多くの企業で導入されている「SAP ERP」は、スピード経営の実現や業務効率化、さらにはテレワーク推進に役立つ便利なツールです。しかし、このシステムのサポートがまもなく終了することをご存じでしょうか。このタイミングを機に、システムの見直しを検討されている企業も少なくありません。
本記事では、SAP ERPの基本情報や一般的なERPシステムとの違い、導入する際のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
SAP ERPとは
SAP ERPは、ドイツ・ヴァルドルフに本社を構える「SAP社」が開発したERPです。ERPパッケージ市場で最大手を誇る企業であり、その理由は、SAP社が1973年に世界初のERPを開発し、多くの企業から注目を集めたことにあります。
さらに、SAP社はSAP ERP以外にも、データ蓄積に特化した「SAP BW」や、サプライチェーンマネジメントを支援する「SAP APO」など、さまざまな専門分野に対応したシステムを提供しています。
SAP ERPは、長い歴史の中で蓄積した知識や経験を活かし、企業のニーズを反映した改良を重ねて進化してきました。その結果、多くの企業にとって使いやすいシステムとなっています。また、国際会計基準に対応し、30種類以上の言語でサポートされているため、国内外を問わず多くの企業に採用されています。
SAPについては、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。
SAPとは?ドイツ発ERPの特徴や導入のポイントを解説
ERPとは
ERP(Enterprise Resource Planning)は、直訳すると「企業資源計画」を意味します。
これは、企業が保有する「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源を効果的に活用するための考え方や手法を指します。近年では、これらの手法を実現するためのシステムも「ERP」や「ERPパッケージ」と呼ばれるようになりました。ERPパッケージとは、「調達」や「販売」だけでなく、「生産」や「会計」など、企業活動におけるさまざまな業務を統合的に管理するソフトウェアを指します。このソフトウェアを活用することで、企業内の情報を一元的に管理することが可能です。
これにより、情報共有の手間を大幅に削減でき、業務効率化を実現します。また、リアルタイムで情報を一か所に集約することで、経営判断の基盤として活用することも可能になります。
ERPについては、以下の記事でさらに詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
ERPとは?統合基幹システムの種類やメリットなどを解説
SAP ERPの特徴
SAP ERPは、ドイツのSAP社が提供するERPです。
数あるERP製品の中でも、SAPはその長い歴史と豊富な導入実績が特徴で、特に世界的大企業での採用が目立ちます。これにより、SAP ERPはERPパッケージの世界市場で圧倒的なシェアを誇り、堂々の1位に位置づけられています。
SAP ERPは、「受注・販売管理」「在庫管理」「生産管理」などの基幹業務システムに加え、「人事給与」「経費精算」「管理会計」「プロジェクト管理」といった機能を、各々「モジュール」として提供しています。それぞれのモジュールはカスタマイズ性が高く、企業ごとの業務に合わせて柔軟にシステムを構築できる点が大きな強みです。
さらに、パッケージ製品としての特長を活かし、SAP ERPは短期間での導入が可能です。導入後も手厚いサポート体制が整っており、運用後の安心感も魅力のひとつです。
SAP ERPに搭載されている主なモジュール
SAP ERPは、業務領域を「モジュール」と呼ばれるいくつかの単位に分けて管理しています。この項目では、主要な4つのモジュールをご紹介します。
会計モジュール
FI:財務会計(FInancial Accounting)
CO:管理会計(COntroling)
ロジスティクスモジュール
SD:販売管理(Sales and Distribution)
MM:在庫購買管理(Material Management)
人事モジュール
HR:人事管理(Human Resources)
生産管理モジュール
PP:生産計画/管理(Production Planning and Control)
倉庫管理モジュール
WM:倉庫管理(Warehouse Management)
そのほかのモジュール
QM:品質管理(Quality Management)
PS:プロジェクト管理(Project System)
PM:プラント保全(Plant Maintenance)
CA:クロスアプリケーション(Cross Application)
このように、原価管理に役立つ会計モジュールから、人事・生産管理・在庫管理・プロジェクト管理まで、SAPひとつでプロジェクトから経営まで幅広くカバーできます。
いずれのモジュールもカスタマイズ性が高く、さまざまな企業の業務環境にマッチするようにできています。
ERPのメリット・デメリット
ERPのメリットには、社内の情報を一元管理することで情報共有の手間を削減できる点、経営の可視化を実現できる点、そしてセキュリティ対策を効率的に行える点が挙げられます。
部署や部門を越えて情報が共有されるため、ERP導入以前に必要だったデータ連携の手間を省き、正確な情報を迅速に取得することが可能です。
また、データ連携以外にも、セキュリティ面で大きなメリットがあります。従来、部門ごとに分散していたシステムでは、それぞれで個別にセキュリティ対策を行う必要がありました。しかし、ERPを導入してシステムを一元管理することで、セキュリティ対策を統合的に実施できるようになります。さらに、アクセス権限の設定を行うことで、情報流出への対策も強化できます。
一方、デメリットとしては、既存システムからの移行に時間がかかること、ERPに関する一定の知識が必要なことが挙げられます。
ERPにはさまざまな種類があり、それぞれ得意分野が異なるため、複数の製品を比較・検討し、自社に最適なものを選定する必要があります。
さらに、ERPは複数の業務をカバーする大規模なシステムであるため、初期費用が高額になりがちです。加えて、導入後にはライセンス費用や保守費用、バージョンアップの費用などが発生する場合があります。ただし、ベンダーによってはデモや導入支援を提供していることもあるため、事前に相談することでスムーズな導入が期待できます。
SAP ERPのメリット・デメリット
長い歴史とその柔軟な機能から世界中で人気を得ているSAP ERPですが、導入にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
SAP ERPのメリット
SAP ERPは「受注・販売管理」や「在庫管理」「生産管理」「財務管理」といった基幹業務システムから「人事給与」や「経費精算」「固定資産」「プロジェクト管理」「管理会計」「顧客管理」「予算管理」など、幅広い業務領域をカバーしており、それぞれのシステムから生まれるデータを一元的に管理することが可能です。
他社のERPパッケージ製品は、各業務単体の遂行に重きを置く「個別最適」な考え方を持つツールも多くありますが、SAPの場合は業務プロセス全体の実現や整合性の確保を重視しています。部分的にカスタマイズや業務内容の変更が生じても、業務プロセス全体で矛盾や不整合が発生しないようにつくられています。
SAPは欧米の大企業における活用実績も多いため、SAPを導入するということはそれらの企業と同様の業務プロセスを取り入れることにもつながります。有効性が高い業務プロセスを自社に採用することで、業務改革につながるといった効果も期待できます。
また、ERPの周辺システム(SAP BW、SAP APO、SAP CRM)と連携することで、広範囲な業務をカバーして高度な多次元分析をすることもできます。SAP ERPで出力した分析レポートはExcelでダウンロードできるので、オフラインでの情報共有にも便利でしょう。
さらに、国際会計基準にも対応しており、30種類以上の言語でサポートされていることもポイントです。海外拠点の業務や取引を一元管理すれば、海外取引専門の人員を雇う経費を抑えることができ、かつ業務遂行の確度も高まります。
SAP ERPのデメリット
一方で、ライセンス料やサーバー費用、システム構築料などの初期費用がかかり、場合によっては付加機能の開発費が発生するケースもあるため、導入費用は高額になってしまう傾向にあります。SAPは、ERPの中ではかなり高額な部類と言えるでしょう。
また、SAPのライセンス料、利用するユーザー数が多いほど金額が高くなります。しかし、必要以上の削減は業務効率の低下やトラブルの原因につながり、SAP ERPの導入自体を失敗させてしまうこともあるため、注意が必要です。
さらに、あくまでもSAP ERPはツールの一つで、導入するだけでさまざまな課題が解決できるわけではありません。理解が浅く、上手に活用できなければ意味がないのです。プロジェクトリーダーなどの選出を行う際には、SAPについて理解の深い人材を選ぶと良いでしょう。
SAP ERPのサポート終了について
SAP ERPに関して多く人々を悩ませているのが「2027年のSAP ERP 6.0のメインストリームサポート終了」です。サポートがなくなると、システムの改善や機能追加、法改正に対応するためのアップデートが行われなくなります。
SAP ERPは約20年間アップデートにより機能拡充が行われましたが、システムの肥大化や処理速度の低下などを引き起こしていました。そのためSAP社は、SAP ERPの後継版である「S/4 HANA」をリリースし、ユーザーにこちらへの移行を推奨しています。この一環として、SAP ERPは2027年にメインストリームサポートを終了します。もともとは2025年にメインストリームサポートを終了する予定でしたが、2020年2月に2027年まで延長することが発表されました。
移行が間に合わない企業のために、SAP ERP6.0のエンハンスメントパッケージ(EhP)のうち、6から8までの新しいバージョンを利用していれば、延長保守料を支払うことで2030年までサポートの延長が可能になりました。
SAP技術者の不足や移行の難しさなどの理由から、多くの企業が移行への取り組みに消極的なこともあり、次世代バージョンであるS/4HANAに「移行する」か、サポートを受けずに「継続利用する」または「別のERPに乗り換える」といった3択を迫られています。
詳しい情報は、こちらの記事をご覧ください。
SAP ERPの2027年問題について
SAPだけじゃない!押さえておきたい定番ERPパッケージを比較
ここまではSAP ERPのメリット・デメリットやERPについて解説しました。サポート期限などの問題から、他社システムの導入を検討している方もいるでしょう。
この項目では、SAP ERP以外の定番ERPパッケージをご紹介します。
GRANDIT
株式会社システムインテグレータが提供している「GRANDIT」は、純国産のERPシステムです。クラウド・オンプレミスどちらも対応可能で、さまざまな業種に対応できるこのERPシステムは、製造業や情報サービス業、商社や小売業者など1,200社以上の導入実績を持っています。
開発は13社のプライムパートナーからなるコンソーシアム方式で行われており、パートナー企業各社のノウハウを結集することで、多くの人にとって使いやすいERPパッケージを実現しています。
このような「常に進化するERP」という特徴は、他のERPにはない要素でもあります。
また、共通機能として、電子承認ワークフローやメール・webの通知機能、データ分析やEC、海外取引対応などを備えています。
ちなみに、デモの依頼も可能なため、事前にシステム導入によるシミュレーションもできます。いきなり高額なERPシステムを導入するのは不安と思う場合にも、しっかりと使い勝手を確かめてから導入できるのは嬉しいポイントです。
Oracle
オラクル社が提供しているERPは2種類あり、どちらもクラウド環境を利用して使用する「クラウドERP」です。
Oracle NetSuite(ネットスイート)は、クラウド生まれのクラウド育ちという特徴があります。ERP・CRM(顧客関係管理)・EC(イーコマース)機能などが統合されていて一元管理ができるほか、多言語・多通貨に対応しているのも魅力です。グローバルで、共通の統合システムを構築できるクラウドERPとして、世界中で利用されています。
もうひとつのERPであるOracle Cloud ERPは、安定したクラウド環境が特徴です。オンプレミスなみの高性能コンピューティング能力を持っていて、セキュリティ面も強力です。NetSuiteよりも柔軟なカスタマイズができ、業務が複雑化しやすい企業に向いています。
オービック
オービック社が提供する「OBIC7」は、累計2万5千社を超える企業の導入実績があり、ERP累計導入者数のシェアは19年連続でNo.1を獲得しています(※)。創業時から自社開発・直接販売を続けており、手厚いサポート体制を持つ点も特徴です。
提供されている製品は、会計、財務、人事、給与、就業、販売、生産、クラウド、書類作成・事務支援、そしてBIツールなどを含む連携ソリューションの10種類で、これらを柔軟に組み合わせて活用します。シンプルながらカスタマイズ性が高く、導入しやすいERPです。
(※)2002年~2020年 ERP主要ベンダー(ライセンス売上高シェアトップ10)における累計導入社数 矢野経済研究所調べ
まとめ
今回はSAP ERPについてご紹介しました。SAP ERPはSAP社が提供するERPパッケージです。国際会計基準に対応し、30ヶ国語のサポートを受けられるほか、長い歴史から得た経験と知識を活用した改善を重ねた安心と信用を兼ね備えたシステムであることが特徴です。
しかし、2027年には標準サポートが終了してしまうことから、多くの企業がERPの見直しを迫られています。弊社ではERPをはじめとする情報システムの豊富な導入実績がございます。ERPなら株式会社システムインテグレータにお任せください。
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