterprise Resource Planning)は、日本語で「企業資源計画」と訳され、企業の基幹業務を統合的に管理するためのシステムです。具体的には、会計、人事、生産、販売、在庫管理といった各部門の業務プロセスを標準化し、関連するデータを一元管理します。
EPMとERPの最も大きな違いは、その目的と焦点にあります。ERPの主な目的が、日々の業務プロセスの効率化と、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の正確なデータ管理であるのに対し、EPMはERPによって集約されたデータを活用して、経営の意思決定を支援し、将来の業績向上を目指すことに焦点を当てています。
つまり、ERPが「過去から現在」までの実績データを正確に記録・管理する「守りのシステム」であるとすれば、EPMはそれらのデータを用いて未来を予測し、戦略的な計画を立てる「攻めのシステム」と位置づけることができます。EPMはERPをデータソースとして活用することで、その真価を発揮します。
| 項目 | EPM (エンタープライズプロジェクト管理) | ERP (企業資源計画) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 全社的なプロジェクトの可視化、経営資源の最適配分、将来の業績予測と計画立案 | 基幹業務プロセスの統合・効率化、経営資源データの一元管理 |
| 時間軸 | 未来志向(計画、予算、予測、シミュレーション) | 過去・現在志向(実績データの記録、取引処理) |
| 対象ユーザー | 経営層、事業部長、プロジェクトマネージャー、経理・財務部門 | 現場の業務担当者から管理者まで全般 |
| データの扱い | 分析的、要約的(集計、分析、シミュレーション) | 定型的、取引的(データ入力、トランザクション処理) |
6.2 BIとの違い
BI(Business Intelligence)は、企業内に蓄積された膨大なデータを収集・分析・可視化し、経営層や管理者の意思決定を支援するための手法やツールを指します。ダッシュボードやレポート機能を用いて、現状を多角的に分析することを得意とします。
EPMとBIは、どちらもデータを活用して意思決定を支援するという点で共通していますが、そのアプローチと時間軸が異なります。BIは主に「過去に何が起こったのか」「なぜ起こったのか」という過去から現在にかけての分析に重点を置いています。現状把握や問題発見に強力なツールです。
一方、EPMはBIの分析機能に加え、「将来何が起こるのか」「何をすべきか」という未来志向の計画・予測にまで踏み込みます。予算編成、業績予測、シナリオプランニングといった機能を通じて、企業が目指すゴールに向けた具体的なアクションプランの策定と実行を支援します。多くのEPMツールは、BIの機能を内包していることが一般的です。
| 項目 | EPM (エンタープライズプロジェクト管理) | BI (ビジネスインテリジェンス) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 業績管理プロセスの実行(計画、予算、予測、実行)と最適化 | データの可視化と分析による現状把握、意思決定の支援 |
| 時間軸 | 未来志向(計画、予測、シミュレーション) | 過去・現在志向(実績データの分析、モニタリング) |
| プロセス | 計画立案から実行、評価、改善までのPDCAサイクル全体をサポート | 主にCheck(評価・分析)のフェーズをサポート |
| データの扱い | 分析に加え、計画データなどの入力・書き込みも行う | 主に蓄積されたデータの読み取り・分析を行う |
6.3 PPM(プロジェクトポートフォリオ管理)との違い
PPM(Project Portfolio Management)は、企業が抱える複数のプロジェクトを一つの「ポートフォリオ」として捉え、経営戦略との整合性を見ながら、限られた経営資源(予算、人材など)を最適に配分するためのマネジメント手法です。
EPMとPPMは非常に関連性の高い概念ですが、その管理の視点とスコープに違いがあります。PPMは、「どのプロジェクトに投資すべきか」という戦略的な意思決定に焦点を当てます。つまり、「Doing the right projects(正しいプロジェクトを行う)」ことを目指します。企業の目標達成に貢献する可能性の高いプロジェクトを選択し、優先順位を付け、価値の低いプロジェクトは中止するといった判断を下します。
対して、EPM(特にエンタープライズ「プロジェクト」管理の側面)は、PPMによって選択されたプロジェクトを含め、社内のあらゆる業務をプロジェクトとして捉え、「いかに効率的かつ効果的に実行するか」という実行管理に焦点を当てます。これは「Doing projects right(プロジェクトを正しく行う)」ことを目指すアプローチです。PPMがEPMの最上流に位置づけられる、あるいはEPMの戦略的な一部と見なされることもあります。
| 項目 | EPM (エンタープライズプロジェクト管理) | PPM (プロジェクトポートフォリオ管理) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 全社的なプロジェクトの標準化と効率的な実行管理 | 経営戦略に基づいたプロジェクトの選択と集中、投資対効果の最大化 |
| 視点 | 実行管理(Doing projects right) | 戦略的決定(Doing the right projects) |
| 管理対象 | 個別のプロジェクトや定型業務など、社内のあらゆる活動 | 複数のプロジェクト群(ポートフォリオ) |
| 主なプロセス | 進捗管理、リソース管理、コスト管理、課題管理など | プロジェクトの評価・選定、優先順位付け、リソース配分、ポートフォリオのモニタリング |
7. まとめ
EPM(エンタープライズプロジェクト管理)とは、企業全体のプロジェクトを統合的に管理し、経営資源を最適化する経営手法です。市場環境の変化が激しい現代において、業務プロセスを可視化し、組織横断での情報共有を促進することは、企業の競争力強化に不可欠です。EPMを導入することで、プロジェクトの成功率向上や迅速な意思決定が可能となり、持続的な成長の基盤を築くことができます。プロジェクトマネジメントに課題を感じている方向けに、プロジェクトマネジメントに関する詳しい資料もご用意しております。ぜひご活用ください。






