経営において自社の資金や設備、ノウハウといった「経営資源」は重要です。経営資源は内部環境とも呼ばれますが、これを重要視する考え方が「リソースベースドビュー」であり、今では多くの企業で用いられている考え方となっています。
この記事では、リソースベースドビューの特徴や課題を解説します。また、リソースベースドビューのフレームワークとしてよく使われる「VRIO」や、それ以外の分析方法も紹介します。
リソースベースドビュー(RBV)とは
リソースベースドビュー(Resource Based View)とは、「企業の持つ固有の経営資源」を基にしている考え方で、自社の「ヒト・モノ・カネ」そしてそれを維持する「組織」といった、4つの経営資源を重視した経営戦略のことを表します。「VRIO」というフレームワークを用いて、自社の経済価値や希少性などを分析するのが一般的です。つまりリソースベースドビューは、現時点の自社に「どういった資源がどれだけあるのか」を把握する際に有効といえます。
どんなに顧客のニーズが把握できても、それを実現できるリソースがなければ1円の利益にもなりません。そのため、どんな事業も資金や人材といった「経営資源」は必要になります。
リソースベースドビューは、アメリカの経営学者バーニー氏により提唱された理論です。ポーター氏によって提唱された「ファイブフォース分析」と比較されることも多いこの理論は、頭文字を取って「RBV」と呼ばれることもあります。
ポジショニングビューとの違い
ニーズを把握し「需要のあるもの」を作るという視点で考えるのが「ポジショニングビュー」です。経営資源といった内部環境を重視するリソースベースドビューに対し、市場ニーズなどの「外部環境」を重視する考え方となっています。具体的には、会社の強みを生かせる場所を見つけ、他社とは異なるやり方(場所)でサービスを提供していくというもので、他社との競争を目的としたものではありません。
ポジショニングビューとリソースベースドビューはそれぞれ特徴がありますが、それぞれメリット・デメリットが存在します。
もしポジショニングビューだけを活用した場合、サービスを模倣されて追い抜かれるリスクがあります。例えば、顧客のニーズに基づいた商品を自社が販売したと仮定します。この商品は計画通り人気になりましたが、この状況を同業他社が黙って見ているはずがありません。商品の仕組みや製造方法などに「独自の技術」や「経験・ノウハウ」が必要な場合を除いて、ほとんどの場合その商品を「模倣」した上でその企業にしかできない工夫(独自の機能、安さなど)を付与して販売するでしょう。
一方、リソースベースドビューのみを活用して商品開発を行った場合、「市場のニーズ」に対応できないものが生まれる可能性があります。
そのため、どちらかだけを活用するのではなく、状況によって使い分け、内部環境と外部環境の双方から戦略を立てていくことが重要です。
コアコンピタンスとの関係
「コアコンピタンス」とは、G・ハメル氏とC・K・プラハラード氏によって広められた考え方です。主に、企業の強みを生かして「他社と差別化すること」や「他社がまねできない強み」を表します。コアコンピタンスを作るには長い年月を必要としており、例えば自社独自の高度な技術やノウハウ、今までの経験を生かした経営手法などが該当します。コアコンピタンスも自社の強み、つまり内部環境を生かす考え方なので「リソースベースドビュー」の考えに基づいているといえるでしょう。
ケイパビリティとの関係
「ケイパビリティ」とは、1992年にBCGのジョージ・ストークス氏、フィリップ・エバンス氏、ローレンス E.シュルマン氏の3名によって提唱された考え方で、競争で優位に立てる能力や可能性のことを表した「組織的な力」や「戦略論」の一つです。これらが集まり、独自の要素が形成されれば「コアコンピタンス」になるのです。
ケイパビリティも、経営資源など内部環境に着目した場合は「リソースベースドビューに基づいている」といえます。
リソースベースドビューのフレームワーク「VRIO」とは
リソースベースドビューのフレームワークとして「VRIO」を利用することがあります。これは内部環境、つまり経営資源を「Value」「Rarity」「Inimitability」「Organization」の4つの視点から評価するものです。ここでは、項目ごとに評価する区分を紹介します。
経済価値(Value)
「経済価値」とは、経営資源が「経営資源を生かせるか」や「自社の脅威を打ち消せるのか」を表しています。具体的には顧客や組織、社会に対して「どれだけの価値を提供できるのか」を評価するための項目です。この項目は、ほかの項目よりも重視されることが多い傾向にあります。
希少性(Rarity)
他の企業が持っていない経営資源を持っているか、同業他社と比較した時に希少価値の高さをアピールできるか、といった要素のことを「希少性」と表現しています。競争優位性のレベルであり、模倣困難性と一致する部分があるのも特徴です。
模倣困難性(Inimitability)
模倣困難性とは、文字通り「簡単には模倣できない」「技術をほかの企業が持っていない」といった他社にはない要素のことを表します。例えば「商品・サービスの開発」や「製造の技術力」「特許」「因果関係の不透明性」「独自の営業手法」などが挙げられます。この項目においては新規参入や競合の模倣難易度がどれだけ高いのか、という点が重要です。
組織(Organization)
「組織」とは、これまでに挙げた経済価値・希少性・模倣困難性の3要素を継続できているかどうか、つまり持続的な競争優位の状態であるかどうかを評価する項目です。組織がきちんと運営されていることで、長期的な経営資源の維持につながります。
リソースベースドビューを活用するポイント
リソースベースドビューを活用するには「模倣困難性」や「ポジショニングビューとの併用」「ケイパビリティ」「分析方法」などのポイントを理解することが重要です。内部環境だけに執着するのではなく、視界を広くして柔軟に対応していきましょう。
模倣困難な経営資源を確保する
先ほども触れたように「希少性」や「模倣困難性」は、内部環境を重視するリソースベースドビューにおいて重要な評価項目です。例えば、マネジメントや業務上のノウハウ、大きな金額を使って作る独自の設備、生産ラインといった経営資源は模倣されにくい傾向があります。
「模倣されにくい」ということは中長期的に価値を持つため、自社の内部資源は大切に扱いましょう。
ポジショニングビューの活用
「ポジショニングビューとの違い」の項目でもご紹介しましたが、リソースベースドビューとポジショニングビューを活用する際は、どちらかに偏るのではなく「両方を使いこなす」ことが重要です。
リソースベースドビューに執着していると市場のニーズを考慮できず、「需要がないものを作る」ことになってしまいます。
一方、ポジショニングビューに執着すると「市場にばかり目を向けることになる」ため、他社も模倣しやすくなります。需要はありますが他社が模倣しやすいので、もっと効率良く製品を売れる同業他社に追い抜かれてしまうかもしれません。
自社のケイパビリティの優位性を確保する
他社に負けないポイントを確保し、その優位性を維持します。特に、組織の特性など模倣困難性の高い希少な資源を「保ち続けること」が重要です。
とはいえ、技術革新が急速に進む現代において、技術の優位性は比較的模倣が簡単になってきました。そのため、代替される可能性がないかといった点や、それを踏まえてケイパビリティの有効期間がどれくらいなのかを想定しておくことも大切です。
有効期間が切れる前に、他の経営資源からケイパビリティやコアコンピタンスになるような要素を探しましょう。
VRIO分析以外の方法も活用する
分析方法は「VRIO」以外にも存在します。ここでは、有名な分析方法である「SWOT分析」と「3C分析」を紹介します。
SWOT分析
SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境を分類して分析するフレームワークです。
SWOT分析の「Strength(強み)」や「Weakness(弱み)」は内部環境を表しており、認知度やブランド力、価格や品質などがここに入ります。「Opportunity(機会)」や「Threat(脅威)」は外部環境を表しており、市場規模や成長性などがここに入ります。
関連ブログ:SWOT分析とは?メリットや詳しい分析手順、事例を解説
3C分析
3C分析は、経営コンサルタントでビジネスブレイクスルー大学学長でもある大前研一氏が考案した、マーケティング環境を分析するためのフレームワークです。外部環境の市場と競合の分析からKSF(Key Success Factor)を見つけ出します。
名前にある3Cは、「Customer(市場)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」で構成されています。
関連ブログ:3C分析とは?定義や目的、分析の流れを詳しく解説
リソースベースドビューの課題点
リソースベースドビューには、提唱者も認める課題がいくつか存在します。この点から見てもリソースベースドビューは完全ではなく、ほかの方法と併用していくことが推奨されていることが分かります。リソースベースドビューに足りない部分は、別の分析方法で補うのが効果的です。
同義反復の性質
リソースベースドビューには「同義反復」の性質があります。これは、例えば「善人は善い人だ」など、同じ意味の言葉を繰り返すことを指します。
リソースベースドビューが破綻しているという主張の命題として「企業リソースに価値があり、稀少な時、その企業は競争優位を実現する」というものがありますが、こちらの「競争優位性」は「他社にはできない価値創造戦略を起こす力」と定義されます。
この定義を踏まえて言い換えると、「価値があり稀少なリソースを持つ企業は、価値があって稀少な戦略を行う力を実現する」となってしまい、同義反復に近い状態になってしまいます。それこそ「善人は善い人である」と同じような内容です。
そのため、最初の命題自体がそもそも成立していないと言われています。
部分均衡の性質
「価値がある経営資産」は市場によって大きく左右されます。具体的には、人々が求めるものはさまざまな条件で変化し、それに伴い「価値のあるもの」も変化するのです。例えば、日本で人気の「高性能で高額」なとある製品を海外で販売する場合、販売する地域で「高性能なものよりも安価なもの」が求められているとしたら「高性能で高額」な製品は売れません。この状態は部分均衡と呼ばれており、需要と供給の一致を表しています。
部分均衡の性質を持つリソースベースドビューでは、自社の経営資産が「現状どれだけの価値を持っているのか」を知っておくことが重要です。
VRIO分析の弱点
リソースベースドビューで活用されるVRIO分析にも弱点があります。
VRIO分析は自社の内部資源(経営資源)を4つの観点から評価することができます。しかし、VRIO分析ならびにリソースベースドビューには、内部資源をどのように選択して組み合わせて活用するのかという「企業のリソースを活用する力(Capability)」について触れられていない、という問題点があります。
つまり、分析はできても「具体的な活用方法までは導き出せない」という点が、リソースベースドビューの課題であり、VRIO分析の弱点なのです。
しかし、事業を進めていくには「ヒト・モノ・カネ」が必要となり、それには内部環境を把握しておかなければなりません。そのため、リソースベースドビューは不要と言い切れないのです。
リソースを組み合わせる視点の欠落
経営資源を「組み合わせる」という視点が考慮されていないのも、リソースベースドビューの欠点とされています。本来は「経営資源を組み合わせて考えていく」のが一般的なので、これに対応していないのは実用性に欠けるのではないかという意見も多く出ています。
その意見に対して提唱者であるバーニー氏も反論しなかったという話もあり、これもリソースベースドビューが不完全である理由の一つといえるでしょう。
経営陣へ重要性を訴求しづらい
リソースベースドビューは、弱点として触れたように「具体的な方法までは導き出せない」という問題点があります。そのため、リソースベースドビューをもとにした提案は具体性のない理論になることが多く、経営陣などに重要性を訴える際の訴求力は弱いといえます。提案の際はリソースベースドビューをもとにしつつ、具体的な施策まで踏み込んで伝えることが求められます。
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まとめ
リソースベースドビューは経営戦略理論の一つで、経営資源(内部環境)を重要視する考え方です。市場のニーズが急速に変化する中で競争優位性を高めていくには、自社の「ヒト・カネ・モノ」そして「情報」といった経営資源の価値を高めていくのが重要なポイントといえます。リソースベースドビューの考え方をもとに、現状について把握することからはじめましょう。
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