イベントレポート
クラウド時代のプロジェクトマネジメント
~プロジェクト管理とクラウドの本質とは?~
現在、IT企業を中心に建設業など、「プロジェクト管理の運用・強化」は大きな課題です。 統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」を開発し、自社導入している弊社が中心となり、 プロジェクトマネジメントの実践的手法、話題のクラウドコンピューティングの本質と実態、 経営者の視点でプロジェクトを「見える化」するメリットやプロジェクトを管理手法をご紹介いたしました。
開催概要 | |||
主催 | 株式会社システムインテグレータ | ||
日時 | 2010年8月27日(金) 14:00~17:10 | ||
会場 | 秋葉原UDXカンファレンスオフィス |
プロジェクトマネジメント最前線
日本IBM株式会社で長年アプリケーション系のプロジェクトマネージャを経験し、現在でもSenior Exective Project Managementというポジションでプロジェクトマネージャとして現役で活躍している一方で、2008年より会員数2,600名、PMP資格取得者28,000名というPMI日本支部の会長としてプロジェクトマネジメントの普及に努めてきた神庭氏に現代におけるプロジェクトマネジメントの考え方や視点についてご講演頂いた。
1.社会的な変化(前方に何かいる)
現状認識として、幾つかの事例を元に市場の変化について紹介された。
その中の1つ目には、企業経営者へのアンケートからITシステムへの期待値に対して効果が満足のいくものでは無いという結果が導かれており、何故乖離があるのかとの投げかけがあった。 2つ目には、市場のグローバル化について中国の可処分所得を例に上げて紹介、どれだけのスピードで発展するか、このスピードについていけるかも企業の生き残りに直結していると考えていると企業にとって対応の重要性を説いた。
また、経済産業省の調査データを元に最近の経営層が必要とする人材像という面からもグローバル化に対応する人材を一番欲しているという点を指摘、反面でプロジェクトマネージャの順位が落ちていると説明。更には、2010年8月18日号の日経コンピュータの記事中のデータには『コンサルティング/上流設計サービス、システム開発関連サービスの重要度で2009年と比較して重視されなくなった事』という項目があり、両方共に1番重要度が落ちたのがプロジェクトマネジメントだったという事実が伝えられた。
神庭氏は『このデータをどう判断するかは難しい。プロジェクトマネジメント自体が色褪せているとは誰も考えないとは思うが、相対的にもっと重要な事が台頭してきたのではないかという可能性がある』と、この章では問題提起された。
2.ユーザー企業の意識(JUAS調査(2010)結果から)
次に、別の角度からITに対する状況をご紹介頂いた。
2010年5月にJUASから発表されたデータからの分析ではSaaS、クラウドは今後大きく利用が伸びそうで、ソフトウェアの購入や保守、開発は経営層からは不要と考えられている様子が伺える。ここでは“手軽”というのがキーワードのようだ。
また、サーバの設置場所も社内から社外に移すという傾向にある。 IT投資への評価は97%の企業が実施しているが、評価軸がまだまだ流動的でシステム資源をきちんと使っているか、利用率はどうか、稼働率はどうか、といったシステム都合での指標のみで、業務改善効果が上がっているか、期待効果が得られているかという指標で評価出来ていない事に経営は不満を持っているというデータも上げられた。
3.プロジェクトに求めるものの変化
かつてのプロジェクトマネジメントが、QCDの管理で充分と考えられていたのは開発ベンダー側の理屈であり、運用後の期待効果についての指標が無い限り成功とは言えない。投資への評価には効果の軸を増やしていく必要があると説明した。
また、開発だけではなく運用にも評価の軸足を移していく必要があり、また運用段階でも効果面まで測定していくべきと伝え、プロジェクト目的ではなく、あくまでも手段であり道具である事を間違えてはいけないと説いた。 また、最近の商品の短命化(例えば携帯電話など)を例に取り、ライフサイクル短期化に対してのアプローチの仕方についての課題を提示した。 その様なライフサイクルの短い時代では、プロジェクトマネジメントからの視点でも観点が変わってきていると続ける。
まず、ビジネスの単位がラインオブビジネスを縦の軸として捉え、横の軸には製品単位で評価する事が出来るというマトリクス型での仕事の進め方に変化している。システムで考えても縦型にレガシーの既存システムが配置されているのだが、時代の要請は製品/サービスなど事業面での整備を求められている。そうなると横軸での管理が必要となってくる。
ITILでも長らくV2では縦型のレガシーシステム単位での管理を位置づけていたが、V3では横軸での管理がフレームワーク化されてきた。すでに1個のプロジェクトだけを見ていれば良いという事ではなくなってきている。 これをPMIではプログラムマネジメントと呼んでフレームワーク化している。 横につながっているものをどのように理解していったら良いかという観点も学んでいかなくてはならない。今の時代にはプログラムマネジメントの視点が必要になってきていると言える。
ITIL V3ではプログラムマネジメントにも通じる部分があり、フレームワークにしてもPMIの標準の1つだけやっていれば良いという時代は終わっており、経営の期待に沿うためには良いものにはどんどん取り組んでいく姿勢が必要だと言う。
4.グローバル標準の進化
本来であれば、神庭氏はPMI日本支部会長という事もあり、PMIの標準について説明すべき立場ではあるが、ここで紹介はあえて行わなかった。これは1個1個の標準自体に意味がある訳ではなく、広い視点で色々なものに総力を上げて取り組む必要があり、短時間で全てを語る事は出来ないからだと言う。
新規開発案件が減っている現在、若い世代にはフルライフサイクルを経験する機会はなかなか無い。そのため全体感の視点を持てる機会が減っている。反面、経営からは全体感を俯瞰する視点を持てる人材が求められている。そうなると考えられるのはフレームワークという枠組みを活用して学ぶ事だ。
PMBOKは基礎中の基礎と位置付け、9つの知識エリアを欠くとプロジェクトに穴が空く。フレームワークは、整理し理解するための枠組み(道具)として考える事が大事。道具、物差しとして上手く活用して頂く事を望んでいる。 フレームワークの中身でポートフォリオマネジメントやプログラムマネジメントの概要について触れ、重ねてPMBOKだけやっていれば良いという時代ではないと訴えた。
最後に、『新しい事、経験したことのないところにこそ価値があり、同時にリスクがある。 リスクマネジメントの基本は、プロジェクト発足初期に可能性のある限りのリスクを書き出すところから始まる。ここで気づく事が出来ないものが一番のリスク要因である。
『これを出来る限り気づき易い環境、実施済みのフレームワークを活用する事が今の時代のプロジェクトマネジメントへの適応の仕方ではないか。』と締めくくった。
クラウド・コンピューティングの本質と
エンタープライズ・クラウドの可能性
野村総合研究所
情報・通信コンサルティング部
上級コンサルタント
松永 エリック・匡史 氏
野村総合研究所で通信事業者向けの戦略コンサルティングを行っている松永氏は、クラウドに関して、各種ITメディアや「クラウドコンピューティングの幻想」(技術評論社刊)などの執筆を通して様々な提言をされている。本講演では最新の動向も踏まえて、クラウドの本質についてお話を頂いた。
クラウド・コンピューティングとは?
「クラウド」という言葉は、グーグル社CEOのエリック・シュミットにより命名され、「全てのコンピュータ資源がネットから供給されるようになるもの」という概念から始まった。松永氏によると、クラウド・コンピューティングとは「全てのコンピュータ資源がネットから提供されること」であり、「使った分だけ払いで、しかも安い」。そして、「これを実現する技術は仮想化技術」となる。
当初、人々のクラウドに対する印象は、「安かろう 悪かろう」であった。しかし、米国においてはそういった考えが、間違った先入観によるものであることが実証されつつある。松永氏は、米国連邦省庁がクラウドにより各連邦省庁向けにウェブポータルを通じたサービスを提供している事実を指摘して、そう断言する。
利用者から見たクラウド選択の課題
当初、アマゾンのクラウドは酷評され、「アマゾンの危険な賭け」と呼ばれていた。しかし、グーグルがクラウドのイメージ改善に貢献し、以後米国におけるクラウドサービスを牽引している。 実際に米国では、オンプレミスの補完としてクラウドを試しに利用する例が多く(例:クリスマス商戦対応)、その結果として、企業内でクラウドの浸透が始まった。 このあたりは日本の企業のクラウド利用に対する慎重さと比較して、まずは試用してみることを松永氏は推奨する。
また、クラウドに対する温度差は、企業規模(大企業or中堅企業)によっても異なる。例えば、セキュリティに関しては、大企業では不安が強いが、中堅企業であれば、「自社に置いておくより、よっぽど安心」ということになる。
但し、松永氏は、米国愛国者法を例にして、データのある場所を事前に確認する必要性を説く。米国愛国者法では、米国内サーバーに存在するデータは米国司法当局による調査の対象となるもので、サービス利用のひとつの懸念材料となるものだからである。
クラウドを踏まえた「大量データ解析時代」の到来
また、クラウドサービスの進展により、今後拡大が予想される分野として、「大量データの吸い上げ・蓄積と活用」が挙げられる。今まで大企業しか利用できなかった大量データ分析が中堅企業以下でも利用することができるということになる。このデータの活用法が企業の新たな差別化の源泉となるであろう。
10年以内に社内で運用されるサーバーは無くなる
松永氏は国内のクラウド利用の市場規模統計を示し、確実な市場拡大を予想し、マイクロソフト社CEOのスティーブ・バルマーが2007年当時、「10年以内に社内で運用されるサーバーは無くなる」との発言を引用して講演を締めくくった。
経営視点のプロジェクト見える化
株式会社システムインテグレータ
代表取締役社長
梅田 弘之
セミナーの主催元である株式会社システムインテグレータの代表取締役 梅田弘之が「経営視点のプロジェクト『見える化』」と題して、組織のプロジェクト管理に必要なことについて解説した。
なぜプロジェクト管理ができないのか
梅田は長年、プロジェクト管理強化に取り組んできて、独自のプロジェクト管理手法「PYRAMID」を開発するなどしてきたが、「統合システムで管理しない限り、プロジェクト管理力は向上しない」という結論を得て、統合プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」を開発したと言う。
従来のプロジェクト管理強化がうまくいかない原因として
- 部分改善の繰り返しで全体最適化されていない
- 現場に負荷のかかる複雑・面倒なツールを使用している
- トップが強い意志を持って推進していない
- 精神論主体でプロジェクト管理の仕組を提供していない
といった点を挙げ、それらを改善するシステムインテグレータ社の取り組みを紹介した。
システムインテグレータ社の取り組み
システムインテグレータ社では
- PMBOKの9知識エリアを統合管理するシステムを構築
- トップが強い意志とリーダーシップを持って利用を指示
- 導入効果を共有して、見える化効果を理解してもらう
といった取り組みにより、全社にプロジェクト管理システムを定着させ、赤字プロジェクト削減といった導入効果を上げている。
PMBOKの9知識エリアを統合管理するシステムを構築
プロジェクト管理のERPという発想で、PMBOKの9知識エリアをカバーする統合システムを開発し、Excel等に分散している情報を一元管理。
データの整合性を保ち、二重入力を削減、集計作業の自動化を可能とする、現場に負担のかからないプロジェクト管理の仕組を構築した。
トップが強い意志とリーダーシップを持って利用を指示
代表取締役であり、システムの設計者でもある梅田自身が全社に利用を指示。PMOを導入推進担当者として立て、利用状況のチェック、指導などを継続して行わせることで全社にプロジェクト管理システムを定着させた。
さらに、各開発部門にPMO委員を立て、部門内でも運用状況をチェックする体制を作り、PMOによる横断的なチェックと合わせて利用を徹底。運用状況のチェックはシステムから自動で抽出できるためPMO、PMO委員のチェック作業も定型業務化されている。
導入効果を共有して、見える化効果を理解してもらう
また、メンバーに積極的にシステムを活用してもらうよう、プロジェクトの情報をオープンにすることで導入効果を共有することも行っている。
部門ミーティングでは、システムの画面を見ながら進捗報告や要員アサイン状況、部門予算見込などを確認し、見える化効果を全員が理解できるようにしている。
テンプレート機能の活用により、成功プロジェクトのノウハウを経験の浅いリーダーにも共有したり、四半期別の失敗プロジェクトの発生件数をグラフ化し導入効果を共有するなど、メンバー全員がそれぞれの立場で導入効果を理解できるような工夫を行っている。
[RELATED_POSTS]プロジェクト管理はクラウドサービスが向いている
梅田は、販売管理などの基幹業務と比べて、プロジェクト管理には普遍的な解がありパッケージ導入に適していると言う。さらにクラウドサービスであれば、利用者は社外からでもシステムを利用でき、初期導入コストが抑えられるため、特定プロジェクトのみでの利用といった導入も可能なため、全社への段階的な導入展開もやりやすい。
バージョンアップも自動で行われるため新機能のメリットをフルに享受できるなど、敷居の高いプロジェクト管理システムの導入をまずクラウドで始めてみることを勧めている。
導入を通してわかったこと・・・浸透のための心得
最後に、プロジェクト管理浸透のための心得として、下記の10箇条が紹介された。
- プロジェクト管理はトップダウンでなければ浸透しない
- 現場にツールを提供しなければ合理化はできない
- バラバラのツール(道具)では現場は楽にならない
- ローカルにデータを保管させると、ごまかしが通用する
- PMOなどの立場で定期チェックするルールが必要
- 通常業務の中で必ず使うことになる仕組みを設ける
- 一度に完全を目指さず、段階的に普及・浸透させる
- 変に制限をかけず、オープンにしてみんなで使う
- 部門会議や経営会議、取締役会でも積極的に利用
- 部門のアクションプランやマーケティングなどにも拡大
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