なぜESG経営が必要か?意味や、具体的な進め方、企業事例までを簡単に解説

 2024.08.14  株式会社システムインテグレータ

近年、ビジネスはもちろん様々な場面で「ESG」や「ESG経営」という言葉を目にする機会が増えました。ESGは抽象的な概念であるため、少し理解するのが難しいと感じる方も多いでしょう。しかし、今後、日本企業が国内外の市場で持続的な成長を目指すためには、このESG経営が必要不可欠となります。

本ブログでは、ESG経営とは何か、なぜそれが必要とされているのかを解説した上で、具体的な対応策と企業のESG経営事例をご紹介します。

より詳細に知りたい方は、「ESG経営入門書~持続可能な企業成長のための基礎知識~」をぜひご覧ください。

ESG経営とは

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ESG経営について

ESG経営とは、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を企業経営に組み込み、持続可能な成長を目指す経営手法のことです。
具体的にどのようなことなのか、それぞれ詳しく解説します。

環境(Environmet)

企業が環境への配慮をおこなう、または具体的に環境問題へ取り組むことを意味します。地球環境が損なわれると、企業活動そのものが困難になる可能性があるため、持続可能な企業活動のためにも、企業は環境保護に取り組む必要があります。
企業が行う環境問題への取り組みにはさまざまな方法があります。環境保護を目的とした事業を展開する企業もあれば、現在のビジネス活動の中で環境への配慮を組み込む努力を行う企業もあります。
具体的な取り組みの例として、以下のようなものがあります。
  • 具体例
    温室効果ガスの排出削減、廃棄物の削減とリサイクル、バイオテクノロジーを活用した製品開発など

社会(Social)

社会問題に対して企業が取り組みことを意味します。これらの取り組みは、ステークホルダーとの関係構築や企業イメージに大きく影響を与えます。
企業が社会問題に積極的に取り組むことで、ステークホルダーは安全で安心できる社会で生活することができます。このような取り組みを通じて、ステークホルダーとの良好な関係が築かれ、長期的な信頼を得ることが可能になります。具体的な取り組みの例として、以下のようなものがあります。
  • 具体例
    製品の安全性確保、ダイバーシティの実現、地域社会への貢献・支援など

ガバナンス(Governance)

ガバナンス(企業統治)とは、企業が健全に経営を行うための活動を意味します。これには、情報開示の透明性や公正な組織体制の確立が含まれます。統治が不十分な企業では、不祥事のリスクが高まり、企業経営に大きな打撃を与える可能性があります。そのため、いくら環境や社会への取り組みがあっても、企業統治が不十分であれば経営自体が危うくなります。
ガバナンスはESG経営の基盤であり、最優先事項として取り組むべきです。具体的な取り組みの例として、以下のようなものが挙げられます。
  • 具体例
    社外取締役や社外監査役の設置、業務の可視化や権限の明確化、情報開示の透明性など

SDGsとの違い

SDGs(Sustainable Development Goals)は、2030年までに持続可能な世界を実現するための国際目標です。2015年の国連サミットで採択され、17の目標と169のターゲットから構成されています。SDGsは、実施者、対象者のいずれも全世界の人々、企業、そして国家を含み、いわゆる「世界のすべて」を対象としています。
一方で、ESG経営は企業が主体となり、長期的な成長を目的として実施されるものです。SDGsとESG経営の主な違いは、誰が主体となって取り組むかにあります。
しかし、SDGsとESGが全く無関係というわけではありません。たとえば、企業がESG経営を進める際、SDGsの目標がその指針やヒントとなります。SDGsが掲げる目標に貢献することは、ビジネスチャンスにも直結します。そのため、企業がESG経営を通じて持続可能な成長を目指すことは、結果的にSDGsの目標達成にも貢献することとなります。

ESG経営が注目される背景

国連が2006年に「責任投資原則(PRI)」を提唱したことで、ESGは一層注目されるようになりました。 このPRIには、「投資家の力で企業を持続可能な方向へ導き、持続的な経済成長を支援してほしい」というメッセージが込められています。
この提唱をきっかけに、投資家たちの意識は徐々に、目先の短期的な利益から、長期的な利益を重視する方向へと変わり始めました。こうした投資家意識の変化が企業にも影響を与え、ESG経営の重要性がますます高まっています。

責任投資原則(PRI)とは

PRI(責任投資原則)とは、機関投資家が投資先企業を選定する際や、株式の保有方針を決定する際に、財務状況に加えて、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance:企業統治)といったESG要素を考慮するための原則です。このPRIは、以下の6つの原則から成り立っています。

  1.  投資分析と意思決定のプロセスに ESG の課題を 1組み込みます
  2.  活動的な所有者となり所有方針と所有習慣に ESG の課題を組み入れます
  3.  投資対象の主体に対して ESG の課題について 適切な開示を求めます
  4.  資産運用業界において本原則が受け入れられ 実行に移されるように働きかけを行います
  5.  本原則を実行する際の効果を高めるために協働します
  6.  本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します

ESG投資の普及

ESG投資とは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の3つの要素を重視して投資先を選ぶ投資手法です。従来、投資家たちは営業利益や売上成長率などの財務情報に基づいて投資先を選定していましたが、このような短期的な投資手法は、時として不正な企業活動を助長するリスクがありました。しかし、ESGの重要性が高まるにつれ、投資家たちは温室効果ガスの排出量や女性管理職の比率といった非財務情報に注目するようになりました。

これらの非財務情報が企業の長期的な売上や利益に結びつくことが明らかになるにつれ、投資家は短期的な利益を追求するのではなく、持続的な成長を見込んだ長期投資へとシフトしていきました。このように、投資家の意識変化が企業にも影響を与え、企業は安定かつ持続的な資金調達のために、ESG経営を無視することができなくなっています。

消費者の意識の高まり

近年、消費者の意識の高まりがESG経営に大きな影響を与えています。特に海外では、環境問題や社会的責任に対する関心が高まり、ESGの観点を持つ消費者が増加しています。その結果、海外の企業もこれらの要素を重視した経営を求められるようになりました。

一方で、日本では従来、ESGの視点を持つ消費者は少ないとされてきました。しかし、近年、環境問題や企業の社会的責任に関するニュースが多く報道されるようになり、日本の消費者の間でもESGへの関心が高まっています。たとえば、気候変動対策やプラスチックごみ削減に関する報道、企業の不祥事やガバナンスの問題が広く伝えられることで、消費者の意識は徐々に変化してきました。
結論として、消費者の意識の高まりは、企業に対してESG経営を推進する強力な動機となっています。

ESG経営の必要性とメリット

ESG経営が持続的な企業の成長をもたらすことは前述の通りですが、ここではなぜESG経営が企業の持続的な成長につながるのかについて具体的にご紹介します。

イノベーションの促進

ESG経営の実施は優秀な人材や、多様性のある人材獲得へつながるとされています。
実際に環境保護を事業としている企業は、 単に企業の利益のためではなく、世界全体の持続可能な未来に貢献する活動をしています。このような取り組みは、より大きな目的に向かって働きたいと考える意識の高い若者に共感されやすく、彼らの関心を強く引きつける要因となります。

また、社会問題への取り組みとしては、ダイバーシティの推進、女性の活躍促進などが具体的に挙げられます。こうした社会への取り組みが、多様なバックグラウンドを持つ従業員の雇用を推進し、異なる視点やアイデアが生まれる環境を作り出します。このように、優秀な人材や多様な視点を持つ人材が生み出すアイデアは、企業が成長する上で、事業の革新につながる重要な要素となります。

従業員とに良好な関係構築

ESG経営の「S(社会)」への取り組みは、従業員との良好な関係構築に直接つながります。企業が働き方や職場環境の改善に努めることで、従業員はワークライフバランスを保ちながら働くことができ、満足度が向上します。さらに、健康促進やハラスメント対策の強化により、従業員の精神的・身体的安全が確保され、ストレスが軽減されます。これらの取り組みによって、従業員は安心して働ける環境が整い、その結果としてパフォーマンスの向上が期待できます。

企業が従業員の幸福と成長を重視することで、従業員の企業に対する信頼感や忠誠心が高まり、組織全体に一体感が生まれます。従業員との良好な関係は、企業の持続的成長に欠かせない要素であり、人的資本を最大限に活用しなければ、長期的な成長は望めません。したがって、ESG経営における社会的取り組みは、企業の成功において極めて重要な役割を果たすのです。

企業価値の向上

ESG経営を実践する企業は、環境・社会・ガバナンスにおいて高い基準を維持しながら経営を行うことで、社会的信用が向上し、ステークホルダーからの信頼を得やすくなります。

投資家の観点から見ると、ESG経営を推進する企業はリスク管理が徹底され、環境リスクや社会的リスクに対する対応能力が高いと評価されます。そのため、長期的なリターンが期待できる投資先としての魅力が増し、資金調達が容易になります。この安定的な資金調達は、企業が新規事業や技術革新に投資することで、さらなる成長を促進する重要な要素になります。

また、消費者の視点では、環境に配慮した製品やサービスを提供する企業は、社会的責任を果たしていると認識され、ブランドイメージが向上します。これにより、意識の高い消費者層からの支持を得やすくなり、顧客ロイヤルティが向上します。結果として、売上の増加や市場シェアの拡大が期待でき、企業価値の向上につながります。

さらに、ガバナンスの強化により、企業の透明性が高まり、リスク管理が徹底されることで、取引先やパートナーとの長期的な信頼関係が築かれます。こうした信頼関係は、不確実性の高い市場環境においても、企業が安定した業績を維持するための重要な基盤となります。
このように、ESG経営の実践は、投資家、消費者、取引先などのステークホルダーとの関係を強化し、企業の持続可能な成長を支えることで、結果的に企業価値の向上をもたらすのです。

ESG経営の手順について

では、実際にESG経営に着手する際には、どのように進めればよいのでしょうか。ここでは、ESG経営を実現するまでの手順についてご説明いたします。

マテリアリティの特定

まず、ESG経営の方向性を明確にするためには、マテリアリティを行うことが重要です。
マテリアリティとは、企業経営において特に重要とされる課題や要素のことを指します。このフェーズでは、企業の戦略やビジネスモデル、そしてステークホルダーへの影響を総合的に考慮し、企業価値に大きな影響を与えるESG課題を選定します。

マテリアリティを特定するためには、以下のステップが必要です。

  1. マテリアリティ項目の抽出と整理
  2. ステークホルダーとマテリアリティの評価
  3. もっとも重要なマテリアリティ項目を特定

特定したマテリアリティは、全社戦略や事業戦略に反映され、具体的な対応方針や計画の策定に繋がります。これにより、効果的なESGの取り組みが実現し、企業の持続可能な成長に寄与することができるのです。

ESG課題への実行と監督

ESG経営への取り組みにおいて、課題を特定した後は、実行と監督のフェーズに進むことが重要です。まず、円滑な実行を支えるために、社内体制をしっかりと構築する必要があります。具体的には、経営トップのコミットメントを確立し、ガバナンス体制を整えるとともに、担当部署の割り当てや情報収集、社内調整を行います。これにより、ESG課題に対する取り組みがスムーズに進行します。

次に、ESG課題に対して適切な指標と目標値を設定します。これにより、進捗状況の管理が容易になり、取り組みの効果を正当に評価することが可能となります。また、この指標をもとにPDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)を回し、進捗をモニタリングしながら、必要に応じて対応を修正することで、持続的な改善を図ることができます。

非財務情報の開示

ESG経営の実行とモニタリングを経て、最後に行うべきは、それらの成果を非財務情報として開示し、企業価値にどのように寄与しているかを明確に示すことです。このフェーズでは、ESG課題と企業価値の関係性を投資家にわかりやすく伝えることが重要です。具体的には、統合報告書、サステナビリティレポート、CSR報告書などを活用し、ESGに関する情報を体系的に整理して提供します。

さらに、自社のウェブサイトにこれらの情報を掲載し、海外の投資家にも配慮して、ESG情報を英語でも提供することが推奨されます。これにより、グローバルな視点からも評価を得やすくなります。

また、開示するESGデータの信頼性を高めるために、外部機関によるデータ保証を受けることが重要です。外部の第三者機関による検証を経ることで、情報の正確性と信頼性が担保され、投資家からの信頼と期待をさらに高めることができます。このようにして、ESG経営の成果を正確に伝えることで、企業の透明性が向上し、持続的な企業価値の向上につながるのです。

ESG経営の企業事例

日本郵政株式会社

日本郵政株式会社は、ESG経営の一環として環境保護を積極的に行っています。具体的な環境への取り組みとして、以下の活動が挙げられます。

  • カーボンニュートラルの実現
    日本郵政グループは、「JPビジョン2025」におけるESG目標として、「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」という長期的な目標を掲げています。また、その目標に向けた具体的なマイルストーンとして、「2030年度までに2019年度比で46%の削減を達成する」という目標を設定し、着実に推進しています。これにより、カーボンニュートラルの実現に向けたさまざまな取り組みを進めています。

キャノングループ

キヤノングローバルは、ESG経営の一環として、様々な社会貢献活動に取り組んでいます。具体的には以下の社会問題への取り組みを推進しています。
  • 女性の活躍推進
    性別を問わず平等な機会を提供し、公平な処遇を徹底しています。2012年から実施している「女性リーダー研修」には累計267人が参加し、2025年末までの女性管理職比率の目標は93%達成されています。今後は女性技術者の採用を強化し、女性管理職比率を2023年末の社員総数に占める女性比率16.9%と同等にすることを目指しています。

花王株式会社

花王株式会社は、製品の安全性確保、労働環境の改善、内部統制の強化など、多岐にわたるESG活動を展開しています。ここでは、ESG推進のための体制について具体的な事例を紹介します。

  • ESG活動への展開
    全社的な目標とKPIを各部門の活動に反映させ、ESG推進会議でその進捗状況をモニタリングしています。各部門はそれぞれ管理責任を持ち、ESGを組織の方針や計画に組み込んでいます。また、グローバル運営を含む19の重点テーマに基づいて活動を推進しています。さらに、全社員がESG目標を設定し、その活動内容が評価されるOKR制度を導入することで、組織全体でのESG活動の活性化を図っています。
花王株式会社

まとめ

現在、EUなどの諸外国ではESGに関する規制が強化されており、日本でも非財務情報の開示が義務化される動きが強まっています。このため、企業には透明性のある情報開示が求められていますが、多くの企業では非財務情報の収集や管理が十分にシステム化されておらず、その対応が課題となっています。

効果的なESG経営を実現するには、企業活動のデジタル化とデータ管理が不可欠であり、そのためにはDXの推進が重要となります。ESG経営とDXを連携させ、戦略的に取り組むことで、双方の成功への道が開けます。
ESG経営についてより理解を深めたい方は、「ESG経営入門書~持続可能な企業成長のための基礎知識~」もご覧ください。

 


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