ダイナミック・ケイパビリティとは?概要や必要性をわかりやすく解説

 2023.01.30  株式会社システムインテグレータ

ダイナミック・ケイパビリティは、戦略経営論に関する学術用語であり、DX化の必要性を解説する際によく用いられます。経済産業省による「ものづくり白書」で用いられたことをきっかけに、国内での注目が高まった経営論です。
この記事では、ダイナミック・ケイパビリティの概要と重要性、実現に向けたポイントを解説します。 

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ダイナミック・ケイパビリティとは

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ダイナミック・ケイパビリティとは、「環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する力」です。この定義は、経済産業省・厚生労働省・文部科学省の「ものづくり白書2020」によるものです。もともとダイナミック・ケイパビリティは、カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱された理論です。

まずは、ダイナミック・ケイパビリティの重要性、効果的な進め方について解説します。 

参考:令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策 

ダイナミック・ケイパビリティの重要性

経営環境や顧客ニーズが頻繁に変化する昨今の市場において企業が実績を上げていくには、ダイナミック・ケイパビリティの向上が不可欠です。これは、環境の変化に応じて企業内外の経営資源を再構成し、市場競争力を長期的に維持する能力のことです。既存の経営資源を状況に応じて再構成することが特徴であり、継続的に実践することで競争優位を維持する効果が見込める経営論です。

近年では、新型コロナウイルスの流行によってリモートワークの導入率増加やサプライチェーンの停滞といった変化が生じており、勤務形態や売上などに影響が及んだ企業が各業界に存在します。一例として中国・武漢周辺で新型コロナウイルスが流行した際には自動車部品の調達が滞り、中国に生産拠点を保有する日本の自動車部品工場が影響を受けた事例があります。コロナ禍の拡大時期は不定期で予測も困難であり、企業にとっては長期的な経営戦略を立てづらくなる要因になっているのです。

各業界で海外企業の参入や外国人労働者の増加といったグローバル化が進んでいることも、国内市場に影響を与える要素の一つです。国内企業にとっては競合他社の増加につながる動きであり、グローバル化が進む環境下で競争力を維持する取り組みとしてダイナミック・ケイパビリティの向上を図ることは重要といえます。 

参考:2020年版 ものづくり白書(令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策)|経済産業省 厚生労働省 文部科学省 

ダイナミック・ケイパビリティとDXの関係

ダイナミック・ケイパビリティの推進にあたって必要となる情報収集を行う際は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することが有効な対策になります。国内の製造業では製造工程のデータ収集に取り組む企業が2017年をピークとして3年連続で減少しており、DXに向けた取り組みが鈍化していることが課題になっている状況です。

DXとは業務のデジタル化を推進して業務効率向上、コスト削減などの実現を目指すことです。また、業務上の取引や契約などをデジタル化して情報管理の効率化、業務品質向上などを図る取り組みをDX化という場合もあります。例えば、書類作成に電子署名を用いたり、経営データをAI技術で収集・分析したりすることなどがDXに該当します。

DXとダイナミック・ケイパビリティの関係を表すデータとして「ものづくり白書2020」に掲載されている調査によると、ダイナミック・ケイパビリティを重視する企業は、そうでない企業と比較して旧型のシステム維持を目的とした投資が少ない傾向でした。一方でビジネスモデルの変革やデジタル人材の育成を目的とした投資が比較的多いことから、基幹システムのバリューアップやデジタル人材の育成といったDXの推進に多くの予算を振り分けていると考えられます。

DXの推進によって経営情報をリアルタイムで収集、分析できる体制を構築することは、市場動向の変化を早い段階で把握し、正確な情報に基づいて対応策を考えやすくなるメリットが見込めます。経営情報の収集、分析などをデジタル化して経営効率の向上を図ることがDXを行う目的であり、DXの推進はダイナミック・ケイパビリティの向上に役立つ施策であるといえるでしょう。 

なお、DXの推進が遅れることのリスクについては以下でも詳しく解説しています。併せてご覧ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?「2025年の崖」との関連性や推進ポイントまで解説 

参考:ものづくり白書2020 第1部第1章第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進 

オーディナリー・ケイパビリティとの違い

オーディナリー・ケイパビリティとは「与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化しようとする能力」を表し、企業の利益に影響する要素として高い重要性を持つ指標の一つです。例えば、既存の経営資源や事業を重視する企業はオーディナリー・ケイパビリティが高く、既存事業の利益を伸ばす能力が高いといえます。

しかし、オーディナリー・ケイパビリティは例えば特定の作業の労働生産性を最大化するなど、業務のベストプラクティスのため、他社にとっても模倣しやすくなります。市場競争が活発な業界では技術の共有が進みやすいため、他社との差別化が困難になります。高水準の技術であるほど再構築にかかるコストが高くなり、企業によってはコストや手間の問題で再構築を行いづらくなるリスクが発生するでしょう。また、自社の強みとなっている要素でも、市場環境の変化によって不採算事業になる場合もあります。 

オーディナリー・ケイパビリティがダイナミック・ケイパビリティと異なるのは、外的要因による変化を考慮しない点です。企業が市場環境の変化を考慮せずに競争力を維持することは困難なため、オーディナリー・ケイパビリティには競合他社の増加や技術革新といった変化に対応しづらくなるといった問題点があるのです。ダイナミック・ケイパビリティは、自社のオーディナリー・ケイパビリティが現状に適したものであるかを定常的に観察し、必要に応じて再構築する能力という位置づけになります。

市場環境が活発に変化する状況で競争力を長期的に維持するには、市場環境の変化を早い段階で察知してダイナミック・ケイパビリティを構築し、実践に取り組むことが重要です。 

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ダイナミック・ケイパビリティを形作る「2つの理論」

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ダイナミック・ケイパビリティは2つの理論が基になっており、それぞれ異なる人物によって提唱されています。ここでは、ダイナミック・ケイパビリティを構成する競争戦略論と資源ベース理論について紹介します。 

競争戦略論

競争戦略論とは、自社の商品・サービスの価値向上に取り組むことで他社との差別化を図り、競争優位性を確立することを目的とした経営論です。マイケル・E・ポーター氏が提唱した理論であり、自社の競争優位性を判断するにあたっては「新規参入企業の脅威、売り手の交渉力、買い手の交渉力、代替品の脅威、既存企業同士の競争」のファイブフォースを分析します。

競争戦略論では、所属する業界の構造や競合他社の有無によって企業の業績が決まってくると定義されています。業界内での立ち位置を重視するコンセプトから「ポジショニング派」といわれることもあります。

しかし、業界や経営環境が同じでも企業によって業績が変わる事例が確認されたことから、競争戦略論が適用できないケースもあることが判明しています。競争戦略論の問題点を考慮した理論として、経営資源の価値を重視する資源ベース理論が提唱されたという背景があります。 

資源ベース論

資源ベース論(Resource Based View)とは、同じ業界に属する企業の競争力は各企業が保有する人材や技術、ブランドイメージといった固有の経営資源によって差が生じると定義している経営論です。1984年にアメリカのB・ワーナーフェルト氏が提唱した理論であり、後にジェイ・B・バーニー氏によってVRIOと呼ばれるフレームワークが追加されています。VRIOとは経済的価値(Value)、希少性(Rareness)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization)の各英単語から頭文字を取った略称で、企業の競合優位性を測る指標として用いられるフレームワークです。

資源ベース論は、経営資源の品質向上にリソースを割くことで競争力を維持するという考えですが、市場環境の変化があった場合に柔軟な対応が行いづらくなるという問題点が指摘されています。技術革新や顧客ニーズの変化が起きやすい現代においては、市場環境の変化を考慮した経営論が求められるようになりました。そこで、資源ベース論と競争戦略論の2種類を考慮した経営論であるダイナミック・ケイパビリティが提唱されたのです。

資源ベース論についてはこちらの記事でより詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
リソースベースドビューとは?活用のポイントや課題、VRIO分析について解説

ダイナミック・ケイパビリティの実現に必要な「3つの能力」

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市場環境が不定期に変化する状況で競争力を維持するには、ダイナミック・ケイパビリティの向上が欠かせません。ここでは、ダイナミック・ケイパビリティの実現に必要とされる3つの能力について紹介します。 

センシング(感知)

センシングとは、顧客ニーズや市場動向などの変化を定常的に観察することで、自社の経営活動にとって脅威となる要素を察知する能力です。競合他社の動向や顧客ニーズなどの変化を的確に把握し、経営資源の再構築に役立つ情報を収集できる企業は高いセンシング能力を備えているといえます。 

シージング(捕捉)

シージングとは、企業が保有している経営資源を機会に応じて再利用する能力です。経営資源を活用できる機会を的確に捕捉し、状況に応じて柔軟に対応できる企業は高いシージング能力を備えているといえます。外的要因への対応を重視することから、考え方としては競争戦略論に近い要素です。 

トランスフォーミング(変革)

トランスフォーミングとは、社内の経営資源を状況に応じて再構築する能力です。競合他社や市場動向などの変化を捕捉して組織体制を組み替えたり、状況の変化に対応できるように社内ルールを整備したりするといった対応を行うことが、トランスフォーミング能力の向上につながります。状況の変化に合わせた対応を持続的に行える企業は、高いトランスフォーミング能力を備えているといえるでしょう。

基本的にはセンシング、シージング、トランスフォーミングのサイクルを通して、自社にとって脅威となる要素へ対処していくことになります。 

ダイナミック・ケイパビリティを導入するポイント

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ダイナミック・ケイパビリティの構築を進める過程では、社内外の状況を考慮しながら施策を検討することが重要です。ここでは新規導入、推進に当たって考慮すべきポイントについて解説します。 

まず、経営環境の変化に応じて事業体制を再構築するには経営層による判断が必要です。経営環境の見通しが立てづらい状況においては現状を細かく確認し、状況に応じて事業体制の調整を行える準備をしておきましょう。事業体制の変革は経営層が主体になって行うことが多い傾向であり、ダイナミック・ケイパビリティの推進には経営層による適切な状況判断が不可欠です。

近年では、働き方改革やDXの推進などによって市場環境が急速に変化しており、長期的な経営戦略を立てることが困難な状況です。「ものづくり白書2020」によると、センシング、シージング、トランスフォーミングの3つの能力を向上させるにはデジタル技術が有効であるとされています。ダイナミック・ケイパビリティを推進するには、業務のデジタル化による情報収集の効率化、AI分析によるセンシング能力の向上など、デジタル技術の活用によってケイパビリティの強化に向けた取り組みを進めることが重要になります。 

一般的に中小企業は柔軟な組織体制を備えており、ダイナミック・ケイパビリティの向上を図りやすいとされている一方で、大手企業と比較すると活用できる経営資源が限られやすい特徴があります。加えて、ダイナミック・ケイパビリティは人材、資金、物資など既存の経営資源を再構築する考え方のため、実践する過程で資源不足に直面することがあるかもしれません。自社が保有している技術や人材などを的確に把握し、対応できる範囲内で再構築を行えるよう、再構築の過程では限られた経営資源を効果的に活用することが必要です。

また、市場動向の把握や経営資源の再利用などを適切に行うには、高度な専門技能を備えていたり、マネジメント能力が優れていたりするなど変化に対応できる人材が求められます。複数の業界で人材不足が課題となっている現代においては、採用活動と並行して人材教育を推進することがダイナミック・ケイパビリティの導入を図る上で重要な課題になります。ダイナミック・ケイパビリティの導入に伴う組織改革として、社内での情報共有を習慣づけたり、業務システムの新規導入を推進したりすることが有効です。 

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多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
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まとめ 

市場が激しく変化を続ける現在では、ダイナミック・ケイパビリティの重要性が高まっています。ダイナミック・ケイパビリティとは、「変革力」を意味し、近年のDX化にも大きく関連する学術用語です。ダイナミック・ケイパビリティを基にDX化を推進することで、企業の競争力を高められるでしょう。

ダイナミック・ケイパビリティの要素の一つとして、社内に存在する資産を有効活用することも必要です。まずは、自社の資産を有効活用できるような仕組み作りから始めてみましょう。

また、DXについては詳しく解説した資料もご用意しております。ぜひ併せてご覧ください。

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