複数のメンバーで構成されるプロジェクトを運営するにあたって、コミュニケーションをとることは基本かつ重要な情報伝達手段です。円滑なコミュニケーションを実施するためには、「何を」「誰に」伝えるかをしっかりと見極めながら、活用するツールや目的を逐次調整しながら「コミュニケーションマネジメント」を実施することが求められます。
この記事では、コミュニケーションマネジメントの基本や、コミュニケーションを効果的に実施するための方法やポイントなどを詳しく解説します。
コミュニケーションマネジメントとは
コミュニケーションマネジメントは、コミュニケーションという伝達手段によって適切な情報管理を行うプロセスを指します。
近年はテレワークなど働き方が多様化し、対面でのコミュニケーションにとどまらず、オンラインでやりとりをする機会も増えつつあります。そのため、場面ごとに応じたコミュニケーション管理が求められているのです。
どのような業種であっても、他者とともに働くという場面において、コミュニケーションを取ることは重要な行為の一つです。しかし「ただ相手に伝えれば良い」というわけではなく、どのようなタイミングで伝えるのか、相手に正確に伝えられるかどうか、という点が非常に重要になります。
発信側がきちんと情報を伝達しているつもりでも、受け取る側に正確に伝わらなければ、後になってから重大な問題やミスが発生する恐れがあるのです。
PMBOKでも重要な位置づけ
「PMBOK(ピンボック)」とは「Project Management Body of Knowledge」の略称で、プロジェクトマネジメントのノウハウや手法をまとめたガイドラインのことです。アメリカの「PMI」という非営利団体によって作られたもので、現在ではプロジェクトマネジメントにおける世界標準の指標として高い知名度を誇っています。
PMBOK6(最新版は7)では「高品質・低コスト・即納期」を最大の目標としており、プロジェクトマネジメントにおけるノウハウとして定められた「10の知識エリア」では「コミュニケーションマネジメント」が重要視されています。
具体的には、コミュニケーションマネジメントを「プロジェクトとステークホルダーの情報ニーズが、資料の作成と効果的な情報交換を達成するために意図された活動を通して、満たされていることを確実にするために必要なプロセス」としています。
プロジェクト内部だけではなく、ステークホルダーとの対応を鑑みなければならないという点も大きな特徴です。
PMBOKについてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
コミュニケーションマネジメントの3つの段階
円滑なコミュニケーションマネジメントを行うためには、以下の3つからなるプロセスを実行する必要があります。
コミュニケーションマネジメントの計画作成
まずは、コミュニケーションマネジメントを実施するための計画書を作成します。
プロジェクトの規模が大きくなればなるほど、関わるメンバーやステークホルダーの人数も比例して増えるものです。そのような場面では、「誰に」「どのような内容の情報を」「どのような手段で」適切に共有できるかが非常に重要なため、プロジェクトマネジメントを構成する要素を列挙し、一つの計画書としてまとめる作業を行います。
計画書の作成によって決定する事項の例は、以下の通りです。
- コミュニケーション要求事項(誰がどのような伝達手段を求めているのかなど)
- 伝達すべき情報の種類
- 伝達するコミュニケーションの内容
- コミュニケーションを実行する責任者
- コミュニケーションを実行する時間帯と頻度
- エスカレーションプロセス(担当者以外の上司などからの指示を仰ぐ際のプロセス)
- 共通用語集
- 制約基準
計画書は一度作成したら終わりというわけではなく、ステークホルダーのコミュニティが変化した際やプロジェクトが次の段階に移行した際などに、随時見直しを行う必要があります。
コミュニケーションマネジメント計画の実行
計画書で決定した内容をもとに、ステークホルダーから得られた情報の収集や共有を行います。具体的には、会議を行ったりヒアリングの機会を設けたりして、ステークホルダーと公的なやりとりを行います。このとき、会議の議事録や文書などの媒体を通じて、ステークホルダーとの情報共有が適切になされていることが重要です。
また、情報の収集や共有を実施する際には、どのようなメディアやプラットフォームの利用が適切かを、シチュエーションごとに判断する必要があります。文書でのやりとりを追加する場合は、口頭だけではなく文書に書き起こして伝達するシチュエーションはどのような場合か、正式な文書ではなく書き置き程度の残し方でも良いのかといった内容に至るまでを、あらかじめ決定しておくようにしましょう。
コミュニケーションのコントロール
実際に計画を実行に移した後の段階では、アフターケアとして計画が正しく実行されているかどうかを管理する必要があります。現在取り組んでいるコミュニケーションの方法で整合性が取れているのかどうかを把握し、場合によっては修正を行います。
管理においては、プロジェクト全体とステークホルダーのニーズが満たされ、かつ適切なコミュニケーションによる情報交換が行われているかが大きな焦点となります。これらをコントロールするための手法としては、顧客満足度調査やステークホルダー関与度評価マトリックス、チームの観察などが効果的です。いずれにせよ、さまざまな方法で相対的に状況を判断しなければいけません。
コミュニケーションマネジメントの経過が良好であるかどうかは、プロジェクトにおける作業効率のパフォーマンスに直結します。パフォーマンスが良い結果を導き出している場合はコミュニケーションが良好であることを表し、反対に作業効率が低下している場合は双方の情報伝達に問題が発生している場合があるということです。効率が低下している場合、計画内容を修正し、新たに実行し直すプロセスが発生します。
コミュニケーションマネジメント実践の手順
コミュニケーションマネジメントにおけるプロセスを理解したところで、改めてコミュニケーションを円滑に導くために必要となる要素は何かを見ていきましょう。
関係者の把握
プロジェクト内部、そしてステークホルダーを含めた外部関係者など、コミュニケーションが必要とされるメンバーをリストアップします。相手によって有効なコミュニケーションの方法やツールは異なり、相手との利害関係やこれまでのプロセスを含めた関係の構築が必要になるでしょう。
会議やミーティングに都度参加しているメンバーであれば把握することは難しくありませんが、必ずしもそうではないメンバーもいます。そのようなメンバーも事前に把握することで、コミュニケーションの手法やノウハウの選択がスムーズに実施可能です。
関係者を把握することはプロジェクトの規模が大きくなればなるほど困難になる上に、近年ではグローバル化や働き方の多様化などの理由によってステークホルダーとの関係もまた複雑化しています。内部と外部の双方の関係者をあらかじめ把握しておくことで、場合によって最適な選択を実行できるようになるのです。
コミュニケーションの経路を整備
たとえ同じ内容の情報を伝えるにしても、1対1なのか複数人への情報共有なのかによって適切なツールや手法は異なります。また、プロジェクト内で完結するコミュニケーション経路であるのか、外部との連携をしなければいけないのかといった違いでは、後者の方がより複雑な編成を必要とするため、一層入念な準備が必要です。
プロジェクトの規模もそれぞれ異なりますし、日常的に利用しているツールや組織を形成するための文化や慣習なども大きく異なる要素といえます。
プロジェクトごとの環境の違いによって、コミュニケーションマネジメントの実行に影響が及ぼされるであろう要因は以下の通りです。
- 組織の文化、慣習やガバナンス
- 政治的情勢
- 施設および資源の地理的分布
- 人事マネジメントにおける方針
こうした異なる要素がある中で重要なのは、コミュニケーションをより円滑にできるものは何か、反対に阻害・制約してしまうものは何かを見定めることでしょう。
地理的要因による組織ごとの慣習や文化の違いは、誤解やミスを生じやすい要因になりますが、あらかじめ相違点をお互いが理解すれば回避できるケースもあります。
コミュニケーションにおける責任者の設定
一般的なプロジェクトの形成方法は、異なるスキルやノウハウを持つメンバーが一堂に会し、さまざまな業務を同時進行で進めます。そのため、コミュニケーションにおいても「誰が」「誰と」コミュニケーションを取るのかという担当者の選出は、非常に重要な要素の一つです。
PMBOK6(最新版は7)では、こうした「人的資材マネジメント」を以下の4つのプロセスで構成しています。
- 人的資源マネジメント計画
- プロジェクト管理のためのチーム編成
- プロジェクト管理のためのチーム編成
- プロジェクト管理のためのチームマネジメント
この過程において、「RACIチャート」と呼ばれるツールを用いて担当者の役割分担を正確に行う方法もあります。これは一人もしくは複数の人材をマトリックス形式で当てはめるもので、役割分担の内容は「実行責任者」「説明責任者」「相談対応」「情報提供」です。
RACIチャートについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
RACIチャートとは?役割や責任を明確にしてプロジェクトを支援
コミュニケーション頻度の設定
情報の送信者と受信者が同一であっても、その情報の内容によって緊急性の高いものなのか、定期更新による情報共有で済むものなのかは判断が分かれる部分でしょう。
プロジェクト内で大きな方向転換が発生した場合などは、プロジェクトに関わるすべてのメンバーに周知徹底しなければならず、逆に特定の部署内に限定して周知したい場合は、周知する人物を絞らなければいけません。
情報共有はなるべくリアルタイムでこまめに行うことが望ましいものの、担当者のリソースを奪うことにもつながります。担当者の業務が破綻しない程度に留めながら、更新や共有の頻度を設定する必要があるのです。
また、プロジェクト内や関係者の特性に応じて適宜調整することも考えられます。
例えば、プロジェクト内や各関係者が現在進めている業務に対するスキルやノウハウ、経験が豊富であれば、それほど頻繁に情報の周知を行う必要はないでしょう。しかし、経験が浅かったり、スタートして間もない業務内容であったりする場合は、頻繁に情報共有をしながら進捗を確認するケースも考えられます。
コミュニケーションにおいて心がけたい「5C」
グローバル化に伴って、外資系企業でなくとも海外の人材がプロジェクトの関係者となるパターンも考えられ、「言語」がコミュニケーションの壁となることもあります。
欧米社会を中心に、こうした言語や文化の違いによる認識の齟齬を減らすために提唱されているのが「5C」という考え方です。5Cとは「C」から始まる単語の頭文字を取ったもので、以下の5つから構成されています。
- Correct(正しい文法や記述)
- Concise(簡潔表現、過剰な言葉の削除)
- Clear(明確な目的と読み手にあった表現)
- Coherent(分かりやすく論理的な流れ)
- Controlling(言葉とアイディアの流れをコントロール)
多様な人材とさまざまな言語を用いてコミュニケーションを取る際は、これらの5つのポイントを意識するよう心がけましょう。
コミュニケーションマネジメントのポイント
コミュニケーションの不足によって問題が発生しないようにするためには、必要となるポイントが主に2つあります。いずれもコミュニケーションマネジメントを成功させるために欠かせないものです。
コミュニケーション内容を記録に残す
口頭のみのコミュニケーションでは、記憶があやふやになることがあります。「言った・言わない」というトラブルに繋がりやすいため、対面でのコミュニケーションの場合、重要な内容は記録し、後から見返せるようにしましょう。記録するメディアは文書でも構いませんが、動画や音声記録として残すのもおすすめです。
ただ、コミュニケーションマネジメントにおいて「記録を残す」プロセスはメインの業務内容ではないため、あまり記録することに時間をかけすぎるとコア業務の進行阻害につながります。論点を整理し、記録をするに値する内容を精査することが重要です。
ツールを活用して効率化
情報共有において、どのツールにもメリットとデメリットがあるため、相手や状況によってツールを使い分けることがコミュニケーションの効率化のために必要です。
例えば対面会議の場合は、会議の内容そのものだけではなく、意思疎通を行う相手のジェスチャーや感情、雰囲気など非言語情報での情報を同時に得られるというメリットがあります。その一方で、大規模なプロジェクトでの会議は各メンバーの日程調整が難しくなり、頻繁に会議を実行しなければならない際には業務進行が滞る可能性が考えられます。
適切な相手とシチュエーション、情報の重要度などを参考に、利用するツールを取捨選択することが重要なのです。
まとめ
コミュニケーションを図る上で重要なのは、いかに相手に誤解なく正しい情報が伝えられるかどうかという点です。相手に対して情報を伝えるつもりであっても、結果的に誤解が発生してしまうケースは多く、ビジネスの場面では大きなトラブルにつながることになりかねません。プロジェクトを成功に導く上で、コミュニケーションマネジメントを効率的に実行することは、パフォーマンス向上とリスク管理にもつながります。
コミュニケーションの分野のみならず、プロジェクト管理全体に関する詳しい資料もご用意しています。ぜひご活用ください。
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