『アジャイルリーダーシップ』の内容を解説!アジャイルリーダーシップの定着に必要なものとは?

 2023.05.11  株式会社システムインテグレータ

近年、組織のビジネスを取り巻く環境変化がより激しくなりました。そのため、大手企業を中心に、アジャイルの手法を取り入れようとする動きが活発になっています。アジャイルに基づくビジネスは短いスパンで実証と改善を繰り返すため、組織のDX(デジタル変革)推進に寄与する考え方です。しかし、アジャイルのための人材育成やアジャイル組織の構築には時間を要します。また、導入には目的や意義を正しく理解することが不可欠です。

今回は『アジャイルリーダーシップ』という書籍の紹介を中心に、これからの社会に必要とされるアジャイルリーダーシップを分かりやすく解説します。

『アジャイルリーダーシップ』とは

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『アジャイルリーダーシップ』は、アジャイル指導の第一人者であるZuzana Šochová氏が執筆した一冊です。共立出版より発行されており、「アジャイルとは何か」を熟知している著者が「アジャイルを実践する上で必要なリーダーシップ」について解説しています。

そもそも「アジャイル(agile)」とは機敏や敏捷という意味を持ち、変化の激しい社会へ素早く対応するための能力のことです。組織をアジャイルに変化させていくための手助けとなるはずです。既にアジャイルを実践している方をはじめ、これから取り組みたい方にもおすすめの一冊です。

『アジャイルリーダーシップ』の詳細

『アジャイルリーダーシップ』では、リーダーに求められる在り方が解説されています。組織のリーダーには、多面的な視点を持つことに加え、組織を先導する影響力が必要です。ここでは、『アジャイルリーダーシップ』の内容から、リーダーに必要なスキルを学んでいきましょう。

アジャイルリーダーシップとは

本著における「アジャイルリーダーシップ」とは、権力ではなく影響力によって組織改革を進めていくことを指します。元々アジャイルという言葉は、ソフトウェア開発の現場で用いられてきました。近年では、組織経営やビジネスマインドにも役立つ考え方として注目されています。

アジャイルについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

アジャイル開発とは?特徴やウォーターフォールとの違いなど徹底解説

アジャイルリーダーシップのとれる組織はアジャイル組織とも呼ばれ、市場や顧客ニーズ・社会情勢の変化が激しい現代で、迅速かつ柔軟に対応できる適応力を有するのが特徴です。アジャイルによって世の中の「曖昧さ」を味方につけ、従業員一人ひとりが自律性や主体性を強く持ち、臨機応変な組織運営を進めていきましょう。

アジャイルが必要とされる理由

私たちは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」という環境下でビジネスを展開しています。現代では複雑かつ曖昧で取り巻く環境が変化し続けており、組織はマネジメントとビジネスの両側面で不確実性を抱えているのが現状です。また、ビジネスも短いサイクルで価値検証・修正を施しながら変化に柔軟な組織を構築し、新たな価値創出が必要とされます。

従来はマスメディアにより長期的なトレンドが形成されていましたが、さまざまなテクノロジーの進歩により個人が自由に情報を受発信できるようになりました。そのため、市場ニーズの変化スピードが早まり、ライフスタイルや価値観も多様化しています。組織として生き残るには、さまざまな変化へ柔軟に対応する必要があるため、アジャイルの考え方が必要とされているのです。

組織の変遷とアジャイル組織

アジャイル組織に決まった型はありません。しかし、アジャイル組織には以下のような共通点が挙げられます。

  • トップダウン型ではなく、自律分散型の構造である
  • 既存のマニュアルやプロセス順守ではなく個に権限があり、臨機応変さに優れている
  • 計画より実行(リリース)を重視し、高速(短期間)で繰り返している

組織のあり方として、1970年頃はピラミッド型で指揮統制と標準化に基づく形でした。1990年頃からはプロセスも重視した組織づくりが注目されるようになり、現在は変化や不確実性を味方につける組織づくりが良しとされます。

アジャイル組織は、現代の複雑かつ曖昧で変化の激しい社会という「曖昧さ」を味方に、高い柔軟性と適応力のある組織づくりを目指すものです。組織としての価値基準を組織全体に浸透させ、一人ひとりが同じ方向を向いて意思決定し、責任を持ちながら進みます。トップダウンではなく個に権限が与えられるため、臨機応変に対応できる点が大きなメリットです。

アジャイルリーダーに求められるもの

アジャイル組織を作るためには、影響力のあるアジャイルリーダーが必要です。アジャイルリーダーには周囲を巻き込み、個々人が主体的にリーダーシップのとれる人材育成を支援する役割があります。従来の統制や管理型マネジメントではなく、個々のスキルを育成するマネジメント方法で、研修や社内外でさまざまな経験が積める機会を与え、個の意識改革の推進を重視しています。

アジャイルリーダーのメンタルモデル

アジャイルリーダーの考え方は、リーダー自身が権力や主導権を持つことよりも、リーダーシップを周囲に共有した心理的安全性を重視しています。アジャイルリーダーシップに必要とされるメンタルモデル(行動イメージ)は以下の2つです。

・サーバントリーダーシップ
サーバントリーダーシップは奉仕精神に基づくもので、他者への奉仕や支援を第一としています。多様性を受け入れ、目標達成に向けて周囲を巻き込みながら、チームメンバー全体で互いに奉仕(サーバント)しあう組織づくりを目指すのが特徴です。リーダーは自らが掲げる目標やビジョンを組織にも明確に示し、日常的なタスクや短期目標にとどまらず行動します。

また、リーダーは自分より周囲のメンバーや他者を優先し、周りの成長とパフォーマンス向上のため、自分のスキルの使用を惜しみません。部下や後輩に対しても支援型のスタンスをとり、仲間の力を最大限に発揮できる環境や関係性の構築を推し進めます。そして、リーダーシップを周囲と共有していくのがアジャイルリーダーシップのため、心理的安全性を支える組織の透明性が不可欠です。

・リーダーとリーダー
組織の上司と部下という主従関係では、部下は上司というリーダーの主導権に基づき行動するでしょう。しかし『アジャイルリーダーシップ』では、リーダー(上司)とフォロワー(部下)という関係性ではなく、リーダーとリーダーという関係性であると説いています。

組織に従属的な部下を鍛えるのではなく、部下にも主導権を与え、自己組織化できる部下や仲間の育成を重視しているのです。自己組織化とは、メンバー一人ひとりが主体的な意識を持ち、チームとして最適な方法を判断し行動できることを意味します。自己組織化したチームは現場でも迅速な問題発見や課題解決ができるスキルを持つため、市場での組織の商品価値を高め、速いサイクルでビジネスを進められるのです。

権力よりも影響力

組織のリーダーの多くは権力で部下をまとめ、組織を動かしていくイメージでしょう。『アジャイルリーダーシップ』では、権力ではなく自らの影響力によって組織を変えていくとされています。権力での「統制」よりも「協働」を重視しており、リーダーの心のあり方に注目した概念です。アジャイルの考え方での「自己組織化」とは、「チーム(集団)として最適な方法を自ら判断しながら行動している状態」を意味します。個が心理的安全性を実感しやすく、組織の透明化に寄与します。

アジャイルリーダーシップとコンピテンシー

コンピテンシーとは「業務成績の良い個人の行動特性」を指し、知識や資格とは異なる概念です。リーダーを含め組織で働く際は職種や役職に応じて、企業が期待するコンピテンシー(行動特性)を設定しています。『アジャイルリーダーシップ』における、アジャイルリーダーのコンピテンシーは以下の通りです。

  • ビジョンを持っている
  • モチベーションが高い水準である
  • フィードバックができる
  • コーチングができる
  • ミーティングや会議を円滑に進められる
  • 自分や周りの人・システムを変化させられる
  • 意思決定できる
  • 協力できる

アジャイルリーダーシップを実際に導入している企業では、「福利厚生としてコーチング研修費用の半額を補助」「社内でフィードバックを与えあう文化の醸成」などの取り組みを行っています。個人の成長・チームやプロダクトの成功・組織の成長をすべて実現させるものとして、組織改革を推し進めているのです。

アジャイルリーダーシップの定着による効果

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アジャイルリーダーシップが組織に定着すると、主に2つの効果が得られます。リーダー自らが率先してリーダーシップを実践することで、周囲の雰囲気や仕事面に大きな効果をもたらすでしょう。

目的を持って働ける

仕事で高い生産性を持つためには、自分の担当業務の目的を正しく理解していることが基本です。想定通りの結果(成果物)を出すためには、一つ一つの作業の意義を感じられなければいけません。仕事の目的や意義を持つ大切さには「モチベーション」という言葉がよく使われます。モチベーションが高い人は、高いパフォーマンスを発揮しやすく、仕事でも高い生産性を上げられるからです。

『アジャイルリーダーシップ』でも、リーダーに必要なスキルとしてモチベーションを挙げています。リーダーが高いモチベーションで働いていれば、チームや組織の他のメンバーにも良い影響となるでしょう。

問題解決思考が身に付く

アジャイルの組織づくりは、市場や顧客ニーズの変化へ迅速かつ柔軟に対応することが目的です。変化に最善の対応をするためには、メンバーそれぞれの問題解決思考力が試されます。ビジネスで大小のトラブルは起こり得るもののため、トラブルは早期の事態収束と損失拡大の防止がカギです。また、トラブルは必ずしもマイナスの側面ばかりでなく、個々のメンバーのスキルを鍛えるチャンスでもあります。短いスパンで実証と改善を繰り返し、日々の現場で「振り返ること」を重視しましょう。

アジャイルの定着を進めているとある企業では、障害管理ボードを設置しています。障害管理ボードは、チームで何らかの問題が発生したら速やかにボードで共有し、メンバー全体で解決策を検討するためのものです。リーダーを含め関係するメンバーが直接問題を認識できるため、規模の大きい組織でも互いの距離を縮め、早期の問題解決と組織文化の改革に寄与します。

アジャイルリーダーシップの定着に必要なもの

アジャイルには「曖昧さ」という性質があるため、要点を意識しなければ組織に定着しにくい恐れがあります。組織に定着させるには以下の2つが必要です。

繰り返し伝える場・話し合う場

他人に物事を理解してもらう場合、「√(ルート)の法則」が用いられます。「√(ルート)の法則」とは、100人に理解してもらうには、同じ話を10回する必要がある(√100=10)という意味です。10回はあくまでも最低限の回数であり、他人に物事を理解してもらう場合、それなりの労力がかかります。繰り返し伝えるためには、話し合う場も必要です。

アジャイルの考え方では、「スクラム」というフレームワークでプロダクトを進める場合があります。スクラムでは、デイリースクラムと呼ばれる15分程度のミーティングの場を習慣として設けており、話を繰り返し伝えるのにふさわしい環境です。コミュニケーションをとりながら互いの共通認識を深めることで、アジャイルリーダーシップの考えを組織に浸透させられるでしょう。

忍耐力

アジャイルリーダーシップを組織に浸透させるには時間がかかるため、忍耐力も欠かせません。実際のプロダクトは短い周期で実証と検証・修正を繰り返す反面、チームを理想的な状態までもっていくには時間がかかります。また、ビジネスにおいて成功と失敗はどちらも起こり得るものです。たとえ想定通りの成果が得られなかったり、失敗したりしても、すぐ諦めない忍耐力が必要です。

しかし、成果が思うように出なければ、チームもリーダーもやがて疲弊するでしょう。疲弊した時はリーダーが率先して心身の健康を見直し、チーム全体が生き生きと働けるような場を作ることが大切です。タフな状況を利用し、リーダー自らの忍耐力を鍛えるチャンスに転換することで、チーム全体のリーダーシップを高められます。

まとめ

複雑かつ多様化した現在のビジネス環境へ適応するには、旧来的な組織のあり方では困難といえます。価値を生み出し続ける組織であるために、役職ではなく個々のメンバーに主体的なリーダーシップが必要です。政府が進めるDXとは、ITを駆使して組織の生産性や効率性を高める狙いがあるため、アジャイルの考え方も浸透しやすいでしょう。

なおアジャイル開発のプロジェクト管理については、過去に実施したウェビナーのの講演資料を公開していますのでこちらもぜひご覧ください。


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