近年、製造業において「ラインビルダー」が注目され始めています。あまり聞いたことがないという人は多いかと思いますが、欧米では自動車産業を中心に幅広く活用されるなど、欧州や中国、新興国では広く知られています。
この記事では、ラインビルダーとはそもそも何なのかという解説から、現在日本で注目され始めている理由、活用のメリットや課題点まで解説していきます。
ラインビルダーとは
まずは、ラインビルダーの概要について確認していきましょう。
ラインビルダーとは、製造業における生産ラインの設計からハードウェア・ソフトウェアの調達、設置、試運転、スタッフのトレーニングに至るまで、ライン構築のすべてを一括で請け負っている企業を指します。
自社で生産ライン構築に関するノウハウを持っていない場合でも、ラインビルダーに委託することでスピーディに工場の立ち上げが可能になります。
また、似たような事業内容に「生産設備SIer」があります。これらの違いはそれぞれが担っている範囲にあります。生産ラインの構築を一気通貫して行うラインビルダーに対し、自社内で定義されたスコープの中で、ある程度限定された範囲を依頼されるのが生産設備SIerです。つまり、生産設備SIerは特定分野を専門的に扱っていますが、ラインビルダーは高い生産技術・設備を平準化して幅広い業界に対してソリューション提供していると言えます。
ラインビルダーは、製造業が盛んな欧米各国をはじめ、中国を中心とした新興国でも活用されていますが、日本のラインビルダー市場は未だ発展途上です。その理由は、日本企業には「技術力を抱え、内製化すべき」という考えがあるからだと推測されています。
過去の実績を見ても、日本企業では自社内で生産技術を抱え、それをブラッシュアップさせることで発展をしてきました。しかし、ドイツで「インダストリー4.0」が提唱されたことなどをきっかけに、製造業におけるデジタライゼーションやDXなどの技術革新が推進されるようになりました。
こうした背景もあり、昨今は最新技術やトレンドをキャッチアップして経済発展を目指すために、ラインビルダーの活用が鍵になると考えられています。
ラインビルダー活用における欧米と日本の違い
次に、ラインビルダーの活用における欧米と日本の違いについて解説していきます。
前提として、日本のモノづくり産業は、高い生産技術を武器に発展してきたという歴史があります。対して欧米では生産技術で真っ向勝負するよりも、別の領域で差別化を図るべきだという考えが生まれました。ラインビルダーをはじめとする専門家を利用することによって手間やコストを削減し、それ以外のコア技術の研鑽に力を入れることで勝負しようとしたのです。
また自社内で生産技術を抱えて、ブラッシュアップしていく間にその技術が陳腐化してしまうよりも、最新トレンドをキャッチアップしているラインビルダーを活用する方がメリットが大きいという考えを強く持っていました。
このように、ラインビルダー市場が活性化し、同時に「平準化」を武器にして企業が大きくなるビジネスモデルを構築したため、欧米ではグローバル展開を果たすメガラインビルダーが多い特長があるのです。
加えて、これまでは欧米の先進国企業から、中国をはじめとする新興国への技術流入が多くありましたが、最近は逆の流れも生まれてきています。特に中国では、新たな技術導入に積極的でチャレンジングな要求が多く、投資予算が潤沢であるという利点があります。そのため、中国を中心に新技術やイノベーションが生まれ、それを欧米の産業大国が取り入れていくという流れが生まれているのです。
一方、日本では「技術の内製化」が進んでいたことから、それまでメーカーとして培ってきた技術力を武器にソリューションを提供しています。また、サービス提供するためにデジタルツイン技術を活用し、ライン設計を3Dで可視化することによって効率化を図っているという特徴もあります。
しかし、「技術の内製化」のために国内のラインビルダー市場は発展してきませんでした。それゆえ、一部のメガラインビルダーを除いて中小・零細の生産設備SIerが多いという市場構造になっているのです。
ラインビルダーを活用するメリット・注目されている理由
ラインビルダーは生産ライン構築のプロフェッショナルだと言えますが、活用するメリットはどんなものがあるでしょうか。ここでは、主に3つのメリットについて解説していきます。
まず1つ目が、効率的な生産ラインをスピーディーに構築できることです。
ラインビルダーは生産ラインに関するノウハウを保有しているため、その企業にとって最適な生産ラインを提案・販売することができます。そのため、生産ライン構築に手間をかけずに工場の立ち上げが可能になり、競争領域やコア技術に力を入れることができるようになります。
2つ目は、人材が不足している場合でも製造ラインの高い技術力を得られるという点です。
新興企業や熟練技術者が退職した場合でも、ラインビルダーを活用することによって生産ラインの構築を行うことができ、技術者を育成するコスト削減に繋げることも可能です。
このようなメリットがあることから、新興国や新規参入してくる企業ではラインビルダーの活用が進んでいると言われています。例えば、ベトナムの不動産財閥Vinグループが自動車産業に新規参入する際、BMWの車体ライセンスを購入し、BMWのラインビルダーを活用することでBMWと同様のライン構築を行いました。その結果、工場の早期立ち上げが可能になり、自動車産業への参入を果たすことができたのです。
また、日本ではあらゆる業界で慢性的な人手不足に陥っており、かつ熟練の生産技術者が高齢化していることから、その穴を埋めるためにもラインビルダーの活用が注目されています。
3つ目は、モノづくり大国の政府が推進している「スマートファクトリー」の一助となり、業界のDX推進に繋がる点です。
製造業が盛んなドイツでは「インダストリー4.0」を提唱しており、IoTなどの先進技術が製造業を発展させていることから、これを「第4次産業革命」に位置づけています。このような技術が浸透・発展していくことにより、経済成長や社会構造の変革にも繋がっていくと考えられているのです。
そこで、工場のさまざまな機械をコンピュータと繋げ、データを活用することによって生産ライン全体を最適化し、生産性や品質の向上を図る「スマートファクトリー(Smart Factory)」化が注目されています。スマートファクトリーの第一歩としてはDX推進が必要ですが、リソースに限りがある中小企業では実際に取り組むのが難しいのが現状です。そのため、まずはラインビルダーを活用して自前主義から脱却することがDXを進める鍵となります。
DXの詳細な内容は、以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?「2025年の崖」との関連性や推進ポイントまで解説
製造業に必要なDX(デジタルトランスフォーメンション)とは?
ラインビルダー活用における課題点とは
ラインビルダーを活用するメリットについてご紹介しましたが、ここからは活用における課題点について、利用する顧客側とラインビルダー側の視点から解説していきます。
まず顧客側から見た場合です。顧客側の課題としては、最新技術への対応や技能に関するトピックが挙げられます。
出典:2016年版ものづくり白書「第3節 市場の変化に応じて経営革新を進め始めた製造企業」
経済産業省の調査によると、IoTを積極的に活用している企業ではラインビルダーの活用に期待感を持っている一方で、ラインビルダーの最新技術への対応力や技能などへの課題も多く存在しているようです。その背景には、日本国内におけるラインビルダーの認知度の低さがボトルネックとなり、企業のニーズを満たすのに十分な数の事業者数が育っていなかったり、事業者の質のばらつきがあったりといった問題があるようです。
対して、ラインビルダー側から見た場合の課題を見てみましょう。特に大きな課題として挙げられるのが、生産設備SIerが市場の多くを占めている中、その企業がラインビルダーとして拡大・発展していく場合「ソリューション開発や人材開発にリソースが割けない」という点です。
大手企業と比較すると、中小・零細企業ではリソースが限られているので、技術力があってもソリューション開発が難しい場合があります。人材面でも、顧客の潜在的なニーズを引き出し、その課題に合わせたソリューションの提供が求められますが、これを十分に担える社員が少ないという場合もあります。このことから、ソリューション開発と人材開発の両方に対して支援が必要であると言われています。
また、大手企業の場合でも、これまでに蓄積されてきたノウハウや、熟練工が持つ高い生産技術を可視化・商材化していくことが難しい場合が少なくありません。この点では、既に活用されている3Dモデリング技術を利用し、生産ラインの可視化及び平準化に発展させることができるのではないかと言われています。
主要ラインビルダー企業
日本や欧米で活躍しているラインビルダー企業は、どんなものがあるのでしょうか。ここから、日本と欧米における主要ラインビルダー企業についてご紹介していきます。
日本のラインビルダー企業
平田機工
まず、日本における代表的なラインビルダーとして、平田機工が挙げられます。平田機工では、家電や自動車、半導体といった産業で展開しており、米ゼネラルモータースGMやダイソンなどの海外メーカーのラインビルディングを行っています。海外拠点を含め、9割近くが海外向けに事業展開していることが特徴です。
三洋機工
愛知県に本社を置いている三洋機工は、自動車や航空、建機などの強みを持ち、欧米やオーストラリア、アジアなどにグローバル展開しています。さらに、生産設備SIerからラインビルダーに発展した企業もあります。
ヒロテック
広島に本社を構えるヒロテックは、マツダ系サプライヤーからラインビルダーへと拡大した企業です。そのため、自動車やエレキといった産業に強みを持ち、海外にも事業展開しています。
デンソー
また、愛知県に本社を構えるデンソーは、自動車部品事業のノウハウを活かして、ラインビルダー・FA事業を展開しており、現在はロボット事業も展開しています。
欧米のラインビルダー企業
欧米で展開しているラインビルダーには、ドイツの「Durr(デュール)」や、日立製作所が買収したアメリカの(JR Automation(JRオートメーション)」などがあります。
欧米では、特に自動車メーカーでラインビルダーが活用されていますが、幅広い顧客に対応していることが特長のひとつです。
例えば、ドイツのデュールは自動車領域に強みを持ち、顧客にはダイムラーやBMW、フォルクスワーゲン、アウディ、ボルボ、テスラ、FCAなどの大企業が名を連ねています。また、海外メーカーは上流構想から構築、試運転までを一括してアウトソースすることが多いため、広範な平準化モデルを持つラインビルダーが成長しているという特長も影響しているようです。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
当社はERPをはじめとする情報システムの豊富な導入実績をもとに、お客様一人ひとりのニーズに合わせた最適な改善策を提案します。業務の洗い出しや問題点の整理など、導入前の課題整理からお手伝いさせていただきます。
バックオフィス業務にお悩みをお持ちの方は、お気軽に株式会社システムインテグレータまでご連絡ください。
まとめ
この記事では、ラインビルダーの概要から欧米との違い、活用のメリットや課題点などを解説しました。
現状、多くの生産設備SIerがソリューション開発や人材開発という部分で課題を持っているものの、ラインビルダーを活用することで最先端の技術を取り入れ、製造ラインの導入を短期的に行える可能性があります。そのため、DX推進やインダストリー4.0などの観点でもラインビルダーの活用は有効であると考えられています。
ラインビルダーを活用する際は、企業全体の経営課題として検討するのがおすすめです。工事業向けのERP活用に関する資料もご用意してありますので、ぜひご覧ください。
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