RACIチャートとは?役割や責任を明確にしてプロジェクトを支援

 2022.08.10  株式会社システムインテグレータ

プロジェクトを遂行・管理していくうえでは、タスクやマイルストーンを定め、成果物に対して誰が・何を・いつまでに行うのかを明確にすることが重要です。しかし、プロジェクトは複数の部門・組織を跨いで進めていくため、責任範囲が曖昧になってしまうことも少なくありません。

役割分担を明確化し、各タスクの責任者とプロジェクトチーム全体で責任範囲を把握・共有する手法として「RACIチャート」があります。RACIチャートは、複数の部門・組織が共同で遂行する横断型のプロジェクトで特に有効な手法です。

本記事ではRACIチャートの概要、活用シーン、作成方法などについて解説します。

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RACIチャートとは

RACIチャートとは「Responsible」「Accountable」「Consulted」「Informed」の頭文字を合わせた言葉で、それぞれの役割を表にまとめたものです。具体的にはプロジェクトチーム内において、誰がどのような役割で関わるのかを示し、役割や責任を明確にします。

まずは、R・A・C・Iにあたる各役割の概要を解説します。

Responsible(実行責任者)

実行責任者(Responsible)は、割り当てられたタスクの責任を直接担って作業します。具体的な業務として、成果物などの作成を行います。タスクをほかのプロジェクトメンバーに割り振る役割ではなく、実際にタスクの遂行にあたる人のことです。

質問や報告をする相手を明確にするために、原則として各タスクにつき1名に限定しますが、複数いる場合もあります。複数いる場合は混乱を避けるために、RACIで定義されている役割のほかに、コラボレーター(共同作業者)として追加するのが一般的です。

実行責任者(Responsible)は、常に進捗を説明責任者(Accountable)に報告してタスクを計画通り進めることが求められます。タスクによっては、実行責任者が説明責任者を兼ねる場合もあり、実行責任者が自ら承認してタスクを遂行します。

Accountable(説明責任者)

説明責任者(Accountable)は、タスクの完了を統括する責任を担います。ただし、プロジェクト全体に対してではなく、個々のタスクで業務を行います。実行責任者(Responsible)が計画通りタスクを遂行できるよう、状況を確認・采配するのも説明責任者の役割です。

また、説明責任者はタスクの進捗状況や完了状況などを、必要に応じて報告先(Informed)へ報告します。なお、実行責任者と説明責任者との違いにおいて、実行責任者は実際にタスクを遂行する部下、説明責任者はそれを管理し責任を担うのが上司と考えると分かりやすいでしょう。

説明責任者は、タスクをすべて完了させるプロジェクトマネージャーを務める場合と、タスクが完了したことを正式に承認する管理者を務める場合があります。責任の所在を明確にするために、原則として1つのタスクにつき説明責任者は1人です。

Consulted(相談先)

相談先(Consulted)は、タスクの遂行や成果物について実行責任者(Responsible)から相談を受け、タスクの完了をサポートする役割を担います。「協業先」と呼ばれることもあります。

相談先は、プロジェクトを開始して間もない時期や、実行責任者から相談を受ける機会が少ない時期にも積極的にサポートをしなければなりません。一般的に、タスクを完了して成果物を納品する際には、その評価と承認は1人で担当します。しかし、タスクやプロジェクトのマイルストーンごと、あるいは成果物ごとに複数名配置される場合もあります。

相談先に選出されるのは、タスクの遂行に必要な知見や専門知識、経験を持った実行責任者にあたる人物が一般的です。実行責任者と相談先とでコミュニケーションを図り、タスクが計画通りに遂行できるようサポートします。ただし、タスクの実行そのものや、関係者への説明には責任を負いません。

Informed(報告先)

報告先(Informed)は、プロジェクトで扱うデータ・システムを管理している管理部門や、総務部門が担当し、タスクの進捗や状況に関する報告を受けます。タスクの遂行やプロジェクトの進行に直接関わらなくても、変更や追加などがあった場合には報告先に伝えなければなりません。

直接関わらない点については、相談先と報告先の両方に共通しています。しかし、相談先は双方向のコミュニケーションであるのに対し、報告先は一方向的なやり取りであることが大きな違いです。

通常、報告先は成果物以外の側面には関わりを持たず、実行責任者から一方通行の報告を受けるのみです。報告を受けた内容に問題が見つかった場合は、説明責任者へ連絡します。タスクによっては、相談先と報告先はいなくても構わないとされており、相談先と報告先を兼任する場合もあります。

RACIチャートの活用シーン

RACIチャートは、プロジェクトにおいて遂行すべきタスクや押さえるべきマイルストーン、作成すべき成果物を達成するうえで、関係者における責任の所在と役割分担を明確にする際に効果的な手段です。

少人数の小規模なプロジェクトでは、RACIチャートを用いても効果は期待できないでしょう。しかし、意思決定者が多く多数の内容領域専門家が参加するといった、規模が大きく複雑なプロジェクトを管理する場合には有効です。

実行担当者と説明責任者が明確化されているだけでも、プロジェクトが滞りなく進む助けになるでしょう。RACIチャートの活用によって誤った意思決定を防ぎ、承認プロセスにおいても障害の回避が可能です。

これはプロジェクトの成功を阻む要因の排除にも繋がります。RACIチャートをメンバー全員が見られるように公開しておけば詳細も明確になり、全員で認識を一致させられます。

RACIチャートの作成方法

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RACIチャートは役割を表に示して作成します。では、具体的にどのように作成していくのでしょうか。ここでは、RACIチャートの作成における4つの手順について解説します。

1.タスクとメンバーをすべて書き出す

はじめに、表の縦軸にはプロジェクト内に含まれるタスクを、横軸にはプロジェクトに関わるメンバーの名前を書き出します。タスクは細分化し過ぎず、適切なレベルにします。

2.RACIの役割を割り当てていく

個人の能力や適性などを勘案しながら、メンバーをRACIのそれぞれの役割に割り当てていきます。人的リソースを適材適所に割り当てることを目的とするため、空欄があっても構いません。

3.公開して役割を理解してもらう

役割の割り当てが終わったRACIチャートを公開し、それぞれが果たすべき役割を理解してもらいます。自分は適任ではないというメンバーがいたら、代替メンバーを割り当てます。

4.誰もが常時参照できるように公開する

タスクの定義とメンバーの割り当てが決まったら、オフィスの見える所に貼り出す、共有可能なドキュメントを作成するなどしてメンバーの誰もがいつでも参照できるようにします。

RACIチャートを利用するメリット

RACIチャートは、プロジェクトを遂行する際に重要な役割を果たしています。ここでは、重要な役割を果たす理由として、RACIチャートを利用するメリットについてご紹介します。

・タスクごとの責任と役割について所在をはっきりさせられる

プロジェクトにおいて、それぞれのメンバーが果たすべき役割と責任範囲が明確になれば、誰が何をしているのかといった混乱がなくなり、各自スムーズに業務に取り組めます。

・人員の確保に役立つ

RACIチャートなしでプロジェクトを進めようとすると、口約束で社内のスタッフに仕事を依頼することになります。そのため、依頼された仕事に対応できないという問題が起こり得ます。RACIチャートを基に、事前に人員の割り振りを可視化することで、人員の確実な確保が可能になります。

・スケジュールが明確になる

RACIチャートを作成していく過程でプロジェクト内外のスタッフと進め方を確認しておくことで、スケジュールを明確化できます。

RACIチャートのデメリット

メリットがある一方で、RACIチャートを利用する際はデメリットも存在します。

・RACIの4つの役割のみでタスクをするため、タスクの詳細情報を記載しづらい

例えば、プロジェクトの要件定義というタスクを実行責任者(Responsible)に割り当てるとします。その際に、業務範囲と責任範囲を決めておかなければ、1人に過大な責任を負わせることになりかねません。対応策として、RACIの基本的な定義だけでは説明できないそれぞれの役割の作業内容や、責任範囲について別途説明できる補足資料を用意しましょう。

・リアルタイムでプロジェクトのニーズに対応することが難しい

例えば、タスクに何かしらの変更があった場合、変更後のタスクとずれが生じてRACIチャートに記載されている情報が過去のものになってしまいます。そのため、プロジェクトにおけるタスクの進捗をリアルタイムで把握するのは困難なのです。

RACI以外にみられるおもな役割やチャート

RACI以外にも必要に応じて役割が追加される場合があり、RACIチャート以外にもよく活用されているチャートがあります。ここでは、そのほかの役割やチャートについてご紹介します。

RACI以外のおもな役割

RACI以外の主な役割は3つあります。

Facilitator(ファシリテーター)

ファシリテーターは、組織が行う作業や活動全体が生産的・建設的な方向へ進むよう、側面から手助けをする役割を担います。例えば、プロジェクトメンバーが集まって会議をする際、会議の設定をしたり進行の調整をしたりして、会議に参加しているメンバーが目的に到達できるように支援するのです。

会議を効率的で有意義なものにするために、議題の検討や参加者の選別、会議内容の事前説明などの業務もファシリテーターが行います。また、会議で発言しやすい雰囲気を作ったり、参加者の発言を促したり、議論が深まるような質問をしたりして最終的に意見をまとめて結論を出すことも役割の一つです。

ただし、ファシリテーターはあくまでも会議が円滑に進むように側面から支援する中立的な立場であり、会議の議論に参加することはなく自分の考えを述べることもありません。

Supportive(サポーター)

サポーターは、プロジェクトの進行やタスクの遂行の補助的な役割を担います。プロジェクト関連の作業を実質的に支援する立場であり、プロジェクトマネージャーやプロジェクトメンバーが本業に集中できるように支援して、プロジェクトが成功する確率を高めます。

プロジェクトの現場に参加し、情報を把握してプロジェクトマネージャーの舵取りを助け、プロジェクトメンバー間のコミュニケーションに齟齬があれば、対策を講じるのもサポーターの役割です。

厳密にいえばRACIでいうR(Responsible:実行責任者)がタスクを遂行している時に、S(Supportive:サポーター)が支援するというのが本来の意味です。しかしA(Accountable:説明責任者)の進捗が停滞している時にも、サポーターを活用してフォローすることもあります。

ひとりでは手一杯になりそうなタスクには、必要に応じてSマークを付けておきましょう。

Verifies(検証者)

検証者は、タスクがきちんと遂行されているかどうかをチェックする役割を担います。会社経営でいうと、監査役に位置づけられるでしょう。検証者は、タスクに関連する情報を収集して客観的に評価し、体系的なプロセスを経て責任者へ結果を報告します。

また、単純な合否判定だけではなく、そのタスクがプロジェクトの方向性に沿っているかや、タスクの遂行には妥当性があるかなどといったチェック作業も欠かせません。

検証者にはタスクを正しく評価できるように、プロジェクトから独立性を持たせる場合もあります。すなわちプロジェクトについて直接の利害関係を持たない立場で検証にあたることがあるのです。

検証者には、検証を行うのに適した人材を選任することが重要です。さまざまな業務に関する専門的知識を持って、経営者視点でプロジェクトを俯瞰できるなど、検証者として必要な能力を兼ね備えていなければなりません。

RACIチャート以外によく活用されるチャート

RACI以外にも役割がいくつかあり、それらをRACIチャートに加えることによって、別のチャートとして活用ができるのです。RACIチャート以外によく活用されるものとして、4つが挙げられます。

(1)RASIC:RACIチャートにS(Support:支援者)の役割を加えたもので、支援者はR(実行責任者)やA(説明責任者)のサポートを担う補助的な役割を果たします。

(2)RACI-VS:RACIチャートにV(Verifies:検証者)とS(Signs off:承認者)の2つの役割を加えたものです。Vは成果物が一定の基準を満たしているかをチェックする役割を果たし、SはVの判断を踏まえてほかの人へ受け渡す役割を果たします。

(3)CAIRO:RACIチャートにO(Omitted:部外者)の役割を加えたもので、タスクとは直接かかわっていない関係者を分かりやすくしたものです。

(4)DACI:プロジェクトに関わる人々の担うべき役割や果たすべき責任を明確にし、それを主要タスクごとに図式化して意思決定プロセスを一元的に管理しやすくしたものです。

まとめ

プロジェクトを進めていく際に役割分担や責任範囲が不明確だと、誰も手を付けていないタスクが残ってしまったり責任を押し付け合ったりして、プロジェクトの遅延・後戻りが発生します。

関係者が多いプロジェクトでは、RACIチャートを使って個々のメンバーの役割を計画段階から定義しておけば、トラブルを未然に防いで業務の効率化につながります。役割の割り当てが曖昧だと感じるプロジェクトがある時には、自律的な組織の編成のためにもRACIチャートを試してみましょう。

RACIチャートはネット上を探せばExcelで作ったテンプレートが無料でダウンロードできるため、タスク管理ツールとして一度活用してみることをおすすめします。

RACIチャートの他にも、プロジェクトを円滑に進めるための管理方法にはさまざまなものがあります。詳しい資料もご用意していますので、ぜひご活用ください。


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