国内のビジネスシーンにおける「デジタル化」は、総務省が公開している令和3年版情報通信白書によると、「デジタル化は進んでいるかという問に対し、肯定的な回答と否定的な回答が拮抗している」状態にあるといえます。ビジネス環境が激しく変化していくことが想定される現代において、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は急務であり、そのためにはデジタル化の早急な取り入れが重要です。
このような状況下で、CDO(最高デジタル責任者)という役割が企業に必要とされつつあります。この記事では、CDOの概要と必要とされる理由、CDOが担う役割、求められるスキルを解説します。
参考:デジタル活用に関する課題
CDO(最高デジタル責任者)とは
「Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)」の頭文字を取って「CDO」と呼ばれます。企業組織においての役職はデジタル部門の責任者であり、経営層の一員を担う重要な立場です。デジタル技術やITに関して専門的かつ高度な知識を有している必要があり、その能力を生かして「製品やサービス、組織改革や機会獲得」を生み出し、より高度なものへ発展させる役割を担っています。
CDOが担う役割は、ペーパーレス化から全社的なデジタル化の推進に伴う事業編成といった大規模なものまでさまざまです。
総務省の平成30年版情報通信白書によれば、平成30年時点での国内企業におけるCDO設置率は「5.0%」と低い水準にあり、諸外国(米国:16.8%、英国:27.4%、ドイツ:16.4%)との差が開く恐れが懸念されていました。令和5年1月現在、総務省によるCDO設置率に関する公式発表は公開されていませんが、今後も企業組織にとって重要な役職である点、経営層への取り入れが急がれる点は押さえておきましょう。
参考:平成30年版 通信白書
最高データ責任者(CDO)との違い
「Chief Data Officer(最高データ責任者)」を意味する「CDO」も存在します。最高データ責任者とは、企業組織におけるデータ管理部門の統括を担う役職です。データには、財務情報や人事情報といった既存の社内情報だけでなく、外部から得られる顧客情報など多種多様なデータが含まれます。これらの活用促進や戦略立案が、最高データ責任者の役割です。
最高情報責任者(CIO)との違い
「CIO(最高情報責任者)」は、「Chief Information Officer」の略語で、主に社内ITシステムの保守運用や経営理念に基づく情報化戦略の立案などを担っています。DXの推進に伴い、CIOの権限拡大やCDO(最高デジタル責任者)への転換を行う企業が見られる一方、両者を設置し、「CDOによるデジタル技術の変革」と「CIOによる既存システムの維持」を両立させる企業も存在します。
最高技術責任者(CTO)との違い
「Chief Technology Officer(最高技術責任者)」を意味する「CTO」は、企業によってその役割が異なっているのが現状であり、共通の認識はいまだ形成されていません。企業組織のテクノロジー部門統括を担う役割ですが、おおむね、「製造業などにおける技術研究開発の責任者」「ソフトウェア開発業などにおけるエンジニアリングの責任者」「CIOとほとんど同義」として見なされています。CDO(最高デジタル責任者)との違いとして、CTOがエンジニア層に近い役職であるのに対して、CDOは経営者層に近い役職である点が挙げられるでしょう。
CDOが必要とされる背景
なぜ、CDOは必要とされているのでしょうか。ここでは、その背景を見ていきましょう。
デジタル技術を生かした新規サービス創出が求められる
デジタル技術の進歩が加速度的に進んでいる現代において、デジタル技術を生かした新たなサービスは規模を拡大させており、顧客ニーズも高まっているのが現状です。このような環境下で企業が成果を出すためには、デジタル技術への適切な知見を持つことと、デジタル技術によって創出されるサービスへの顧客ニーズを正確に押さえることの2点が必要とされます。
この条件を満たすスキルを持つのがCDOです。CDOは、デジタル技術について専門的な知識を有しているだけではなく、経営者としての目線も持ち合わせています。「どのような製品やサービスが顧客のニーズに沿うのか」という問題について、CDOは2つの観点から考え、対策=デジタルマーケティングを講じられる重要な存在であるため、現代の企業組織において強く求められているのです。
DXによる組織変革の重要性が高まる
デジタル技術の急速な革新に対応し続けていくには、企業組織の変革が不可欠です。この場合の変革とは、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」そのものを意味しますが、具体的には「デジタル技術を活用して企業の競争優位性を確立する」ことを指します。
DXによる企業組織の変革を進めていくには、デジタル技術に関する知見と経営者的目線を兼ね備えたCDOの存在と権限が必須です。
なお、DXについては以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?「2025年の崖」との関連性や推進ポイントまで解説
全社的なデータ活用が求められる
「顧客ニーズに沿った新規製品・サービスの創出」と「DXによる組織変革」を達成するためには、部分的なシステム・データの活用だけでは足りません。「組織横断的」にデータを活用することはもちろん、全社的なデータ活用を実施して初めて達成できるのです。
セキュリティ対策の重要性が増す
デジタル化が進めば進むほど、特有のリスクが伴います。例えば、機密情報の漏えいやサイバー攻撃被害が代表的なリスクといえるでしょう。クラウドサービスやIoT機器を利用する企業が増え、コロナ禍の影響でテレワークが浸透したこともあり、デジタルな情報を内外から守る重要性はかつてないほど高まっています。
セキュリティ対策を怠ったばかりに、企業イメージが悪化したり甚大な損害をもたらしたりする事例は少なくありません。被害を防ぐために、CDOを筆頭とした強固なセキュリティ対策が重要なのです。
CDOが担う役割
デジタル化が進んでいる時代背景上、CDOの存在は企業にとってなくてはならないものです。ここでは、CDOが担う役割を解説します。
デジタル活用に基づくビジネスモデルを考案する
CDOの役割には、今までにないビジネスモデルを社外にアピールすることも含まれます。デジタル化の加速で、生み出される製品やサービス、顧客ニーズは目まぐるしく変化しているため、企業は柔軟に対応していかなければ生き残れないでしょう。
また、CDOは自身が持つデジタル技術への深い知見を生かし、「どのような顧客にどのようにして価値を提供できるのか」について、デジタル活用の観点からビジネスモデルを構築し、社内外にアピールして企業価値を向上・継続させる役割も担っています。
データの探索・蓄積・保管を行う
情報化社会が形成されつつある現代において、企業が抱えるデータは非常に膨大です。社内情報に限らず、SNSに代表される外部データに至るまで、企業は利益獲得のためにあらゆる情報(ビッグデータ)を探索し、活用しなければなりません。
CDOはデジタル技術責任者と経営者という2つの観点から、自社にとって有益なデータは何か見分ける必要があります。自社にとって有益と想定されるデータは蓄積し、適切な形で保管しますが、この際に探索・蓄積・保管それぞれの工程において、チームに正確な指示を出すこともCDOの役割です。
提供するデータを統制する
企業が集めたデータは、何らかの形で他社へ提供されることがあります。漏えいしてはいけない個人情報などが含まれている場合も考えられるため、隙のないセキュリティ対策を実施した上で提供しなければなりません。提供するデータの統制責任もCDOにあるのです。
DXによる全社規模の価値創出に努める
組織横断的、ひいては全社的なデータ活用と組織変革が求められている背景がある以上、DXによって全社規模の企業価値を新たに創出することは必須といえます。CDOが担う役割として上に挙げた4点について、これら全てを実施して初めて「DXによる組織変革」が可能になるのです。
そのため、DXによる組織変革と、それに伴う企業価値の再創出を成功させるには、CDOの知識と権限を駆使した改善プロセスの繰り返しが不可欠といえます。
デジタルマーケティングを推し進める
今や、あらゆる消費者が簡単にインターネットへアクセスできる環境が整備されており、消費者のニーズや接点は多岐にわたり、それにインターネットの利用環境に応じてマーケティング手法もは変わります。そのため、「一律的にこれが正解」という手法は存在せず、集積された顧客データに基づいて効果的なマーケティング施策を取る必要があるのです。
デジタルマーケティングを成功させるポイントは、「オムニチャネル」を活用する連動させることと、「データドリブン」に基づいて消費者にアピールすることが挙げられます。オムニチャネルとはあらゆる顧客との接点(チャネル)で、顧客にとって最適な購買体験を提供するというマーケティング手法です。アパレル業などでよく使われますが、消費者から見た実店舗やECサイトの境目をなくし、企業も店舗ごとやECサイト単体ではなく、購買活動全体のから見たデータ分析に基づくマーケティング施策を行うなど、と販促の境目をなくし、全てをチャネルの境目をなくす連動させることを意味します。データドリブンが意味するのは、ツールなどを用いて消費者動向などのデータを分析し、マーケティング施策に組み込むことです。
CDOは、この2点に焦点を当てつつ、自社の強みと弱みを把握し、有効なデジタルマーケティングを推進していく必要があります。
CDOに求められるスキル
CDOは企業組織のデジタル面における最高責任者にあたるため、デジタルに特化した人材としてだけでなく、経営陣の一員としても非常に高い能力を有していなければなりません。ここからは、CDOに求められる代表的なスキル2点を紹介します。
ICTやDXへの幅広い知識
DXについてはもちろん、ITリテラシーやICT(情報通信技術)など、ITに関連するさまざまな分野について広い知識と経験を有していることが求められます。デジタル化が進んでいる時代において、IT関連の情報は常に更新され続けており、「一度網羅的に学び、経験したから終わり」というわけにはいきません。むしろ、過去に学んで経験したIT関連情報の応用や、最新のIT関連情報の獲得が必要になるため、常に学び続ける姿勢こそが何よりも大切なのです。
また、自分だけではなく、企業規模でITリテラシーを浸透させる取り組みに従事することも重要です。社員1人が情報を漏えいしてしまうと、企業全体のイメージがダウンするだけではなく、あらゆるステークホルダーからの信頼を損ね、最終的には企業運営の維持自体が難しくなる恐れがあります。このような事態を未然に防ぐためには、適切な知識を持ったCDOが全社に対してITリテラシーを浸透させることが必要です。
CDOには、あらゆるIT関連情報を常に学び続け、全社規模でITリテラシーを浸透させるための広く深い知識と経験が求められます。
コミュニケーションスキル・発信力
CDOが率いる組織改革において、IT関連情報の難解さや既存システムからの脱却に対する不安により、社員や部署、場合によっては支部規模で反発が起きる恐れがあります。経営層として広い視点で見た場合に必要な改革であっても、現場視点では改革の必要性が理解できなかったり、現実に即していない内容だったりするでしょう。
CDOは、頭ごなしに改革を進めるのではなく、まずは各現場の状況を把握することから始めなければいけません。状況が理解できたら、「なぜ改革が必要なのか」を全社規模で納得してもらえるように、粘り強く伝え続けることが大切です。
そのため、CDOには全ての社員が理解できるように情報を伝えられるコミュニケーション能力と発信力が求められます。
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まとめ
DX推進には、デジタル化への理解を深め、柔軟な対応を継続していくことが不可欠です。将来的に企業が生き残っていくためには、この取り組みを常に実施していく必要があります。
そこで有効なのが、CDOという役職の設置です。デジタル化に対する深い知識と経営層としての視点を併せ持つCDOが率先して組織改革を実行することで、企業は激しいデジタル化の波に飲み込まれることなく、企業価値の創出を続けられるでしょう。
CDOを設置する際には、この記事で紹介したような能力を有する適切な人材を選ぶことが重要です。個人として優秀なだけではなく、企業全体にとって有益となり得る人材こそCDOに適任でしょう。
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