ERPとは?【図解で初心者にもわかる】
意味・メリットから主要製品(SAP等)まで徹底解説

 2025.09.09  株式会社システムインテグレータ

ERPとは、企業のヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を一元管理し、経営の迅速な意思決定を支える仕組みです。本記事では、ERPの基本的な意味やメリット・デメリットはもちろん、失敗しない選び方のポイントから、SAPに代表される国内外の主要製品、導入費用までを網羅的に解説。図解を交えて初心者にもわかりやすく、ERPの全体像が掴めるようになります。

本記事では、

  • ERPとは?基幹システムとの違いについて
  • ERPの種類やメリット
  • ERP導入の際の注意点

これらの内容を主に、ERPの基本をご紹介します。

ERPとは 経営資源を最適化する仕組み 

1754392536

ERPとは、現代の企業経営に不可欠なシステムであり、考え方です。会計、販売、生産、人事といった企業活動の根幹をなす業務情報を一元的に管理し、会社全体の経営資源を最適化することで、経営の効率を最大化することを目的としています。

本章では、ERPの基本的な意味から、その中核となる考え方、そして最終的な目的までを、初心者の方にも分かりやすく解説します。

ERPの正式名称と意味 

ERPは「Enterprise Resource Planning」の略称です。日本語では「企業資源計画」と訳されます。この言葉を分解すると、ERPが何を目指しているのかがより明確になります。

単語 意味 解説
Enterprise 企業 企業全体を指します。特定の部門や部署だけではありません。
Resource 資源 企業の活動に不可欠な経営資源全般を指します。一般的に「ヒト・モノ・カネ・情報」がこれにあたります。
Planning 計画 これらの経営資源をいかに効率的に配分し、有効活用するかの計画を立てることを意味します。

つまりERPとは、企業の持つ「ヒト・モノ・カネ・情報」といったあらゆる経営資源を、会社全体で統合的に管理・把握し、その時々で最適に配分・活用するための計画や考え方、そしてそれを実現するためのシステムを指す言葉です。単なるITツールというだけでなく、効率的な経営を実現するための経営手法そのものとも言えるでしょう。

【図解】ERPの基本的な考え方「統合データベース」

ERPの仕組みを理解する上で最も重要なキーワードが「統合データベース」です。これは、ERPの心臓部とも言える考え方です。

従来の多くの企業では、会計システム、販売管理システム、生産管理システムなどが部門ごとに独立して存在していました。この状態では、各システム間でデータが分断され(サイロ化)、同じような情報を二重、三重に入力する手間が発生したり、部門間での情報連携にタイムラグが生じたり、データの不整合が起きやすいという課題がありました。

一方、ERPはこれらの課題を「統合データベース」で解決します。各部門の業務システムが、一つの共通のデータベースに接続されているのです。これにより、例えば以下のような情報の流れが実現します。

  1. 営業担当者が受注情報をERPに入力する。
  2. その情報は即座に統合データベースに登録される。
  3. 会計部門はリアルタイムで売上情報を確認でき、請求処理の準備に入れる。
  4. 在庫管理部門は、受注による在庫の変動を即座に把握し、出荷指示や在庫補充の計画を立てられる。
  5. 生産管理部門は、最新の受注状況と在庫状況を元に、精度の高い生産計画を立案できる。

このように、一つの場所で発生した情報が、関連する全部門にリアルタイムで正確に共有されること。これがERPの根幹をなす「統合データベース」の力であり、業務効率化の源泉となります。

1754392562

ERPの目的は経営の意思決定を迅速にすること

業務の効率化はERPがもたらす大きなメリットの一つですが、それは最終目的ではありません。ERPが目指す本当のゴールは、データに基づいた迅速かつ的確な「経営の意思決定」を支援することにあります。

統合データベースによって、企業のあらゆる情報(売上、利益、原価、在庫、人員コストなど)は、常に最新の状態で一元管理されています。これにより、経営者は「今、会社全体でどれくらいの利益が出ているのか」「どの製品・サービスが好調で、どれが不振なのか」「在庫は過剰ではないか、不足していないか」といった経営状況を、リアルタイムかつ正確に把握できます。これを「経営の可視化」と呼びます。

情報が部門ごとに散在している状態では、これらの情報を集めて分析するだけで数日、場合によっては数週間かかってしまうことも珍しくありません。しかしERPがあれば、必要な経営指標をダッシュボードなどで即座に確認できます。

市場環境が目まぐるしく変化する現代において、経営判断のスピードは企業の競争力を大きく左右します。ERPは、勘や経験だけに頼るのではなく、正確なデータという客観的な根拠に基づいて、次の戦略を素早く打ち出すための強力な武器となるのです 

 ERPと基幹システムの違い 

企業活動における業務

ERPと基幹システムは、どちらも企業の根幹業務を支える重要なシステムですが、その目的や情報の扱い方に大きな違いがあります。この違いを理解することは、自社に最適なシステムを選ぶ上で非常に重要です。しばしば混同されがちな両者ですが、基幹システムが「部分最適」を目指すのに対し、ERPは「全体最適」を目指すシステムであると考えると分かりやすいでしょう。ここでは「対象となる業務範囲」と「導入目的」という2つの観点から、その違いを詳しく解説します。

 対象となる業務範囲の違い 

ERPと基幹システムの最も大きな違いは、システムがカバーする業務範囲と、データの管理方法にあります。

基幹システムは、会計、販売、人事といった特定の業務領域ごとに独立して構築されるのが一般的です。それぞれの部門が必要とする機能に特化して開発されるため、その部門内の業務効率は向上します。これを「個別最適」や「部分最適」なアプローチと呼びます。しかし、各システムが独自のデータベースを持っているため、部門間でデータが分断され、連携が取りにくい「サイロ化」という状態に陥りやすいという課題がありました。例えば、販売管理システムで入力した売上データを、会計システムに再度手入力する必要がある、といった二度手間や入力ミスが発生する原因となります。

一方、ERPは、企業の主要な業務(会計、人事、生産、販売、在庫購買など)をすべて統合し、「統合データベース」と呼ばれる一つのデータベースで情報を一元管理します。これにより、ある部門で入力されたデータがリアルタイムで他の全部門に共有され、全社的な視点での業務連携が可能になります。これが「全体最適」のアプローチです。例えば、営業部門が受注入力を行うと、その情報が即座に在庫管理部門や生産管理部門、さらには会計部門の売上予測にまで反映されるため、部門を横断したスムーズな業務フローが実現します。

項目 ERP 基幹システム
考え方 全体最適 部分最適(個別最適)
データ管理 統合データベースによる一元管理 部門ごとに個別データベースで管理
情報共有 リアルタイムで全部門に共有 部門間での連携が困難(サイロ化)
対象範囲 会計・人事・生産・販売など企業全体の基幹業務 会計システム、販売管理システムなど特定の業務領域

  導入目的の違い 

対象範囲が異なることから、導入目的にも明確な違いが生まれます。

基幹システムの主な導入目的は、「特定の業務プロセスの効率化・自動化」です。例えば、「経理部門の月次決算業務を短縮したい」「倉庫の在庫管理を正確に行い、欠品や過剰在庫を防ぎたい」といった、現場レベルの具体的な課題解決が中心となります。あくまでも、その部門や業務における生産性向上をゴールとしています。

それに対して、ERPの導入目的は、「経営資源の最適化と、データに基づいた迅速な意思決定」にあります。各部門の業務効率化はもちろんのこと、それ以上に、全社の情報をリアルタイムに可視化し、経営状況を正確に把握することが最大の目的です。これにより、経営層は市場の変化や社内の問題点を即座に捉え、データという客観的な根拠に基づいて次の戦略を立てることができます。つまり、ERPは単なる業務効率化ツールではなく、企業全体の競争力を高めるための経営基盤そのものなのです。

項目 ERP 基幹システム
主な目的 経営の可視化と迅速な意思決定 特定業務の効率化・自動化
視点 経営視点(全社的) 業務視点(部門・現場)
目指す姿 経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の全体最適化 担当業務の生産性向上
得られる効果 企業全体の競争力強化、ガバナンス強化 業務の省力化、コスト削減、ミスの削減

ERPの主要な機能一覧 

1754392593

ERPは、企業の基幹業務をサポートするための様々な機能(モジュール)の集合体です。多くのERP製品では、企業が必要な機能を選択して導入する「コンポーネント型」のアプローチが可能です。ここでは、ERPが持つ代表的な5つの機能について、それぞれの役割と目的を詳しく解説します。

会計管理機能

会計管理機能は、企業の経済活動を数値化して記録・管理する、ERPの中核をなす機能です。日々の取引データは、販売管理や購買管理といった他の機能から自動的に連携され、リアルタイムで会計情報に反映されます。これにより、経理部門の業務効率化はもちろん、経営層が正確な財務状況を即座に把握できるようになります。会計管理は主に「財務会計」と「管理会計」の2つの領域に分かれます。

  • 財務会計:株主や取引先、金融機関といった外部の利害関係者に対し、企業の財政状態や経営成績を報告するための会計です。貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)などの財務諸表の作成が主な目的となります。
  • 管理会計:経営者や各部門の管理者が、自社の経営状況を分析し、今後の意思決定に役立てるための社内向け会計です。部門別の損益管理や原価管理、予算実績管理などが含まれます。

ERPを導入することで、各業務で発生したデータが自動で仕訳され、会計帳簿に記録されるため、二重入力の手間や人為的ミスを削減し、月次・年次決算の早期化を実現します。

機能分類 主な機能 概要
財務会計 総勘定元帳・仕訳管理 全ての取引を記録し、仕訳伝票の作成・承認・管理を行う。
債権・債務管理 売掛金管理 請求・入金情報を管理し、売掛金の残高や滞留状況を把握する。
買掛金管理 仕入・支払情報を管理し、買掛金の残高や支払予定を把握する。
経費精算 従業員の経費申請から承認、支払までを電子化・効率化する。
資産管理 固定資産管理 有形・無形固定資産の取得から減価償却、除却までを管理する。
管理会計 原価管理 製品やサービスにかかる原価を計算・分析し、価格設定や収益改善に役立てる。
決算・財務諸表 決算処理 月次、四半期、年次決算業務を効率化し、早期化を支援する。
財務諸表作成 貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)などを自動作成する。

 販売管理機能

販売管理機能は、見積から受注、出荷、納品、請求、入金までの一連の販売プロセスを一元管理する機能です。顧客情報や商品情報、取引履歴などを統合データベースで管理し、営業活動の効率化と精度向上を支援します。在庫管理機能や会計管理機能と密接に連携しており、例えば受注時点で在庫が引き当てられ、出荷されると在庫数が自動で更新、売上が計上されると同時に会計データに反映される、といったシームレスなデータ連携が可能です。

この機能により、販売プロセスの進捗状況がリアルタイムで可視化され、部門間の情報共有がスムーズになることで、機会損失の防止や顧客満足度の向上につながります。

プロセス 主な機能 概要
見積 見積管理 見積書の作成、承認ワークフロー、提出履歴などを管理する。
受注 受注管理 受注情報を登録し、納期や受注残を管理する。在庫引当も行う。
出荷 出荷管理 出荷指示を作成し、ピッキングリストや納品書を発行する。
売上 売上計上 出荷実績に基づいて売上を計上し、会計システムへデータを連携する。
請求・入金 請求・入金管理 請求書を発行し、入金データと照合して売掛金の消込処理を行う。

在庫購買管理機能

在庫購買管理機能は、「購買管理」と「在庫管理」の2つの側面から、モノの流れを最適化する機能です。適切な量の資材や商品を、適切なタイミングで、適切な価格で調達し、欠品や過剰在庫を防ぐことを目的とします。

  • 購買管理:原材料や商品などの仕入れに関する業務を管理します。発注依頼から見積取得、発注、入荷・検収、支払依頼までの一連のプロセスを効率化します。
  • 在庫管理:倉庫内の在庫を正確に把握し、適正な水準に保つための管理を行います。入出庫管理や棚卸、在庫評価などの機能が含まれます。

販売管理機能や生産管理機能と連携し、需要予測や生産計画に基づいて必要な資材量を自動で算出し、発注を促すことも可能です。在庫状況をリアルタイムで可視化し、キャッシュフローを圧迫する過剰在庫や、販売機会を逃す欠品を防止することが、この機能の最大のメリットです。

機能分類 主な機能 概要
購買管理 発注管理 購入依頼に基づき、発注書を作成・管理する。
仕入管理 入荷した物品の検収処理を行い、仕入計上する。
支払管理 仕入データに基づき、買掛金の管理と支払処理を行う。
在庫管理 入出庫管理 商品の入庫・出庫を記録し、在庫数をリアルタイムで更新する。
棚卸管理 実地棚卸を支援し、帳簿在庫と実在庫の差異を調整する。
在庫評価 先入先出法や移動平均法などを用いて、在庫資産の評価額を計算する。

生産管理機能

生産管理機能は、主に製造業において、製品の生産プロセス全体を計画・管理・統制するための機能です。「何を、いつまでに、いくつ作るか」という生産計画から、必要な部品や原材料の所要量計算、製造現場への作業指示、進捗管理、品質管理、原価計算までを幅広くカバーします。

販売計画や受注情報をもとに生産計画を立案し、その計画に基づいて資材所要量計画(MRP: Material Requirements Planning)を実行して、必要な部品や原材料の調達・製造指示を自動で行います。これにより、生産プロセス全体の最適化と効率化を図り、リードタイムの短縮、生産コストの削減、品質の安定化を実現します。

プロセス 主な機能 概要
生産計画 生産計画立案 需要予測や受注情報に基づき、長期・短期の生産計画を立てる。
手配・実行 資材所要量計画(MRP) 生産計画に必要な部品や原材料の数量と時期を算出し、購買・製造手配を行う。
工程管理 製造現場の作業指示や進捗状況、実績を管理・可視化する。
品質・原価 品質管理 製品の検査記録や不良品情報を管理し、品質の維持・向上を図る。
製造原価計算 材料費、労務費、経費を製品ごとに集計し、実際原価を計算する。

人事給与管理機能

人事給与管理機能は、従業員に関する情報を一元管理し、人事・労務関連の業務を効率化する機能です。従業員の入社から退社までに発生する様々な手続きや情報を統合的に扱います。具体的には、従業員の基本情報や異動履歴、評価などを管理する「人事管理」、出退勤や休暇を管理する「勤怠管理」、そして勤怠データや各種手当に基づいて給与を計算し明細を発行する「給与計算」が主な機能となります。

頻繁に行われる法改正や社会保険料率の変更などにも、システム側で迅速に対応できるため、コンプライアンスの維持にも貢献します。会計管理機能と連携することで、計算された給与や社会保険料などのデータを自動で仕訳として計上でき、人事部門と経理部門双方の業務負担を大幅に軽減します。

機能分類 主な機能 概要
人事管理 従業員情報管理 従業員の基本情報、所属、役職、スキル、評価、異動履歴などを一元管理する。
申請・届出 住所変更や扶養家族の変更など、各種申請を電子化する。
勤怠管理 勤怠データ管理 出退勤時刻、残業時間、休暇取得状況などを管理し、労働時間を正確に把握する。
給与管理 給与計算 勤怠データや人事情報をもとに、月々の給与や賞与を自動計算する。
社会保険 健康保険、厚生年金などの手続きや保険料計算を自動化する。
年末調整 申告書の配布・回収から税額計算まで、年末調整業務を効率化する。

ERPを導入する5つのメリット

1754392622

ERPの導入は、単に新しいシステムを導入すること以上の価値を企業にもたらします。バラバラに管理されていた企業の基幹業務を統合し、経営資源を最適化することで、企業経営そのものを大きく変革するポテンシャルを秘めています。ここでは、ERP導入によって得られる代表的な5つのメリットを具体的に解説します。

メリット1 経営状況の可視化と迅速な意思決定

ERP導入における最大のメリットは、企業全体の経営状況をリアルタイムに可視化できる点です。従来のシステムでは、各部門が個別のシステムやExcelファイルでデータを管理していたため、経営層が全体の状況を把握するには、各所からデータを集めて集計・加工する必要があり、時間も手間もかかっていました。

しかし、ERPではすべてのデータが「統合データベース」に集約されます。これにより、売上、利益、在庫状況、キャッシュフローといった重要な経営指標が、いつでも最新かつ正確な状態でダッシュボードなどに表示されます。結果として、経営者は勘や経験だけに頼るのではなく、客観的なデータに基づいた迅速かつ的確な意思決定(データドリブン経営)を行えるようになり、市場の変化や経営課題への対応スピードが格段に向上します。

データドリブン経営についてはこちらの記事をご参照ください。

メリット2 業務プロセスの標準化と効率化

多くのERP製品には、世界中の優良企業の成功事例に基づいた「ベストプラクティス」と呼ばれる標準的な業務フローが組み込まれています。ERPの導入は、このベストプラクティスを自社の業務に取り入れる良い機会となります。

これにより、特定の担当者の経験やスキルに依存していた「属人化」した業務や、部門ごとに最適化されすぎて全体としては非効率になっていた業務プロセスを、全社的に標準化・最適化できます。手作業によるデータの二重入力や転記作業、紙ベースの承認フローなどがシステム化されることで、業務は大幅に効率化されます。その結果、従業員は単純作業から解放され、より付加価値の高い創造的な業務に集中できるようになります。

業務内容 ERP導入前(Before) ERP導入後(After)
受注処理 営業が受注情報をExcelに入力し、経理と生産管理にメールで共有。各部門で再入力が発生。 営業がERPに受注情報を一度入力するだけで、関連部門にリアルタイムで情報が共有される。
経費精算 申請者が紙の申請書を作成し、上長が押印。経理担当者が内容を確認し、会計システムに手入力。 申請者はシステム上で経費を申請。ワークフローで自動的に承認され、データは会計システムに直接連携される。
経営報告 各部門からExcelデータを収集し、手作業で集計・加工して報告書を作成。数日かかることも。 ERPのダッシュボード機能で、必要な経営データをいつでもリアルタイムにグラフなどで確認できる。

メリット3 データの一元管理による整合性の確保

ERPの中核をなす「統合データベース」は、データの整合性を確保する上で極めて重要な役割を果たします。部門ごとにシステムが異なると、「営業部の売上データと経理部の売上データが一致しない」といった問題が頻繁に発生し、その原因究明や修正に多大な労力が割かれていました。

ERPを導入すれば、すべての部門が同じマスターデータを参照し、同じシステム上で業務を行うため、このようなデータの不整合が根本的になくなります。例えば、営業部門が入力した受注情報は、即座に在庫管理や生産管理、会計の各機能に正確に反映されます。全社で「唯一の正しいデータ(Single Source of Truth)」を共有できる」ため、データの信頼性が飛躍的に向上し、部門間のスムーズな連携と無駄な確認作業の削減が実現します。

メリット4 内部統制(ガバナンス)の強化

企業の健全な成長には、適切な内部統制(コーポレート・ガバナンス)の構築が不可欠です。ERPには、内部統制を強化するための機能が標準で備わっています。

具体的には、役職や職務に応じた厳密なアクセス権限設定や、データの作成・更新・削除といった操作ログの自動記録、システム化された承認ワークフローなどです。これらの機能により、不正なデータ改ざんや情報漏洩のリスクを大幅に低減できます。特に上場企業やその準備企業にとっては、J-SOX法(内部統制報告制度)で求められる要件への対応が効率的に行えるという大きなメリットがあります。監査の際にも、システム上に記録された客観的な証跡をスムーズに提出できるため、企業の社会的信用の維持・向上にも繋がります。

メリット5 複数拠点やグループ会社の情報統合

ビジネスのグローバル化やM&Aの増加に伴い、国内外に複数の拠点やグループ会社を持つ企業が増えています。しかし、各拠点が異なるシステムや会計基準を採用していると、グループ全体の経営状況を正確かつタイムリーに把握することは困難です。

ERP、特にクラウド型ERPを導入することで、物理的な場所を問わず、すべての拠点の情報を一つのプラットフォームに統合できます。多言語・多通貨・複数会計基準に対応した製品も多く、グループ全体の経営データを一元的に管理・分析することが可能になります。これにより、本社は各拠点の業績をリアルタイムにモニタリングし、グループ全体として最適なリソース配分や経営戦略を迅速に立案・実行できるようになります。

ERP導入前に知っておくべきデメリットと注意点

1754392655

ERPは企業の経営基盤を強化する強力なツールですが、その導入は大規模なプロジェクトであり、メリットばかりではありません。導入を成功させるためには、事前にデメリットや注意点を十分に理解し、対策を講じることが不可欠です。ここでは、特に注意すべき3つのポイントを解説します。

デメリット1 導入コストが高額になりやすい

ERP導入における最大のハードルの一つがコストです。単にソフトウェアを購入するだけでなく、導入から運用までに様々な費用が発生します。特に大企業向けの統合型ERPの場合、総額が数千万円から数億円に上ることも珍しくありません。

注意すべきは、初期費用(イニシャルコスト)だけでなく、導入後に継続的に発生する保守・運用費用まで含めた総所有コスト(TCO: Total Cost of Ownership)で費用対効果を判断することです。安価な製品を選んでも、自社の業務に合わせるためのカスタマイズが多発し、結果的に高額になってしまうケースもあります。

具体的にどのような費用が発生するのか、以下の表で確認しておきましょう。

費用の種類 主な内容 備考
ソフトウェアライセンス費用 ERPソフトウェアを利用するための権利費用。ユーザー数や利用機能に応じて変動する。 クラウド型の場合は月額・年額の利用料(サブスクリプション費用)となる。
インフラ・ハードウェア費用 サーバーやネットワーク機器の購入・構築費用。 オンプレミス型の場合に必要。クラウド型では不要だが、通信環境の整備は必要。
導入コンサルティング費用 要件定義、フィット&ギャップ分析、業務プロセスの設計など、導入を支援するコンサルタントに支払う費用。 プロジェクトの成否を左右する重要なコスト。ベンダーの知見や経験が価格に反映される。
カスタマイズ・追加開発費用 標準機能だけでは対応できない要件を満たすための、追加のプログラム開発費用。 過度なカスタマイズは、コスト増大だけでなく、将来のバージョンアップを困難にするリスクがある。
データ移行費用 既存の各システムから新しいERPへデータを移し替えるための作業費用。 データのクレンジング(整理・統合)作業に予想以上の工数がかかることが多い。
教育・トレーニング費用 従業員が新しいシステムを使いこなせるようにするための研修費用。 操作方法だけでなく、新しい業務フローの教育も含まれる。軽視すると導入後の定着が進まない。
保守・運用費用 導入後のシステムメンテナンス、アップデート対応、ヘルプデスクなどの費用。 ランニングコストとして継続的に発生する。ライセンス費用の15%~20%が年間保守費用の相場。

デメリット2 導入に時間と手間がかかる

ERPの導入は、数ヶ月から数年単位の時間を要する長期的なプロジェクトです。企画・構想段階から、製品選定、要件定義、設計、開発、テスト、データ移行、そして導入後の定着化まで、多くのステップを踏む必要があります。

このプロセスには、情報システム部門だけでなく、経営層、経理、人事、営業、製造といった関連する全部門の担当者が深く関与し、多くの時間と労力を割くことになります。現場の担当者は、通常業務と並行してプロジェクトに参加するため、大きな負担となることを覚悟しなければなりません。

導入期間が長期化すると、その間に市場環境や自社の事業戦略が変化し、当初の要件が古くなってしまうリスクも考えられます。プロジェクトを円滑に進めるためには、強力なリーダーシップのもと、綿密なプロジェクト管理と関係各所とのスムーズな連携体制を構築することが極めて重要です。

デメリット3 業務プロセスをシステムに合わせる必要がある

多くのERP製品は、世界中の優良企業の成功事例を基にした「ベストプラクティス」と呼ばれる標準的な業務プロセスを内包しています。ERP導入のメリットを最大限に引き出すためには、基本的にこのベストプラクティスに自社の業務を合わせていく(業務改革を行う)ことが求められます。

しかし、これは長年慣れ親しんだ仕事のやり方を変えることを意味するため、現場の従業員から心理的な抵抗や反発が生まれる可能性があります。「なぜ今までのやり方を変えなければならないのか」という不満の声が上がり、プロジェクトの進行を妨げる要因になりかねません。

この課題を乗り越えるには、以下の2つの視点が重要です。

  1. 丁寧な説明と合意形成(チェンジマネジメント)
    新しい業務プロセスへ移行する目的やメリットを全社で共有し、従業員の理解と協力を得ることが不可欠です。トップダウンで変更を強制するのではなく、現場の意見も聞きながら、粘り強く対話を重ねていく姿勢が求められます。
  2. 「変えるべき業務」と「守るべき業務」の見極め
    すべての業務を無理にシステムに合わせる必要はありません。特に、自社の競争力の源泉となっている独自の業務プロセスまで変えてしまうと、企業の強みを失うことにもなりかねません。標準化による効率化を目指す業務と、独自性を維持すべき業務を慎重に見極め、必要であればカスタマイズも検討する柔軟な判断が成功の鍵を握ります。

ERPの種類とそれぞれの特徴

1754392704

ERP(Enterprise Resource Planning)は、一つの製品に見えても、その提供形態や機能範囲、対象とする企業の規模などによって、さまざまな種類に分類されます。自社の目的や課題に最適なERPを選ぶためには、これらの種類とそれぞれの特徴を正しく理解することが不可欠です。ここでは、主要な3つの分類軸「提供形態」「対象業務範囲」「企業規模・業種」に沿って、ERPの種類を詳しく解説します。

提供形態による分類

ERPの提供形態は、システムの基盤となるサーバーやソフトウェアをどこで管理・運用するかによって「クラウド型」と「オンプレミス型」の2つに大別されます。近年では両方の利点を組み合わせた「ハイブリッド型」も登場しています。

  • クラウド型ERP
    クラウド型ERPは、ベンダーがインターネット経由で提供するサーバーやプラットフォーム上でERPを利用する形態です。自社でサーバーを保有する必要がなく、月額や年額の利用料を支払うサブスクリプションモデルが主流です。特にSaaS(Software as a Service)形式で提供されることが多く、導入の手軽さから近年急速に普及しています。 初期費用を大幅に抑えられ、IT専門の担当者が少ない企業でも導入・運用しやすい点が最大のメリットです。サーバーの保守やアップデート、セキュリティ対策もベンダー側で行われるため、企業は本来の業務に集中できます。一方で、オンプレミス型に比べてカスタマイズの自由度が低い傾向があり、ベンダーが提供する機能の範囲内で業務を標準化する必要があります。

  • オンプレミス型ERP
    オンプレミス型ERPは、自社の社内やデータセンターにサーバーを設置し、そこにERPソフトウェアをインストールして利用する従来型の形態です。自社でシステムを保有するため、セキュリティポリシーや業務プロセスに合わせて自由にカスタマイズできる点が大きな強みです。 独自の業務フローが確立されている企業や、既存システムとの複雑な連携、高度なセキュリティ要件が求められる大企業に適しています。しかし、サーバー機器やソフトウェアライセンスの購入に多額の初期投資が必要になるほか、システムの構築、保守、運用管理を行うための専門知識を持つ人材やコストが継続的に発生する点がデメリットとなります。

    比較項目 クラウド型ERP オンプレミス型ERP
    初期費用 低い(サーバー購入不要) 高い(サーバー・ライセンス購入費)
    ランニングコスト 月額・年額の利用料 保守・運用人件費、電気代など
    導入期間 短い 長い
    カスタマイズ性 低い傾向にある 高い
    保守・運用 ベンダーに依存(自社負担は軽い) 自社で対応(専門知識・人員が必要)
    セキュリティ ベンダーの基準に準拠 自社で自由に構築可能
    アクセス性 インターネット環境があればどこからでも可能 原則として社内ネットワークから(設定による)

対象業務範囲による分類

ERPがカバーする業務領域の広さによっても種類が分かれます。すべての基幹業務を網羅する「統合型」と、必要な機能だけを選んで導入する「コンポーネント型」があります。

  • 統合型ERP
    統合型ERPは、会計、販売、生産、人事、在庫管理など、企業活動に必要な基幹業務システムをすべて一つのパッケージで提供するタイプのERPです。企業のすべての情報が単一の統合データベースで管理されるため、部門間のデータ連携がスムーズで、経営状況をリアルタイムに一元的に把握できることが最大のメリットです。全社的な視点での経営改革や業務プロセスの抜本的な見直しを目指す企業に向いています。ただし、機能が豊富な分、導入コストが高額になりやすく、導入プロジェクトも大規模になりがちです。
  • コンポーネント型ERP
    コンポーネント型ERPは、「会計管理システム」「販売管理システム」といったように、業務領域(モジュール)ごとに独立したシステムを、必要に応じて組み合わせて導入するタイプのERPです。「業務アプリケーション型」とも呼ばれます。まずは特定の部門の課題解決から始めたい、既存のシステムを活かしつつ段階的に導入したいといったニーズに応えることができます。必要な機能だけを選べるため、スモールスタートが可能でコストを抑えやすいのが特徴です。ただし、異なるコンポーネント(システム)間でデータを連携させるための開発が別途必要になる場合があり、その連携部分の設計や保守が課題となることもあります。

企業規模や業種による分類

ERPは、対象とする企業の規模や、特定の業界の商習慣に合わせて最適化された製品も数多く存在します。

  • 大企業向けERP
    大企業向けERPは、グローバルな事業展開や複数のグループ会社を管理することを想定して設計されています。多言語・多通貨への対応、連結決算機能、複雑なサプライチェーン管理、高度な内部統制(ガバナンス)機能など、豊富な機能を標準で備えているのが特徴です。SAP社の「SAP S/4HANA」やOracle社の「Oracle Fusion Cloud ERP」などが代表的です。非常に高機能である反面、導入・運用には多額のコストと高度な専門知識が求められます。
  • 中小企業向けERP
    中小企業向けERPは、大企業ほど複雑な業務プロセスを必要としない中堅・中小企業のニーズに合わせて、機能を絞り込み、比較的低コストで導入できるように設計されています。特にクラウド型で提供される製品が多く、シンプルな操作性や導入の手軽さが重視されています。株式会社オービックの「OBIC7」や、freee株式会社の「freee会計」、株式会社マネーフォワードの「マネーフォワード クラウド」などがこの領域で知られています。自社の成長性を見据え、将来的な機能拡張が可能かどうかも選定のポイントになります。
  • 業界特化型ERP
    業界特化型ERPは、製造業、建設業、流通・小売業、食品業界、医療業界など、特定の業界が持つ特有の商習慣や業務プロセス、法規制に対応した機能をあらかじめ組み込んだERPです。例えば、製造業であれば生産計画や工程管理、品質管理機能が、建設業であれば工事原価管理や実行予算管理機能が強化されています。業界のベストプラクティスが反映されているため、大規模なカスタマイズをすることなく、短期間かつ低コストで導入できる可能性が高いのが大きなメリットです。自社の業界に特化した製品がある場合は、有力な選択肢となります。

失敗しないERPの選び方 5つのポイント

1754392744

ERPの導入は、企業の将来を左右する重要な経営判断です。しかし、多種多様な製品の中から自社に最適なものを選ぶのは容易ではありません。選択を誤ると、高額な投資が無駄になるだけでなく、業務の混乱を招くリスクもあります。ここでは、ERP導入で失敗しないための5つの重要な選定ポイントを解説します。

ポイント1 自社の課題と導入目的を明確にする

ERP選定の第一歩は、「なぜERPを導入するのか」という目的を明確にすることです。目的が曖昧なままでは、製品の比較検討ができず、導入後の効果測定も困難になります。

まずは、現状の業務プロセスにおける課題を洗い出しましょう。「部門ごとにデータが分散し、全社的な経営状況の把握に時間がかかる」「手作業でのデータ入力が多く、ミスや非効率が発生している」「在庫管理が不正確で、欠品や過剰在庫を繰り返している」など、具体的な問題点をリストアップします。

次に、それらの課題を解決した先にある「導入目的」を具体化します。例えば、「リアルタイムなデータに基づき、経営判断を迅速化する」「業務プロセスを標準化し、全社的な生産性を15%向上させる」「データの一元管理により、内部統制を強化する」といった形です。可能であれば「月次決算にかかる時間を5営業日短縮する」のように、具体的な数値目標(KPI)を設定すると、製品選定の軸がより明確になり、導入効果を客観的に評価できます。このプロセスには、経営層だけでなく、実際にシステムを利用する経理、人事、営業、製造など各部門の担当者へのヒアリングが不可欠です。

ポイント2 自社の企業規模や業種に合っているか

ERP製品は、ターゲットとする企業の規模や業種によって機能や価格帯が大きく異なります。自社の特性と合わない製品を選ぶと、機能が不足したり、逆に不要な機能が多くてコストが嵩んだりする「ミスマッチ」が生じます。

大企業向けのERPは、複数の拠点やグループ会社の管理、多言語・多通貨対応など、グローバルな事業展開を支える豊富な機能を備えていますが、その分導入・運用コストは高額になります。一方、中小企業向けのERPは、基本的な機能に絞り込むことで、比較的低コストかつ短期間での導入が可能です。

現在の規模だけでなく、将来の事業拡大や人員増加も見越した拡張性(スケーラビリティ)があるかも重要な視点です。

また、業種ごとの特有な商習慣や業務プロセスに対応できるかも確認が必要です。例えば、製造業であれば精緻な生産管理や原価計算機能、プロジェクト型のビジネスであればプロジェクトごとの採算管理機能が重要になります。多くのベンダーが「製造業向け」「小売業向け」といった「業界特化型ERP」や、特定業種向けのテンプレートを提供しています。自社と同じ業種での導入実績が豊富な製品を選ぶことで、業界特有の課題に対する知見やノウハウを活かしたサポートが期待でき、導入の成功確率が高まります。

ポイント3 クラウド型かオンプレミス型かを選択する

ERPの提供形態には、自社でサーバーを構築・運用する「オンプレミス型」と、ベンダーが提供するサーバーをインターネット経由で利用する「クラウド型」があります。それぞれの特徴を理解し、自社のITリソース、セキュリティポリシー、予算に合わせて選択することが重要です。

比較項目 クラウド型ERP オンプレミス型ERP
初期費用 比較的安価(サーバー構築不要) 高額(サーバー・ライセンス購入費)
ランニングコスト 月額・年額の利用料(サブスクリプション) 保守・運用・メンテナンス費用
導入期間 比較的短い 比較的長い
カスタマイズ性 制限がある場合が多い 高い自由度
セキュリティ ベンダーのセキュリティレベルに依存 自社のポリシーに合わせて構築可能
メンテナンス ベンダーが実施(自社負担なし) 自社で実施(専門人材が必要)
リモートアクセス 容易(インターネット環境があれば可能) 別途ネットワーク構築が必要な場合がある

近年は、初期費用を抑えられ、メンテナンスの手間もかからないクラウド型が主流となっています。しかし、独自のセキュリティ要件が厳しい場合や、既存の基幹システムと複雑な連携が必要な場合は、カスタマイズ性の高いオンプレミス型が適していることもあります。両者のメリット・デメリットを十分に比較検討しましょう。

ポイント4 操作性やカスタマイズの柔軟性を確認する

ERPは毎日多くの従業員が利用するシステムです。そのため、操作性(UI/UX)の良し悪しは、業務効率や従業員の満足度に直結します。

どれだけ高機能なシステムでも、操作が複雑で分かりにくければ現場に定着せず、宝の持ち腐れになってしまいます。導入前に無料トライアルやデモンストレーションを積極的に活用し、実際に業務を担当する従業員に操作してもらう機会を設けましょう。「入力画面は直感的か」「必要な情報に素早くアクセスできるか」「レポートは見やすいか」といった視点で評価することが大切です。

また、自社独自の業務プロセスに対応するためのカスタマイズの柔軟性も確認すべきポイントです。基本的にはERPの標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」が推奨されますが、企業の競争力の源泉となっている独自のプロセスまで変更する必要はありません。どこまで標準機能で対応でき、どこからがカスタマイズ(追加開発)になるのか、その際の費用や期間はどの程度か、を事前にベンダーに確認しておきましょう。ただし、過度なカスタマイズは、将来のバージョンアップ時に対応できなくなったり、追加コストが発生したりするリスクを伴うため、慎重な判断が求められます。

ポイント5 サポート体制と実績が豊富か

ERPは導入して終わりではなく、長期にわたって安定的に運用していくことが重要です。そのため、導入から運用・保守まで一貫して支援してくれる、信頼できるベンダーをパートナーに選ぶ必要があります。

以下の点でベンダーのサポート体制をチェックしましょう。

  • 導入支援
    現状分析から要件定義、データ移行、従業員へのトレーニングまで、手厚い導入支援メニューが用意されているか。
  • 運用保守サポート
    システム障害や操作に関する問い合わせ窓口の対応時間(24時間365日か、平日日中のみか)、対応方法(電話、メール、チャットなど)、問題解決までのスピード感はどうか。
  • 法改正への対応
    消費税率の変更やインボイス制度、電子帳簿保存法など、頻繁に行われる法改正や制度変更に対して、迅速かつ確実なアップデートが提供されるか。

加えて、ベンダーが自社と同じ業界や企業規模の会社に対して、どれくらいの導入実績を持っているかも必ず確認してください。公式サイトの導入事例を読み込むだけでなく、可能であれば担当者から具体的な事例を聞き、自社の課題解決の参考になるかを見極めましょう。豊富な実績は、それだけ多くのノウハウが蓄積されている証であり、安心して導入を任せられる判断材料となります。

【国内外】主要なERP製品・ベンダーを紹介

1754392772

ERP製品は、海外のグローバル企業が提供するものから、日本の商習慣に特化した国産のものまで多岐にわたります。ここでは、国内外で高いシェアを誇る主要なERP製品と、その提供ベンダーの特徴を詳しく解説します。自社の規模や業種、解決したい課題に最適なERPを選ぶための参考にしてください。

Oracle NetSuite

Oracle NetSuiteは、ノンプログラミングでのカスタマイズが可能なSaaS型ERPです。世界219カ国以上、約38,000社への導入実績を誇り、グローバルに展開されています。提供元であるオラクル(日本オラクル株式会社)は、NetSuiteに加えて、大企業向けの「Oracle Fusion Cloud ERP」も展開しています。

もともとは大企業向けという印象が強かったものの、SaaS事業の展開により中堅企業での導入も拡大しており、現在では幅広い企業層に活用されています。Oracle NetSuiteは、一般的なERP機能に加え、CRMやEコマース関連の機能も豊富に備えている点が特長です。また、リアルタイム分析機能にはAI技術も活用されており、迅速かつ高度な意思決定を支援します。

 ▼製品概要(Oracle NetSuite)

項目 内容
概要 Oracleが提供する統合型SaaS型ERP。中堅企業向けに販売・会計・CRM等を一元管理。
対象企業規模 年商10〜100億円規模が中心。最大500億円程度まで対応可。
国内製・海外製 海外製(米Oracle社)
提供形態 クラウド(SaaS)
対応業務範囲 販売、会計、在庫、CRM、EC、プロジェクト管理など
拡張性(カスタマイズ有無) ノンプログラミングで柔軟にカスタマイズ可(業種別テンプレート「SuiteSuccess」あり)
価格(おおよそ) 月額10万円台〜(従業員10名程度の利用を想定)
特徴 AI機能、リアルタイム分析、グローバル対応、柔軟なカスタマイズ

公式サイトを見る

SAP S/4HANA® Cloud Public Edition

SAP社は、全ERP製品を含むライセンス売上高で2023年に市場シェア23.3%を記録し、ERP市場をけん引するグローバルな開発元として知られています。その豊富な導入実績から導き出されたベストプラクティスを標準機能に取り込んでいる点が、大きな特長です。

SAP S/4HANA® Cloud Public Editionは、原則として「Fit to Standard」という手法により導入され、業務プロセスを標準化しながら効率的なシステム構築を可能にします。また、同社は生成AIを活用するアシスタント機能「Joule(ジュール)」を全製品に順次組み込む方針を発表しており、SAP S/4HANA CloudにもこのAI機能が搭載されています。

従来は大企業向けのイメージが強かったものの、クラウド移行とリーズナブルな価格設定により、中堅企業での導入も拡大しています。現在SAP社は、日本の中堅企業への展開を積極的に進めており、日本国内向けの機能も継続的に強化されています。SAP S/4HANA® Cloud Public Editionは、グローバルな標準と日本市場の実情を両立するERPとして、幅広い企業に選ばれています。

▼製品概要(SAP S/4HANA Cloud Public Edition)

項目 内容
概要 SAPが提供するSaaS型ERP。Fit to Standardを基本とし、短期導入・自動アップデートを実現。
対象企業規模 年商数百億〜1,500億円規模の大手企業が主軸。対象企業毎に製品ラインナップも豊富
国内製・海外製 海外製(独SAP社)
提供形態 パブリッククラウド(SaaS)。他製品にはプライベートクラウド・オンプレもあり。
対応業務範囲 会計、販売、購買、生産、在庫、プロジェクト管理、人事、サプライチェーンなど。業種別ベストプラクティスを提供。
拡張性(カスタマイズ有無) 標準機能中心(Fit to Standard)だが、SAP BTPによりローコードでの拡張・アプリ開発が可能。
価格(おおよそ) 公開情報は少ないが、中堅以上の企業向け価格帯。詳細はパートナー経由で要見積もり。
特徴 最新AI(Joule)、サステナビリティ対応(Green Ledger)、RISE/GROW with SAPによる導入支援、グローバル企業での豊富な実績

公式サイトを見る

Microsoft Dynamics 365

Microsoft Dynamics 365は、Microsoftが提供するクラウドベースのビジネスアプリケーションスイートです。2023年のERPライセンス売上高シェアは3.5%で、主に年商500億円以上の大手企業を中心に導入されています。財務会計、人事給与、販売、在庫、購買、生産、CRMなど、幅広い業務領域をカバーし、1つの共通データモデル上で統合管理が可能です。

特長のひとつは、AI機能「Copilot」の搭載により、業務の自動化や意思決定の迅速化を支援する点です。また、OutlookやExcel、TeamsといったMicrosoft 365アプリケーションとの連携により、日常業務の効率化も図れます。

さらに、Microsoft AppSourceを通じて業界特化型のアプリや機能拡張も可能で、柔軟なシステム構築に対応しています。Dynamics 365は、拡張性と操作性を兼ね備えたERPとして注目されています。

▼製品概要(Microsoft Dynamics 365)

項目 内容
概要 Microsoft製ERPスイート。財務・営業・サービス・CRMなどを統合し、Microsoft 365やTeamsとの連携性が強み。
対象企業規模 Business Central:中小企業(数十億円規模)
Finance:中堅〜大企業(500億円以上も対応)
国内製・海外製 海外製(米Microsoft社)
提供形態 クラウド(SaaS中心)、オンプレミス併用も可能
対応業務範囲 会計、販売、購買、在庫、生産、プロジェクト、顧客対応、eコマースなど
拡張性(カスタマイズ有無) Microsoft AppSourceやPower Platform、Power Automateにより高い柔軟性・拡張性あり
価格(おおよそ) Business Centralは月額10万円台〜(ユーザー数・機能により変動)
特徴 Microsoft製品との連携、生成AI「Copilot」搭載、Power BI分析連携、グローバル対応(160ヶ国・47言語)、柔軟な拡張性

公式サイトを見る

Infor CloudSuite

Infor CloudSuiteは、Infor社が提供する業界特化型のクラウドERPソリューションです。組立製造業向けの「Infor LN」「Infor SyteLine」、プロセス製造業向けの「Infor M3」などを中心に、AWS上でSaaS形式で提供されています。主に年商250億円以上の中堅〜大手企業を対象としており、日本国内でも製造・建設機械業などで導入が進んでいます。

特長は、業界別の業務知識を取り入れた標準機能により、過度なカスタマイズを避けられる点です。また、「Fit to Standard」導入手法により、低コスト・短期間での導入が可能です。

さらに、AIを活用した「Infor GenAI」やESGレポート機能、API連携可能な「Infor OS Platform」により、生産性の向上や柔軟なシステム拡張も実現します。クラウドERPやWMS分野ではガートナー社のマジック・クアドラントでリーダーに選出されており、業界特化と技術革新を両立する製品として注目されています。

▼製品概要(Infor CloudSuite)

項目 内容
概要 Inforが提供する業界特化型クラウドERPスイート。LN/SyteLine/M3を基盤に製造・食品などに最適化された構成で提供。
対象企業規模 年商250〜1,000億円規模の中堅〜大手企業を中心に展開。中小向け製品(CloudSuite Industrial)もあり。
国内製・海外製 海外製(米Infor社)
提供形態 100%クラウド(SaaS、AWS基盤)
対応業務範囲 会計、販売、購買、生産、在庫、品質、サービス、プロジェクト管理、SCM、WMSなど
拡張性(カスタマイズ有無) Infor OSにより柔軟なデータ連携・API連携が可能。業界別テンプレートを活用しながらカスタマイズ負荷を抑制。
価格(おおよそ) 非公開(要見積もり)。規模・業種により構成が大きく異なるため、導入前ワークショップ(VA・IPC)で要件確認を実施。
特徴 業界特化型テンプレート、AWS上のクラウド提供、Infor OSプラットフォーム、AI機能(GenAI)、ESG対応、柔軟な拡張性

公式サイトを見る

OBIC7

会計、人事、給与、就業、生産、販売、経営分析の7つのシステムで構成されており、必要な機能を選んで導入できる柔軟な構成が特長です。主にオービック独自のクラウド基盤で提供される「OBIC7クラウドソリューション」により、中堅〜大手企業の基幹業務を幅広く支援しています。

中堅企業(年商100〜500億円)を中心に、高い導入実績を持ち、近年は年商1,000億円以上の大手企業への導入も拡大。2023年時点でクラウド契約比率は88%、2024年には95%に達する見込みです。法改正対応や業種別テンプレートの充実により、あらゆる業界の業務に対応可能です。

また、需要予測などへのAI活用、外部サービスとのシステム連携(例:不動産業界向けGoWeb!)にも対応。市場シェアではERP総市場で20.6%、クラウド市場で30.9%と、国内トップクラスを誇ります。開発から導入・保守までを一貫して自社で手がける体制も、ユーザーから高く評価されています。

▼製品概要(OBIC7)

項目 内容
概要 オービックが提供する国産コンポーネント型ERP。会計・人事・生産など7システムで構成。独自クラウド基盤でワンストップ提供。
対象企業規模 中堅〜大手企業向け(年商100億〜1,000億円超まで)
国内製・海外製 国内製(株式会社オービック)
提供形態 IaaS型クラウド中心(オービック独自基盤)。一部パブリッククラウド(AWS等)対応。オンプレ非推奨。
対応業務範囲 会計、人事給与、就業、生産、販売、在庫、経営分析など
拡張性(カスタマイズ有無) 要件に応じてカスタマイズ対応可能。業種別ソリューション1,200種以上で対応範囲が広く、他システム連携にも柔軟に対応。
価格(おおよそ) 平均導入価格は約4,000万円(案件規模・構成により変動)
特徴 国産ERPならではの法改正対応、堅牢な独自クラウド基盤、業種特化ソリューション多数、保守〜運用までワンストップ対応

公式サイトを見る

GRANDIT

GRANDITは、GRANDITコンソーシアムが提供する国産の統合型ERPパッケージです。日本企業の商慣習に合わせた設計とWebベースの操作性が特長で、70社超のパートナー企業が参加するコンソーシアム形式により、常に市場ニーズを取り入れた機能拡張が行われています。会計、人事、給与、販売、在庫、製造などの主要業務をカバーし、IaaS環境でのクラウド運用や他サービスとの柔軟な連携にも対応しています。

クラウドERP「GRANDIT miraimil」は、商社・卸、製造、サービス業などに特化したSaaS型ERPで、テンプレート活用により最短3ヶ月導入やコスト削減も実現。AIを活用したユーザー支援機能も搭載されており、将来的なサステナビリティ要件にも対応可能な設計です。

GRANDITの主な対象は年商100〜1,000億円規模の中堅企業、miraimilは年商50〜100億円を中心に導入が拡大中です。導入形態はグループ全体を想定した親子会社での使い分けも可能で、法改正や電子帳簿対応などの実績も豊富です。

矢野経済研究所の調査では、ERPパッケージ総市場で2023年予測シェア6.6%、中堅・中小企業向けでは8.3%を記録しており、堅調な成長を続けています。OBIC7やSAPといった競合に対し、柔軟性とサポート力、クラウド対応力を強みに評価が高まっています。

▼製品概要(GRANDIT)

項目 内容
概要 国産の統合型ERPパッケージ。業種横断的に対応しつつ、カスタマイズ性とWebベースの柔軟性を併せ持つ。
対象企業規模 年商100〜1,000億円程度の中堅企業(従業員300〜1,000名想定)
国内製・海外製 国内製(GRANDIT株式会社)
提供形態 オンプレミス、クラウド(IaaS基盤での構築)
対応業務範囲 会計、人事給与、販売、在庫、調達、工事、プロジェクト、生産、債権債務、経費、資産、経営分析など
拡張性(カスタマイズ有無) 高いカスタマイズ性を持ち、業務ごとに柔軟に拡張可能。段階導入・業種別対応も可。
価格(おおよそ) ライセンス1,000万〜2,500万円、導入総額は5,000万円〜2億円(業務範囲により変動)
特徴 国産・商習慣特化、豊富なパートナー網、グループ導入事例多数、電子帳票や請求書電子配信サービスとの連携オプションもあり

公式サイトを見る

▼製品概要(GRANDIT miraimil)

項目 内容
概要 GRANDITを基盤にしたSaaS型クラウドERP。業種別テンプレートによりスピーディーな導入が可能。
対象企業規模 年商50〜100億円程度の中堅中小企業(特に50億〜100億円層で導入拡大中)
国内製・海外製 国内製(GRANDIT株式会社)
提供形態 クラウド(SaaS)
対応業務範囲 経理、債権、債務、販売、調達・在庫、プロジェクトほか基幹11業務に対応(業種別チューニング済パッケージ)
拡張性(カスタマイズ有無) 原則ノンカスタマイズ。API連携や外部ツールとの接続には柔軟に対応。
価格(おおよそ) 月額45万円〜(10名利用)、導入支援費用別途。セルフ導入プランで最短3ヶ月/導入コスト80%削減も可能
特徴

SaaS型・短期導入可能、PMO/BPO支援体制、生成AI活用、Peppol対応、日本商習慣に最適化された設計

公式サイトを見る

奉行V ERP

奉行V ERPは、株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)が提供する統合型の国産ERPパッケージです。中堅企業、上場企業、グループ企業を主な対象とし、2022年にリリースされたSaaS型の「奉行V ERPクラウド」により、インフラから業務アプリケーションまでをオールインワンで提供しています。これにより、サーバー管理やプログラム更新の手間が不要となり、常に最新の業務環境と高いセキュリティを利用できます。

会計、人事、給与、販売、生産、経営分析など7つのシステムで構成されるコンポーネント型ERPで、ノーコード・ローコード連携や100種以上の外部サービスとのAPI連携にも対応。多通貨・多言語、グループ管理にも強く、グローバル展開やグループ経営に対応した「Group Management Model」も提供されています。

導入実績は奉行シリーズ累計で80万件超、上場企業1,600社以上に導入されており、2023年には日経コンピュータの顧客満足度調査(ERP部門)で1位を獲得。中堅企業向けクラウドERP市場において、国産製品としての信頼性と柔軟性を兼ね備えた製品として注目されています。

▼製品概要(奉行V ERP)

項目 内容
概要 OBCが提供するSaaS型ERP。会計・人事労務・販売管理を中心に、グループ経営やグローバル展開にも対応。
対象企業規模 年商50〜500億円の中堅企業が中心。上場企業やグループ会社にも導入実績あり。
国内製・海外製 国内製(株式会社オービックビジネスコンサルタント)
提供形態 クラウド(SaaS、Microsoft Azure基盤)
対応業務範囲 会計、債権債務、固定資産、税務、人事、給与、労務、販売、在庫、案件別管理、グループ経営管理など
拡張性(カスタマイズ有無) 100以上のサービスとAPI連携可。ノーコード・ローコード連携や他システムとの柔軟な接続に対応。
価格(おおよそ) 非公開(要見積もり)。導入・運用一体型で短期導入可能
特徴 国産SaaS型ERP、セキュリティ重視、法制度対応、グループ統合管理、パートナー販売網の充実、日経顧客満足度1位(2023)など

公式サイトを見る

ProActive C4

ProActive C4は、SCSK株式会社が提供するAIネイティブなクラウドERPです。SCSKが長年培ってきた業務ノウハウとAI技術を融合し、データ分析による洞察や次のアクション提案により、経営判断の高度化を支援します。会計・人事・給与・販売・在庫・生産などの基幹業務を幅広くカバーし、2024年には生産管理領域も強化されました。

同製品はAWS上に構築された独自のSaaS基盤「S-Cred+」を採用しており、高度なセキュリティや自動アップデートに対応。従来製品「ProActive E²」と同様、バージョン期限のない“超寿命ERP”として長期利用も可能です。UI/UXや連携性にも優れ、Amazon QuickSightとのダッシュボード連携など柔軟な拡張も実現されています。

中堅~中堅大手企業(年商50億~1,000億円)を中心に導入が進んでおり、特に流通業やサービス業に強みを持ちます。ERP市場全体におけるライセンス売上シェアは2024年予測で0.8%と着実に成長しており、今後は製造業への展開も見込まれています。SaaS化の推進と顧客ニーズに寄り添う姿勢を軸に、さらなる機能拡張が期待されるクラウドERPです。

▼製品概要(ProActive C4)

項目 内容
概要 SCSKが開発・提供するAIネイティブERP。会計、人事、勤怠などを中心に中堅企業の経営基盤を支援。AWS上の独自基盤でSaaS提供。
対象企業規模 年商50〜1,000億円規模の中堅〜中堅大手企業が中心
国内製・海外製 国内製(SCSK株式会社)
提供形態 SaaS型クラウド(AWS基盤)、一部オンプレ対応も可能
対応業務範囲 会計、人事給与、経費、勤怠管理、販売管理(BI・ダッシュボード連携可)
拡張性(カスタマイズ有無) 画面項目の変更や簡易設定はユーザー側で可能。アドオン開発にも対応。QuickSight等の外部サービス連携も可能
価格(おおよそ) 非公開(要見積もり)
特徴 AIネイティブ設計、SCSK独自クラウド基盤、UI/UXの工夫、電子帳簿保存法対応、販売管理に強み、BPO支援や他サービス連携を想定した将来拡張性もあり

公式サイトを見る

ERP導入の流れと費用相場

4

ERPの導入は、単なるシステム導入に留まらず、全社的な業務改革を伴う大規模なプロジェクトです。成功に導くためには、計画段階から導入後の運用まで、しっかりとしたステップを踏むことが不可欠です。ここでは、ERP導入の基本的な流れと、気になる費用について詳しく解説します。

ERP導入の基本的なステップ

ERP導入プロジェクトは、一般的に「企画・構想」「要件定義・ベンダー選定」「設計・開発」「テスト・移行」「導入・本稼働」「運用・保守」という6つのフェーズで進められます。プロジェクトの規模にもよりますが、全工程で半年から数年単位の期間を要することを念頭に置いておきましょう。

  1. 企画・構想フェーズ(1〜3ヶ月)
    プロジェクトの土台を作る最も重要な段階です。「なぜERPを導入するのか」という目的を明確にし、解決したい経営課題を洗い出します。その上で、導入範囲、大まかな予算、スケジュールを策定し、経営層の承認を得てプロジェクトチームを発足させます。
  2. 要件定義・ベンダー選定フェーズ(2〜6ヶ月)
    現状の業務プロセスを分析し、ERP導入後の理想的な業務フローを定義します。この要件をまとめた「RFP(提案依頼書)」を作成し、複数のERPベンダーに提出。各社からの提案を比較検討し、機能や費用、実績などを基に最適なベンダーを選定します。製品の標準機能と自社の要件との差異を確認する「フィット&ギャップ分析」もこの段階で行います。
  3. 設計・開発フェーズ(3ヶ月〜1年以上)
    選定したERP製品を、自社の業務に合わせて設定していくフェーズです。パラメータ設定と呼ばれる作業で、企業のルールや業務プロセスをシステムに反映させます。標準機能だけでは対応できない要件がある場合は、追加機能の開発(アドオン)や既存機能の修正(カスタマイズ)を行いますが、これはコスト増加や将来のアップデートへの影響を考慮し、慎重に判断する必要があります。
  4. テスト・移行フェーズ(2〜4ヶ月)
    開発したシステムが要件通りに動作するかを検証します。機能単位の「単体テスト」、機能間の連携を確認する「結合テスト」、実際の業務フローに沿って行う「総合テスト」や「UAT(ユーザー受け入れテスト)」などを経て、品質を確保します。並行して、旧システムからマスターデータや取引データを新システムへ移行するための準備とリハーサルも行います。
  5. 導入・本稼働フェーズ(1〜3ヶ月)
    いよいよ本稼働(ゴーライブ)です。事前に全部門の利用者に対して操作トレーニングを実施し、スムーズな業務移行を支援します。稼働直後は予期せぬトラブルが発生しやすいため、プロジェクトチームやベンダーが常駐し、問い合わせ対応や問題解決を行う「ハイパーケア」と呼ばれる手厚いサポート体制を敷くのが一般的です。
  6. 運用・保守フェーズ
    システムが安定稼働した後のフェーズです。日々のシステム監視、定期的なメンテナンス、法改正や制度変更への対応、ユーザーからの問い合わせ対応などを行います。また、導入効果を測定し、さらなる業務改善やシステムの活用促進を継続的に行っていくことが重要です。

ERP導入にかかる費用の内訳と相場

ERPの導入費用は、企業の規模、選択する製品(クラウド/オンプレミス)、導入範囲、カスタマイズの有無などによって大きく変動します。費用は大きく「初期費用(イニシャルコスト)」と「運用費用(ランニングコスト)」に分けられます。

  • 費用の内訳

ERP導入には、ソフトウェアの代金以外にも様々な費用が発生します。

費用項目 内容 備考
ソフトウェアライセンス費用 ERPソフトウェアを利用する権利の費用。ユーザー数や利用する機能モジュール数に応じて変動します。 オンプレミス型では初期費用、クラウド型では月額利用料に含まれることが多いです。
導入コンサルティング費用 総費用のうち最も大きな割合を占めることが多い費用です。要件定義、フィット&ギャップ分析、プロジェクト管理など、ベンダーによる導入支援サービスの対価です。 コンサルタントのスキルや投入される工数(人月)によって決まります。
カスタマイズ・開発費用 標準機能では対応できない要件を満たすための追加開発や機能改修にかかる費用です。 極力発生させないことがコスト抑制の鍵となります。
ハードウェア・インフラ費用 サーバーやネットワーク機器の購入・構築費用です。 オンプレミス型の場合に発生します。クラウド型では不要です。
保守・サポート費用 システムの安定稼働を維持するための費用。バージョンアップ、法改正対応、問い合わせ対応などが含まれます。 オンプレミス型ではライセンス費用の年率15〜20%が相場です。クラウド型では月額利用料に含まれます。
月額利用料(サブスクリプション) ソフトウェア利用料、インフラ利用料、保守サポート費用が含まれた月額(または年額)の費用です。 クラウド型ERPの主要なランニングコストです。
  • 費用相場

ERPの費用相場は一概には言えませんが、企業規模や提供形態によって目安となる価格帯が存在します。あくまで一般的な目安であり、実際の費用はプロジェクトの要件によって大きく異なる点にご注意ください。

企業規模 提供形態 費用相場の目安(初期費用+初年度運用費)
中小企業(〜100名程度) クラウド型 300万円 〜 1,500万円
中堅企業(100〜1,000名程度) クラウド型 / オンプレミス型 1,500万円 〜 1億円
大企業(1,000名以上) クラウド型 / オンプレミス型 数億円 〜 数十億円以上

近年は、初期費用を抑えられるクラウド型ERPが中小企業を中心に普及していますが、大企業でもグループ会社への展開や特定部門での導入にクラウド型を選択するケースが増えています。自社の予算と目的に合わせ、最適な製品と導入パートナーを慎重に選ぶことが、ERP導入を成功させるための重要な鍵となります。

バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ

多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
当社はERPをはじめとする情報システムの豊富な導入実績をもとに、お客様一人ひとりのニーズに合わせた最適な改善策を提案します。業務の洗い出しや問題点の整理など、導入前の課題整理からお手伝いさせていただきます。
バックオフィス業務にお悩みをお持ちの方は、お気軽に株式会社システムインテグレータまでご連絡ください。

 

まとめ

ERPとは、企業の「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源を統合データベースで一元管理し、経営の意思決定を迅速化・最適化する仕組みです。導入により経営状況が可視化され、業務効率化や内部統制の強化といったメリットが期待できます。一方で、高額なコストや導入の手間がかかるため、自社の課題と目的を明確にし、企業規模や業務内容に合った製品を慎重に選定することが、導入を成功させるための最も重要な結論となります。


RELATED POST関連記事


RECENT POST「ERP導入」の最新記事


ERP導入

次世代ERPは従来のERPとどう違う?特徴や導入のメリット・デメリットを解説

ERP導入

基幹システムとは?業務システムやERPとの違いや、種類について解説

ERP導入

ERPと基幹システムの違いとは?導入メリットを詳細解説

ERP導入

ERPのシェアは?国内・海外市場の動向を徹底解説

GRANDIT TOPへ