経済産業省や関連省庁は、2050年の「カーボンニュートラル」実現に向けて「グリーン成長戦略」という政策を策定しました。カーボンニュートラルの実現が並大抵の試みでは実現できないことが明確化したため、エネルギー・産業部門における構造転換や大胆な投資によるイノベーション創出などの取り組みによって、目標の実現を目指す成長戦略です。グリーン成長戦略は経済成長を制約するものではなく、むしろさらなる成長の機会として捉えられ始めており、あらゆる企業において経営方針の転換や新たな取り組みの実現に向けた試みが必要とされるでしょう。こうした時代の流れに取り残されないためにも、これからの企業の在り方がどうあるべきなのか考えることが求められます。
この記事では、グリーン成長戦略の概要とその背景、およびグリーン成長戦略において成長が期待されている14の重要分野と企業における実際の取り組み事例を解説します。
グリーン成長戦略とは
正式名称は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」であり、地球温暖化への対応を目標としています。国や企業の研究開発方針や経営方針を転換していく流れを推進することや、イノベーションの実現と革新的技術の社会実装、それらを通じてカーボンニュートラルだけでなくCO2排出削減などの国民生活におけるメリットの実現までを視野に入れている成長戦略です。つまり、「経済と環境の好循環」を目指す政策といえます。
カーボンニュートラル実現に向けて、方針の転換やイノベーションの実行など言葉にすることは簡単ですが、実際に目標を達成するには並大抵の努力では実現できないようなことを政府は明示しました。そのため、大胆な投資によって民間企業が前向きに挑戦していくことを全力で応援する姿勢であると、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の本文において明文化しています。
グリーン成長戦略が生まれた背景
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」という名称が示している通り、グリーン成長戦略はカーボンニュートラルの実現を目標とした政策です。
カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出を「実質的にゼロにする」ことを指します。「実質的にゼロにする」というのは、環境省の公開している情報から引用すると、「温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにする」ことを意味しています。温室効果ガスなどの排出量を完全にゼロにすることを目的とする「ゼロエミッション」とは異なり、「排出量と吸収量の均衡化」を目指しているのがカーボンニュートラルです。
カーボンニュートラルは、2020年10月に「2050カーボンニュートラル」として政府が宣言しましたが、その時点では実現可能性が難しいものでした。そのため、例えばビジネスモデルの抜本的な改革など、企業の変革と成長を促し、カーボンニュートラルを実現するために策定されたのが「グリーン成長戦略」です。なお、グリーン成長戦略においては、次項で紹介する、2050年に向けて成長が期待される14の重要分野が選定されています。
カーボンニュートラルについては、こちらの記事で詳細に解説していますので、ぜひご覧ください。
カーボンニュートラルとは?取り組みの必要性と企業のメリット、日本の事例を解説
また、企業はグリーン成長戦略が目指す民間企業の変革と成長だけでなく、「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」にも目を向けるべきでしょう。サステナビリティ(持続可能性)という言葉が示す通り、これからの企業活動においては単なる利益の追求だけではなく、社会や環境への貢献度合いにおける持続可能性も重要となってきます。利益の追求と社会貢献という双方の側面において、「持続可能な企業活動」を続けていくことがこれからの企業には必要となるのです。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)については、こちらの記事で詳細に解説しています。ぜひご参照ください。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)解説|必要性やDXとの違い
グリーン成長戦略における14の重要分野
次に、グリーン成長戦略において重要分野とされる14の産業について見ていきましょう。国は、これらの分野について高い目標を掲げ、可能な限り具体的な見通しを示し、かつ目標の実現に向けて企業の前向きな挑戦を後押しすべく、あらゆる政策を総動員することを明示しています。
グリーン成長戦略における14の重要分野は、「エネルギー関連産業」が4種類、「輸送・製造関連産業」が7種類、そして「家庭・オフィス関連産業」が3種類です。ここで紹介する内容は経済産業省が公開している「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の概要資料より引用・参照しています。
洋上風力・太陽光・地熱
「次世代再生可能エネルギー」として位置づけられる「洋上風力」「太陽光」「地熱」産業は、エネルギー関連産業の一つです。
洋上風力産業においては、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万kW~4,500万kWの国内外投資を呼び込むことを目標としています。太陽光産業では、2030年を目途に、発電コストを14円/kWにすること、および将来的には世界市場5兆円の取り込みを視野に入れた取り組みを目指しているようです。地熱産業においては、次世代型地熱発電技術の開発推進、リスクマネー供給や科学データの収集などの推進、そして自然公園法や温泉法の見直しによる開発の加速を目標としています。
水素・燃料アンモニア
二つ目のエネルギー関連産業としては、「水素」「燃料アンモニア」産業が挙げられます。
水素産業では、2030年までに国内導入量最大300万トン、2050年までには2,000万トン程度を目標としており、2050年までに供給コストを20円/Nm³程度以下(ガス火力以下)までにすることも目標としています。燃料アンモニア産業においては、2030年までに石炭火力への20%混焼の導入と普及を、2050年までには混焼率の向上(50%)や専焼化技術の実用化を目指すと同時に、東南アジアマーケットへの輸出促進も視野に入れているようです。
次世代熱エネルギー
「次世代熱エネルギー」産業も、エネルギー関連産業の一つです。2050年には都市ガスをカーボンニュートラル化することを目標とし、そのために、2030年までに既存インフラに合成メタンを1%注入、2050年には90%注入することを目指しています。他にも、総合エネルギーサービス企業への転換や、合成メタンの安価な供給の実現も目標とされています。
原子力
四つ目のエネルギー関連産業は「原子力」産業です。国際連携を活用した高速炉開発の着実な推進や、2030年までの高温ガス炉における水素製造にかかる要素技術の確立などが目標とされています。
自動車・蓄電池
「自動車」産業においては、2035年までに乗用車の新車販売において電動車率を100%にすることが目標です。また「蓄電池」産業においては、2030年までのできるだけ早期に国内の車載用蓄電池の製造能力を100GWhまで高めることと、家庭用および業務・産業用蓄電池の合計で2030年までの累積導入量を約24GWhまでにすることが目標とされています。
半導体・情報通信
「半導体」および「情報通信」産業では、次世代パワー半導体やグリーンデータセンターなどの研究開発支援などを通して、半導体・情報通信産業の2040年までにおけるカーボンニュートラル化の実現を目指しています。
船舶
「船舶」産業における目標は、ゼロエミッション船の実用化に向けた技術開発の推進、省エネ・省CO2排出船舶の導入と普及を促進する枠組みの整備、およびLNG燃料船の高効率化を目指す技術開発の推進です。
物流・人流・土木インフラ
「物流」産業においては、ドローン物流の本格的な実用化・商用化の推進と、2025年までに「カーボンニュートラルポート形成計画(仮称)」を策定した港湾が全国で20港以上となることなどが目標とされています。「人流」産業では、高速道路の利用時にインセンティブを付与することによる電動車の普及促進が目標とされているようです。「土木インフラ」産業では、動力源を抜本的に見直した革新的建設機械(電動、水素、バイオなど)の認定制度を創設し、導入と普及を目指しています。
食料・農林水産業
「食料」「農林水産業」においては、2040年までに次世代有機農業に関する技術を確立し、2050年までに耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%に拡大、また2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッションの実現などが目標とされています。
航空機
「航空機」産業における目標は、航空機の電動化技術の確立に向けたコア技術の研究開発推進、水素航空機実現に向けたコア技術研究開発などの推進、および航空機・エンジン材料の軽量化、耐熱性向上などに資する新材料の導入推進が目標とされているようです。
カーボンリサイクル・マテリアル
「カーボンリサイクル」産業においては、低価格かつ高性能なCO2吸収型コンクリート、CO2回収型のセメント製造技術開発とともに、2050年までに人口光合成によるプラスチック原料について、既製品と同価格とすることなどが目標とされています。「マテリアル」産業では、「ゼロカーボン・スチール」の実現に向けた技術開発と実証の実施、産業分野の脱炭素化に資する革新的素材の開発と供給、および製造工程で高温を必要とする産業における熱源の脱炭素化の推進を目指しています。
住宅・建築物・次世代電力マネジメント
ここからは、家庭・オフィス関連産業について紹介します。「住宅・建築物」産業では、住宅について省エネ基準適合率の向上に向けてさらなる規制的措置の導入検討と、非住宅・中高層建築物の木造化推進が目標とされています。これにより、家庭やビルオーナーが負担する光熱費の大幅な低減や、ヒートショック防止による健康リスクの低減が期待されます。「次世代電力マネジメント」産業では、デジタル制御や市場取引を通じ、分散型エネルギーを活用したアグリゲーションビジネスの推進などが目標とされています。
資源循環関連
「資源循環関連」産業においては、技術の高度化や設備の整備や低コスト化実現のために、2030年までのバイオプラスチック約200万トンの導入などを目指しています。
ライフスタイル関連
「ライフスタイル関連」産業では、観測・モデリング技術を高めることによる地球環境ビッグデータの利活用推進や地域の脱炭素化を推進し、その実践モデルを他の地域や国に展開することなどが目標とされているようです。
事業再構築補助金「グリーン成長枠」とは
グリーン成長戦略の推進に伴い、独立行政法人中小企業基盤整備機構によって公募が開始された事業再構築補助金の第6回公募において、「グリーン成長枠」という新たな申請類型が創設されました。これは、先に挙げた14分野の産業における課題解決に資することと、付加価値額年率5.0%以上の増加を目指すことを前提として補助金を申請できるシステムです。「売上高10%減少要件がない」「補助上限額が1億5,000万円」「一度、事業再構築補助金に採択された事業者でも二度目の申請が可能」という特徴があります。
グリーン成長戦略に関する企業の取り組み事例
では、企業は具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。最後に、グリーン成長戦略に関して取り組みを行っている実例を4社紹介します。
日本環境保全株式会社
日本環境保全株式会社は自社特許である「乳化剤を使用しない油中水滴型エマルジョン技術」を応用したアンモニア水エマルジョン装置の開発で、排出するCO2および燃料費の大幅な削減を実現する取り組みをおこなっています。これは、燃料アンモニア産業における取り組み事例です。
株式会社ウチダ製作所
自動車産業における取り組み事例としては株式会社ウチダ製作所の事例が挙げられます。プレス部品の生産から電動車の部品生産に事業を転換し、自立型のサプライチェーンマネジメントシステムの研究開発を目指しています。
株式会社倉元製作所
半導体産業における取り組みをおこなっている株式会社倉元製作所では、SiCパーツ加工への新規参入と、超精密表面加工技術のSiCウエハ加工への応用によって半導体事業の本格展開を目指しています。これにより、国内における半導体産業の強化とパワー半導体の高性能化によるグリーン成長戦略へ貢献することが期待されています。
株式会社アルミネ
マテリアル産業関連では、株式会社アルミネの脱炭素・省エネによるマルチマテリアル事業も注目すべきでしょう。新たに取得する接合加工技術を使った複合材によって、これまでとは異なる分野にも提供可能な「マルチマテリアル」の実現を目指しています。
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まとめ
カーボンニュートラル実現に向けて策定されたグリーン成長戦略では、「経済と環境の好循環」を目指しています。今後、あらゆる企業において再生可能エネルギーや省エネルギーへの転換が求められることは間違いないでしょう。こうしたエネルギー活用を最適化するためにはデジタル技術の有効活用、DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進が欠かせません。弊社では、DX推進の実現に向けた資料をご用意しておりますので、この機会にぜひご覧ください。
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