新規プロジェクトを立ち上げる際、リスクなどを考慮して実現可能かどうか判断します。そんなときに使う言葉が「フィジビリティ」です。「会議で耳にすることもあるが意味を知らない」という方もいるのではないでしょうか。
フィジビリティとは「実現可能性」という意味です。つまり「フィジビリティが高い」とは、プロジェクトが実現できる可能性が高いという意味を指します。では、実際にプロジェクトのフィジビリティを高くするにはどのようにすれば良いのでしょうか。
この記事では、フィジビリティの意味やフィジビリティスタディの進め方、事例についてご紹介します。
フィジビリティの意味
フィジビリティとは「実現可能性」の意味で、英単語の(feasibility)に由来します。
ビジネスにおいて、事業化や新規プロジェクトなど新しい試みに挑戦する際、実現可能性や事業の採算性を考えます。新規プロジェクトなどが成功する根拠がなければ、投資家なども支援金を出してくれません。そのため、実現できる可能性がどれぐらいあるかを調査して「フィジビリティが高い」ことを証明する必要があります。
フィジビリティの使い方はさまざまで、例えば新規プロジェクトを立案する際に、プロジェクトの具体性を考えたり、チェックしたりする場面などで使用します。また、IT業界ではシステムを構築する場面で、実現性があるかどうか確認する際に「フィジビリティ」が使われます。
フィジビリティとフィージビリティの違いとは
「フィジビリティ」は英語の発音から「フィージビリティ」と表記されることもあります。官公庁の文書などでは「フィージビリティ」が使われているケースもあるようです。
フィジビリティスタディとは
フィジビリティスタディは、新規事業などのプロジェクトの事業化の実行可能性や採算性を事前に調査することを示すビジネス用語です。「検討会議」として企業が実際にプロジェクトを実行する前に行うもので「実行可能性調査」「投資調査」「FS」「F/S」とも呼ばれます。
ここでは、フィジビリティスタディの目的や歴史、PoCとの違いについて解説します。
フィジビリティスタディの目的
企業は、プロジェクトが自社にとって有益なものになるかを判断するためにフィジビリティスタディを行います。プロジェクトを実行・成功させるためには、市場や社会面、技術面、価格面などさまざまな角度からの調査が必要です。
フィジビリティスタディの期間は、数週間から数ヵ月、革新的なシステムの改変や技術開発を伴うプロジェクトであれば数年かかる場合もあるほど重要な調査です。そのため、企業によってはフィジビリティスタディ自体をプロジェクトとするところもあります。
なお、調査は時間やコストがかかるものの、助成金制度が利用できる場合もあるので着手前に確認しておきましょう。
フィジビリティスタディの歴史
フィジビリティスタディは、1993年にアメリカ大統領のフランクリン・ルーズベルトがテネシー川流域開発公社(TVA)の設立した事例が最初と言われています。TVAは世界恐慌の対策を目的とした「ニューディール政策」の一環として、テネシー川の流域にダムや原子力発電所の建設といった公共事業をいくつも展開しました。この取り組みは、雇用の安定化などに大きな役割を果たします。成功の理由となったのが、フィジビリティスタディの徹底です。
この事例のフィジビリティスタディでは、経済的・技術的な面での検討はもちろん、環境の配慮や政治的な側面からも調査が行われています。個々の事業の前に綿密なフィジビリティスタディを行うことで、失敗のリスクを最小限に抑えてプロジェクトを成功させました。それ以降、大規模な建設事業において多くの民間企業でもフィジビリティスタディが実践されています。
フィジビリティスタディとPoCの違い
フィジビリティスタディと類似したビジネス用語にPoC(Proof of Concept:概念実証)があります。意味を混合して使用されやすい言葉ですが、正確には別の意味を持ちます。
PoCとは、新しい概念やアイディアの実証を目的とした、試作開発の前に行う検証やデモンストレーションのことです。フィジビリティスタディは新規プロジェクトの実現性を調査しますが、PoCは技術面・費用面での実効性を調査します。したがって、フィジビリティスタディで策定した課題を解決できるかの検証はPoCで実施するのが正しい流れとなります。
例えば食品開発会社の場合、新製品の開発を決める段階が「フィジビリティスタディ」となり、試食品を実際に作成するのが「PoC」となります。
なお、PoCの注意点として、何を検証するのかが明確に定まってないまま実施するのは避けましょう。PoC自体が目的化してしまうと、プロジェクト開発が停滞してしまいかねません。多くの資金をかけたものの検証項目が定まっておらずネクストアクションにつながらないということになれば、資金や人件費が無駄になってしまいます。
PoCに関してはこちらの記事で詳しく解説しております。合わせてご確認ください。
PoC(Proof of Concept)とは?検証内容や進め方、成功のポイントを解説
フィジビリティスタディの4つの要素
フィジビリティスタディには、「業界・市場」「技術面」「財務面」「運用面」の4つの要素があると考えられています。「業界・市場」は外的な要素に、「技術面」「財務面」「運用面」は内的な要素に分けることができます。
- 業界・市場
政治・経済・社会の動向、法規制の現状や法整備の方向性、さらに業界の動向や市場予測、競合先の分析など、外部の要因を調査し、プロジェクトがビジネスとして成立する可能性を予測するものです。 - 技術面
新たな商品・サービスを企画する際、自社の技術で生産・提供することが可能なのか、市場ニーズに応えられるだけの生産・提供能力があるのか、継続的に生産・提供することができるのか、社内の技術面から評価します。施設・設備面だけでなく、技術力のある人材を必要なだけ確保できることも重要な評価要素だといわれています。 - 財務面
そのプロジェクトをスタートさせることでどれほどの資金が必要になるのか予測し、財務面で実行可能かどうか、評価するものです。企画から事業化までにかかる投資額や、それによりどれほどの利益を得ることができるのか、投資収益率(ROI)を予測します。 - 運用面
スタートさせたプロジェクトを最後まで遂行することができるのかを評価します。プロジェクトを完遂させるために社内で協力できる組織構造になっているのか、人的リソースは充分か、運用面での知識やノウハウを備えているか、さらに運用面で適用される法的要件についても精査します。
フィジビリティスタディの進め方
前述したように、フィジビリティスタディは新規プロジェクトなどの資金確保にも重要な指標となります。特に海外進出を検討する際は、進出先や取引先の国特有の問題がトラブルとなることもあるため、事前調査でリスクを明確にすることは重要です。
フィジビリティスタディは「課題点の明確化」「課題解決に向けたプロセスの決定」「代替策の作成」「評価項目の明確化」「調査結果の評価」という順番で進めます。ここでは、各ステップの内容を解説します。
課題点の明確化
組織やビジネス課題を解決に導くためには、ビジネスに関与する人材が問題の存在そのものを認知したり、将来的なリスクを察知したりすることが欠かせません。そのため、まずは市場の規模を踏まえたうえで「技術面」「経済面」「業務面」における実現可能性の観点から課題点を明確化しましょう。
具体的には、技術の開発や適用がどれくらい可能なのか、新規プロジェクトの業績を評価するポイントの確認、プロジェクト実施に伴う費用などです。課題や起こりうるリスクを洗い出しておくことで、事前に対策を講じられます。課題点を明確にしたら、課題解決までの期間を算出しましょう。
またこのプロセスにおいては、洗いだした課題が第三者の人間でも理解できるよう、システミックな粒度にまで落とし込んで記録しておくことが重要です。単なる問題提起のフェーズに留めるのではなく、次のステップで改善に繋げられるように仕立てておきましょう。
▼ システミックな表現の事例
問題提起 |
システミックな表現 |
商品の配送漏れや遅れが生じないように、流通経路を見直した方が良いのではないか? |
配送漏れ、もしくは配送の遅延が生じないよう、受発注と配送完了のステータスを透明化し、管理を厳格化する必要がある。 |
開発工程が遅延しがちで、納品間際になって急対応がかさむなどの対応に課題を持っている。 |
開発工程の遅延が生じないよう、策定したスケジュールから数日以上遅延しているような場合はアラートが飛ぶように仕組化を行う。また初期段階で対処ができるよう、デイリーでチェックを行う打ち合わせなどを設定する。 |
課題解決に向けたプロセスを決める
課題を明確化したら、課題解決に向けたプロセスを決定するために要求・制約事項をリストアップします。例えば、効率化を図るために必要なシステムや、新たな部門・チームの結成、システム機能の拡充、プラットフォームの安定などが挙げられます。リスト化することで課題解決にかかるプロセスやコストの特定が可能です。
代替策の作成
検証によって解決案では実現が困難であることが判明する場合も少なくありません。解決案が実現不可能になる可能性も想定して、複数の代替案を用意しておきます。事前に複数の案を出しておくことで効率的にフィジビリティスタディを実行できるでしょう。検証結果に応じて案を柔軟に選択・代替できるようにしておくことがポイントです。
評価項目の明確化
複数の課題解決策を準備できたら、計画やプランニングなどの評価項目を明確化します。具体的には、プロジェクトの実行による周囲への影響、競合との競争における優位性の持続力、経営資源などです。評価項目を明確化する際は、市場の動向や法律による規制、社会環境なども考慮しなければなりません。これらの社会的な要素も含めて多数の評価項目を設定し、実行可能性の程度を調査する必要があります。
フィジビリティスタディの評価
フィジビリティスタディを実行したら、結果項目にもとづいて結果を評価します。フィジビリティスタディの結果は、プロジェクトの関係者や融資している企業・投資家の意思決定に関わる重要な要素です。手間はかかりますが、技術能力や予算、適法性、リスク、運用上の実行可能性、期間を適切に評価して報告書へまとめましょう。なお、評価は一時的な課題が生じても最終的な利益を得られるか否かが基準となります。
フィジビリティスタディの事例
ここでは、フィジビリティスタディを活用したイースクエアの事例を2件ご紹介します。イースクエアはアジアとアフリカにある現地ネットワークを活用したフィジビリティスタディの実行・評価レポートの支援を行っている会社です。
・タンザニアの事例
タンザニアでは、干し芋を製造・販売する事業のフィジビリティスタディが行われました。
具体的には、サツマイモの産地や種類、価格などの調査や、タンザニアにおける最大の国際見本市「サバサバ」に出展して干しいものテストマーケティングを実施しています。現地の小売店やスーパーで干しいものテスト販売することで、干しいもが一般市場で受け入れられるかの検証を行いました。加えて、簡易製造設備による干しいものテスト生産も行い、気候や市場までのアクセスを考慮して工場に適した土地を特定しました。
このようなフィジビリティスタディにより、干しいもが「現地で生産可能なのか」「市場で受け入れられるか」などを予測が可能となりました。加えて、フィジビリティスタディの検証結果をもとにJICA「協力準備調査(BOPビジネス連携促進)」にも応募し、採択されたという結果も出ています。
・バングラディシュの事例
バングラディシュでは、現地NGOと協働しながら、発電および蓄電装置のフィジビリティスタディを実施しました。これは、無電化地域の低所得者層を対象とした太陽光発電と高性能電池を活用した小規模電力供給モデルの構築を目的としています。クライアントからは「無電化地域の現状」「小規模電力供給モデルの実現可能性」「二国間クレジット制度の構築可能性」について理解したいとの依頼があったようです。フィジビリティスタディによって、無電化地域における生活様式や電力事業などの状況把握が可能になり、実現の可能性が高い事業モデルを考える足掛かりになったりした成果が得られたとしています。
これらの他にも、さまざまな分野でフィジビリティスタディは採り入れられています。
コーヒー自家焙煎ビジネス・プラットフォーム「RoCoBeL(ロコベル)」の展開を目的にフィジビリティスタディを進めている企業や、自走式ロープウェイを用いた都市移動の改善事業を行っている企業が進めている事例もあります。PoCとの違いを述べた際に解説したように、フィジビリティスタディは新規プロジェクトの実現可能性を調査するものです。Web3.0などをはじめ、世界規模でイノベーションが加速している昨今ですが、新たなサービスの誕生と共に今後さらにフィジビリティスタディの動きも増えていくでしょう。
まとめ
この記事では、フィジビリティの意味やフィジビリティスタディの手順、事例などについてご紹介してきました。フィジビリティは「実現可能性」という意味であり、新規プロジェクトや事業を発案するうえで重要な基準となります。フィジビリティが高くなければ、投資家から支援金を確保できません。フィジビリティを高めるにはフィジビリティスタディの実施が必要です。プロジェクトが本当に実現可能かどうか、調査・検証を徹底して行いましょう。
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