ROICとは?ROIやROEなどとの違いやROIC経営のポイントを徹底解説

 2023.09.15  株式会社システムインテグレータ

近年、投下資本により効率的に利益を生み出すため、「ROIC」を導入する企業が増えています。ROICは、事業経営を分析して企業の成長へつなげる指標となるものです。

しかし、「ROICの他にも指標があるため、取り入れるべき指標がわからない」「自身の経営に導入できるのか不安」と悩んでいる方もいるでしょう。

この記事では、ROICの概要や関連指標との違い、ROIC導入のメリット・デメリットを解説します。また、ROIC経営に役立つポイントも併せて解説するので、ぜひ実践してみましょう。

ROICとは

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ROICは、「Return On Invested Capital」の略称で「ロイック」と読みます。日本語で「投下資本利益率」といい、企業が銀行や出資者などから調達した資金(投下資本)から、どれだけ利益を出したかを表す指標です。

ROICの算出方法では、投下資本に対してどの程度利益を上げられたか計算でき、約7%以上で優れた企業であると評価されます。

ROIC(%)=税引き後営業利益÷投下資本(有利子負債+株主資本)×100

なお、税引き後営業利益とは企業が本業で得た利益のことで、儲けた営業利益から法人税などを除いて残存した利益です。

また、投下資本は事業で利益を獲得するために運用する資金をいい、有利子負債(銀行をはじめとして受けた融資)と株主資本(株主からの出資)の2つが含まれます。そのため、銀行に預けている資金は当てはまりません。

ROICは高い数値であるほど、少額の資本で多くの利益を生み出しているといえることから、「事業のコストパフォーマンス」を表しています。反対にROICの数値が低い場合は、投下資本に対して赤字または利益率が低い傾向であることを意味し、事業を撤退させなければならなくなる恐れがあるため注意しましょう。

ROICは会社経営の健全性が判断できる指標で、経営者や株主が経営状況を分析するために使います。また、事業ごとにROICを算出し、それぞれの事業を比較することで経済的付加価値のある事業を把握可能です。

今までの日本企業では、損益計算書に記載されている売上高や営業利益の「数字」に着目して経営をするのが一般的でした。しかし、企業へ投資する債権者から企業のROE(自己資本利益率)の向上を求められ、利益を効率的に生み出すことを表す指標が注目されるようになったのです。

また、2014年8月に経済産業省より公表された「伊藤レポート」も、ROICが注目された理由の一つです。現在は、ROEよりも簡単に経営管理を行える、ROIC経営を導入する企業が増えています。

関連指標との違い

ROICに関連して「ROI」「ROE」「ROA」「WACC」があります。これらも企業の稼ぐ力や利回りを表す代表的な指標です。ここでは、ROICと各関連指標の違いを解説します。

ROIとROICの違い

ROIは、投資した金額に対して、どれだけ利益を出したかを表す指標です。「Return On Investment」の略称で「ロイ」または「アールオーアイ」と読み、「投資利益率」と訳されます。

ROIの算出方法は、以下の通りです。

ROI(%)=利益金額(投資利益-投資金額)÷投資金額×100

一般的に、ROIが10〜20%以上であれば優れた企業と評価されます。

ROIは、特定の投資に対して投資利益率を評価するものです。投資家の利益率が把握できるため、投資家にとってROIが高い企業は魅力的といえます。

ROEとROICの違い

ROEは、株主資本に対して、どれだけ利益を出したかを表す指標です。「Return On Equity」の略称で「アールオーイー」と読み、「自己資本利益率」と訳されます。

ROEの算出方法は、以下の通りです。

ROE(%)=当期純利益÷自己資本(投下資本-有利子負債)×100

一般的に、ROEが8〜10%以上で優れた企業と評価されます。

当期純利益とは、事業で得られた利益から全ての税金や経費を引いた金額のことです。ROICでは「税引き後営業利益」と「投下資本」を使用しますが、ROEでは「当期純利益」と「自己資本」を用います。

関連指標の一つであるROEについては、こちらで詳しく解説しています。

ROEとROAの違いとは?定義と算出方法、ROEの改善方法をわかりやすく解説

ROAとROICの違い

ROAは、資産全体に対してどれだけ利益を出したかを表す指標です。「Return On Assets」の略称で「アールオーエー」と読み、「総資産利益率」と訳されます。

ROAの算出方法は、以下の通りです。

ROA(%)=当期純利益÷総資本×100

一般的に、ROAが5%以上であれば優れた企業と評価されます。

ROICの計算式の分母は有利子負債と株主資本の2つですが、ROAでは全ての資本金を用いて算出するため、ROAはROICよりも広い視点で企業の経営力を表せるのです。

しかし、ROAでは総資産を計算に使うため、事業に必要な資金が変動すると最終的な数値も変動してしまいます。買掛金や売掛金などの影響を受ける場合があるため、ROAによる分析は注意して行いましょう。

WACCとROICの違い

WACCは、資金調達のために必要なコストを表す指標です。「Weighted Average Cost of Capital」の略称で「ワック」と読み、「加重平均資本コスト」と訳されます。

WACCの算出方法は、以下の通りです。

WACC=株主資本コスト×株主資本/(株主資本+負債)+負債コスト(1-実効税率)×負債/(株主資本+負債)

ROICが「利益率」を表す指標であるのに対して、WACCは「企業が支払わなければならないコスト」を表します。事業では利益がコストを上回ることが望まれるため、ROICがWACCよりも上回っていれば経営状態が良いと判断されるでしょう。企業の経営力を分析するために、ROICとWACCは合わせて使われます。

ROICのメリット

ROICを導入するメリットは「ROEやROAの問題点が解決できる」「事業や部門ごとに数値を細かく算出できる」「資金調達の際の説明が容易」の3つです。それぞれのメリットを詳しく解説します。

ROEやROAの問題を解決できる

ROICは、分母の数値を変えられないため正確な企業分析ができます。一方ROEでは、自社株買いで資金を得て自己資本を減らすと、数値を変えられる点が課題です。

また、ROAは総資本を用いて算出するため、取引先への支払いを遅らせられる場合は買掛金の数値が変動します。しかし、ROICは自己資本の調整のみでは数値を大きく変えるのが困難です。加えて、投下資本を使って計算するため、買掛金の影響は受けません。

つまり、ROICは見せかけの数値ではなく、調達資金に対する「正しい収益力」を表す指標となるのです。

事業や部門ごとに細かく算出できる

事業や部門ごとに数値を細かく算出できるのは、ROICの重要なメリットです。

例えば、AとBという事業を行うC社があるとします。これを、C社全体に投資した額だけでなく、事業別に「A事業に○○円」「B事業に××円」と計算すれば、事業ごとに「投下資本に対していくら利益がでたか」を可視化可能です。

細かく分けて数値を算出すれば、事業や部門ごとの目標が立てやすくなるでしょう。特に、限られた予算を効率良く分配しなければならない場合はROICが有効です。

資金調達の際に説明しやすくなる

ROICの導入により、資金を調達する際は債権者への説明が容易になります。企業が調達した資本金を、事業へ効率良く使っていることが明確になるためです。その結果、株主や金融機関の同意が得られやすくなり、さらなる資金調達につながります。

ROICが高水準であれば債権者から注目が集まり、次回以降の融資も期待できるでしょう。

ROICのデメリット

続いて、ROICのデメリットを2つ紹介します。ROICには「ROEやROAに比べて理解しづらい」「常に有効とは限らない」といったデメリットが存在するため、導入の際は注意しましょう。

ROEやROAに比べて理解しづらい

ROICの計算式はROEやROAと比べて複雑で、直感的に分かりづらいのが問題です。計算に使われる「投下資本」といった言葉や、そもそもROICが何を表す指標なのかなど、意味をしっかり理解していなければROICを扱うのは困難でしょう。

また「ROEやROAについては分かっているが、ROICは理解できていない」といった従業員もいるかもしれません。社内研修などを通して、ROICの概念や算出方法などの学習機会を、スキルを必要としている従業員へ設けましょう。

常に有効とは限らない

経営状況によって、ROICが有効な場面とそうでない場面があります。例えば、投下資本を使用しなくて良いサービス業では、ROICを活用する必要性はほとんどなく、適切な評価ができません。また、起業したばかりの時期や事業の成長期は多くの投資額が必要であるため、当然ながらROICの数値も低く出てしまうのです。

ROICは、企業の成長ステージである「創業期」「成長期」「安定期」「衰退期」のうち、成長期の中頃から安定期までの間のみ有効とされています。なお、衰退期も利益の効率性を求めるのではなく、財務の健全性を評価すべき期間とされているため有効ではありません。つまり、事業の進捗度合いによってROICの有効性も変わるのです。

ROIC経営のポイント

ROICを事業の経営に用いる「ROIC経営」を行う際は、必要なポイントを押さえておきましょう。ここでは、ROIC経営のポイントを4つ紹介します。

評価期間は複数年に設定する

ROICの評価期間は、1年間ではなく複数年に設定します。事業に必要な投資を行った後、実際に利益が出るまで時間がかかるケースは多々あるでしょう。もし評価期間を1年間と設定すれば、投資額が多く必要だった年は、ROICの数値が企業の持っている実力以上に低く出てしまう恐れがあります。しかし、ROICの指標が低く出てしまうことを懸念して必要な投資を行わないのは、ROICを導入する意味がありません。

そのため、ROICの評価期間は3年から5年に設定し、事業に必要な投資を抑えすぎないように注意しましょう。長い期間をかけて、企業の経営力を判断することが大切です。

ROAやROE、WACCと一緒に活用する

ROIC経営では、ROAやROE、WACCといった関連指標を一緒に活用しましょう。指標ごとに違う視点から経営力を評価でき、投資家や株主目線でも分析可能です。また、把握したい内容に合った指標を使い分けると、ROICのみでは気付けない課題が見えてくるかもしれません。

特に、ROICとWACCを合わせて活用すれば、企業の資金の効率性がより明確になります。

ROICはWACCより大きくなければならない

ROICの数値がWACCより大きくなるように注意し、事業展開することが重要です。事業の経営を続けるためには、資金調達のコストよりも経営で生み出す利益が上回らなければなりません。よって、ROIC経営ではコストを表すWACCよりも、利益率を見るROICが大きくなるよう努めましょう。

ROIC逆ツリー展開を活用する

オムロン株式会社が独自に編み出した「ROIC逆ツリー展開」の活用も有効です。ROIC逆ツリー展開とは、ROICを各部門ごとのKPI(重要業績評価指標)に分解することで、現場レベルでのROICを向上させられるシステムをいいます。なお、KPIとは最終目標に向かうための中間指標を意味し、業務のパフォーマンスを測るために設定するものです。

分解の方法は、まずROICを「ROS(営業利益率)」と「投下資本回転率」に分け、それらをさらに改善ドライバー(改善項目/要素)へ分解し、最後に改善ドライバーをKPIに細かく分解します。

また、事業の経営側と現場の従業員が一丸となって企業を成長させていくことが活用の目的です。ROICは主に株主や経営者が使用する指標ですが、細かく分解すると現場で働く人にとっても分かりやすい指標となるでしょう。

現場もROICを理解し意識を向けることは、ROICの向上がより期待できるため、経営上とても大切です。

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多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
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まとめ

ROIC(投下資本利益率)は、株主や銀行から調達した資金に対しての利益率を表す指標です。決められた計算式を使い、ROICが7%以上あれば企業の経営力が良いとされています。

また、ROICと関連した指標にはROA・ROE・WACCがあり、それぞれ評価する対象が異なるため状況や内容によって使い分け、または併せて活用することが重要です。

ROICの導入により、資金調達が容易になったり経営の細かな分析が可能になったりするため、活用のポイントを押さえながらROIC経営に取り組みましょう。

ROICを用いる場合は、評価に必要な情報がデータとして適切に管理されている必要があります。必要なデータの一元管理には、ERPの活用が有効です。ERPの基本をまとめた資料をご用意しておりますので、ROIC経営を検討中の方はぜひご覧ください。


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