EVMとは
Earned Value Management(アーンド・バリュー・マネージメント)を略してEVMといいます。プロジェクトが計画した通りに進んでいるかを、期間ごとの計画値(PV)、出来高(EV)、実績値(AC)の積み上げ折れ線グラフ表示によって管理する手法です。計画値と、出来高や実績値を比較することによりスケジュール差異やコスト差異が一目で把握できます(図1)。
プロジェクト開始時点では見積をもとに計画値であるPV(Planned Value)をプロットし、プロジェクトが経過するとその時点の見積に対する出来高をEV(Earnd Value)、実績をAC(Actual Cost)としてプロットしていきます。
と説明したところで、出来高(EV)と実績(PV)って日本語だと同じようですが、どう違うのでしょうか。実は、出来高(EV)は”進捗度合”で、実績(PV)は実際にかかったコスト(原価)を表します。例えばチーズケーキを120個焼いて夜のパーティに間に合わすことになったとしましょう。1時間当たり10個焼けると見積もって、朝6時から焼き始めて、夕方6時までに焼き終わる計画を立てました。時給1,000円のバイト君が予定通り作り終われば12,000円バイト代で済みますね。
2時に進捗状況をチェックしたところ、スタート時の要領が悪かったこともあって40個しか焼けていません。この場合、出来高(EV)は40個(33.3%)、実績(AC)は1,000円×8時間の8,000円(66.7%)となります。もともとの計画(PV)は2時時点で8,000円かかっていて、80個できている予定だったので、「AC(原価)は計画通りなのに出来高が半分」ということになります。
EVMグラフとは
EVMグラフとは、出来高(EV)と実績(AC)と計画値(PV)の3本の線をグラフにしたものです。計画値(PV)は出来高(EV)に対する計画値であるとともに、コスト(AC)に対する計画値でもあります。EVMグラフで3つの値の大小関係を見ると、進捗とコストの両面でプロジェクト状況を一瞬で把握することができるのです。
図1:EVMグラフ
経済産業省が「EVM活用型プロジェクトマネジメント導入ガイドライン」を公開したのが2003年のことです。そこからプロジェクト管理においてもEVMを取り入れる企業が増えています。プロジェクト管理を組織で体系化している企業においては必ずといっていいほどEVMを取り入れています。
といっても、EVMは、いわばプロジェクト状況の健康診断書なのです。健康診断書があれば、知らない人の身体でも一目で良い状態なのか、どこが悪いのか一目で健康状態を把握できます。客観的にプロジェクト状況を一目で把握できるのが、EVMが脚光を浴びている理由なのです。不健全な身体の人の健康診断書のあちこちに*マークが付くように、うまく行っていないプロジェクトは大抵EVMに兆候があらわれてきます。
一般にプロジェクトへの関わりが少ないと、問題をキャッチしづらくなります。部門長やPMOといった立場の人は、このEVMを監視することによって個々のプロジェクトが健全な状態であるかを瞬時に判断することができます。
母親(父親)が家族全員の健康を管理するように、組織において各々のプロジェクトが健康かをチェックするのです。病気と同じく早期発見早期治療が大切です。病みかけた時点で適切な対処をすることで健全な状態を保てるのです。
EVMの作成方法
では実際にEVMを作成してみます。EVMの基本は金額で換算してPV(Planned Value)、EV(Earnd Value)、AC(Actual Cost)を算出するとされていますが、これらの値はどのように計算すればよいのでしょうか。
EVMを管理する場合、最終的なコスト(予算と実績)だけでなく、途中途中の金額(計画と実績)をグラフ化しなければなりません。ここまでで100万円、ここまで来たら300万円というふうに計画値(PV)を線で表し、実際にかかったコスト(AC)も線で対比させます。 人によって単価も異なりますので、計画や実績を捕捉するのは結構大変な作業です。
簡単な例でEVMの書き方を説明します。若手社員Rさんが、B課長に「業務効率化のためのツールを作ってほしい。言語はJavaで、仕様は…。進捗はEVMでも見せて。私の管理工数は除いてよい。」といわれたとします。
Rさんの単価は450,000円/150時間(3,000円/1時間)です。設計、コーディング、テスト工程にわけ、1週間ごとの計画を立てました。
PV:計画値
図2のように5週間かけて完成させる計画にした場合、工程別に1週間でどれくらいの作業を実施するかを見積もることになります。例えば設計工程は20時間かかると見積りし、1週目で全て仕上げる計画とします。Rさんの時間単価は3,000円ですので、1週目のPVは60,000円となります。コーディングやテスト工程についても同様に計画します。1週間ずつの計画金額の積み上げが計画値PV(Planned Value)となります。そして最終的な金額がプロジェクトの実行予算(見積原価)となるわけです。
前述のとおり、PVは金額(AC)の計画であると同時に進捗(EV)の計画でもあります(最終的な進捗が100%)。そのため本来ならば各地点において金額と同時に進捗の計画値も持つ必要があるのですが、一般的には“原価比例”の考え方で原価が30%かかったら進捗も30%あるはずという計画に基づいて原価計画(実行予算)のみをプロットしています。
図2:PV
ここでは、工程や時間を見積の基準としましたが、実際のシステム開発ではもっと精度の高い見積方法でPVを計画します。それは、各タスクの計画工数を見積もっておき、各タスクの完了に合わせて進捗が進む計画です。例えば1週目に計画工数12時間の設計タスクAと8時間の設計タスクBが完了という具合にガントチャートが引かれていたら、1週目のPV値は合計の20時間ということになります。
EV:出来高
タスクの進捗状況をチェックして、1週間ごとの進捗を管理していきましょう。図3の例では、設計60,000円、コーディング300,000円、テスト90,000円の3つのタスクの進捗を把握してEV管理しています。
1週目の2つの設計タスク(合計60,000円)は、レビュー後の見直しができておらず、進捗90%としています。設計の計画値60,000円に対して90%の進捗であれば、金額にして54,000円分できあがったものと換算できます。プロジェクト全体の金額が450,000円なので、1週目の進捗(EV)は12%となります。
タスクの進捗判断は、個人によってバラつきがでますので基準を設ける方法をおすすめします。設計書ができた時点で60%、レビューが完了したら80%、レビュー指摘事項を反映し完了したら100%といった基準を設けると誰でも同じ評価軸となり精度が高まります。プロジェクトの人数が多くなるほどこういった基準やタスクの管理が重要になります。
最終的にRさんは計画より1週間遅れてしまいましたが、ツールを完成することができました。各タスクの出来高換算値(各タスクにかかる金額かかる金額×進捗率)を、1週間ずつ積み上げていくとプロジェクト全体の出来高EV(Earnd Value)が算出されます。
図3:EV
AC:実績
毎日の工数入力をタスク単位で行うと、実際にどれだけの時間がかかっているか把握できます。この例では、1週目は作業時間20時間を費やしたので、作業単価3,000円×20時間=60,000円となります。PVとACは60,000円なのに対して、EVは54,000円と少し遅れが出たことがこの時点でわかります。Rさんの週ごとの作業時間をもとに算出したコストを1週間ずつ積み上げていくとAC(Actual Cost)が求まります。
図4:AC
EVMグラフの作成法
図5がPV、EV、ACを実際にプロットしたグラフです。この例では1週間ずつ計画をたてていますのでグラフも1週間単位で実績を反映していくことになります。2週目くらいには、ちょっと遅れが出初めていると判断つくのがEVMのわかりやすいところです。
横軸ではPVとEVの差によりスケジュール差異が測れます。PVでは5週目に終わる予定なのにEVは6週目まで伸びていますのでこのままいくとスケジュール遅延になります。また縦軸ではEVとACの差によりコスト差異が測れます。EVでは450,000円の出来高に対し、ACは570,000円となりコスト超過となりそうなのがわかります。
図5:EVMグラフ
このようにEVMは一目でプロジェクトの健康状態が把握できるので、早期治療が行えます。病気と同じく、早めに対処しておけば大ごとにならないので、ぜひ、EVMを定期チェックするルールと習慣を付けてください。
OBPMとEVMグラフ
当社ではOBPMでプロジェクト管理を行っていて、EVMもOBPMで管理しています。上の例のような計算は自動で実施しますので、ガントチャートにスケジュールを登録して進捗報告するだけでEVMグラフが表示されます。
実は私は初めてEVM管理を行うときに、「EVMグラフが計画通りに進むなんて稀じゃないの?」なんて思っていました。情報処理試験でも「どれが順調なプロジェクトのEVMか?」といった問がありますし、プロジェクトのスケジュール遅延はよくある話ですので、同じように思われる方も多いのではないでしょうか。
でも、実際には図6(工数ベースのEVM)や図7(金額ベースのEVM)のように「PV、EV、AC」がほぼ同じ線でプロットされていくといったEVMがほとんどです。なぜ、このようになっていくかと考えますと、スコープに対する見積、リソースをふまえたリソースヒストグラムを作成し、それらを上司に厳しくチェックされることがあげられます。またプロジェクト途中において、スケジュール遅延やコスト超過(金額や率が決められた閾値を超える)するとOBPMからアラートがあがりますので、適宜対応を迫られるからだと思います。
アラートの見極めも大切です。少々の遅れが発生していても、取り戻せると判断できるのであれば計画変更にまでは及びません。例えば全体に対する進捗遅れが数%以内といった状況です。これ以上の差異が発生したら、努力だけでカバーできないので計画見直しをする。当社ではそのような基準も持っています。
リカバーは大変な作業となりますが、そこで頑張ってプロジェクトが健全に戻るのなら苦ではありません。EVMではSPI(スケジュール効率指標:EV/PV)、CPI(コスト効率指標:EV/AC)といった指標もありますが、どちらもEVMを作成すると簡単に算出できます。このような指標にKPIを設定し、組織としてプロジェクト管理を客観的に監視・運用すると失敗プロジェクトが大幅に減ります。
図6:EVMグラフ(工数ベースのEVM)
図7:EVMグラフ(コストベースのEVM)
EVMを使いこなすと、プロジェクトの重要な要素であるコストとスケジュールの実態と予測を端的にあらわせます。こんなにプロジェクトを簡単に見える化できるツール(手法)は他にはないでしょう。まさにプロジェクト状況の健康診断書です。
システム開発におけるプロジェクトでは首を突っ込んでみないとなかなか問題点がわからない場合もあります。しかし、もっと効率よく、うまくいかないプロジェクトを撲滅していくにはEVMは優れたツールだといえます。
(株式会社システムインテグレータ 羽佐田奈津美)
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