今回は商社について、主な機能や総合商社と専門商社の違い、メーカーとの関係性を解説します。また、商社の展望に焦点を当て、近年注目されているDXとの関わりについても紹介します。
商社とは
商社とは「国内における物資の販売や輸出入貿易を中心に商業を営む業態の会社」のことです。
商社のビジネスの中心は卸売ですが、厳密にいえば卸売とは別物です。卸売は物流と商流のどちらも行うものの、商社には物流の機能がありません。商社はメーカーに原料を仕入れるので、例えるならば「川上」に近い存在です。反対に卸売はより消費者に近い視点で商品提案をすることから、「川下」寄りの存在といえます。つまり、商社と卸売とでは商品の流通経路における立ち位置が異なるのです。
なお、商社の機能は商取引だけではありません。現在の商社には事業開発などさまざまな機能が備わっています。
総合商社と専門商社の違い
商社には「総合商社」と「専門商社」の2種類があり、一般的に両者は取り扱う商材の範囲で区別されます。総合商社と専門商社の違いは以下の通りです。
総合商社の特徴
総合商社は、エネルギー資源から食料品までさまざまな商材を取り扱っており、範囲の広さから「ラーメンから航空機まで」というキャッチフレーズが存在したこともあります。日本では「伊藤忠商事」「丸紅」「三菱商事」「三井物産」「住友商事」が5大商社とされています。
専門商社の特徴
専門商社は、扱う商材を限定しているのが特徴です。具体的には売上比率が50%以上の商品があると、専門商社に分類されます。例えば、食品商社なら「三菱食品」や「日本アクセス」などが有名です。
商社の基本は「トレード」と「事業投資」
商社の生業は「トレード」と「事業投資」の2つです。以前はトレードが主軸事業でしたが、近年では事業投資の比重が大きくなりつつあり、商社を知る上ではこの2つの事業について理解を深める必要があります。ここでは、トレードと事業投資それぞれのビジネスモデルを解説します。
トレード
商社にとって伝統的で本質的な業務にあたるのが「トレード」です。商社は、主に国内メーカーから仕入れたモノの輸出や海外からの輸入、国内の小売業への販売、貿易などを行っています。商社のビジネスモデルは売主と買主の双方をつなぐシンプルなもので、両者あるいは片方から手数料を受け取ることで事業として成り立っているのです。商社のトレードは、売主の場合は販売機会の拡大につながり、買主も調達時にニーズを満たしやすくなるため、双方にメリットがあります。
近年、商社を仲介せずに取引する売主や買主が増加傾向にあります。そこで必要になったのが「バリューチェーン」の構築です。バリューチェーンとは、一連の事業活動を価値の連鎖として捉える考え方で、日本では「価値連鎖」と呼ばれる場合もあります。商社が売主と買主から求められているのは、「商社だからこそ提供できる価値」です。現在では多くの商社が、「物流」「情報」「金融」「企画」などの機能を駆使して、バリューチェーンの構築を行っています。
事業投資
バリューチェーンの構築に欠かせないのが「事業投資」です。事業投資では、まずバリュー構築をする価値があると判断した企業に対し、人材や資金、経営ノウハウなどを「経営資源」として投入します。その後、長期的な事業経営サポートを通じて、出資先企業の価値を向上させるのです。事業投資は最終的には商社自身のバリューチェーンの価値向上につながり、収益の最大化に直結します。
商社による事業投資の事例をご紹介します。
コンビニX社への事業投資の事例
総合商社YはコンビニX社の株式総数の約3割を取得しており、小売事業経営への参入を果たしました。商社Yではコンビニに並ぶ商品の原料調達や加工、在庫管理システムなどの資源を全て保有しています。つまり、商社YがコンビニXに事業投資を行えば、コンビニXの企業価値は向上するといえます。コンビニXの業績が上がれば、投資をした商社Yの企業価値も高まるだけでなく、自社バリューチェーンに含まれる素材メーカーや食品会社の収益向上につながります。
商社とメーカーの関わり
商社とメーカーには密接な関わりがあります。商社とメーカーの関係性をより詳しく知るには「両者の違い」「両者のつながり」「双方にとって関わるメリット」の3点を押さえておきましょう。
両者の違い
商社とメーカーは混同されるケースもあるほど密接な関係にあります。商社が自社グループの工場に製造を依頼しているケースは、商社とメーカーの区別がしづらくなる代表例です。
また、メーカーの中には商社と同じ機能を持つ会社もあり、余計に紛らわしくなっているケースもあります。
一般的な商社とメーカーの違いは以下の通りです。
商社の特徴
「他社」の商品を幅広く取り扱っているのが特徴。ただし自社では商品を作らない。
メーカーの特徴
商品の製造から販売まで行っていて、特に「自社」で製造をおこなっているのが特徴。
両者のつながり
商社とメーカーの関係性はさまざまです。一般的にみられるのは、メーカーと小売店の間に入り、小売店への商品の納入をサポートする仲介の形や、メーカーが原材料の調達をする際のサポートなどです。また、商社が持つ国内外の情報をもとにメーカーの商品づくりをサポートする形もあります。ほかにも、商社がメーカーの事業に対して投資を行うといった例もあります。
双方にとって関わるメリット
商社とメーカーがつながると、双方にメリットがあります。商社の場合は、海外を中心に幅広い種類の商材を取り扱っているため、メーカーのニーズに沿った提案が可能です。メーカーにとっては、今まで知らなかった商材を知るきっかけになる場合があります。一方、メーカーの強みは常に顧客の要望に合わせた商品作りができる点です。一般的な商社には製造機能がありません。商社は「顧客課題の解決のプロである」メーカーの力を借りて、商品提案の幅を広げられているのです。
商社の主な機能
商社の主な機能は商取引だけでなく、「市場調査・市場開拓」「事業開発」「リスクマネジメント」「物流」「金融」などさまざまです。ここでは、商社の主な機能を紹介します。
商取引
情報格差や需給格差を活用した「モノ」「サービス」の売買を行っている商社のコア機能のことです。最近ではeマーケットプレースの設営や運用にも力を入れており、世界規模の最適調達と販売の道を模索しています。ほかにも、関連サービスとして「物流(輸送・通関・加工・在庫)」「金融(資金調達・運用・決済・為替)」「保険(海上・輸出入・火災)」「法務・審査」などの提供も行っています。
市場調査・市場開拓
商社には「市場調査」と「市場開拓」の2つの機能があります。両者の特徴は以下の通りです。
市場調査の特徴
商社はさまざまな国と貿易を行っており、グローバルな情報網を構築しています。そのため、世界各地の政治・経済の情報や地域情報、先端技術の情報、法律税務情報などの情報を幅広く収集できるのです。集めた情報は分析を行い、事業計画の策定や経営戦略の立案に活用しています。また、市場調査で得られた情報は、メーカーなど取引先にも提供されています。
市場開拓の特徴
世界中の需要と供給のバランスを把握できるのも商社の強みです。グローバルな商取引を円滑に進めるには需要と供給をマッチングさせる必要があり、世界市場の調査や分析が欠かせません。商社は調査・分析した結果を生かして、新規市場の創造や取引先が製造した製品の販売支援などを行い、さまざまなアプローチで市場開拓を行っています。
事業開発
社会や産業構造の変化で満たされなくなったニーズに対して、新たな商品やサービスの開発および事業化を育成・支援する機能のことです。事業開発には、総合商社が持っている「情報収集・分析」「原材料調達」「製品販売」「物流手配」などの機能をフル活用します。
商社はさまざまな事業分野を経験しているという特徴があります。このノウハウを生かし、他分野に既存バリューチェーンを適用したり、流通経路のバリューチェーンを再構築したりと、産業の変革を行えるのは商社ならではの機能といえます。
リスクマネジメント
商社には長年蓄積したノウハウや豊富な経営資源があるため、ビジネス推進上のリスクを最小化できます。特に、ベンチャーのような新規成長事業や発展途上国における大型事業には、リスクマネジメントが欠かせません。
商社はこれまでの経験と情報力を駆使して、責任分担の適正化や適切なパートナーの選択、担保の確保などから事業推進時に伴うリスクの最小化を担っています。
物流
商社はさまざまな方法で物流事業に関わっています。近年では、倉庫・流通センターの運営にも参入し、ITによる効率的な物流システムの構築も担っているのです。きめ細かな「搬入」「仕分け」「配送」「加工処理」から、全体最適の物流システムの構築を実現しています。ほかにも、発展途上国の物流事業や、国際複合一貫物流事業に参入する商社も増加しています。
金融
商社には銀行とは異なる独自の金融機能が存在します。具体的には、「企業間信用の供与」「投融資・保証」「プロジェクトファイナンス」「外国為替取引」などです。近年では、「ベンチャーキャピタル機能」や「事業買収・合併に関わる諸機能」など、機能の拡張も進んでいます。
商社のこれから
これからの商社を考える際、いくつか触れなければいけないテーマがあります。ここでは「商社の展望」「商社不要論」「データドリブン経営とDX推進」「データドリブンを行う方法」の4点を見ていきましょう。
商社の展望
今後の商社のビジネスは、事業経営中心の傾向が強まるでしょう。したがって、伸びしろのある事業分野や事業会社を選定できるかという点や、投資や人材の派遣によって経営に関わり大きな成長を実現できるかという点が重要になってきます。また、投資にリスクはつきもので、的確なリスクマネジメントを行いながら事業を進めていくことが求められるでしょう。
商社不要論
「商社不要論」は「仲介業者としての商社は要らない」という考え方で、バブル景気の頃から主張され続けているものです。「商社は物を右から左に動かすだけ」「輸出入だけ行っている存在」と認識されている方も少なからず存在します。
結論からいえば、商社が不要になることはありません。なぜなら、事業の中心であるトレードでは単なる物の移動を行っているだけでなく、バリューチェーンの構築などで独自の価値を提供しているからです。また、商取引以外にも豊富な機能がある点も見逃せません。
なお、商社不要論に関して、以下の記事でより詳しく解説しております。併せてご確認ください。
商社はいらない?役割や機能をもとに考える「商社不要論」
データドリブン経営とDX推進
商社がさらに価値を高めるために取り組んでいるのがDXの推進です。これまでの企業では「勘と経験と度胸(KKD)」に頼った判断が多い傾向にありました。しかしビジネス環境が目まぐるしく変化する現代では、従来の勘や経験などでは対処が難しくなっています。
そこで注目を集めているのが「データドリブン経営」です。データドリブン経営は収集・蓄積した様々なデータを経営戦略などに活用することを指します。
このデータドリブン経営はDX推進に欠かせません。どれだけ高度なAI技術などがあっても、既存データの整備ができていなければ、DX推進は一向に進まないでしょう。これにより、商社もデータによる経営状態の可視化や、ビジネストレンドの予測・分析、意思決定を行うことを重視するようになったのです。
データドリブンを行う方法
商社がDXを推進する過程において、ITシステムの導入を進めるケースが増加しています。例えば、お金と商品の流れを一括で管理できる「販売管理システム」の導入で、事業を効率化しているケースです。
販売管理システムには「販売管理機能」「在庫管理機能」「購買管理機能」が備わっており、ミスの削減やデータの有効活用にも役立ちます。
販売管理システムの商社での活用方法など詳しい情報はこちらの記事にまとめていますので、ぜひご覧ください。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
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まとめ
商社には「専門商社」と「総合商社」の2種類があります。専門性が高いと専門商社、汎用性が高いと総合商社にそれぞれ分類されます。
商社の機能はメインの商取引だけではありません。「市場調査・市場開拓」「事業開発」「リスクマネジメント」「物流」「金融」と多機能である点が商社の特徴です。
近年の商社において、DXの推進が求められています。GRANDITでは商社におけるDX化の取り組みについて特集した記事を掲載しておりますので、ぜひこちらもご覧ください。
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- 商社・卸売業