インセプションデッキとは?作成メリットや構成要素・作り方を解説

 2022.08.10  株式会社システムインテグレータ

近年、ソフトウェア開発において主流とされつつあるアジャイル開発には、重要な工程が多く存在します。その中の一つとして挙げられるものが「インセプションデッキ」です。インセプションデッキは、プロジェクト開発に携わる関係者全員の共通認識を持つ際に有効とされています。

この記事では、インセプションデッキの概要や構成要素、作成方法、アジャイル開発との関わりについて解説します。

インセプションデッキとは

インセプションデッキについて理解する前に、アジャイル開発について確認しましょう。アジャイル開発とは、綿密に計画して順に実行していく、従来の「ウォーターフォール開発」の弱点を克服するものとして求められた開発手法です。アジャイル開発は、細かい単位で開発とテストを素早く繰り返しながらプロジェクトを進めます。そのため、仕様の変更にも柔軟に対応できることが特徴です。

そして、そのアジャイル開発を進める際に使用される手法の一つがインセプションデッキです。インセプションデッキは、プロジェクトの全体像を組み、メンバー全員がプロジェクトの開発に共通の認識と目標を持って取り組むために作成されます。

アジャイル開発の特性上、プロジェクトが当初の計画通りに最後まで進行することはほとんどありません。そのため、関係者間であらかじめ合意がなされないまま、プロジェクトが進んでしまうことも珍しくないのです。しかし、そこでインセプションデッキを使用することで、メンバー間で目指す方向が整理され、ブレないプロジェクト進行が実現できます。

こちらでは、アジャイル開発の詳細や関連する用語について解説しております。こちらも併せてご覧ください。

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インセプションデッキを作成するメリット

インセプションデッキを作成することには、いくつかの利点があります。以下に主なメリットを挙げました。

  • プロジェクトのスコープ(範囲)が定まる
  • 目標への統一認識をメンバー間で共有できる
  • プロジェクト各項目の重要度および優先順位を可視化できる
  • トラブルや課題をあらかじめ想定し、対策を打てる
  • プロダクトのユーザーやバリューが明らかになる

これらのメリットを生かせるように作成すれば、プロジェクトの成功確率を上げられるでしょう。

インセプションデッキの基本的な作成方法

インセプションデッキの作成は、開発メンバーに加えて顧客や利害関係者など、関わりがあれば誰でも参加可能です。

作成するタイミングは、スプリント開始前(スプリント0)の期間が多い傾向にあります。ただ、初期段階でどんなに綿密に計画したとしても、状況は常に変化するでしょう。そのため、インセプションデッキの作成は時間をかけすぎず完成させることが求められます。

手順としては、このあとご紹介する10の問いに答える形で作成していきます。

こちらも合わせてご覧ください。

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インセプションデッキを構成する10のトピック

インセプションデッキは、10問のトピックとその解答で構成されています。以下のトピックは「アジャイルサムライ」という書籍に記載されており、アジャイル開発が広く認知されるようになったきっかけといえます。項目ごとに、詳しく確認してみましょう。

問1:私たちはなぜ、ここにいるのか?

開発チーム・メンバーの存在意義です。そもそも、なぜこのプロジェクトに取り組むのか、自分たちの仕事の核となる価値とは、何をお客様に届けたいのか、目標を定めましょう。

問2:エレベーターピッチ

忙しい経営者やスポンサーと、偶然エレベーターで居合わせたとして、その短い時間でプロジェクトの意味や本質を伝える練習です。誰に向けているのか、要約すると何なのか、どんな価値が生み出せるのか、ライバルとの違いは何かといった項目を無駄なく表現できるよう、鍛えておきましょう。

問3:パッケージデザイン

プロダクトの完成イメージを描きます。購買意欲を刺激するようにアピールしましょう。たとえば、ロゴやキャラクターのイメージはどうするか、広告ではどのポイントで差別化し、どのような色と形にするかといった項目です。

問4:やらないことリスト

プロジェクトにおいて「何をやらないのか、やる必要がないのか」が明確にされることは少ないのではないでしょうか。また、後で決める方がよい項目もあるかもしれません。やること・やらないこと・あとで決めることを言語化・可視化し、重要とされることだけに集中できるようにします。

問5:ご近所さんを探せ

「ご近所さん」は、プロジェクトに関係するすべての人です。そのため、多くの人数が関わることが予想されるでしょう。プロジェクトにおいて問題が起こることは避けられません。問題が発生しても、素早く頼れる人を洗い出すことで、スムーズな作業ができるでしょう。

問6:技術的な解決策を描く

トラブル発生時に、技術上の解決策についてアーキテクチャを作り、関係者全員に確認・共有しましょう。例えば、どのプログラミング言語で・どのツールを使って実装するか・ライブラリはどう構成するのかなどです。技術的な問題を明らかにすることで、現実的な解決策も見えるかもしれません。

問7:夜も眠れない問題

現段階の「問題」「課題」「障壁」を言語化しましょう。悪い事態をどう回避できるか、起きてしまったらどう被害を最小限にできるか、事前に検討が必要です。インセプションデッキを作成した時点では、完全に解決することはできません。しかし、リスクを少しでも低減できるように努力をすることが大切です。

問8:期間を見極める

現時点で、どのくらいの時間がかかる見込みか・およそいつまでにどこまで進捗させるかを数値化しましょう。これは目標であって、確約ではありません。

問9:トレードオフスライダー

プロジェクト開始前に、重要な要素はどれで、どれくらいのレベルで重要かを決めておくことで、問題が起きた際の指標となるでしょう。具体的な要素は、以下の4つです。

  • 必要な機能をすべて備える(スコープ)
  • 予算内に収める(予算)
  • 納品期日を遵守する(納期)
  • バグを出さず、高品質を目指す(品質)

プロジェクトの進行中に、考え直す必要に迫られる場面もあるでしょう。その際に何を優先して、どれくらいのレベルで選ぶかを、事前にすり合わせた要素から判断します。

問10:何がどれだけ必要か

プロジェクトに必要な「スキル」「期間」「コスト」をまとめます。このトピックで、自分たちが実現したいプロダクトの意味と目的を再確認し、認識の違いを減らします。また、インセプションデッキには役割についても明記することをおすすめします。役割を明確にすることで、生産性の向上にもつながるでしょう。

まとめ

この記事では、アジャイル開発におけるインセプションデッキについて、作成メリットや構成要素、作成方法について解説しました。インセプションデッキは、近年主流とされるアジャイル開発を行う際に有効な工程です。インセプションデッキを使用することで、関わるメンバー全員がプロジェクトに対し、共通の認識を持って取り組めるでしょう。

なお、弊社が過去に実施した「アジャイル開発のプロジェクト管理手法」セミナー(講師:弊社会長梅田)の講演資料を公開していますので、こちらもぜひご覧ください。


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