主に製造業など機械設計を行う業種では、開発スピードの向上や無駄なコストの削減を実現させるために、設計・開発段階から何回もシミュレーションを行い、動作などの確認を行います。こうしたコンピューターによる開発シミュレーションのプロセスが「CAE解析」です。
近年は、技術の進歩によりあらゆる分野でCAE解析が活用されています。この記事では、CAEの基礎知識や導入メリット、活用事例を紹介します。
CAEとは
CAE(Computer Aided Engineering)とは、設計段階で製品に問題がないかをコンピューター上でシミュレーションを行い、確認して工学的問題を解決するシステムのことです。具体的には構造力学、精密工学、流体工学、音響工学などで説明できる現象をコンピューター上の計算能力を活用しシミュレーションします。そうすることで、問題があった場合の原因究明を分かりやすく行えるのです。
これまでは、設計・開発した製品を実際に施策したり、3Dプリンターなどで実物を作ったりしないとどのような製品が完成するかを明確化できませんでした。しかし近年ではコンピューター技術も向上し、CAEによってより高度なシミュレーションが可能になったことで、幅広い範囲で役立てられています。
CADとの違い
CAEと同じく、製品製造に用いるものとして「CAD」があります。CADとは、コンピューター上で設計図面を作製するツールのことです。2次元の平面図を作成する「2D CAD」と、立体像のモデリングで曲面や複雑な形状も可視化できる「3D CAD」があります。現在はデザインの自由度の高い3D CADが主流です。従来の紙媒体で作成した製図とは異なり、修正や転用、管理などが簡単という特徴があります。
また、情報共有もスムーズになり作業の効率化も実現可能です。CADには、さまざまなシーンにおける設計に対応する「汎用型」と、各分野に応じた「専門型」とがあります。
CAEとCADとの違いは、その利用目的にあります。CADは設計や製図などを行うツールですが、CAEはシミュレーションや解析による検証を行うシステムです。また、CADは、2D・3D形状を可視化してデータの共有・修正などが可能ですが、CAEは、物理現象や不可視現象を可視化・把握し、設計の検証をしていきます。
両者の違いをまとめると、CADデータを基に仮想で検証を行い、設計改善に活用するのがCAEといえます。CADとCAEの違いやそれぞれの強みを理解できれば、より合理的な製品の設計・開発が可能となるでしょう。
CAEを活用するメリット
続いて、CAE活用によるメリットを5点紹介します。
試作品にかかるコストを削減
これまで製造業は、製品の設計・開発にあたって多くの試作品を制作して実験を繰り返してきました。実験の中で不具合が生じた場合は、設計工程の修正に戻って再度試作品を制作するという流れを繰り返します。そのため、試作の制作回数が増えていくにつれて、多くのコストがかかっていました。また、製品によっては特殊な実験環境を用意しなければなりません。
CAE導入によって、試作品を作らなくてもコンピューター上でのシミュレーションが可能なため、試作品の制作コストや実験環境を用意するコストなどを最小限に抑えられます。加えて、早い段階で問題を発見し改良できるため、高品質な製品設計・開発を実現可能です。近年はCADと融合させたCAEシステムも登場しており、設計・解析・施策(改善)のプロセスを並行して行えます。
製造にかかる時間の短縮
これまでの製造工程では、実験と試作を繰り返して改善する必要があり、工数が大幅にかかってしまっていました。CAEでは、コンピューター上でシミュレーションが可能になるため、検証工数を短縮できます。検証工数を短縮できれば、製品開発の効率化や市場への早期投入、競合他社との差別化なども可能となるのです。
資源の節約・環境への配慮
CAEの活用は、コスト・工数の削減だけではありません。実物を使用した実験では、試作品の制作に限らず製品完成に至るまで、多くの資材が使われます。そのため、実験内容によっては環境問題につながることを理解しておきましょう。近年、公害や環境問題が社会問題化しているため、環境への配慮を心がけていないと企業のコンプライアンスにも影響を及ぼします。
こうした環境問題への配慮に有効である点がCAEの魅力です。試作・実験工程を全てコンピューター上で行えるため、無駄なエネルギーや廃棄物を発生させません。結果、資材やエネルギーといった資源の節約につながり、環境負荷を最小限に抑えられます。
特殊な条件下でのシミュレーションが可能
製造業は、設計・開発する製品によって実験環境を整える必要があります。具体例を挙げると、高温下での耐火・耐熱実験や真空状態、または無重力状態下の宇宙環境を想定した実験などです。しかし、上記の実験環境は簡単には用意できません。基本的には専門機関に依頼して実験させてもらいますが、高額な費用の支払いが伴います。
その点CAEなら、バーチャル空間を利用してさまざま実験を可能にします。実現が難しい実験も容易に行える上に、CAE解析精度も向上しているおかげで、従来の検証では把握できなかった気づきやアイデアを生み出せるかもしれません。ただし設計と検証のサイクルが早い分、解析をする担当者は技術力と専門知識が求められます。
DXの推進へとつながる
DXはデジタル技術を駆使して顧客に新たな価値を創造することが狙いです。多様化する働き方や新型コロナウイルスの影響からDX推進の動きが活発化しており、生産管理や製造部門ではデジタル技術を扱える人材配置が急務といえます。DX推進の一環として、CAE解析を活用する企業も増加傾向にあります。
なお、CAE解析を応用した技術には「デジタルツイン」があります。デジタルツインとは、現実世界の情報を仮想空間に反映させる技術の総称です。デジタルツインを活用すればより現実に基づいた高精度のシミュレーションが可能で、製品の最適化を進められます。近年は製造業や建設業といった分野でデジタルツインの実用化が進んでおり、それに伴いCAE解析への注目も高まっている状況です。
デジタルツインについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
デジタルツインとは?仕組みやメリット、活用事例を解説
CAE解析が活用される分野
CAEは、さまざまな工学問題に関する解析を得意としているため、幅広い分野で導入されています。主に活用されているのは以下の業界です。
自動車業界
CAE解析が最も活用されているといわれているのが自動車業界で、主な理由としては2点挙げられます。
一つ目は、試作・実験にかかる負荷が大きいことです。自動車一台を生産するのに3万個近くのパーツが使われています。そのため、全てのパーツに試作・実験・修正のサイクルを繰り返しているとコストと工数がかかってしまいます。そこで、設計段階からコンピューター上でシミュレーションを行えば、あらゆるコストの大幅な削減ができるのです。シミュレーション結果は、データとして記録されるので設計の裏付けや各部門のすり合わせがしやすくなります。
二つ目は、設計から点検までの工程に活用できる点です。一部分にとどまらず、各工程の課題に応じたCAEを有効活用できるため、コスト削減を実現させつつ高精度の製造が可能となります。
事例としては、ホンダやトヨタといった企業があげられます。ホンダは、設計案の作成する際のシミュレーションにCAE解析を活用し、実験リソースの削減と同時に開発スピードの向上にも取り組んでいます。
トヨタに関しては、グループ関連会社も含めてCAEの解析システムを共同利用できる体制を敷いており、大規模開発の解析や複数解析の同時処理などが可能になりました。
エレクトロニクス業界
電子工学を用いて半導体や電子部品、電化製品を設計、製造する業界のことで、自動車業界同様に試作・実験を繰り返し行う必要があるため、CAE解析が広く利用されています。また、熱・光の移動、電磁波など目視できないものや実験が難しいものをシミュレーションしなければなりません。CAE解析は、上記の課題も解決しつつ安全に配慮した製造が可能なのです。
主な事例としては、ワイヤレス充電の解析などが挙げられます。近年普及しているワイヤレス充電の多くは電磁誘導方式です。電磁誘導方式は安定した電力供給が可能な一方、伝送距離が短くコイル間の位置がずれると大きく効率が低下してしまいます。そこで、位置がずれた時の電力効率を確認する際にCAE解析を活用するのです。
ヘルスケア業界
近年は、高度医療社会を支える先進医療機器開発のシミュレーションにCAEが活用されています。特に、医療分野の製品は生命に関わるものなので、安全性・耐久性・衛生面などを重要視しなければなりません。また、個々で設計しなければならない機器についても、CAEによって最適な設計を実現します。具体例としては、医療現場でも重要な酸素吸入器の解析や、血管内に挿入するカテーテル解析などです。
CAEの活用に必要な知識
コスト面や環境面でも優れていますが、活用するには専門的な知識やソフトウェアの使用方法などが求められます。CAE活用に必要な知識は以下の通りです。
材料力学
構造物に力が加わった時に、変形や破損するのかを知るための学問です。構造物にかかる力を外力と呼び、外力に抵抗する形で構造物内部に生じる力を内力と呼びます。これらは機械や構造物の設計には欠かせません。
CAE解析を行うためにはさまざまな工学知識が必要とされていますが、材料力学は構造物に発生する応力や変形量を算出するために必要です。
安全性や耐久性の基準を満たすためには、使用する資材を選定しなければなりません。CAE解析を活用すれば、応力や変形量の算出も簡単に行えます。
解析手法
解析手法には主に以下の3つがあります。
有限要素法
複雑な構造を持つ物体を、「メッシュ」と呼ばれる要素に小さく分割してから計算して解析します。2次元だけでなく3次元解析にも対応しており、解析対象を三角形や四角形などに分割することも可能です。元々は、航空機にある翼構造の強度解析を行うために実施されたのが始まりとされています。機械工学をはじめとするあらゆる分野の中核を成しており、シミュレーションソフトにおいても重要な原理の一つです。
有限差分法
対象とする物理現象を代数方程式で表し、解を求める数値解析手法です。解析対象領域を格子状に分割し、各格子点での差分方程式から、温度や応力関数などの未知パラメータに関する連立方程式を構成していきます。そして境界条件を適用して解けば、格子点での関数値が求められる仕組みです。ただし、境界の取り扱いには注意しなければなりません。複雑な形状の場合、階段状の格子になってしまうため、境界から遠く離れた領域にも影響が及ぶ可能性があります。
境界要素法
領域の境界だけを解析する手法です。有限要素法と同様の仕組みではありますが、対象領域の境界についてのみ考えるため、次元を1つ減らして解析する必要があります。一般的に、比表面積が小さい問題を他の解析手法よりも少ないリソースで効率的に解析可能です。しかし、比表面積が大きくなるにつれて効率面で他の手法よりも劣る部分もあるため注意しましょう。
解析ソフト
解析ソフトは主に3つに区分されています。
プリプロセッサ
解析を実行するために必要なデータを作成する機能です。CADで生成されたデータの読み込み、メッシュ作成などの各種設定を入力して解析用データを作成していきます。
ソルバ
解析用データを実際に解析する機能です。解析したい内容ごとにソルバの種類を選択する必要があり、CAE解析の核といえるでしょう。
ポストプロセッサ
解析結果を可視化する機能です。解析結果をアニメーションやグラフ、3Dモデルなどで表示できます。
CAE活用の手順
CAE解析の活用には、一定の手順があります。ここでは、具体的にどのように活用するのか見ていきましょう。
(1)企画やコンセプトを定める
基本的にCAE解析を活用する際は、まず企画・コンセプトを決めていきます。現代の流行や生活スタイルなどを考慮しながら立案していきましょう。
(2)どのような仕様にするか決める
次に、仕様を細かく設定する工程です。最近では、DXの推進や環境負荷の軽減という側面から、実物がない状態で性能や機能を事前評価する「モデルブース開発」が重要視されています。これにより、問題や課題の早期発見が期待できるでしょう。
(3)デザインを行い、施策と実験をする
仕様を設定したら、それに基づいて部品やシステムなどのデザインを行い、実際に試作品を制作して実験を重ねていきます。
(4)生産・製造を行う
実験を繰り返し、問題がなければいよいよ生産・製造工程です。ただし、生産・製造した製品そのものや、システムに不具合が生じた場合は、原因究明や対策を講じなければなりません。
CAE活用時の注意点が2つあります。一つ目は、自社の目的に応じたものを導入することです。現在は多様な分野でCAEが活用されているため、ご紹介した通り自動車業界やヘルスケア業界など、業界に特化したCAEも多く存在しています。1つの分野だけに特化した解析を行う場合は、専門性の高いものを選びましょう。一方、補助感覚で導入する場合は操作性の高い汎用型がおすすめです。使用用途やコスト仕様環境なども考慮しながら選びましょう。
二つ目は、活用する技術者の育成が必要なことです。近年、新たなデジタル技術導入時のノウハウ不足や人材不足が大きな課題となっています。CAEを活用する際は、実際にソフトを利用してシミュレーションを実施し、結果を分析、改善提案を行える人材が必要です。企業が一丸となって人材育成を行い、効率的な活用ができる体制を整えましょう。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
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まとめ
今や製造業において必要不可欠なシステムとなっているCAE解析。CAE解析は、コストを抑制する効果がある他、環境への配慮や特別環境下のシミュレーションが可能になるなどのメリットがあります。ただし、活用するには材料力学や解析手法、ソフトウェアといった知識が求められるため、導入する際は企業全体で人材育成を行う体制を整えておきましょう。
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