ドイツ発のERPシステムであるSAPは、会計、販売、製造といった企業全体の業務を一元管理する、グローバル対応の統合型ERPです。企業経営の効率化と業務改革を支援し、多くの企業が導入しています。
本記事では、SAPの特徴や機能、導入を検討する際のポイントについて解説します。
SAPとは
SAP (エス・エー・ピー)とは、主に企業向けのERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアを提供しているドイツのソフトウェア会社(以下、SAP社)のことです。SAP社が提供するERPシステムそのものをSAPと呼ぶこともあります。
SAPは、会計や財務管理、販売、購買、在庫管理、生産管理、人事管理など、多岐にわたる業務を効率的に遂行できるように設計されています。例えばあるデータを入力すると他の関連する業務にもそのデータが即時に反映されるなど、一元化されたデータ管理で、各部門間の動きを数値として即時に把握できるようになっています。
ERPについては以下ブログでより詳しく解説しています。
ERPとは?意味や導入のメリット、基幹システムとの違いも解説
SAP社について
SAP社は、1972年にドイツで設立されたヨーロッパ最大級のソフトウェア会社です。1973年にSAP社が世界初のERPとなる「R/1」をリリースし、以降もERPシステムは世界シェアのトップクラスに位置しています。1992年には日本法人であるSAPジャパンが設立され、日本国内でも多くの企業がSAPのシステムを活用しています。
幅広い業界で利用される理由
SAPが多様な業界で広く利用される理由は、SAP社への強固な信頼性と高度に最適化された業務フロー設計にあります。
SAPは、その信頼性と効率性から世界的に認識されたスタンダードなERPとして位置づけられています。その信頼性は、長年にわたる実績と安定したパフォーマンスにより、多くの企業に認められています。
さらに、長年ERP業界をけん引してきた経験を活かし、SAPは業務フロー設計を最適化しています。これにより、各企業の業務効率を大幅に向上させることが可能になっており、これがSAPの大きな魅力となっています。
SAP社が提供しているERPの変遷
SAP社が提供しているソリューションについてそれぞれ解説します。
SAP R/3
SAP社が提供した、WindowsやUnixなどのプラットフォームで動作するERPです。1992年に発売され、日本も含めて大企業を中心に導入が進みました。ECCと呼ばれるコンポーネントを中核とし、様々な業務オペレーションに対応した機能が内包されていました。
SAP HANA
SAP HANAはSAP社が開発したデータベースです。従来、SAP R/3ではどのようなデータベースでも利用可能でしたが、日々の業務処理を行う基幹系システムと情報系システムが分断されており、基幹系システムに分析機能が含まれていませんでした。
SAP HANAの登場により、基幹系システムと情報系システムを統合でき、簡単に分析まで行えるようになりました。
SAP S/4HANA
SAP S/4HANAは、SAPの最新バージョンであり、従来のERPと構成が大きく変わりました。
インメモリデータベースSAP HANAを採用しています。この新技術の導入により、リアルタイムで大量のデータを高速に処理することが可能となり、企業のビジネスプロセスの効率化と迅速な意思決定が実現できます。さらに、シンプルなユーザインターフェイスやクラウド対応が強化され、企業が柔軟性を持ってシステムを運用することができます。
ただし、プログラムの構成を含めてSAP ERP(ECCコンポーネント利用時代)から大きく変わったSAP S/4HANAへの移行には、既存のシステムとの互換性や移行コスト・期間を慎重に検討し、適切な計画を立てることが重要です。
SAPの特徴的な機能
SAPは経営課題解決を目的とした多くのモジュールを提供しています。
SAPは様々なモジュールから構成され、企業が必要な機能を選択して利用することができます。代表的なモジュールをいくつか紹介します。
SD(販売管理)
見積もりや受注、出荷、請求といった販売に関する一連の動きを一括で管理することで、業務の効率化を実現します。FI(財務会計)モジュールに連携しているため、売上データも自動でFIモジュールに送信されます。
MM(購買・在庫管理)
在庫管理のすべての業務に対応したモジュールで、在庫状況の正確な把握が可能です。また、FIモジュールと連携することで、在庫の廃棄や購買など、種別に応じた会計仕訳を自動で実施します。
PP(生産管理)
生産プロセスに関わる管理機能を網羅したモジュールです。受注や需要見込みをもとに生産計画を立案し、生産指示や製造工程管理まで管理できます。 実際の生産量や原材料の使用量、作業にかかった時間を製造実績として入力し、CO(原価管理)モジュールと連携することで、製造原価の把握が容易になります。
QM(品質管理)
品質検査を計画~実施するモジュールです。品質計画・品質検査・使用決定の3つのプロセスから成り立っています。 検査項目や検査日を登録しておくことで、自動的に検査が実行されます。検査が完了していない在庫は使用されないようにブロックされ、検査結果をもとに利用可能になった在庫だけ使用できるような仕組みができています。
PS(プロジェクト管理)
プロジェクトの計画から実行、完了までを一元管理するモジュールです。システム導入や年単位の工事などの管理によく使われます。 予算やスケジュール、進捗、リソースなど、プロジェクトに関連する様々な情報を一元管理することができ、プロジェクトの状況把握が容易です。
FI(財務会計)
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった財務諸表を出す機能が備わったモジュールです。販売や購買といった他モジュールと連携し、日々の取引を記録している中心的なモジュールです。
CO(管理会計)
原価計算が可能な、管理会計用のモジュールです。原価や費用、収益などを分析し、社内向けの財務レポートを出すことができます。 直接費や間接費を計算することで、事業ごとの収益性などを分析できます。間接費の配賦なども機能として備わっています。
HR(人事管理)
採用から労務管理、人材育成といった人事管理業務を効率化するモジュールです。 給与計算や勤務時間の管理業務を効率化し、データとして保管します。また、福利厚生の使用状況確認やタレントマネジメント機能などを備えており、従業員の満足度向上や人的資本の考えにのっとった管理が可能です。
企業が抱える課題や目的に応じて、これらのモジュールを組み合わせて利用することで、効果的な業務改善につながります。
SAP BTPとは?
SAP Business Technology Platform (SAP BTP) は、SAP社が提供するシステム基盤です。SAPで提供されている標準の機能ではカバーできない機能などを開発したり、他システムと連携したりできるプラットフォームです。すぐに活用できるアプリケーションなども多数存在しており、SAP自体に変更を加える必要なくシステムを拡張することができます。
「アプリケーション開発と自動化」「データとアナリティクス」「統合」「拡張計画および分析」「人工知能」の5つに大きく分類されています。
SAPでは生成AI活用も積極的に進めており、今後はアプリケーションにAI機能を組み込んで提供する予定です。生成AIコパイロット「Joule(ジュール)」を活用することで、ユーザーは自然言語を用いて必要なデータを抽出したり、レポートを作成したりといった業務の効率化が可能になります。
SAP 2027年問題について
2027年問題とは、SAP社が提供している「SAP R/3」および「SAP ERP」の保守サポートが2027年に終了することで起きる問題です。
SAP R/3とSAP ERPはまだ多くの企業が利用していますが、サポート終了に伴い、利用している企業はサポート終了までに何らかの対応に迫られています。
対応については大きく以下の3つになります。
- SAP S/4HANAへの移行
- 他社ERPへ移行
- SAP ERPを継続して使用
ただし、S/4HANAへの移行はプロジェクト規模が大きく、費用や時間の面で負担となる場合があるため、事前に十分な計画を立てることが重要です。また、移行時にはS/4HANAの機能や特徴を正確に理解し、自社の業務プロセスと連携させることが求められます。このため、専門知識や実績のあるSAPコンサルタントの支援が必要となるケースも多いです。
2027年問題についてはこちらのブログで詳しく解説しています。
SAP ERPの2027年問題について
SAP導入のポイント
SAP導入は主に以下の流れで進みます。
導入目的を明確にする
現状の課題を明確にし、どのようなことをしたいのかを明確にします。SAPは多くのモジュールを提供しているため、自社の業務プロセスや組織構造を理解し、どのような機能や特徴を求めるかを明確に把握したうえで適切なモジュールや構成を選択する必要があります。
既存業務の棚卸と整理
企業の現在のビジネスプロセスを詳細に分析し、不必要なプロセスを削減または改善できないかを事前に確認します。業務の標準化や最適化を意識することで、システム活用による効果の最大化が見込めます。
活用までのサポート
導入して終わりではなく、従業員が新しいERPシステムを効率的に使用できるように、十分なトレーニングが必要です。導入後も継続的なサポートを行い、問題が発生した際には迅速に対応してもらえるベンダーを選択するのが良いでしょう。
SAPに限らず、ERP導入においては、「Fit to Standard」の考え方を採用すると良いでしょう。Fit to StandardとはERP導入時に、業務に合わせて機能を開発するのではなく、標準機能に業務を合わせるという考え方です。これによってスムーズな導入や、機能を最大限活用しやすくなり、持続可能な成長を支える強固な基盤を築くことができます。
SAPコンサルの活用も
SAPコンサルタントは、企業がSAP導入や運用を円滑に進められるように支援する専門家です。SAPシステムに関する深い知識と経験を持ったコンサルタントから、企業が抱える課題やニーズに応じた最適なソリューションを提案してもらえます。導入プロジェクトの進行に伴い、継続的なサポートや助言などにより、企業の業務改善や成長を促進します。
SAPコンサルタントはビジネス全体の最適化や効率化のために欠かせない存在です。是非、この機会に経験豊富なSAPコンサルタントと連携し、SAP導入プロジェクトを成功に導くための第一歩を踏み出してみましょう。
まとめ
SAPは、会計、販売、製造など多岐にわたる業務を一元管理し、企業経営の効率化と業務改革を支援するERPシステムです。SAPを活用することで、業務の標準化や効率化だけでなく、データの利活用も容易になります。
業務改善や業務効率化のため、SAPやERPの導入をご検討されている方はぜひお気軽にシステムインテグレータまでご相談ください。