カーボンニュートラルとは?取り組みの必要性と企業のメリット、日本の事例を解説

 2023.07.10  株式会社システムインテグレータ

菅元総理が2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル宣言」をしたことにより、カーボンニュートラルという言葉を頻繁に目にするようになりました。この宣言では2021年1月20日時点で、日本を含む125の国と地域が2050年までにカーボンニュートラルを達成すると表明しているのです。2020年に運用が始まった気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」でも、今世紀後半のカーボンニュートラルを実現するため、排出削減に取り組むとしています。カーボンニュートラルは世界的に注目されている重要な課題です。

この記事では、今や世界の常識となりつつあるカーボンニュートラルの概要や、他国・企業の取り組みなどを解説します。

世界が取り組む「カーボンニュートラル」とは

今やテレビなどでも頻繁に目にするカーボンニュートラルは、具体的にはどのような取り組みなのでしょうか。まずは、カーボンニュートラルの概要と必要な理由を併せて解説します。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを指します。「全体としてゼロにする」とは、排出量から吸収量と除去量を差し引き、合計を実質的にゼロにするという意味です。

日本が目指すカーボンニュートラルは二酸化炭素に限らず、メタン、一酸化二窒素、フロンガスを含む温室効果ガスを対象にしています。しかし、温室効果ガスの排出を完全にゼロにするというのは難しいため、二酸化炭素などをはじめとする温室効果ガスの排出量と、植林や森林管理などによる吸収量、二酸化炭素を回収して貯留するCCS技術などによる除去量を均衡させることで実現を目指しています。

カーボンオフセットとの違い

カーボンオフセットとは、経済活動において二酸化炭素の排出削減への取り組みや、二酸化炭素の吸収に関わる活動への投資を行うなど、違った形で排出量の全部または一部をオフセット(埋め合わせ)しようという考え方です。

二酸化炭素排出量と吸収量を全体としてゼロにするのがカーボンニュートラル、二酸化炭素排出量削減や吸収量増加につながる活動に投資するのがカーボンオフセットです。

カーボンニュートラルへの取り組みが必要な理由

カーボンニュートラルへの取り組みが必要な理由として、2点挙げられます。

1点目は地球温暖化による気候変動を止めるためです。世界の平均気温は工業化以前(1850〜1900年)と比べ、2020年時点で約1.1℃上昇しており、この状況が続けば更なる気温上昇が予測されます。

近年、世界各地で気象災害が発生しており、農林水産業や自然生態系などに影響がでることが懸念されています。こうした状況は人類だけでなく、全ての生き物にとっての「気候危機」ともいわれているのです。

2点目は化石燃料が枯渇する恐れがあるためです。現在の文明は、化石燃料を燃やしたエネルギーによって発展してきました。しかし、このままのペースで化石燃料を消費していると、今後資源が枯渇すると予想されています。化石燃料がなくなれば、経済活動や人々の生活が停滞してしまうでしょう。大切な資源を守るためにも、カーボンニュートラルは今すぐ取り組むべき課題です。

各国のカーボンニュートラルへの取り組み

日本では2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表し、温室効果ガス排出を全体としてゼロにするための取り組みを進めていますが、世界の国々ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。ここでは、前提にあるパリ協定の内容と共に世界の取り組みを解説します。

京都議定書の問題とパリ協定

京都議定書とは、国際社会が一丸となって地球温暖化を防止するために取り決めた国際条約「気候変動枠組み条約」に基づいて具体的なルールを定めたものです。京都議定書は、1997年に京都で開催されたCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会義)と呼ばれる会議で採択されました。京都議定書は、二酸化炭素の排出を減らす義務が先進国にのみ適用されたことで、アメリカが脱退したという背景があり、政策としては十分ではなかったといえます。

この課題を踏まえ、制定されたのがパリ協定です。パリ協定は「ポスト京都議定書」とも呼ばれ、京都議定書と同じ気候変動枠組み条約から派生しました。京都議定書とパリ協定の大きな違いは以下の3点です。

  • 守る義務の有無
  • 規制の対象国の範囲
  • 効力の対象時期

京都議定書は目標達成に対し法的拘束力があります。しかし、パリ協定では目標提出は義務とされていますが、目標達成に対する法的拘束力はありません。目標を設定するだけで意味があるのかと疑問に思うかもしれませんが、法的拘束力がないことにより、二大排出国のアメリカと中国が共に温暖化対策を推進しようという機運になりました。それによって参加に後ろ向きだった途上国も追随する形で世界中が合意したのです。

なお、京都議定書は2020年までの目標を定めたもので、パリ協定はそれを継承する形で2020年以降の目標を定めたものとなります。

日本におけるカーボンニュートラルへの取り組み

日本では資源エネルギー庁をはじめ、各省庁がカーボンニュートラルに取り組んでおり、その流れは地方自治体や民間にも及んでいます。日本におけるカーボンニュートラルへの取り組みの具体例は、以下の通りです。

1.ゼロカーボンシティ

2050年までにゼロカーボンを目指すと宣言した自治体を「ゼロカーボンシティ」と呼び、2021年8月時点で444もの自治体が宣言しています。

ゼロカーボンシティを宣言した地方自治体は国からの支援を受けられるため、クリーンエネルギーの導入などが行いやすくなるのです。

2.グリーン成長戦略

正式名称を「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」といい、太陽光発電やバイオ燃料などの「グリーンエネルギー」を積極的に導入することで環境保護と産業構造の変革を両立させ、社会経済をさらなる成長につなげるという国の政策です。

グリーン成長戦略には14の重要分野があり、その中でも「エネルギー関連産業」「輸送・製造関連産業」「家庭・オフィス関連産業」の3つに分けられます。

各産業には非常に具体的な達成目標が定められており、その内容は現在の技術では達成できないほど厳しい内容となっています。

このため、政府は「グリーンイノベーション基金」に、多額の資金を投入し、企業が持続可能な社会を実現するための科学技術「グリーンイノベーション」の開発を支援しています。

3.脱炭素事業への出資制度

脱炭素事業への取り組みとして、新たに官民ファンド「株式会社脱炭素化支援機構」が創設されました。温室効果ガス排出量の削減といった脱炭素事業は前例が少なく、投融資の判断が困難であったり、認知度が低く関係者の理解が得られなかったりなど、資金調達が容易ではないという問題があります。そのため、同機構が資金供給やその他の支援を行うことで、地球温暖化防止と経済社会の発展の共生を目指し、脱炭素社会の実現に寄与するとしています。

4.RE100の推進

RE100とは「Renewable Energy(再生可能エネルギー)100%」の頭文字から名づけられた国際的イニシアチブで、事業運営を100%再生エネルギーで賄うことを目標としている世界の企業連合です。加盟企業は、再生可能エネルギー100%で事業運営をすることを宣言し、具体的な目標を掲げ、目標達成へ向けた活動を毎年報告する必要があります。

米国ではグーグルやアップル、ナイキなどが参加しており、日本ではリコーに続き積水ハウス、アスクルなどが加盟を表明しています。

他国におけるカーボンニュートラルへの取り組み

続いて、他国のカーボンニュートラルへの取り組みを見ていきましょう。

アメリカ

バイデン大統領は、大統領就任初日にアメリカをパリ協定に復帰させると宣言しました。二酸化炭素の排出量が世界で2番目に多いアメリカでは、2030年までに二酸化炭素排出量を40%に削減、2050年までに排出量実質ゼロを目指すとしています。

具体的な施策として、自動車排ガス規制の再強化、化石燃料業界への補助金・脱制優遇措置の見直し、メタンガス排出規制などを打ち出しました。

EU

EUは「Fit for 55%(フィット・フォー55%)」と呼ばれる一括法案を発表しており、2030年までに1990年比で温室効果ガスの排出量を55%削減するとしています。

EU域内の温室効果ガス排出量は既に1990年比で24%減少し、同時期に経済は約60%成長したとしており、温室効果ガスの排出量削減と経済成長は両立できるということを証明しました。

イギリス

イギリスはもともと1990年比で2030年に53%の削減目標を掲げていましたが、2016年に57%、2020年には68%への引き上げを発表しました。その約半年後には78%への引き上げを発表しています。

中国

2020年、習近平国家主席は「2030年までに二酸化炭素排出量を減少させる」と発表しました。また、他国に比べ10年遅れではありますが、2060年にカーボンニュートラルを実現すると表明しています。

中国では電気自動車市場が急速に拡大しており、新車販売における電気自動車・ハイブリッドカー・燃料電池車・水素自動車などのエコカーの比率を、現在の5%から20%に引き上げるとしています。

企業がカーボンニュートラルに取り組むメリット

近年、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)という考え方が注目されています。SXとは、企業が利益追求の方針だけでなく、サステナビリティ(持続可能性)にも目を向け、双方を両立させられる「持続可能な企業」を目指して変革することを指します。カーボンニュートラルに取り組む上で欠かせない考え方ですが、そもそも企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

なお、SXについて詳しく知りたい方はこちらも併せてご覧ください。

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)解説|必要性やDXとの違い

コスト削減

カーボンニュートラルに取り組むにあたり、省エネと再生可能エネルギーを導入すれば光熱費を削減できます。

例えば、使用する機器などを省電力設計のものにして省エネを実現する、太陽光などで自家発電をし、再生可能エネルギーを利用して光熱費を削減するといったことが可能です。初期費用が必要になりますが、長期的にはエネルギー使用量が削減されるため、コスト削減につながります。

企業イメージの向上

企業がカーボンニュートラルに取り組み、二酸化炭素排出削減や地球温暖化問題と向き合うことで企業イメージ向上に繋がります。

環境への配慮に重きをおいていることを伝えれば、企業のファンが生まれ、将来的な商品やサービスの売り上げにもつながるでしょう。

そのためには、カーボンニュートラルを推進する企業は、環境配慮や製品製造過程、商品やサービスのライフサイクル(材料調達、製造、使用、廃棄、再利用のサイクル)において環境負荷の見える化をし、アピールする必要があります。

従業員の意識改革

個人レベルでの環境問題への貢献は効果が小さく、影響が実感しにくいものです。しかし、企業レベルでは社会への影響や効果は大きなものになり、より実感しやすくなります。

自分が所属する企業がカーボンニュートラルへの取り組みを行っていると、地球環境へ寄与しているという自負が生まれます。企業の取り組みが個人の意識を変える可能性があるのです。

カーボンニュートラルへの取り組み事例

実際にカーボンニュートラルへ取り組んでいる企業はどのようなことをしているのでしょうか。ここでは、5社の実例を紹介します。

三菱重工エンジニアリング株式会社

三菱重工グループは『2040年カーボンニュートラル宣言「MISSION NET ZERO」』を発表しており、バリューチェーン全体の二酸化炭素排出量を2040年までにネットゼロにする目標を設定しています。

また、CCUSのバリューチェーン構築のため、二酸化炭素回収技術など、CCUSに関連した製品ラインアップを拡充するとしています。なおCCUSとは、二酸化炭素回収(Carbon dioxide Capture)、転換利用(Utilization)、貯留(Storage)の略です。

日本製鉄株式会社

日本製鉄株式会社は「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を発表しています。このビジョンでは、「社会全体のCO2排出量削減に寄与する高機能鋼材とソリューションの提供」「鉄鋼製造プロセスの脱炭素化によるカーボンニュートラルスチールの提供」という2つの価値を提供し、サプライチェーンでの二酸化炭素削減の実現を目指すとしています。

本田技研工業株式会社

本田技研工業株式会社は、1960年代から積極的に環境課題の解決に取り組んでおり、1992年に環境宣言を出しました。2011年には「Triple ZERO」という方向性を定め、2021年には目標年や行動を定めた「Triple Action to ZERO」を設定しています。「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」の3つを1つのコンセプトにまとめた「Triple Action to ZERO」を中心にして、「環境負荷ゼロ」に取り組むとしています。

株式会社日立製作所

株式会社日立製作所は、環境長期目標「日立環境イノベーション2050」にて、自社の事業所(ファクトリー・オフィス)での2030年度カーボンニュートラル達成という目標を掲げています。

目標達成に向け、二酸化炭素排出量を2024年度に基準年度比50%削減、2027年度に80%削減、2030年度にはゼロをロードマップとし、取り組みを推進していくとしています。

株式会社レゾナック・ホールディングス

株式会社レゾナック・ホールディングスは2021年に2030年の温室効果ガス(GHG)排出量削減目標を見直し、「2013年度比30%減」を目標としています。

GHG排出量削減目標の達成に向け、排出量の削減とさらなる省エネルギーを推進し、「持続可能なグローバル社会に貢献する会社」として2050年に向け、カーボンニュートラルに挑戦するとしています。

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まとめ

カーボンニュートラルに取り組む理由として、地球温暖化による気候変動を食い止めるため、化石燃料の枯渇を防ぐための2点があります。日本では二酸化炭素の削減だけでなく、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガス)全てを削減するとしています。

また、京都議定書では先進国への削減義務しかありませんでしたが、パリ協定では努力目標という形で約3分の2の国や地域が参加を表明することになりました。地球温暖化による気候の変化や気象災害が多発している今、カーボンニュートラルへの世界的な取り組みは将来の地球環境を大きく左右しているのです。個人の一歩は小さなものかもしれませんが、その一歩は企業や自治体、国から世界とつながり、大きな一歩となるのです。

企業がカーボンニュートラルに取り組むことで、コスト削減やイメージ向上といったメリットが得られます。カーボンニュートラルへの取り組みには、デジタル技術の活用によるDX推進が不可欠といえます。

DXの進め方についてまとめた資料をご用意しておりますので、ぜひご覧ください。


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