P2Mの考え方を知っておこう:P2M とは【プロジェクトマネジメント講座 第4章】

 2017.04.27  株式会社システムインテグレータ

 

P2Mとは

P2M(Project & Program Management)とは、PMBOKなどで整理されたプロジェクトマネジメントの仕組みに、プログラムマネジメントを加えた日本発祥の考え方です。プログラムマネジメントとは、複数のプロジェクトを連携・統括して管理する手法のことを言います。
第1章「PMBOKの限界」で述べたように、PMBOKはあくまでも1つのプロジェクトをマネジメントすることに焦点を絞っています。これを組織というレベルで俯瞰し、組織のプロジェクトマネジメント力の強化を目指したものが第2章で取り上げたCMMIです。
一方、大規模プロジェクトでは、複数のプロジェクトが関連し合って形成されています。プログラムマネジメントは、このような複数プロジェクトからなる大規模プロジェクトの視点で、個々のプロジェクトの連携や相互作用を統合管理する管理手法を指すものです。
そして、P2Mは、プロジェクトとプログラムの2つのPをマネジメントするものです。プロジェクト単体の管理だけでなく、複数のプロジェクトを統合管理する仕組みまで対象を広げた日本発の管理標準なのです。

【第4章】P2Mの考え方を知っておこう:P2M とは 1

図1:プロジェクト単体管理+複数プロジェクトの関連管理=P2M 

P2M開発の背景

PMBOKはアメリカの非営利団体PMIが1987年に「A Guide to the Project Management Body of Knowledge」で提唱したプロジェクトマネジメントの標準ガイドです。これがプロジェクトマネジメントのデファクトスタンダードとして世界に広まる中、PMIは2006年にプログラムマネジメントの標準として「The Standard for Program Management」を発表しています。これまでに3回改訂が行われ、2017年には第4版が公開されています。この中でプログラムマネジメントは、「プログラムの利益や目標を達成するために、プログラムを調整、統括してマネジメントすること」と定義され、PMBOKと同じく9つの知識エリアごとにプロセスが定義されています。
PMBOKが米国製なのに対し、P2Mは、財団法人エンジニアリング振興協会が経済産業省の委託事業として3年間のリサーチの末に発表したものです。PMIに先立つ2001年に「プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイド」を発表し、2002年からは特定非営利活動法人 日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)がその普及を担当しています。

PMIがPMBOKをベースにプロジェクトマネジメントの標準化を推し進めている最中に、なぜ日本が新たなマネジメント体系を開発したのでしょう。私はその背景として次の2点があると推察しています。
1つは日本独自のものを持ちたかったということ。カレーライスやラーメンなどのように、海外で誕生したものをより改良して日本的なものにするのは、良くも悪くも日本のお家芸です。アメリカ発祥のPM知識体系ガイドPMBOKとヨーロッパで普及しているPM能力体系ガイドICB(IPMA Competence Baseline)の良いところ取りをした日本独自の標準を作り、日本の産業界発展、国際競争力強化に役立てようとした結果で”日本版PM体系”が誕生したわけです。
もう1つの理由は業界によるプロジェクト規模の違いです。PMBOKが最も普及しているIT業界のプロジェクトは、規模的にそれほど大きくなく、管理対象もソフトウェア開発などを中心にしたものでシンプルです。一方でプラントなどのエンジニアリング業界のプロジェクトはより大規模で、さまざまな企業やプロジェクトが複合的に関連しあっています。こうした業界のプロジェクトマネジメントを考えた場合、単独のプロジェクト管理だけを対象にするPMBOKでは不十分で、複数プロジェクトの関連や相互作用などを統括的にマネジメントするプログラムマネジメントが求められたわけです。

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図2:P2M誕生の背景

P2Mの概要

2001年に取りまとめられた「プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイド」は、2007年に第2版が出され、2014年に改訂第3班が発表されています。第2版と第3班の違いはこちらをご覧ください。この新版P2M標準ガイドブックの記載内容をPMAJのホームページから表1に紹介しておきます。

1 確実なプロジェクト完成に導くプロジェクトマネジメント体系を提供します。
2 個別プロジェクトの大型化・複雑化への対応に、必要な全体統合と部分のマネジメントの両方をプログラムマネジメントの考え方で包括し提示します。
3 組織戦略とプロジェクト群の整合性を考え、プログラムマネジメントを以って、組織戦略実現のための付加価値の高いプロジェクトの組成やイノベーションを加速する仕組みづくりの段階からプロジェクトマネジメントを機能させます。
4 システムズアプローチを土台にしたマネジメント体系として、社会・経済の複雑な課題への対応、複合的なビジネス課題への対応、あるいは、開発-構築-運用-事業改革を、一つまたは複数のプログラムとして首尾一貫したサイクルで廻すことを可能としています。

表1:P2Mの概要(PMAJホームページから引用)


PMAJのホームページから、もう1つ新P2Mタワーを紹介します。図3は、P2Mの構成を図式化したもので、個々のプロジェクトマネジメントの上位にプログラムマネジメントを定義し、複数プロジェクトを統合マネジメントする仕組みが含まれていることを示しています。ベースとなるプロジェクトマネジメントはPMBOKを踏襲していますが、よく見るとそこにも独自の改良やアイデアが加えられていることが伺えます。

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図3:新P2Mタワー(PMAJホームページから引用)

P2M資格制度

PMIがPMBOKの浸透・拡散のためにPMP試験制度を導入しているように、PMAJもP2M資格制度を作ってP2Mの普及活動を行っています。資格として表2のような4つのレベルに分かれており、PMAJにより試験が行われています。資格は5年更新で、PMC資格以外は、PMP資格と同じように毎年継続学習が義務付けられます。

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表2:P2M資格試験

P2Mの意義

P2Mは、今やプロジェクトマネジメントの国際標準となったPMBOKの内容を尊重しつつ、PMBOKの課題であった複数の関連するプロジェクトの統括マネジメントを付加しています。国際的な標準を善しとするという考えもありますが、それが不足する部分や改良すべき点があるのであれば、たとえ日本独自だとしても、よりよい基準を作ろうという意欲的なプロジェクトでもあります。
PMIが推し進めるPMBOKとPMP資格に対抗するような位置づけで、PMAJがP2MとP2M資格制度を打ち出しています。PMIにとって1ローカルのPMAJの存在は大きくないかもしれませんが、PMAJに取ってPMIは師匠であり友達でありライバル関係です。PMAJはPMBOKを否定しているわけではなく、プロジェクトマネジメントの部分は踏襲し、プログラムマネジメントの部分で独自性を強めています。ただし、PMIも2017年に「The Standard for Program Management」の第4版を公開し、PMBOKも第7版でもプログラムマネジメントへの対応を強化していますので、やはり切磋琢磨は続きます。
この手の団体による標準化活動は最初の意義から数年すると形骸化しがちですが、PMAJは熱意を持って普及に取り組んでいると感じています。せっかく意欲的なものを作ったので両者ともより内容のブラシアップを続けて競いあってもらいたいものです。

P2Mの課題

筆者がP2Mの課題と感じている点は2つあります。1つは普及・拡大の進展性です。”標準”というものの価値は、どれだけ多くの利用者がいるかに大きく関わります。P2MはPMBOKの後追いで登場し、なおかつ日本独自というものなので、まだまだ知名度が高くありません。年々、資格取得者も増えてきているのですが、日本のエンジニアリング業界という限られた枠を超えて普及していけるのか、これからが正念場と言えます。
もう1つは官制のガイドだということです。経産省がスポンサーとなって、財団法人が取りまとめ、特定非営利活動法人が普及活動をするという官制の仕組みで、本当に推進力が維持できるのかちょっと心配です。たとえば新版P2M標準ガイドは、大学や専門家、シンクタンク、コンサルタントなど各分野より専門家が参加して作成したということです。しかし、こうした手法でまとめたものはお互いに遠慮してなかなか冗長な部分をカットできず、その結果4部・600ページ以上に及ぶ膨大なものになっています。
記述内容も「課題大国日本の明日を切り開くには」とか「有期実現のイノベーションを導く戦略密着の機動的マネジメント手法」など、大上段に構えた抽象的な美辞麗句が多く、本質にずばっと切り込んだ柔らかい表現になっていません。本当に普及を目指すなら、もっと要点を絞って簡潔で読みやすいものに改良すべきだと思います。
ページ数が多過ぎるという点に関しては、サマリー版「P2M 豆本(改訂3版 P2Mの概要)」が出ています。PDFも用意されていますので、興味のある方はPMAJのホームページからダウンロードしてみてください。

P2Mとどう向き合うか

プロジェクト規模が大きい場合、同時並行して進む複数のプロジェクトの関連性を捉え、統括的に全体を管理する必要があります。たとえば、街にランドマークタワーを構築するとした場合、用地買収や土木工事、建設工事、情報システム構築、広告宣伝など業務分野や請負企業もばらばらにプロジェクトが並行して進みます。このケースにおいて、たとえば用地買収が遅れたら土木工事も開始が遅れますし、土木工事が遅れたら建設工事も遅れます。個々のプロジェクトマネジメントももちろん重要ですが、全体を統括したプログラムマネジメントも必要になります。そこで、P2Mの”両方をマネジメントする”という考え方が重要になってくるのです。
プロジェクトマネジメントの知識・ノウハウを深めるという面でも意義があります。PMBOKでプロジェクトマネジメントの基礎を理解した後、さらにPMBOKを深めるというアプローチもありますが、他の”バイブル”で学んだ方が多様な見方や考え方が新たに身について役に立ちます。自分のプロジェクトマネジメント力をより豊かにするために、どんなものか読んで理解してみるのもいいと思います。

P2MとOBPM

OBPMはP2Mの目指すものを実現する手段をいろいろと用意しています。たとえば個々のプロジェクトが経営にリンクする仕組み、プロジェクトの統一手法を提供するドメイン機能、プロジェクトの横串を刺す機能や体制などです。また、個々のプロジェクトの要員アサイン状況を統括して人別の要員負荷で把握したり、関連するプロジェクトをグルーピングして個別と全体の採算を管理したりできます(画面1)。P2Mのマネジメントを実現するための基本的な機能をかなりの部分でカバーしているツールと言えます。
さらに、複数プロジェクトの進捗状況を俯瞰するグループガントチャート、複数プロジェクトの採算をグループ原価管理など、単独プロジェクトと複数プロジェクトの両方で監視・管理できます。P2Mやプログラムマネジメントを実践するツールとして幅広く利用されています。

【第4章】P2Mの考え方を知っておこう:P2M とは 5画面1:関連するプロジェクトの状況を一覧するグループ機能

 


この記事の著者

umeda_2023

株式会社システムインテグレータ 代表取締役会長
梅田 弘之

1995年に株式会社システムインテグレータを設立。2006年東証マザーズ、2014年東証第1部、2021年東証スタンダード上場。ECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」、統合型プロジェクト管理システム「OBPM Neo」など独創的なアイデアの製品を次々とリリース。また、ERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発。2019年に著書「AIのキホン」を出版し、現在はThinkITで「エンジニアならしっておきたいGPTのキホン」を連載中。


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