今回はスプリントの概要からアジャイル開発やスクラムとの関係性、メリット・デメリット、必要な体制などをご紹介します。
いずれの内容もアジャイル開発やスクラムを理解する上で重要な内容となっているため、ぜひ、最後までご覧ください。
スプリントとは
スプリントとは、アジャイル開発のひとつであるスクラム開発の基準となる考え方です。スプリントは日本語で「短距離走」という意味があり、スクラム開発では細切れにして開発を行うことを示します。
スプリントでは1週間から2週間を基準にタイムボックスという期間を構築し、そのタイムボックスごとに仕様設計や開発、リリースを行います。この工程を繰り返して開発を行うことがスプリントの特徴です。
では、アジャイル開発全体の概要やスクラム開発などについてご説明します。
アジャイル開発とは
アジャイル開発とは、トライアンドエラーを前提とした開発方法であり、数週間や数ヶ月の短い期間で開発を行います。
アジャイル開発は、顧客からの要望をもとに最低限の機能を持つプロダクトをすぐにローンチできる点が特徴です。従来のウォーターフォール開発と比べて設計に余白を持たせることで、柔軟に仕様変更やトラブルに対応できます。
顧客の声をこまめにフィードバックできることから、機能の調整がしやすいというメリットがあります。アジャイル開発は、WebサービスやWebアプリ、スマホアプリなどの開発に向いている一方で、企業の基幹システムや医療システムなどの大規模な開発には適しません。
スクラムとは
スクラムとは、アジャイル開発の手法のひとつであり、チームを構成して役割やタスクを分散して開発を行うことです。スポーツのラグビーの用語からスクラム開発と呼ばれています。
スクラム開発の特徴は、チーム全体で開発を進めるため、アジャイル開発のなかでも特にコミュニケーションが大事になります。また、チームがほかのチームを支えていることが多く、チームワークが必要な開発ともいえるでしょう。
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イテレーションとの違い
スクラム開発では、イテレーションという用語も登場しますが、スプリントとは同じ意味で使われます。イテレーション(iteration)は「反復」「繰り返し」という意味があり、短期間で反復して開発を示す単位です。
スプリントとは同じ意味ですが、開発によって呼び方が変わることがあります。いずれも開発期間の単位を示すことと覚えておきましょう。イテレーションの期間もスプリントと同様で1週間から2週間程度で機能をリリースするイメージです。
ただし、イテレーションの期間は開発によって異なります。
スプリントの必要性
スプリントの必要性は、アジャイル開発の特徴が深く関係しています。
アジャイル開発は数週間程度でリリースすることができて、途中の修正や追加がしやすいわけですが、毎日のように開発要求がきたらどうなるでしょうか。連日、業務の修正を行う必要があり、無駄な作業や手戻りが起こってしまいます。
そこで、アジャイル開発の長所を保つために、開発事項の期間を決める必要があるわけです。スプリントを決めれば、過剰な手戻りを防いで迅速な開発や実装が可能となります。
また、スプリントがあることで開発者が全力を注いで開発にあたることができます。このような要素からアジャイル開発にはスプリントが必要です。
スプリントのメリット
ここからは、スプリントのメリットをご紹介します。スプリントには以下のメリットがあります。
・急な仕様変更やトラブルに対応しやすい
スプリントで開発期間を短く区切ると、長くても開発期間は1ヶ月程度です。そのため、顧客に提供した後で仕様変更や追加要望が起こっても柔軟に対応が可能です。トラブルなど、不測の事態が起こった場合も同様です。
ウォーターフォール開発では、長期的な設計計画を立てるため、急な仕様変更の際は対応しにくい側面がありますが、スプリントで区切ることは柔軟な対応を可能にします。
・テストとフィードバックがしやすい
スクラム開発でスプリントを短くすることで、短期間で新しい機能を開発、テスト、フィードバックの流れがスムーズに進みます。ユーザーのニーズをその都度、拾い上げて開発に反映できるため、テストとフィードバックのサイクルを短くすることが可能です。
特に近年は顧客のニーズが流動化しており、システムを継続的に使ってもらうためには、定期的なバージョンアップが必要です。スクラム開発におけるスプリントを基準として、開発することが顧客にも自社にも有益なものになります。
・短期の開発期間が開発者のモチベーション向上につながる
スクラム開発のスプリントの中心は、なんといっても開発にあたるメンバーです。メンバー間でコミュニケーションを図り、モチベーションを維持できるかがポイントになります。長期的な開発になると、最終目標が遠く感じてしまいモチベーションの低下が考えられますが、スプリントは短期間ですので常に開発目的を意識しやすい環境です。
次のリリースが1週間後なのか1年後なのかでは、どちらがモチベーションを維持しやすいか、容易に想像できるはずです。
以上がスプリントの主なメリットです。しかしながら、スプリントにはデメリットもありますので、次章でご説明します。
スプリントのデメリット
スプリントのデメリットには、以下があげられます。スクラム開発を行う際は、以下の点に注意して取り組んでください。
・管理が煩雑になる
スプリントは、細かく期間を区切って目標や計画を立てていきますが、その回数が多くなると管理が煩雑になります。たとえば、「自分達は今どの部分の開発を行っているのかわかりづらい」という状況になることが考えられます。
顧客からの依頼によりスプリントの回数が増加すれば、開発期間が長引くことがあるでしょう。
スプリントを正しく管理するには、プロジェクトマネージャーのような管理者を置くことが大事です。また、開発内容によってはウォーターフォール開発を選ぶことを視野に入れてみてください。
・スプリント設定のスキルは習得までに時間がかかる
スプリントをうまく設定するにはポイントをおさえる必要があり、そのスキルを習得するまでにはそれなりに時間を要します。
スプリントは短期間かつ、期間内にメンバーが集中して取り組むことがポイントになります。ウォーターフォール開発に慣れていた場合であれば、スクラム開発やスプリントの概念や仕様にすぐに対応できないこともあるでしょう。ウォーターフォール開発とスクラム開発では、開発で重視する箇所や開発プロセスが異なります。
そのため、スクラム開発やスプリントに慣れるには一定程度の経験が必要です。急に開発方法を移行するのではなく、スクラム開発に慣れる練習を入れてみてください。
・コミュニケーションが重要
スクラム開発でスプリントを設定したら、メンバー間のコミュニケーションが重要です。メンバーのなかで1人でも伝達ミスがあると、作業の停滞などプロジェクト全体に影響が及びます。
ですから、リーダーやメンバーには開発に必要なスキルがあるだけではなく、コミュニケーション能力も求められます。リーダーはメンバーがいつでも気兼ねなく話せる状況を作ることが大事です。プロジェクトを進める前に、コミュニケーションの取り方や働き方などの勉強会を開いてみるのもいいでしょう。
以上のように、スクラムにはデメリットもあります。デメリットを考慮してスクラム開発に取り組んでみましょう。
スプリントの流れ
ここからは、スプリントの流れをご紹介します。スプリントの設定には、以下の5つの流れがあります。
プロダクト・バックログの作成
プロダクト・バックログとは、開発における機能や改善が必要なものに優先順位をつけることです。優先順位をつけることで、そのスプリントで対応する内容を決定します。ときには、次回以降のスプリントで対応するケースもあるでしょう。
スプリントごとに対応すべき内容、つまりTODOをリスト化したものがプロダクト・バックログです。また、プロダクト・バックログは、顧客などのステークホルダーがプロダクトの進捗を把握する際にも用います。
スプリント計画の設計
スプリント計画の設計とは、そのスプリントで提供できるものとそれぞれの達成方法を示すことです。スプリントで実行すべき具体的な内容、それに向けてどのような開発や行動をとるかを明確にします。
計画では「誰が」「どうやって」行うかを具体化することがポイントです。また、計画の設計が仕上がったらプロダクト・バックログなどとともにメンバーと共有してインプットしてもらいます。インプット後は、それぞれのメンバーに何をすべきか具体的にアウトプットしてもらうと、チーム全体で理解が深まります。
スプリントの開始
スプリント計画の設計が終わったら、いよいよ開発がスタートします。スプリント・バックログをもとに開発を進めていきますが、顧客からの要望があれば適宜、改善や追加を検討します。そのスプリント内で行うのか、次回に持ち越すかなどを決定します。
また、リーダーは顧客からの計画や設計をもとに進捗を管理して、顧客からの要望があれば迅速に対応することが求められます。機能の改善や追加があれば、その都度、対策を検討してメンバーに落とし込むことが必要です。
スプリントレビュー
スプリントレビューとは、スプリントが終了した後に行われる会議です。完成した機能が顧客にとって満足できるものなのか実装を行います。必要に応じて、プロダクト・バックログの更新が必要であり、今後の開発の見通しを示す場となります。
スプリントレビューには顧客を含めたステークホルダーも出席し、プロジェクトの進捗を確認します。また、ステークホルダーからのフィードバックが得られる場でもあります。
前向きなフィードバックをもらうことで開発メンバーのモチベーションの向上が期待できます。さらに、プロダクト・バックログが更新されることから、次回のスプリントの目処が立ちます。
スプリントレトロスペクティブ
スプリングレトロスペクティブとは、スプリントレビューを踏まえて開発した制作物がどのように変化したかを顧客に確かめてもらうことです。スプリントを締めくくる場として、開発チーム内で行われる振り返りと考えてみてください。
スプリングレトロスペクティブでは、開発物以外のことに関しての現状を共有したり、課題解決のための対策を話し合ったりもします。
そのスプリントでうまくいったこと、うまくいかなかったことを振り返ることで、次のスプリントに活かします。
スプリントの実施に必要な体制
スプリントの実施には、「プロダクトオーナー」「スクラムチーム」「スクラムマスター」が必要です。
プロダクトオーナーは、プロダクト・バックログを管理する責任者になります。スクラムチームは、実際に開発にあたる開発メンバーのことです。スクラムマスターは、開発時にプロダクトオーナーやスクラムチームをサポートする役割を持ちます。
まとめ
スプリントについてご理解いただけましたでしょうか。スプリントは、スクラム開発において基準となるものです。スプリントにはメリットやデメリット、必要な体制があります。本記事を参考にして、スプリントについて理解を深めてください。
また、弊社が過去に実施した「アジャイル開発のプロジェクト管理手法」セミナー(講師:弊社社長梅田)の講演資料を公開しています。こちらもぜひご覧ください。
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