製造業で利益を上げるには、コスト削減や生産性の向上が必要です。コストは材料費(原価)や経費、人件費、研究開発費などさまざまな費用を指します。コストを抑えればその分利益から差し引かれる額が減り、その分利益が増えます。
現在は第5次産業革命とも呼ばれる変革の時期にあり、環境配慮や持続可能性がより重視されています。
今回は製造業の向上に注目し、利益増加に有効なコスト削減アイデアを紹介するとともに、削減に取り組むポイントを解説します。
工場の利益を増やす方法
製造業の工場において、利益が生まれる仕組みを単純化するとこのようになります。
利益=売上(生産性)ーコスト(材料費や経費など)
利益獲得には、「売上を上げる」「コスト削減」のいずれかを行う必要があります。
売上を上げるには、営業力やマーケティング、顧客、製品と市場のミスマッチなどの要因を考慮しなければなりません。改善にはどれも労力がかかり、短期間で結果に反映されるとは限らないのです。
そこで注目したいのがコスト削減です。現在の費用を見直し、削減できるものを洗い出し改善する取り組みは、自社でコントロールしやすく、売上向上の施策よりも見通しが立てられ効率的です。
工場のコストで削減しやすい項目とは
コストの中にも「削減しやすいもの」と「削減しにくいもの」があるため、やみくもにコスト削減を進めるのは得策ではありません。削減しやすい項目を優先し、効率よくコスト削減を図りましょう。
ここでは、それぞれのコストの性質を解説します。
削減しやすい項目
傾向として、製品の製造と直接的に関係しないコストは削減しやすい特徴があります。例えば、以下のようなコストです。
水道光熱費(電気、ガス、水道)
工場設備の照明や空調、機器の稼働により消費する電力や水道の使用は、事業の運営と密接に関わっています。使用量が多い分、見直しによるコスト削減の効果が期待できます。
通信費
インターネット回線料金や社用携帯などの維持費のほか、運搬費や郵送料の費用です。
交通費
従業員の通勤費、社用車の燃料費などの費用です。
消耗品費
工場における消耗品費にはネジや軍手、交換式のフィルターの他コピー用紙などの事務用品が含まれます。
削減しにくい・削減すべきでない項目
反対に、削減が難しいものや、削減すべきでないコストは以下の通りです。製品の品質や製造、事業運営に直結する費用の削減は慎重に行う必要があります。
賃料
工場を賃貸契約している場合、交渉次第で賃料を下げられる可能性があります。しかし、自社都合を理由とした交渉は、物件のオーナーとの関係性を悪化させるリスクにつながります。また、賃料の抑制を目的に移転するとしてもかなりの費用が掛かるため、長期的な視点で慎重に判断する必要があります。
原材料費
原材料の仕入れ削減にも、仕入れ先との交渉が必要です。賃料同様一方的な値下げの要求は先方からの印象が悪くなり、取引に悪影響となる恐れがあります。また、安価な原材料に切り替えた場合、品質低下のリスクもあるため、こちらも慎重な判断が求められる項目です。
研究開発費
研究開発費は将来への投資コストのため、市場における企業の生き残りや発展に欠かせません。直接的に利益を生むわけではありませんが、製品開発やサービス向上の観点でもしっかりと確保したいコストです。
人件費
工場の事業運営は、人手があってこそ成り立ちます。人件費でコスト削減を行う場合、業務効率を改善し残業を減らすなどの取り組みから進めていくと良いでしょう。賃金削減やリストラは避け、従業員や社員のモチベーションに配慮しましょう。
【項目別】工場のコスト削減アイデア
電気、水道、通信費など項目別に具体的なコスト削減方法を紹介します。各施策はコスト削減につながると同時に、作業効率の改善や環境保護といった効果も期待できます。
電気の使用量を削減する
電気料金の削減には、以下のようなアイデアが効果的です。
LED照明への切り替え
LED照明は発光効率が高く(白熱電球の約1/6分程度)、寿命も長いのが特徴です。そのため、従来の電球に比べると消費電力が少なく、長期的なコスト削減が可能です。
環境省はLED照明を推進しており、近年は市場価格も安定してきています。多様な製品が販売されているため、業種や目的ごとに最適なものを選ぶようにしましょう。
ただし、設置には初期費用がかかるほか、設置条件の確認も必要となります。かかる手間も考慮し、費用対効果を検討した上で導入しましょう。
インバーター方式への切り替え
照明をインバーター方式に切り替えれば、必要とする電力に見合った必要最小限の電力を供給できます。グロースターター式と呼ばれる一般的な方式に比べ、照度を調整しやすいのもメリットです。ただしLEDへの切り替え同様、設置の初期費用や使用環境条件を満たしているかの確認が必要になります。
照明を間引く
工場の照明を間引きしたり、照度を見直したりすることでも電気料金を削減できます。初期費用がかからないため、手軽に行えるコスト削減方法です。
ただし、過度な間引きは作業効率に悪影響を及ぼすため、精密作業は1,000ルクス、その他の作業は500ルクスを確保しましょう。
参考:九州電力
電気の契約会社を見直す
2016年4月1日から電力が小売全面自由化されたため、契約する電気会社を自由に選択できるようになりました。契約する会社のプランを比較し、安価な会社へ変更するだけで光熱費を削減できるようになったのです。中には電気の他にガスやインターネットもまとめて契約すれば割引が適用されるケースもあるため、まずは工場の所在地で利用できる会社を探してみるとよいでしょう。
参考:資源エネルギー庁
自家発電設備の導入
自家発電設備は消費電力が多い工場と相性が良く、導入によるコスト削減効果を得やすいのが特徴です。工場の屋根など自社の敷地内に発電設備を設置し、太陽光パネルで蓄電した電力を工場内で使用します。
電力高騰や脱炭素経営が推進されている背景からも注目されていますが、工場に設置する場合は数千万円単位の初期費用や日々のランニングコストが発生するため、導入には入念なシミュレーションが必要です。
水道使用量を削減する
CSR活動の一環としても、水道使用量の削減は積極的に行いたい対策です。具体的な削減アイデアについてご紹介します。
自家水道システムの導入
自家水道システムは、上水道ではなく井戸水や工場排水など余剰工業用水を水源とする方法で、上水道の使用にかかる水道料金や下水道使用料金を節約できます。効果が大きい反面、導入には初期費用もかかるため、初期投資の回収に要する試算が必要です。
節水弁の使用
節水弁(節水ノズル)とは、手軽でありながら費用対効果のある節水方法です。水が出る蛇口部分に弁を取り付けることで、水道料金の節約、環境保全に役立ちます。節水弁の他、エコバルブと呼ばれる節水器具も有効です。節水弁を使えば上下水道料金の30〜70%節約できるとされますが、水圧の確保には注意しましょう。
通信費を削減する
通信費とは、企業運営に必要な通信に関連した費用です。電気代同様、契約プランの見直しが有効です。具体的には、業務に使うスマートフォンや携帯電話を一括して法人契約したり、通信キャリアを統一したりするなどの方法があります。キャリアを変更する場合、利用料金ばかりを重視するのではなく、回線速度やサポート体制が整っていることをきちんと確かめましょう。
備品・消耗品費を削減する
備品や消耗品費に関しては、従業員の協力があってこその成果が出せる領域です。また、節約の心がけや取り組みは継続して行う必要があります。以下のようなアイデアをただ推進するだけでなく、コストダウンの意義の周知や成果の見える化など、モチベーションを保つための工夫も行いましょう。
ペーパーレス化を進める
ペーパーレスとは、紙媒体であったものを電子化されたデータとして保存、活用することです。関連する法律として「電子帳簿保存法」「e-文書法」などが近年施行されました。
製造業ではさまざまな資料を作成しており、コピーの際も大量に紙を消費しています。電子化できれば紙やインクのコスト削減だけでなく、セキュリティ強化や作業効率改善、環境保全に役立つでしょう。
定期購入を活用する
コピー用紙やインクなどの事務用品は常に必要になる備品のため、その都度購入するよりも定期購入が便利です。定期購入を申し込めば注文の手間を省けるだけでなく、割引が適用されたり送料無料になったりします。「在庫切れで注文できない」という心配も不要なため、繰り返し注文する物品は定期購入を検討してみるとよいでしょう。
移動費を削減する
移動費は、業務上必要な従業員や社員の通勤、移動にかかる費用です。
移動費の削減にはさまざまな方法があります。例えば社用車に関して、使用頻度が低い場合はカーシェアリングを利用することで車の維持コストを削減できます。また、移動費の削減についてはオンライン会議やテレワークの導入も効果的です。
オンライン会議の活用
移動費の削減において検討したいのがオンライン会議(Web会議)の活用です。オンライン会議はコロナ禍によるリモートワークの普及と共に注目されるようになりました。
対面で行っていた会議をオンライン会議へ切り替えれば、離れた拠点間でも打ち合わせを行えるため、移動にかかる費用や時間を節約できます。また、会議資料の印刷にかかる手間と費用を抑えられる効果も期待できるでしょう。
人件費を削減する
人件費はコスト全体の割合でも大部分を占めますが、労働に対する従業員のモチベーションに直結するため、安易な削減は避けましょう。
人件費は流動的に調節できるような体制づくりが効果的です。例えば、フロー型人材と呼ばれるアルバイトや派遣社員で人手を確保したり、業務委託契約などで外注化したりなどが挙げられます。
業務の無駄を減らす
製造業の工場で業務の無駄を減らす場合、手順や作業時間短縮による業務効率化が期待できます。
業務効率を改善するには、生産量に応じて業務に従事する人数や時間の最適化が必要です。具体的には、業務マニュアル作成による作業の標準化、ロボットやITソリューション導入による自動化などが挙げられます。
標準化されたマニュアルがあることで、担当者による品質のばらつきやベテランへの依存を回避できるでしょう。
アウトソーシングを活用する
アウトソーシングの活用は人手不足を補える反面、社内情報を社外へ預ける点がリスクといえます。
工場の場合、製造プロセスで分離、独立できる工程や標準化された単純作業はアウトソーシングと好相性です。現状の人件費(固定費)よりアウトソーシング(外注)した方がコスト削減となるケースは多いため、比較して検討してみましょう。
工場のコスト削減に取り組む際の注意点とは
工場のコスト削減に取り組む際、いくつかの注意点も存在します。コスト削減の取り組み方を誤ってしまうと、効果が出なかったり社内環境が悪化したりする恐れがあります。
全社的な協力体制を作る
工場のコスト削減は、従業員の協力なしに成果は期待できません。工場は社員をはじめ大勢が働いており、一人ひとりの協力が必要となります。
コスト削減に向けた協力体制を得るには、コストの「見える化」やコスト削減を行う意義、メリットを伝えるのが効果的です。見える化については毎月の電気使用料金や、コピー1枚にかかる費用を掲示します。また、コスト削減の施策開始からどの位の効果が出ているか伝えることで、継続的な協力体制や社内のモチベーションを維持できるでしょう。
環境悪化につながるコスト削減を行わない
工場という組織である以上、社員や従業員の労働環境を悪化させることは避けなければなりません。人件費は支出でも大きな割合を占めますが、安易に抑えると働く側のモチベーションが悪化します。ITシステム導入による業務効率化、労務環境を見直した労働時間の短縮などに着目し、社内の環境を保持するようなコスト削減に努めましょう。
長期的な視点で取り組む
コスト削減の取り組みで重要なのは、短期的な成果にとらわれず長期的な視点で取り組むことです。
新たな設備投資を行えば初期費用として新たなコストが発生しますが、だからといって投資を敬遠したままでは改善が進みません。多くの社員や従業員の協力を得ながら、コスト削減に向けた無理のない取り組みを継続するのが目標達成の近道です。
まずは現状のコスト分析を行い優先順位を決め、事業運営上の無駄な要素を見極め作業効率の向上を検討しましょう。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
当社はERPをはじめとする情報システムの豊富な導入実績をもとに、お客様一人ひとりのニーズに合わせた最適な改善策を提案します。業務の洗い出しや問題点の整理など、導入前の課題整理からお手伝いさせていただきます。
バックオフィス業務にお悩みをお持ちの方は、お気軽に株式会社システムインテグレータまでご連絡ください。
まとめ
工場におけるコスト削減の基礎から実践アイデアまでご紹介しました。
利益向上のためにもコスト削減は重要ですが、実施の際は製品の品質や生産量、従業員のモチベーションを下げるようなリスクがないか慎重に判断しなければなりません。削減額ばかり注目するのではなく、業務効率を下げないことを前提にコスト削減に取り組みましょう。
コスト削減以外の観点でも製造業DXを進めるためのポイントについてまとめた資料をご用意しておりますのでぜひご覧ください。
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