私たちが利用している商品やサービスは、原材料調達・生産・流通・保管・販売・使用・廃棄といった一連の工程で温室効果ガスを排出しています。温室効果ガスの排出がこのまま進めば、さらに地球温暖化が進み世界各地で気候変動が起こるでしょう。現在世界各国では、地球温暖化を防ぐためのさまざまな対策を講じており、そのうちの一つが「カーボンフットプリント」です。
この記事では、カーボンフットプリントの概要や国の取り組み、認証制度を解説します。併せて、各企業の取り組み事例も紹介します。
カーボンフットプリント(CFP)とは
カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)とは、商品やサービスの原材料の仕入れから使用、廃棄に至るまでの一連のサイクルを通して排出される温室効果ガスを二酸化炭素(CO2)に換算し、その商品やサービスに分かりやすく表示する仕組みのことです。
加工食品である「あらびきウインナー」を例にすると、ライフサイクルは以下のようになり、あらゆる工程で温室効果ガスが排出されていることが分かります。
原材料 |
製造 |
流通 |
保管・販売 |
使用・廃棄 |
・豚の飼育 ・包装の製造 |
・水の使用 ・電気の使用 ・燃料の使用 |
・燃料の使用 ・電気の使用 |
・電気の使用 |
・調理 ・焼却処理 |
温室効果ガスの排出 |
カーボンフットプリントでは、各工程で排出される温室効果ガスをCO2に換算し、その総排出量を商品やサービスに表示します。例えば「あらびきウインナー(92g)」に「CO2:638g」と表示があった場合、この商品のライフサイクル全体を通して、638gの二酸化炭素が排出されることを示しているのです。
カーボンフットプリント(CFP)の意義
カーボンフットプリントにより、商品やサービスのCO2総排出量が「見える化」されます。このことにより商品やサービスのサプライチェーン全体を構成する事業者(原料生産者・製造者・流通業者・販売者など)がCO2排出削減に向けた取り組みを進めやすくなるのです。一方、消費者側に対しては、CFPマークが表示された商品やサービスの利用を通じてCO2削減に取り組む企業を応援すると同時に、低炭素社会の実現に向け自らの生活スタイルの変革が期待できます。
カーボンニュートラルとの関わり
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を「全体としてゼロにする」ことを指します。地球上における温室効果ガスの排出量と同じだけの量を植物などが吸収することにより、「CO2排出量は実質的にゼロになる」という考え方です。日本においては、2020年の10月に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という宣言が発表されています。
国が掲げたカーボンニュートラルのプロジェクトにより、カーボンフットプリントはますます注目されるようになりました。理由として、カーボンニュートラルの目標達成には、脱炭素製品や低炭素製品が選ばれやすい市場である必要があり、そのためにはカーボンフットプリントによる「CO2排出量の見える化」が必要不可欠であると考えられているからです。
なお、カーボンニュートラルについては、以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
カーボンニュートラルとは?取り組みの必要性と企業のメリット、日本の事例を解説
カーボンフットプリント(CFP)に対する国の取り組み
日本におけるカーボンフットプリント(CFP)の取り組みは、2008年の経済産業省によるCFP制度の検討から始まりました。ここでは、CFPに対する国の取り組みを時系列に沿って見ていきましょう。
時期 |
関係団体 |
取り組み内容 |
2008年 |
経済産業省 |
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2009~2011年 |
経済産業省 |
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2012年 |
産業環境管理協会 |
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2017年 |
産業環境管理協会 |
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2019年 |
サステナブル経営推進機構(SuMPO) |
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2020年 |
サステナブル経営推進機構(SuMPO) |
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CFPプログラムは、2008年のCFP制度の設計から始まり、2009〜2011年の試行事業を経て、2012年に民間団体に事業を継承し運営されています。その後、制度の統合や運営団体の変更を経て、現在では「SuMPO環境ラベルプログラム」として運営されています。
カーボンフットプリント(CFP)の算定方法とその問題点
カーボンフットプリント(CFP)を算出するには、前提となるいくつかの考え方が存在します。ここでは、CFPの算出方法とその問題点について解説します。
LCA(ライフサイクルアセスメント)
CFPの算出方法は、ライフサイクルアセスメント(LCA)という手法がベースです。LCAとは、商品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を定量的に算出・分析し、環境影響を評価する手法を指します。
LCAによる分析対象は、温室効果ガスの排出量のみならず、オゾン層破壊や騒音、資源枯渇といったさまざまな環境負荷にまでおよびます。一方CFPは、温室効果ガスの排出による地球温暖化への影響のみが評価対象です。
PCR(商品種別算定基準)
PCR(商品種別算定基準)とは、「ハム・ソーセージ」「清涼飲料水」「IT機器」といった商品種別ごとに定められた共通のLCA算定基準をいいます。LCAによる分析は同じ商品でも前提条件などによって結果が大きく異なる傾向にあります。その中でPCRは、算定基準を一定にするためのルールとしての役割を果たします。
算定方法の問題点
CFPの算定方法には問題点があります。その問題点とは、CFPを算出した際に全体としてのCO2排出量は低くても、製造時での排出量が大きい製品の場合、メーカーが排出量の面で不利になることです。例えば、省エネタイプのエアコンは、使用時のCO2削減効果は高いものの、メーカーが製造時に排出する量が従来製品よりも多くなるため、メーカーが積極的に作らなくなる恐れがあるのです。
こうした問題点に対し、経済産業省と環境省では、使用段階における排出削減効果の高い製品を中心に、バリューチェーン上で排出削減効果が高い製品を製造するメーカーに配慮する方法を検討しています。
CFPマーク取得の手順
CFPマーク取得の手順は、以下の通りです。
(1)PCR(商品種別算定基準)の策定
CFPを取得しようとしている商品やサービスに対して該当するPCRがない場合は、まずPCRの策定を行います。製造や販売、流通などに関わる事業者や団体などが、PCRの原案を作成し代表者として申請を行います。その後、申請した原案は「意見公募」「意見公募結果の報告」「レビュー」「審査」を経て、認定されるのが一連の流れです。
(2)CFPの算定
新たに認定されたPCRや既に認定済みのPCRがある場合は、その算定ルールに従い必要なデータ収集を実施し、CFPの算定を行い「CFP検証申請書」を作成します。その後、作成した「CFP検証申請書一式」を「CFPプログラム事務局」に提出し、検証・レビューパネルの審査に合格すればCFPマークの使用が認められ、製品に表示・活用できるようになります。
なお、新CFPコミュニケーションプログラムは、申請する商品やサービスの商品種別が既存のPCRに該当しても、自社専用のPCRとして新たに申請できる特徴があります。これによって、明確な理由があれば1社からでも自社にあった形でPCRを策定し、それに基づきCFPの算定や検証が可能です。
カーボンフットプリント(CFP)に関する企業の事例
世界各国で環境問題への対策が注目される中、民間企業においても利益追及のみならず、サステナビリティ(持続可能性)を意識した経済活動が求められるようになりました。そこで注目されているのが「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」です。SXとは、社会が環境問題やパンデミックなどにより不確実性が高まる中、「企業の利益をあげる力」と「社会の持続可能性(サステナブル)」を両立させ、「持続可能な企業」を目標に変革していくことを指します。
日本においても多くの企業がSXに取り組み始めており、そのうちの一つがCFPです。ここでは、CFPに関する企業の取り組み事例を5つ紹介します。
旭化成株式会社
旭化成株式会社は、「ケミカル事業」「繊維事業」「エレクトロニクス事業」「住宅事業」「医療事業」などを手掛ける大手総合化学メーカーです。同社の機能樹脂製品事業では、海外に10以上の拠点を展開し、世界中の顧客に製品供給や技術サポートなどを行っていました。さまざまな拠点による複雑なサプライチェーンとなっていたため、製品ごとに製造から販売に至るまでの経営情報や、CFPを迅速に確認することが困難な状況だったのです。
そこで同社では、自動車や電子部品の材料として使われる機能樹脂製品を対象に、CFPへの取り組みを行いました。具体的には、株式会社NTTデータと共同で、製品グレードごとに温室効果ガスの排出量を把握し、CFPを算出する基盤を作り上げたのです。この基盤は2022年4月より運用を開始しており、同年5月より顧客にCFPデータの提供を開始しています。
パナソニック株式会社
パナソニック株式会社は、エアコンや洗濯機といった家電製品や、照明器具、配線器、空調事業分野などを手掛ける大手電気メーカーです。パナソニックグループでは世界中に約250の工場があり、工場で使用される電気の使用量は年間で約50億kWh(2022年)になり、この電気量をCO2に換算すると約220万トンにもなります。また、パナソニックの製品は、世界中で毎日10億人以上の人に使われています。その際、電力消費に伴い間接的に排出されるCO2は、約8,600万トンとされているのです。パナソニックでは、これら排出されるCO2を削減することが責務と考え、さまざまな取り組みを行っています。
その取り組みの一つが、「Carbon Pay」という仕組みの提供です。「Carbon Pay」では、自分のCFPに合わせて、その量に相当する金額でCO2を吸収する取り組みを支援できます。アプリ上では、年間のCFPや2030年・2040年の目標値が表示され、移動や住居などの排出量をカテゴリーごとに把握可能です。
コクヨ株式会社
コクヨ株式会社は、文房具や事務機器、オフィス家具などの製造販売を手掛ける企業です。コクヨグループでは、各商品が製造されてから廃棄・リサイクルされるまでの一連の過程において、CO2排出量を把握することで商品の環境負荷削減に取り組んでいます。その一環として、CFPにも取り組んでおり、ユーザーが「環境負荷の少ない商品」を選びやすいよう、「CO2の見える化」を進めています。
HP Inc.
HP Inc.は、パソコンやプリンティング関連製品およびサービスを提供する企業です。HP Inc.では、2025年までにグローバルの業務に伴うスコープ1および2で排出される温室効果ガスを、60%削減(2015年比)することを目標としています。CFPにおける取り組みでは、2021年の削減率は9%(2019年比)と大きな成果を出しており、削減に成功した要因として、エネルギー効率の向上と販売製品の構成変化が挙げられます。
日本ハム株式会社
日本ハム株式会社は、食肉加工品(ハム・ソーセージなど)の製造・販売や、一般食肉の仕入れや販売を行う企業です。日本ハムでは、2010年2月より「カーボンフットプリントを表示した商品」の販売を開始しています。
この取り組みでは、商品ごとに「原材料調達」「製造」「流通・販売」「使用・維持管理」「廃棄・リサイクル」の5つの工程で排出された温室効果ガスを、CO2に換算し商品のパッケージに表示しています。
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まとめ
地球温暖化や気候変動が深刻化する中、世界各国にとって温室効果ガスの削減は重要な課題です。そのため、カーボンフットプリントへの取り組みは事業者の責務といえます。
算定方法は難しいため、CFP算定システムの活用などデジタル技術の活用が有効です。例えば旭化成では、DX推進の一環としてデータ基盤を整備・拡張し、温室効果ガス排出量の把握とCFP算出を可能にしました。脱炭素社会においてもDXが果たす役割は大きいといえます。
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