環境問題について調べていると「カーボンニュートラル」や「ゼロエミッション」という言葉をよく目にします。これらは、脱炭素社会を実現する際に非常に重要な取り組みです。この記事では、ゼロエミッションに焦点を当て、概要や重要視される理由を解説します。また、カーボンニュートラルとゼロエミッションの違いや、国や自治体、企業の取り組みを紹介します。
ゼロエミッションとは
「ゼロエミッション」とは、国際連合大学が1994年に提唱した「廃棄物の排出(エミッション)をゼロにする」という考え方を指します。現在では、その考えに基づいた国や自治体、企業の活動が盛んになっています。具体的には、市民の活動や企業活動、自治体の活動などで排出される廃棄物を別の企業などが再利用し、限りなくゼロに近づけるという活動です。
この取り組みによって、廃棄物処理に排出される温室効果ガス(CO2)もゼロに近づけられます。また、通常の廃棄物は埋め立てなどで処理されますが、埋め立て場の許容量には限界があるため、その処理を減らす目的もあります。
ゼロエミッションが重要視される理由
ゼロエミッションは環境問題や脱炭素社会に焦点を当てた考え方で、これが実現すれば温室効果ガス(CO2)排出削減になり、温暖化や気候変動の緩和につながっていきます。
これまでの社会は、大量生産・大量消費型で成長してきた歴史があり、日本では1955年に621万トンだったものがピーク時の2000年には5,483万トンまで急増し、排出される温室効果ガスも比例して増えていったのです。これは日本だけではなく世界中で起こっている現象で、結果として地球温暖化が進み、気候変動や異常気象が頻発するようになりました。
これらの気候変動は、豪雨や干ばつを引き起こし、農作物や漁獲量の減少、そして深刻な食糧不足に陥る危険性が議論されています。日本では2000年をピークに廃棄物量は年々減少傾向にありますが、それでも4,000万トン以上もあるのが現状です。廃棄物処理のために排出される温室効果ガスは、2018年で3,782万トンと試算されています。
こうした背景から、廃棄物と廃棄物から排出される温室効果ガスを減らすことが重要視され、「ゼロエミッション」に注目が集まっているのです。
また、この活動を一過性のもので終わらせるのではなく、国際社会が目指すサステナビリティと深く関わって持続可能な活動とすることが求められています。こういった取り組みをSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)と呼び、SXの重要性も高まってきています。
SXについて詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)解説|必要性やDXとの違い
ゼロエミッションとカーボンニュートラルの違い
ゼロエミッションとカーボンニュートラルは、注目している対象、および目的が大きな違いとなります。ゼロエミッションは二酸化炭素などの温室効果ガスやゴミ、海洋汚染物質や大気汚染物質などを完全にゼロに近づけていこうという考え方なのに対して、カーボンニュートラルは二酸化炭素など(メタン、窒素酸化物)の温室効果ガスの排出を限りなくゼロ(プラスマイナスゼロ)に近づけようとする考え方です。
簡潔に述べると対象物を「一切排出しない」ことを目的としているか、「実質上ゼロにする」ことを目的にしているかで両者は異なります。前者がゼロエミッションであり、後者がカーボンニュートラルです。「実質上ゼロにする」ということは、環境省が公開している内容から引用すると「二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにする」ことを指します。カーボンニュートラルの実現のため、2021年6月には「地域脱炭素ロードマップ〜地方からはじまる、次の時代への移行戦略〜」が決定されました。
こうしたカーボンニュートラルに関する詳細な内容は、こちらの記事でも解説しております。併せてご覧ください。
カーボンニュートラルとは?取り組みの必要性と企業のメリット、日本の事例を解説
国・自治体によるゼロエミッションへの取り組み事例
国や自治体主導で大きなプロジェクトが進行しています。規模がかなり大きく、お金の投下額も大きくなっているのが特徴で、それぞれが本腰を入れてゼロエミッションに力を入れていることが分かります。ここでは国・環境省・経済産業省・東京都での取り組みを紹介します。
エコタウン事業
エコタウン事業は国、環境省が主体となって進めている制度です。「ゼロ・エミッション構想」として、あらゆる産業から排出される廃棄物を別の産業が再利用し、ゼロにするという考えのもと制度化が進められています。国は、この制度を環境調和型の経済社会形成の基本とするだけでなく、地域振興の柱として推進することより、環境を重視した地方創生も含めた大プロジェクトとして創設しました。具体的には、地域のそれぞれの特性に応じて、各都道府県や政令指定都市がプランを作成し、環境省や経済産業省の共同承認を受け、それを実行する地方公共団体や民間団体に対して総合的・多面的な支援を国・環境省・経済産業省が一体となって行うというプロジェクトです。
エコタウン事業として初めて承認を受けたのは北九州市、岐阜県、飯田市、川崎市で1997年度のことでした。2005年度までには、合計26の地域がエコタウン事業の承認を受けています。環境省の試算では、エコタウン26地域全体における2011年度の環境負荷の削減効果は、最終処分削減量が年間で約96万トン、温室効果ガスの排出削減量が約46万トンとなっています。また、エコタウン地域内での効果として、資源の循環率は25%に上がっており、地域内での廃棄物を循環することによって環境負荷の削減効果が生まれているのです。
なお、エコタウン承認地域に行った設備投資の補助金の合計は約600億円でしたが、民間企業の投資も刺激され、合計の資産額が約1,700億円となったことから、この取り組みは大きな経済効果をもたらしているといえます。
ゼロエミ・チャレンジ
ゼロエミ・チャレンジは、経済産業省主導の取り組みです。2020年10月19日に「ゼロエミッション」に向けてイノベーションを起こそうとする企業を「ゼロエミ・チャレンジ企業」とし、「革新的環境イノベーション戦略」に紐付いた経済産業省の事業や、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する28のプロジェクトを対象にした企業リストを作成し公表しました。翌2021年10月5日には「気候と成長の好循環」を基にしたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)サミットにて、624社がこの制度を利用していることが公表されています。
制度設計は、投資家・金融機関・有識者などを集めた「環境イノベーション・ファイナンス研究会」で検討され、企業の客観性・網羅性を確保する基準が策定されました。実際に「ゼロエミ・チャレンジ企業」がどう活用するのかの公表方法について、ロゴマークを使用することで投資家にアピールできるような制度になっています。
ゼロエミッション東京戦略
東京都では、2030年までに温室効果ガスの排出量を2000年と比較して50%削減するという「カーボンハーフ」を表明しています。カーボンハーフを実現するために、2019年に策定し公表した「ゼロエミッション東京戦略」をアップデートし、その取り組みを加速させているのです。ゼロエミッション東京戦略では、6つの分野と14個の政策に分けられて取り組むことが明記されています。
2022年9月に、東京都は環境基本計画を改定・発表し、「ゼロエミッション東京」の実現をはじめとする具体的な目標と施策を示しました。また、条例改正に関する制度強化・拡充を示す「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」を合わせて発表しています。東京都は都民や事業者と協働して、「ゼロエミッション東京」の実現を目指しているのです。
東京都は、再生可能エネルギーの利用も重要と考えており、ゼロエミッションビルディングやゼロエミッションビークルを打ち出し、火力に頼らない発電や動力の導入に力を入れています。
企業によるゼロエミッションへの取り組み事例
国内のさまざまな企業も「ゼロエミッション」を掲げて活動をしています。経産省の「ゼロエミ・プロジェクト」に取り組んでいる企業も多く、各企業の「ゼロエミッション」への取り組みが注目されています。ここでは、ゼロエミッションに取り組んでいる企業の事例を5つ紹介します。
日産自動車株式会社
日産自動車株式会社は、2050年までに自社の事業活動を含めて自動車のライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを実現するための目標を掲げています。2030年代の早い段階で、市場に投入するすべての新型車を電動車両とすることとし、e-POWER(ガソリンエンジンで電気を発電し、それを動力とするもの)と電気自動車を2本の柱として開発しているそうです。
また、電気自動車に欠かせないバッテリーもリサイクルで活用できるような技術開発も行っています。廃棄されたリチウムイオン電池を粉砕して分別する際に、循環型リサイクルに活用する技術(バッテリー製造時のCO2排出量も削減される)や、自動車に使われる高性能リチウムイオンバッテリーの4R「Reuse(再利用)、Resell(再販売)、Refabricate(再製品化)、Recycle(リサイクル)」を推進することで、有効活用する技術を開発しています。
オムロン株式会社
オムロン株式会社では、ゼロエミッションを廃棄物の再資源化率98%以上と定義し、廃棄物の削減目標として、「グローバル全生産拠点でのゼロエミッション維持」を掲げています。「循環型社会」を実現するために全生産拠点で廃棄物の削減に取り組んでおり、すでにグループ全体の中の21拠点でゼロエミッションを達成しています。そのうち日本は12拠点、海外が9拠点です。
使用する資源の最小化と効率化によって、リユース・リサイクルを拡大して再資源化を目指しています。また、2022年度から有害廃棄物の排出量の多い拠点でのゼロエミッション目標を設定し、有害廃棄物の削減に取り組んでいく方針です。
目標を掲げるだけではなく、2021年度には国内拠点で99%、海外では94%の再資源化率を達成しています。
住友林業株式会社
住友林業グループでは、各事業所で発生する全ての産業廃棄物について、単純焼却や埋立処分を行わずにリサイクル率98%以上をゼロエミッション達成と定義して取り組んでいます。
国内製造工場でも、首都圏エリアにおける新築現場でも2012年度にゼロエミッションを達成しており、海外製造工場では2020年度にゼロエミッションを達成しています。
2019年度から2021年度に実施した中期経営計画の中のゼロエミッションについて、事業活動状況や発生する廃棄物状況などを考慮し、従来の中期計画より細かい管理をすることで、「国内製造工場」「海外製造工場」「発電事業所」でゼロエミッションを達成したのです。
旭化成株式会社
旭化成株式会社では、廃棄物を削減したり再利用したりすることによって、埋め立て処分となる廃棄物の排出をなくそうとすることを「ゼロエミッション」と定義しています。
旭化成では、独自のキュプラであるベンベルグの生産過程で排出された繊維くずを燃料として発電に再利用するだけでなく、自社の工場から出る廃棄物も徹底的にリサイクルして無駄にすることなく、ゼロエミッシを達成できるように取り組んでいます。その他の廃棄物も合わせて、現在はほぼ100%(2016年度実績99.8%)のゼロエミッション化を達成しました。
富士フイルムホールディングス株式会社
グローバル企業である富士フイルムホールディングス株式会社では、各国の拠点でそれぞれの国や地域に合わせた施策を実行しています。そのため、ゼロエミッシだけでなく、廃棄物削減やリサイクルの推進などに取り組んでいる拠点もあります。ゼロエミッシを掲げているのはラットパネルディスプレイ材料やフォトレジストの製造・販売をしているFUJIFILM Hunt Chemicals Europe, N.V.ベルギーの拠点で、2000年度に目標を達成し現在も維持されています。
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まとめ
ESGやサステナビリティ経営なども浸透してきましたが、事業の在り方は変わりつつあります。
廃棄物を再利用して、埋め立て処理量を減らし、燃焼処理によるCO2などの温室効果ガスの排出をゼロにするという考え方である「ゼロエミッション」は、温暖化対策だけでなく埋立地問題やそれ以外の環境問題にも関わる重要なものです。そのため、国や自治体、各企業ではゼロエミッション活動に取り組んでおり、製造過程のエネルギーの削減、エネルギー消費の見える化によるCO2排出量削減に努めています。
デジタル技術を活用し、DXの推進に努めることで、結果として効率の良いエネルギー削減やCO2の見える化に繋がります。DXを実現するステップについては、解説した資料をご用意しておりますので、こちらもぜひご覧ください。
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