ビジネスに要する主幹業務を担う基幹システムは、企業の生産性や業務効率、経営状況と密接に関係するものです。経済産業省が示した「2025年の壁」では老朽化や複雑化した基幹システムに警鐘を鳴らし、AIやクラウドサービスなどを活用した基幹システムに刷新(再構築)する必要性を示しています。この記事では、システム刷新の必要性や具体的な進め方を解説します。
基幹システムとは
「基幹システム」とは、企業経営の基幹(主要)業務を管理するシステムです。そのため、基幹システムに不具合が生じた場合、企業経営に大きな支障を与えてしまう恐れがあります。
なお、基幹システムにはどのような企業にも共通するものと、業種に応じて異なるものとがあります。例えば以下のような基幹業務が存在します。
目的 |
概要 |
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在庫管理 |
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仕入管理 |
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販売管理 |
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会計・財務管理 |
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人事給与・労務管理 |
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基幹システムと混同されやすいものに「情報系システム」が挙げられます。情報系システムは、基幹システムと同様企業の主要な業務をカバーしているもので、社内のメールソフトやチャットツールなど、社員のコミュニケーションの円滑化を図ります。不具合が生じても代替可能な点が、基幹システムとの大きな違いです。
基幹系システムと情報系システムの違いについてはこちらのブログで詳しくご紹介しています。
「基幹系システム」と「情報系システム」の違いを徹底解説!
基幹システムの刷新はなぜ必要か
従来の基幹システムは自社業務に合わせたオンプレミス型が比較的多くなっています。一度導入すると利用期間が長くなる傾向にあるため、稼働期間の長い基幹システムは老朽化していたり、現在の業務にマッチしていなかったり、カスタマイズを重ねたせいでシステム自体が複雑化していたりという問題を抱えています。このようなシステムは「レガシーシステム」と呼ばれ、企業の足枷となっています。
老朽化は、現行の業務効率を低下させたり、ユーザーのニーズ変化に対応できない状況を引き起こしたりする原因となります。
また、長期間に渡ってシステムのカスタマイズを続けると、特定の人にしかシステムの全容を理解できない状態になってしまい、属人化や後継者不足といった問題が生じてしまいます。担当者以外は操作ができず、システムのブラックボックス化も着々と進んでいるのです。
このような状態が続いてしまうと企業としての競争力は低下するばかりです。そのためには労力がかかってもシステムを刷新する必要があります。
システム刷新とは
では、システム刷新の狙いや具体的な方法には、どのようなものが挙げられるでしょうか。システム刷新においては、以下のような課題が達成されるかを確認し、ビジョンを検討していきます。
基幹システムの刷新ポイント
- 自社の事業変革に対応する柔軟性があるか
- 属人化を回避できるシステムであるか
- 新規担当者の教育の高速化(期間の短縮)が実現するか
主にこの3点を意識すれば、「自社のニーズや問題を解消するシステムが作れなかった」というような失敗のリスクを抑えられます。刷新のビジョンが定まったら、次のような刷新方法を検討しましょう。
レガシーシステム脱却に向けた具体的な基幹システムの刷新方法
方法 |
主な特徴 |
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リビルド(再構築) |
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マイグレーション(移行・リライト) |
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リホスト |
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自社の現状と照らし合わせた方法を選択するほか、現行のシステムを分析し、再構築するシステムに必要な仕様がきちんと含まれるようにしましょう。また、システムの拡張性や柔軟性も確かめる必要があります。
基幹システムの刷新が進む背景
経済産業省がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進による企業成長を掲げているように、各企業には基幹システムの刷新が求められているのが現状です。基幹システムの刷新が進む背景には主に2つの理由が挙げられます。
DXの推進
多くの企業は、老朽化と複雑化が進んだレガシーシステムを使い続けています。そのため、2025年以降は膨大な経済損失を生み、世界的にも競争力が大幅に低下しかねません。これはいわゆる「2025年の崖」とされるもので、各企業にはAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を活用したシステムの刷新が求められているのです。
また、基幹システムの見直しもDX推進には欠かせないものとして含まれており、従来型の基幹システムからクラウドERP(クラウド環境下で動作するERPシステム)や複数のアプリケーションを横断したポストモダンERPへの移行が必要とされています。ポストモダンERPによりデジタル技術やデータ活用を駆使することで、DX化の推進も実現可能となるでしょう。
クラウドERPやポストモダンERPについての詳細はこちらで詳しく解説しています。併せてご覧ください。
「ポストモダンERP」とは?従来型ERPの課題や進化の必要性
老朽化したシステムからの脱却
老朽化したシステムから脱却しないと、業務効率が改善されずさまざまな課題を引き起こすことは避けられないでしょう。経済産業省が「2025年の崖」でも示しているように、既存のシステムが多様化したビジネスモデルに対応できなくなり、膨大な経済損失をもたらすおそれがあります。今後のビジネスシーンに適応するためにも、老朽化したシステムからの脱却が必要とされているのです。
基幹システムを刷新するメリット
これまで、基幹システムの刷新を推進する背景や必要性について解説しました。では、具体的に基幹システムの刷新にはどのようなメリットが挙げられるのでしょうか。ここでは、主なメリットを4つ紹介します。
データの一元管理による業務効率化
情報を一元化し、基幹業務を刷新することで、必要なときに必要なデータをすぐに閲覧できるようになります。これにより、現場での業務効率の改善やミスの削減、経営層の速やかな意思決定(データドリブン経営)に寄与するでしょう。
システムのブラックボックス化の回避
システム設計当初の業務に合わせて構築された基幹システム全体を刷新することで、長年メンテナンスを重ね複雑化したシステムを簡素化できます。簡素化されたシステムで業務内容やフローを明確にすることで担当者の属人化を防ぎ、業務のクオリティを保つことが可能です。また、ミスや不正も見つけやすくなり、業務効率を大きく下げるような事態を引き起こすリスクも抑えられます。
現行の技術やシステムへの対応
現行のソフトウェアなどをベースにした基幹システムに再構築することで、外部のクラウドサービスとの連携、AIやIoTにより収集したデータの活用や分析が可能です。これまでと比べ、広範囲の業務をカバーできることから、業務負担の低減や省人化、業務効率化などが実現します。また、プロジェクト達成に向けて各社員に求められる行動を可視化できるため、社員の達成感やモチベーション向上にも寄与するのがメリットです。
人材育成と教育コスト削減
肥大化・複雑化・ブラックボックス化などの課題を抱えたレガシーシステムは、操作方法自体が複雑になっているケースも少なくありません。新たな担当者を育成するにもコストや手間がかかってしまう問題があります。一方で、刷新された基幹システムの場合、シンプルで直感的な操作も可能です。また、新しい担当者がシステムを使いこなせるまでの期間も大幅に減らせます。
基幹システムを刷新すべき状況とは
システム刷新の必要性を感じていながらも、日々の業務の後手に回り改善に着手できていない企業も少なくないでしょう。着手を先延ばしにするほど、不具合やトラブルが生じるリスクも高まっていくことは明らかです。システムを刷新すべきタイミングとして、各ERPシステムのサポート期限も目安となりますが、それ以外の刷新を検討すべきタイミングは以下の通りです。
事業の拡大にシステム対応が足かせとなっている
運用している基幹システムが古いまま、導入当初に比べて事業が拡大しているという企業も少なくないでしょう。新業務専用のシステムを個別に運用していることや、後からシステムの機能を拡充しているということは、既存の基幹システムの業務への対応が追い付いていない証拠です。つまり、従来の基幹システムと後から導入したシステムが連携しないことで現行の業務効率を低下させ、不要な運用コストを生じてしまうのです。
システムのブラックボックス化で保守性が低下している
長期間に渡って古い基幹システムに改修を重ねた結果、システムの複雑化や現状のニーズとの乖離が起きてしまうケースが想定されます。また、担当者の属人化が生じている場合、不具合が生じた際に復旧までに長い時間を要するでしょう。時間の経過と共にOSやミドルウェアのバージョンは古くなり、外部連携や保守性の低下につながります。
基幹システム刷新の進め方
これまで、システム刷新の意義や目的を整理しました。ここでは、基幹システムの刷新は具体的にどのように進めていくのか、それぞれのステップのポイントと併せて解説します。
現状の分析と課題の発見
まずは、開発履歴や保守の状況から現状のシステムや業務を分析し、システムを刷新する目的や課題を洗い出します。そして、刷新(再構築)の必要性を全社的に共有し、共通認識とします。慣れ親しんだ既存のシステムからの変化に抵抗する層に働きかけることで、移行をスムーズに進めるねらいがあります。持続的な企業の発展に資するため、非効率な業務を続けていることや改善すべき課題を明確にしましょう。
システム刷新の方向性を決定
取り組むべき課題が明確になったところで、社内の「経営層」「IT部門」「現場レベルの事業部門」をチームとして集めます。各メンバーが自らの思惑を出し、全員が納得するまで議論を重ね、刷新の方向性を決定します。後から方向性がズレてしまうのを防ぐため、この段階で構想文書を作成しましょう。
ERPシステムのベンダー選定
続いて、システム刷新のパートナーとなるERPベンダー(提供会社)を選定します。ERPベンダー選びは刷新の命運を分ける鍵となるため、慎重な見極めが求められます。ベンダー選びのポイントとしては以下の通りです。
ERPベンダー選定のポイント
- 同業種業界での導入実績の有無と導入効果の検証
- 課題解決など、自社のニーズを満たすか
- 予算や納期が許容範囲であるか
- サポート体制や柔軟性、他のシステムとの連携
選定は複数のベンダーの内容を比較し、他の部署の意向、経営層へのヒアリングも忘れずに行いましょう。
要件定義
パートナーとなるベンダーが決定したら、機能要件(刷新に必須となる実装・搭載機能)と非機能要件(性能や保守性、可用性、費用対効果など)の点から要件定義書を作成します。
企業(発注側)とベンダー(受注側)の間には、知識や経験に差があることも少なくありません。業務効率化や業務改善目的であるはずのシステム開発も、互いの認識にすれ違いがある状況ではうまくいかないでしょう。土台が整っていない状況でシステム開発を依頼しても、コストや時間ばかり費やし多大な損失を発生させてしまうリスクもあるのです。そのため、ベンダーへの協力姿勢や認識のすり合わせを重視し、一方的に要望を伝えるのではなく求める機能の必要性を示す姿勢が大切です。
システム刷新の実施(テストの実施も含む)
要件定義に基づき、システム刷新を実施します。新たなシステムの実装は「設計」「プログラミング」「動作テスト」という3つの段階に分けると効果的です。設計はエンドユーザーの視点に基づいた外部設計と、開発者の視点で行う内部設計から設計書を作成します。続くプログラミングでは、作成書に関連するコードを作成し、システムの構築を進めていきます。
最後の仕上げは、完成したシステムを用いた機能やプログラムの動作テストです。「単体テスト」「結合テスト」「システムテスト」「運用テスト」の4工程に分け、実際の動作状況を確認し、導入した際のフォロー体制を整えていきます。
まとめ
この記事では、基幹システム刷新の必要性や、具体的な方法、先送りにするリスクを解説しました。「2025年の崖」の中で課題が明らかとなり、コロナ禍によって働き方が多様化している現在は、慣れ親しみすぎたレガシーシステムからの脱却タイミングに最適ともいえる状況です。しかし、基幹システムの刷新(再構築)には時間もかかることから、早めの対応を検討する必要があるでしょう。ご検討の際はぜひお気軽にシステムインテグレータにご連絡ください。
市場での生き残りや自社の発展を実現するためには、各部門が協力し変革を進めていかなければなりません。現状の問題点を明確にし、専門知識を有するベンダーと共に戦略的に刷新の計画を練っていきましょう。
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