平成28年(2016年)より国土交通省が進める「i-Construction(アイ・コンストラクション)」によって、建設現場を取り巻く環境は大きく変化しようとしています。i-Constructionとは、ICT(情報通信技術)を活用して建設業界の生産性向上を目指す一連の取り組みです。これは、深刻化する人手不足に対応するための重要なプロジェクトとして位置付けられています。
この記事では、i-Constructionの概要と登場した背景を解説し、i-Constructionを活用するメリットと具体的な技術を紹介します。
i-Constructionとは
「i-Construction(アイ・コンストラクション)」とは、国土交通省による「生産性革命プロジェクト」の一つである「建設業界におけるインフラの整備・管理・機能や産業の高度化」に関連した一連の取り組みです。平成28年にスタートしたi-Constructionは、平成29年を「前進の年」、平成30年を「深化の年」、平成31年を「貫徹の年」と区切り、段階的に取り組みを進めてきました。
当初、i-Constructionの対象は土木工事に限られていましたが、徐々に対象を舗装工事・浚渫工事・地盤改良工事へも対象工種を拡大し、令和元年には直轄工事のおよそ8割がICT施工となっています。
では、i-Constructionはどのような背景で誕生し推進されてきたのでしょうか。まずは、i-Constructionが生まれた背景と、建設業界が抱えている課題を紹介します。
参考:
生産性革命プロジェクト|国土交通省
ICT施工の普及が拡大しています!~直轄工事で対象になり得る工事のうち約8割で実施~|国土交通省
i-Constructionが生まれた背景と建設業界の課題
現在、i-Constructionは建設業界のさまざまな工種に応用されていますが、なぜ国土交通省はi-Constructionを提言し推進してきたのでしょうか。i-Constructionが生まれた背景には、建設業界が抱える2つの課題が大きく関係しています。
課題1.深刻な人手不足
少子高齢化の影響で、建設業界の就業者も高齢化が進行している状況です。しかし、次世代の労働力を担う若年層は「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージから建設業界を敬遠する傾向にあります。i-Constructionは、3Kのようなイメージを打破し、「新3K(給与が高い・休暇が取れる・希望が持てる)」のように魅力的な職場を目指し、若手の建設業界離れを防ぐ目的があります。
課題2.建設業界の生産性の低さ
生産性の低さは、単品受注生産を主とした建築業界の特殊性と、工事単価の下落などによるものと考えられます。工事現場は案件ごとに工法や納期が異なるため、標準化が難しいことも生産性を引き下げる要因です。i-Constructionでは、ICTの活用・規格の標準化・施工時期の標準化などで生産性の改善を目指しています。
これら2点や付随するさまざまな課題について解決策として選ばれた取り組みが、建設業界にICTを活用するi-Constructionといえるでしょう。
i-Constructionの「3つの柱」
i-Constructionは、ICTの活用を中心とした建設業界の人材不足や生産性の低さに対処するための一連の取り組みを指しています。特に土工・コンクリート工は生産性が長らく横ばい状態で、改善の余地が大きいと考えられています。そこで「トップランナー施策」と銘打って、土工・コンクリート工を中心とした改善施策を推進しています。ここではその「トップランナー施策」の3つの柱を解説します。
ICT技術の全面的な活用(ICT土工)
トップランナー施策の1つ目は「 ICT技術の全面的な活用(ICT土工)」です。
ICT土工とは、社会インフラを支える上で非常に重要な土木工事にICTを活用する一連の施策を指しています。具体的には、調査・測量ICT土木は、設計、施工、検査など、あらゆる建設生産プロセスにICTを活用できます。
ICTの活用事例として、ドローンなどによる3次元測量、3次元データ設計図、ICT建機による施工などが挙げられます。3次元データを活用すれば調査日数の削減、施工量の自動計算が可能です。また、自動制御可能なICT建機を活用すれば、経験の浅い重機オペレーターでも熟練者が建機を操縦するのと同様のレベルで施工ができます。
3次元データとICT建機が連携することで、高い安全性と生産性の向上に寄与します。なお、i-Constructionでは3次元データの活用に関する15の新基準や積算基準が整備されているのが特徴です。これらの基準に基づき、直轄の大規模土木工事は発注者の指定で、中小規模土木工事は受注者の希望でICT土工が実施できる仕組みとなっています。
規格の標準化(コンクリート工)
トップランナー施策の2つ目は「規格の標準化(コンクリート工)」です。従来の建設業界は、現場ごとの一品生産や部分別最適設計が一般的でした。しかし、規格が標準化されていないこともあり、工期や品質面で有利な新規技術を採用しにくい課題もありました。
このような課題に対しi-Constructionでは、全体最適設計という考えのもと、設計、発注、部材の調達、加工、組立などの一連の建設生産プロセスを最適化し、サプライチェーンの効率化を目指しています。
なお、従来のコンクリート工には2つの課題があります。
1つ目は、屋外作業における課題です。コンクリート工は天候による影響を受けやすいため、計画的な施工が困難です。さらに、橋梁工事などは高所作業が必要なため、危険が伴う労働環境となっています。
2つ目の課題は、工場製作における課題です。即効やマンホールなど、工場であらかじめ製造された製品、「プレキャスト製品」を使用すると工事期間を短くできます。しかし同サイズの製品を大量に使用する機会は限られ、市場での競争優位や生産性向上、コスト低減などのスケールメリットが得にくくなってしまいます。そのため、リスクを考えると受注生産に頼らざるを得ず、コストダウンが図りにくい環境でした。
このことから、i-Constructionでは「規格の標準化」「全体最適」「工程改善」の3つの柱を基に課題を解決することで、生産性の向上を目指します。
施工時期の平準化
トップランナー施策の3つ目は「施工時期の平準化」です。一般的な建設業界は、年度末の繁忙期や年度当初の閑散期など繁閑極端な業界とされています。そのため労働者にとっても働きづらく、休暇が取得しづらかったり収入が安定しなかったりといった点が課題とされてきました。
建設業者にとっても、優れた技術者や建設機材の安定的な確保は喫緊の課題です。こういった課題を解決するために、i-Constructionでは施工時期の平準化に向けた5つの取り組みを推進しています。i-Constructionではこれら5つの取り組みを通して、技術者・建設機材の効率的な活用と労働環境の改善を目指しています。
①債務負担行為の活用
複数年度にまたがる契約を行い、年度当初の閑散期においても施工を可能とする。
②余裕期間制度の活用
受注者が工事開始日や工期末をある程度調整できる体制を整え、技術者や建設資材の確保を容易とする。
③速やかな繰越手続
天候不順などやむを得ない事由によって年度内に支出が完了しない場合は、年度末を待たずに速やかに繰越手続きを行うことで、技術者や建設機材の調整を容易にする。
④積算の前倒し
発注前年度に設計と積算を完了させることで、発注年度当初に速やかに発注手続きを行う。
⑤早期執行のための目標設定
工事が年度末に集中しないよう、年度当初に執行率の目標を設定して早期発注を目指す。さらに、発注の見通しを公表することで、受注者は技術者や建設機材の計画的な調整が可能です。
i-Constructionのメリット
i-Constructionは、ICTの活用を中心とした各種取り組みによって建設業界が抱える課題を解決します。i-Constructionのメリットをまとめると下記の通りです。
- 生産性向上
- 業務効率化
- 安全性向上
- 品質向上
- 労働環境改善
- 人手不足改善
これらの理由について、考察していきます。
現状の建設業界の代表的な課題として、少子高齢化に伴う深刻な人手不足や、生産性の低迷が挙げられます。i-Constructionを導入すれば、ICT技術の全面的な活用・規格の標準化・施工時期の平準化を実現でき、課題解決につながります。
まず、ICTを活用して業務効率化を実現できれば、より少ない人数・少ない工数で工事を行うことが可能です。さらに、3次元データとICT建機を活用すれば、安全かつ効率的な施工ができ、人手不足への対応や生産性の向上を図れます。これらは数あるi-Constructionのメリットの中でも中心的存在です。
また、規格の標準化もi-Constructionの重要な取り組みといえるでしょう。従来の部分別最適設計を全体最適設計にすることで、コスト削減ならびに生産性向上を実現します。規格を標準化することで工期や品質面で新規技術を採用しやすくなる点もメリットです。新規技術を積極的に採用することは、同業他社と差別化を図り、競争優位性を高めることにもつながります。
さらに、施工時期の平準化は建設業界の労働環境を大きく改善します。繁忙期と閑散期が極端で働きにくい労働環境を改善できれば、就業者の増加が見込まれるでしょう。いわゆる「3K」の印象が強い建設業界を「新3K」に改革することで、人手不足が改善します。
i-Constructionで活用される具体的なICT
現状の建設業界の抱える課題を解決するには、ICTの活用は欠かせません。国土交通省が掲げるi-Constructionの「トップランナー施策 」の3つの柱では、ICT技術の全面的な活用が推奨されています。続いては建設現場でどのようにICTが活用されているのか、具体的にご紹介します。
参考:i-Construction ~建設現場の生産性革命~|i-Construction 委員会
BIM/CIM
BIM/CIMとは、3次元モデルの活用によって建設生産・管理システムの効率化をはかる仕組みのことです。
BIMとは「Building Information Modeling」の略で、コンピュータで建築物の3次元モデルを作成し、建築物に関わるあらゆるデータを付加して一連のプロセスで活用する仕組みです。付加されるデータは、建材パーツに関する情報・コスト・組立工程・時間、設備機器のメーカー・品番・価格などが挙げられます。
CIMは「Construction Information Modeling/Management」の略で、3次元モデルにあらゆるデータを付与することで建設プロセスを高度化・効率化する取り組みです。BIMの対象は構造に規格があるビルなどの建造物ですが、CIMの対象はダムや橋などの土木構造物であるのが大きな違いです。
CIMでは、設計・施工・維持管理に至る一連の設計生産プロセスすべてに関わるデータが集約されるほか、以下のようなメリットもあります。
- 3次元モデルによって完成形を可視化できる
- 関係各所と情報共有がしやすい
- 資料作成を省略もしくは効率化できる・設計段階であらゆる意見を反映しやすい
- 維持管理にもデータを活用できる
なお、BIM/CIMについて、詳細はこちらの記事をご参照ください。
BIM/CIMとは?意味やメリット、活用シーンを徹底解説
ドローン/UAV
ドローンもしくはUAV(Unmanned Aerial Vehicle)は、主に調査・測量の工程で利用されます。従来の地上測量は膨大な時間と労力が必要ですが、ドローンを活用することで、短時間で広範囲の測量が可能です。
またドローンなら、人が入りにくい場所や危険な場所でも安全かつ効率的に測量できます。ドローンは一般的な航空測量よりも低コストで測量を行え、航空測量よりデータ密度が高いため、精度の高い3次元データを作成できるというメリットもあります。
ただし、現状ドローンの操縦に免許や資格は必要ありませんが、実際には高い操縦技術を求められる点に注意しましょう。
ICT建機
ICT建機とは、情報通信技術を応用した建設機械です。ICT建機にはMC(Machine Control)とMG(Machine Guidance)の2種類があります。MCは、自動追尾型の位置検測装置によって施工対象の設計データをリアルタイムで入手し、地盤データとの差分に基づき自動制御される重機です。
一方MGは、基本的な仕組みはMCと同様ですが、重機の操作方法に違いがあります。MCが自動制御型の重機であるのに対し、MGは演算結果がモニターに映し出され、オペレーターはそれに従い自力で重機を操縦しなければなりません。なお、ICT建機には2次元と3次元のものがあり、3次元のものを活用するとコストは高くなりますが、2次元よりもさらなる省人化を実現できます。
3次元データの活用
i-Constructionの活用に伴い、「3次元データの活用」が重要になります。i-Constructionに基づくICT施工では、調査・測量、設計、施工、検査など、あらゆる生産工程に3次元データの活用が可能です。調査・測量ではドローンによる3次元測量、設計工程においては3次元モデルに基づくCIMの活用、施工段階では3次元データによって制御されたICT建機を使うことで省人化と生産性の向上が期待できます。
また、検査工程でも、3次元データとICT機器を組み合わせることで検査日数の大幅な短縮と検査書類の大幅な削減が可能です。主に土木工事からスタートした3次元データの活用ですが、さまざまな工程に3次元データを活用すると、建設業界の課題を抜本的に改善できます。
i-Constructionの導入におけるポイント
i-Constructionを導入する際、考慮しなければならない3つのポイントがあります。それぞれのポイントを順に見ていきましょう。
ICTに関する技術の習得コスト
ドローンの操縦技術やソフトウェアの操作方法を習得するには、一定の期間と費用がかかります。特に、パソコン操作に不慣れな熟練技術者ほどICTの習得は困難を伴います。まずは従来の熟練技術を補完するようなかたちで、ICTを導入するのが現実的です。
i-Constructionの費用対効果
ICTを導入するには膨大なコストがかかるため、導入コストを回収できるだけの収益向上が見込めるかが重要なポイントとなります。収益向上を実現するには、大幅な生産性向上を実現しなければなりません。i-Constructionによって合理化を徹底し、建設生産プロセスを抜本的に見直す必要があるでしょう。
中小企業における費用負担
前述の通り、i-Constructionの肝であるICTを導入するには膨大なコストがかかります。大手ゼネコンなど、潤沢な資金源を有している場合は問題ありませんが、中小企業ではICTの導入コストをどのように捻出するかが大きな問題です。資金の乏しい中小企業がi-Constructionを導入する場合は、関係省庁が定期的に募集している補助金や助成金を積極的に活用しましょう。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
当社はERPをはじめとする情報システムの豊富な導入実績をもとに、お客様一人ひとりのニーズに合わせた最適な改善策を提案します。業務の洗い出しや問題点の整理など、導入前の課題整理からお手伝いさせていただきます。
バックオフィス業務にお悩みをお持ちの方は、お気軽に株式会社システムインテグレータまでご連絡ください。
まとめ
今回は、建設現場でICTを全面的に活用するi-Constructionの一連の取り組みを解説してきました。
i-Constructionによって建設業界の業務が省人化・短工期され、建設生産システム全体の生産性向上が見込まれます。規格を標準化すればコスト削減にも寄与し、施行時期を平準化すれば従来の繁閑極端で働きにくい労働環境の改善も可能です。
今後さらにICTの活用が進むなかで、建設現場におけるさまざまな場面で作業効率化が進められていくでしょう。ご紹介したような3次元データを含めて、建設現場や工事現場では多様な最新技術を活用したDX推進が重要視されます。
当社ではDX推進に関する資料を複数提供しておりますので、こちらもぜひご覧ください。
- キーワード: