PPMとは
PPM(Project Portfolio Management:プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント)という3文字略語の中で使われているポートフォリオという言葉は、もともとは書類を持ち運ぶために使う紙ばさみの意味です。現在は、そこから金融機関や投資家などが所有する「金融資産の一覧表」の意味で使われています。
それにマネジメントという単語が付いて「ポートフォリオ・マネジメント」となると、投資対象を個別に評価するだけでなく、集合全体(ポートフォリオ)として捉えてバランス良く投資するという意味が含まれてきます。安定性の高い商品、収益性の高い商品など投資タイプの分布状況を分析表示して、リスクを回避しながらも収益性も考慮して投資して行く手法です。
このPMの先頭にもう1つPが付いたものがPPMです。PはProjectのPで、このポートフォリオ・マネジメントの対象を金融商品でなくプロジェクトに置き換えたものです。組織内で実行されている複数のプロジェクトを総括的に捉え、全体の状況管理やさまざまな分析を行い、組織全体の効率化を実現する管理手法となります。
図1:プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントの概念図
P2MやCMMIとどう違うか
個々のプロジェクトマネジメントはPMBOKで定義されているとして、複数のプロジェクトを対象にマネジメントする手法には、第2章で紹介したCMMIや第4章で解説したプログラムマネジメント、P2Mなどもあります。いったいこれらとどう違うのでしょうか。
基本的にはPPMもプログラムマネジメントもP2MもCMMIも複数のプロジェクトを対象にする共通点があります。ただし、P2Mやプログラムマネジメントの場合は関連するプロジェクトを統括管理するという意味合いが強く、組織切り口の要素は少し薄いです。また、CMMIは組織のプロジェクト管理力というテーマなので、個々のプロジェクトの監視・管理というより土台となる仕組み作りに重きを置いています。
視点が組織や全社レベルかという視点のほかに、コントロールか管理かという役割の違いもあります。一般にManagementという単語は、日本語に訳すと「制御(コントロール)」と「管理」の2つの要素を持っています。ここで使われているManagementは、プロジェクトの制御より監視・管理の色合いが強く、会社全体でという観点でプロジェクトを統括管理・分析する意味合いが強くなっています。
図2:P2MとCMMIとPPMの立ち位置の違い
EPMとPPM
もう1つ、第3章で解説したEPMとの関係を見てみましょう。EPMは、企業内の活動はすべてプロジェクトと考えて管理しようという考え方でしたね。この発想に沿って社内の案件をプロジェクトとして捉えた場合、それらを統括管理して優先順位を付けたり、方向性を定めたりするためにPPMの導入がより重要となるのです。つまりEPMが活動をプロジェクト化して管理を徹底するところに重きを置いているのに対し、PPMはそれを全社的に捉えて分析して経営層やコントロール部門に見せるという役割を担っています。
この用語の解釈の広さに気付くかも知れません。「社内で走っているプロジェクトを統括して管理・分析する」という定義を満たしていればいいのです。それらは各部門から要求される社内プロジェクトでもいいですし、ソフト開発や工事などの営利目的のプロジェクトでもいいです。もちろん、その混合形態でもかまいません。前者はプロジェクトを一覧して優先順位付けしたりする役割などが重きを置かれますし、後者はプロジェクトを横断的に見たり、集計してみたりする役割が重要です。PPMという言葉は次第に適用範囲が広がってきており、立場によってイメージするものが異なる場合があるのです。
誕生の背景
概念自体は1980年代に製薬会社が社内の研究開発プロジェクトの把握と資源配分などを行う目的で取り入れられたようです。その後適用範囲が徐々に広がってきています。
こうしたニーズを背景に1990年代後半に米国でツールが登場し、日本では2000年代半ばに少しずつ使われ出しています。PMBOKを生み出した米国プロジェクトマネジメント協会(PMI)も2006年に「The Standard for Portfolio Management」(ポートフォリオ・マネジメント標準)を発表し、複数のプロジェクトを集約してマネジメントするための手法やノウハウをまとめています。こちらもバージョンアップが行われており、2017年に第4版が公開されています。
PPMツールの概要
ツールに求められる機能はどんなものでしょうか。ざっとあげると次のようなものがあります。
- プロジェクト一覧(種別、状況)
- プロジェクト集計(部門階層別)
- プロジェクト分析
- プロジェクトナレッジ管理(横断的ナレッジ)
- プロジェクト要員負荷(部門階層別)
- プロジェクト標準化
とにかく、複数のプロジェクトを束ねて管理することで有益な情報を得るための機能であれば、すべてツールにあるべき機能と言えます。
図3:プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントツール に必要な機能イメージ
プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントの意義
米国は当たり前にやられていることに対して3文字略語を付けて宣伝するのが得意です。こうしたやり方はマーケティング手法の1つだとは思いますが、マーケティング要素だけではなく、その後の理論(考え方?)の発展に役立つ方法でもあります。
PPMもその1つで、とにもかくにもPMIでも標準が提唱され、ツールも出回るようになってきています。個々のプロジェクト管理だけでなく、会社全体でどんなプロジェクトがどのように存在して、経営にどう影響しているか、会社の進む方向に沿った形で資源投資がなされているか、などを統括して「見える化」するのは、もちろん重要です。
まずは個々、そして全体とボトムアップで物事が形作られるのが世の常です。そうした意味で、まずはPMBOK、そしてEPMやPPMといった構想で全体効率をアップさせるために、プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントというキーワードが存在感を示してきたことは大きな意味があると思います。
プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントの課題
PMBOKが「木を見る」ものだとしたら、PPMは「森を見る」ものです。木が集まって森になるように、プロジェクトが集まってポートフォリオが形成されます。しかしながら、現在はまだ「プロジェクトマネジメントツール」と「プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントツール」が別製品となっているケースが多く、個々のプロジェクトからデータを取り出してプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントツールに食わせてあげるための負担が大きいという課題があります。
もう1つの課題は、何を見るかが固まっていないことです。「なんでも見られます」は、とかく「誰もなにも見ない」結果になってしまいます。本当に役立つツールの使い方を考えた場合、汎用性を保ちながらも経営層や責任者が何をどう見てどう活用するかまで、踏み込んで提案してあげるべきだと思います。
複数のプロジェクトを集計して見るべき情報はたくさんあります。例えばデータとメッシュ(切り口)の掛け合わせで考えた場合、次のような候補が次々とあげられます。
図4:プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントの発想で統括管理する情報の例
これらのデータを汎用的に取り出す仕組みはもちろん必要です。それに加えて、どの企業も必要とするであろう標準的なアウトプットをきちんと用意して、「これをこのように見ればこういうように役立てられます」というところまで一歩踏み込んだ提案をしないと、なかなか日本企業のトップはツールのアウトプットを有効活用できません。
プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントとOBPM
OBPMは最初からPMBOK+PPMの観点で設計されており、木が集まって森となっている構造になっています。PMBOKの10の管理エリアに基づいて個々のプロジェクトマネジメントを行うと同時に、それらのプロジェクトを部門で集計したり、横串にしたりしてプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントの観点で統括管理できます。メニュー構成も、プロジェクトごとの機能が並んだ「プロジェクトメニュー」とポートフォリオ・マネジメント用の機能を集めた「メインメニュー」をタブ切り替えできるようになっており、ワンタッチで木と森を切り替えて管理することができます。 集計されたデータは、汎用データ出力機能で外部出力してさまざまな分析もできます。これに加えて、重要な指標は下記画面のような前年同月対比のグラフや表で簡単に状況把握できます。これからの時代は、プロジェクトマネジメントだけでなくプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントの考え方も統合されたものでなければ、真の合理化・効率化はできないと考えて作られているのです。
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この記事の著者
株式会社システムインテグレータ 代表取締役会長
梅田 弘之
1995年に株式会社システムインテグレータを設立。2006年東証マザーズ、2014年東証第1部、2021年東証スタンダード上場。ECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」、統合型プロジェクト管理システム「OBPM Neo」など独創的なアイデアの製品を次々とリリース。また、ERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発。2019年に著書「AIのキホン」を出版し、現在はThinkITで「エンジニアならしっておきたいGPTのキホン」を連載中。
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