製造業の在庫管理では製造した製品と同等に、部品管理が重要な業務です。
製造に必要な部品を適切に管理して発注できなければ、納期までに製品を製造できなくなり損失につながってしまいます。製造業では「部品表(BOM)」を用いて製品製造に関わる情報を一元管理することが基本です。
製造業ではBOMを経営資源としていかに活用できるかがビジネスのポイントであり、業務システムを使った適切な管理・運用が企業の成長を左右します。
本記事では在庫管理におけるBOMの基礎情報から、BOMの管理を効率化するBOMシステムまで詳しくご紹介します。
製造業における在庫
卸売や小売で使われる「在庫」とは、基本的に販売前の商品など完成品のみを指します。しかし、製造業では完成品以外に、部品・原料と仕掛り品も在庫として管理します。
「部品・原料」は製品を製造する上で必要となる素材です。部品は製造過程で加工を加えずとも使用できるボルトやナットが該当します。一方で、原料は製造過程で加工しなければ使用できない鉄やアルミなどの鋼材・布地などが原料に該当します。原料は機械工作などで後処理を施すことで部品として扱われます。また、「原料」は石油精製のように、原油からガソリンや軽油といった複数の製品を製造できる点も特徴です。
そして、「仕掛り品」は部品・原料を加工して完成品を生産する途中の状態のものを指します。完成に向けて生産工程を経ることで、仕掛り品のステータスはその時々で変化します。たとえば、生産過程で「半製品」の状態にあるものは、仕掛りと違って半製品の状態でも販売が可能です。
上記のように製造業の在庫は他業種よりも管理対象が複雑化します。製造業では在庫を適正に管理しなければ、製造工程はもちろん生産管理や品質管理でも問題が発生する可能性があります。
在庫管理の重要性
製造業では、部品の在庫管理は精度が求められる業務です。
部品の在庫管理では必要な時に必要な量の部品が揃っていることが極めて重要です。加工が完了した仕掛品を次の工程に送り出したとしても、部品の供給が間に合っていなければ生産工程がストップしてしまいます。
そして、部品の在庫管理では発注リードタイムを意識した部品調達が重要な要素のひとつです。発注リードタイムは部品供給元に発注して納品されるまでの日数です。発注リードタイムを短くすることは在庫として保有する部品総量の削減につながり、キャッシュフローの改善や在庫スペースが確保しやすくなるなどのメリットがあります。
以下からは、製造業の在庫管理の精度を上げるために重要なポイントである、「部品」の管理に焦点を当てます。次章からは部品の在庫管理の効率化に必要なポイントを詳しくご紹介します。
在庫管理に欠かせない「部品表(BOM)」とは?
先にご説明したとおり、製造業の在庫管理業務は、精度を上げることでさまざまなメリットにつながります。部品の在庫を過不足なく維持することは、機会損失の防止やキャッシュフロー改善につながる重要なポイントです。そのためには、企業が活用できる資源は有効的に活用し、効率的な在庫管理につながる環境構築が必要です。
「部品表(Bill Of Materials)」(以下BOM)は、複雑化する製造業において製品情報の一元管理を担う役割を果たします。近年ではBOMをコアに捉えたモノづくりのあり方が注目されつつあり、多くの製造業では最先端技術への対応を目的としてBOMの存在意義が再考されています。
BOMには製品を構成する部品が網羅されており、レイヤー構造によって部品が製品製造にどのように使用されているか、各部品の基本から詳細情報まで詳しく記載されています。製造に用いられる部品の一覧化、レイヤー構造化によって必要な部品は視覚化されます。これにより効率的な在庫管理はもちろん、部品調達や製品の設計、さらには製造工程やメンテナンスサービスまで幅広い情報の活用が可能です。
経営の観点からすると、BOMで一元管理された情報を経営資源としていかに活用するか否かは重要な課題です。集約したデータを全社で横断的に活用することで、製造、営業、マーケティングが一体化した新たな価値観を創出できる可能性が高まるでしょう。
BOM構築の目的
BOMは部品の管理を効率的に行うことを目的に作成します。
製品を製造するうえで必要な部品をリストアップし、手配する納期や納品日、必要な数や在庫数などを正確に把握することで、部品不足や手配漏れを防ぐことが可能です。
BOMを構築することで実際の製造をスムーズに進めることができ、生産管理を効率化することにつながります。
在庫管理方法別:部品表(BOM)の種類
情報の登録方法によってBOMはいくつかの種類があり、一般的に「サマリ型」「ストラクチャー型」のいずれかの方法で管理されます。
サマリ型
サマリ型BOMは、製品製造に必要なすべての部品・原材料を並列で管理する方法です。
フラット階層や一覧形式と呼ばれる方法で管理するサマリ型BOMは、仕様の変更や追加が発生した際にも対応しやすいとされています。試作品や一点物の特注品などの設計と同時進行で生産を進める場合、さらに仕様変更や追加生産も頻繁に行われるケースに適したBOM管理方法です。
主に、原動機・工作機械等の機械製造、計測機器・光学機器等の精密機器製造、量産前の試作・別作ではサマリ型BOMで手配処理が行われます。
ストラクチャー型
ストラクチャー型BOMは、サマリ型のようにフラット階層ではなく、製品完成までに必要な部品・原料を階層構造で管理する方法です。
製品を構成する部品構成情報は工程の情報と順序も並行して管理を行います。製品完成までに必要な工程に沿って必要な部品が記載され、工数や製造リードタイムの計算が行いやすい方法です。
見込み生産や継続的な受注生産に適しており、自動車関連部品の製造・設計、家電・通信機器等の電気機器製造・設計などではストラクチャー型を適用した手配処理が行われます。
用途別:部品表(BOM)の種類
BOMは業種によって適した登録方法が違いましたが、さらに用途でも複数の種類が使い分けられています。用途別のBOMは「E-BOM」「M-BOM」「P-BOM」「S-BOM」の4つに分かれています。
ここでは4つの種類についてそれぞれ解説します。
E-BOM(設計部品表)
E-BOM(Engineering-BOM)は、設計部品を表したBOMです。開発や設計段階における必要部品数や種類を、各工程の進行にあわせてBOMを作成します。
したがって、E-BOMの設計に関連する情報、製品を構成する全部品、重要な諸元などは製品設計担当者が記載して使用します。
そして、設計変更や仕様変更を含めた最新の構成が記されていることがE-BOM最大の特徴です。ほかにも設計された部品やモジュールの仕様を一覧として記載するだけではなく、各部品それぞれの仕様や詳細に関しても管理を行うという点も特徴のひとつです。
M-BOM(製造部品表)
M-BOM(Manufacturing-BOM)は、製造部品を表したBOMです。
M-BOMには主に製造部門や生産技術部門が製造過程で必要な部品、手順、加工方法、補助で使用する材料などが記載されています。この情報を軸にして製造部門は生産計画を立てたり、部品手配をスケジューリングしたりします。
基本的にはE-BOMの設計情報をもとにして製造部門が製造に必要な情報を追記してM-BOMを作成・使用します。そのため、機能面に重きを置いて作成されたリストであるE-BOMは、製造過程で使用しやすい形式のM-BOMに加工・変換したものを使用します。
P-BOM(購買部品表)
P-BOM(Purchasing-BOM)は、資材や調達部門など、購買を行う部門が調達する部品をまとめたBOMです。
発注する数量や価格、仕入れ先の情報などがまとめられており、見積もりなどが作成しやすくなるような情報になっています。
S-BOM(サービス)
S-BOM(Service-BOM)とは主にメンテナンスなどのサービス業務で使われるBOMです。製品を販売した顧客ごとに、メンテナンスの情報やメンテナンスに必要な部品をリストで管理できるようにしたものです。
BOM管理における課題について
BOMを活用することで、在庫管理業務をより正確に行うことができ、生産現場における業務の効率化などにつながります。しかしBOM管理にはいくつか課題も存在しています。
人的ミスの発生
BOMはExcelや紙などに手動で入力している場合が多くあります。手動入力のため、入力ミスや入力漏れ、転記ミスなどが起きやすくなります。
ミスが発生することを前提に定期的に間違いがないかなどのチェックの時間を設けるとそれだけ時間がかかってしまいます。
また、紙で管理している場合は修正や追記が難しい場合もあります。生産効率を上げるためにはBOMが正しい状態でなければいけませんが、入力ミスが多くなってしまうと逆に生産効率を下げることにつながってしまいます。
管理の複雑化・工数増加
現在、多様化する消費者ニーズに合わせて製品やサービスも多様化してきました。結果として製造現場では今までよりもはるかに多い部品を管理することになっています。
増加した製品ごとにBOMの登録が必要になり、登録や管理などの工数に時間がかかるようになりました。数が増えることで管理が複雑になったり工数が増加したりすることで、業務の負荷が大きくなってしまいます。
BOMの統一が困難
BOMの種類についてご紹介した通り、設計や製造、販売などの各部門では業務に合わせてBOMの種類が異なっています。BOMの種類が異なっているため部門間での情報共有がうまくいかず、全体で見ると業務を円滑に行うことができません。
もちろんBOMが統一されていれば情報共有もスムーズですが、異なるBOMを統一するためには部品コードなどを統一するためにすべて整理しなおさなければならず、膨大な工数がかかってしまいます。
部品管理(BOM)システムとは?
BOMシステムとはBOMを効率的に管理・運用するためのシステムです。システムを活用することで、製品製造に必要な部品調達、部品の使用数量、工程やタイミング、納期などの情報が可視化されます。
さらに、システムを活用して部品情報をはじめとする製品製造に関する情報を統合管理することで、データを各部門でスムーズに共有、製造業における在庫管理効率を向上させます。
また、製品製造では数百点以上の部品使用した製造過程を正確に管理することが求められ、システム活用することで手作業では困難な精度の高い管理体制を構築できます。システムの適切な管理によって各工程で発生する工数を削減できるほか、ヒューマンエラーに起因する多くの問題を解決可能です。
部品管理(BOM)システムの機能
BOMシステムに搭載される主な機能には以下のとおりです。
BOM管理機能
BOMを設計部門や製造・生産部門に区別して管理する機能です。BOM間の部品番号を統一するなどの管理を実施し、BOM間で起こる情報のズレを防止します。
BOM更新機能
設計過程で部品や仕様を変更した際、システムが自動でBOMを最新情報に更新する機能です。更新ごとに各BOMを変更する必要がなくなり、各部門が常に最新情報を共有できます。
在庫管理機能
製品の製造プロセスにおいて、どの部品がどの工程で使用されているかを管理する機能です。在庫管理機能では各情報が可視化され、納期までに必要な部品数とその発注リードタイムを正確に管理できます。
製品管理機能
製品を特徴や属性などの系統で管理する機能です。BOMや設計図面を登録して管理することが可能です。
部品管理(BOM)システムのメリット
BOMをシステムで管理する最大のメリットは、前述のE-BOMとM-BOMなどの条件が異なるBOMを一元管理できる点です。
形式が異なるBOMであっても基礎となる情報を共有すれば、部品番号の統一や在庫部品の引き当など、BOMに必要な情報共有をスムーズに行えます。
システムで管理する情報をもとに必要な部品を過不足なく各工程に供給できれば、在庫管理業務にかかる手間と時間を削減し、大幅な業務効率化を実現可能です。「どの部品がいつまでにいくつ必要か」をシステムで可視化し把握すれば、安定した部品発注と適切な在庫管理による確かな製造体制を確立できます。
また、BOMシステムは単体パッケージとして提供される場合もあれば、ERPに搭載される機能として提供される場合もあります。BOM管理に特化したシステムから、生産管理や購買管理まで統合管理が可能なシステムにはさまざまな種類があり、自社ニーズ最適なシステムを選択することがシステム導入で大きな効果を発揮します。
さらなる部品管理の効率化が実現?「ERP」
BOM管理システムを導入する場合には、ERP(企業資源計画)で効率的な管理体制を構築する方法が効果的です。
ERPはBOMでだけでなく、企業の業務すべてをリンクさせて情報の一元管理を可能にするシステムです。個々の業務で行う管理処理をそれぞれのデータベースで管理するのではなく、ERPで統合管理すればデータはリアルタイムで企業全体に共有されます。
リアルタイムで会計、人事、生産、物流、販売といった情報を集約するERPでは企業のあらゆる情報を即座に把握可能になり、企業経営に生かせるという点が大きなメリットです。BOMにおいてもERPで企業内資源として一元管理、業務効率化と可視化の効果を得ることができます。
上記のような特徴があるERPですが、製品ごとに各社の設計思想が異なります。そのため、自社ニーズや特性にあわせたカスタマイズを行った上でシステムを構築することが重要です。自社の業務で改善した課題を明確化して、合理的な管理体制を構築できるERPを選択することがポイントです。
完全統合型Web-ERP「GRANDIT」
「GRANDIT」は、製造業(組み立て系・プロセス系)のさまざまな生産形態に対応する、生産管理モジュールを複数搭載するERPです。
「経理」「債権」「経費」「資産」「販売」「製造」「調達・在庫」「人事」「給与」の合計10モジュールが完全に連携を果たし、基幹業務を支援します。製造・販売・会計が一体型となるシステムが構築可能となり、受注から製造、調達、手配、購買、販売、会計までを統合した一連の流れとして業務の最適化を実現します。
GRANDITが実現する生産管理業務の強力なサポートは、BOMのデータに基づいた手配のみならず、製造番号別にその都度手配する処理にも対応可能です。さらに、繰越生産や個別生産に加えて、両方の生産方法が混在する生産形態もカバーします。
また、アドオン・テンプレートが業務別に用意され、製造業においても業務効率化につながるアドオンモジュールやオプションが提供されています。生産管理アドオンモジュールや無線ハンディターミナル連携オプションを利用すれば、製造業における在庫管理業務のさらなる効率化に大きく貢献します。
企業のBOMシステム化による成功事例
最後に、BOMをシステム化したことで生産性向上や工数削減など、業務改善につながった事例をご紹介します。
産業用機械の製造企業
この企業では従来、BOMをExcelで管理していました。産業用の機械を製造しており、個別受注生産で部品の点数も多い生産形態だったため、管理する部品点数が多く、BOMの作成に時間がかかっていました。
個別受注生産に特化したシステムを導入することで、BOMのシステム化を実現、作成工数が大幅に削減できただけでなく、BOMが統合されたことで部門間の情報共有も円滑に行えるようになりました。
電子機器の総合メーカー
この企業では、部材の支給や必要なパーツの供給が遅延したり、過剰在庫が増加したりといった課題を抱えていました。原因はE-BOMやM-BOMが連携しておらず、適切な管理が行えていないことに起因すると考え、BOM管理を統合管理する方針で全面的な見直しを実施しました。
システムの導入でBOMを統合したことで、従来起きていたBOMの連携における課題がなくなり、結果として生産計画の正確性向上や過剰在庫の削減につながりました。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
当社はERPをはじめとする情報システムの豊富な導入実績をもとに、お客様一人ひとりのニーズに合わせた最適な改善策を提案します。業務の洗い出しや問題点の整理など、導入前の課題整理からお手伝いさせていただきます。
バックオフィス業務にお悩みをお持ちの方は、お気軽に株式会社システムインテグレータまでご連絡ください。
まとめ
製造業において、在庫(部品)管理の最適化は取り組むべき必須課題です。部品管理(BOM)システムも在庫管理に必要な機能のひとつです。
弊社のGRANDITでは、生産や販売、在庫管理やBOMなども含めてトータルで課題解決のご支援が可能ですので、自社の在庫管理業務に課題をお持ちの方はぜひお気軽にお問い合わせください。
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