食品の包装などで目にするシート/フィルムの製造過程では、「フィッシュアイ」や「ピンホール」をはじめとするさまざまな不良や欠陥が発生します。不良製品の流出を未然に防ぐためには精度の高い品質検査が必要不可欠です。
しかし、目視や汎用センサーなどによる従来の検査方法で、数ミクロン単位の異物や不良を発見しようとすると限界があります。人材確保が難しい近年の状況に加えて高速化するラインの中で、シート/フィルムの外観検査を行うには、従来の方法で対応し続けるのは困難でしょう。
そこでおすすめなのが最新の画像処理検査システムを用いた方法です。高解像度のスキャンと高速な画像転送、そして外部要因にも対応できる濃淡補正機能でスピーディかつ高精度な外観検査が可能となります。
本記事では、シート/フィルムの製造方法から、途中で発生する不良や発生原因、そしてそれらを防ぐための検査方法を詳しく解説します。
シート/フィルムとは
一般的に薄い膜状の素材をシートまたはフィルムと呼びます。明確な定義があるわけではなく、国内においては200μm以下をフィルム、それ以上をシートと呼ぶケースが多いです。しかし最終的な判断はメーカー次第となっています。
一言にシート/フィルムといっても、原材料は合成樹脂、金属箔、紙、布などさまざまです。食品の包装などには樹脂シート/フィルムにアルミを蒸着したものを用いるのが主流となっています。ここでは樹脂を用いたシート/フィルムを前提に解説します。
シートやフィルムの主な製造方法
シートやフィルムにはいくつかの製造方法があります。その中でもっとも主流となっているのが「溶融押出成型法」です。具体的な製造方法は以下の通りです。
溶融押出成型法
熱可塑性樹脂を薄く伸ばしてシート/フィルムとして成型する方法です。具体的には樹脂成型と同じようにシリンダー内で溶かしてから、押出金型で押し出して成型し冷却するというのが基本的な流れになります。
溶融押出成型法の成型方法には「インフレーション法」「キャスティング法」「溶液流延法」「カレンダー法」などの手法があり、原料や目的に応じて使い分けるのが一般的です。それぞれの方法の特徴について解説していきましょう。
なお樹脂成型や樹脂成型品に関しては「樹脂成型品の種類や加工方法は?よくある加工不良と効率的な検査法まで解説!」の記事で詳しく解説しています。興味がある方はぜひご覧ください。
インフレーション法
インフレーション法は、押出機の先端部分に「リングダイス(円形ダイ、クロスヘッドダイ)」と呼ばれる環状金型を装着して成型する方法です。プラスチック樹脂のシート/フィルムの成型に特化した方法でもあります。
環状のリップを持つリングダイスから成型物となる原料を連続するチューブとして押し出す仕組みです。リングダイスの中央には空気を送り込むための孔が開いています。そこから冷たい空気を入れてチューブを膨張させ、ローラーで巻き取りながら冷却することで、円筒状に成型されたシート/フィルムが完成します。
【インフレーション法で用いられる設備名と役割】
設備名 |
役割・工程 |
押出機 |
溶融された樹脂をリングダイス(円形ダイ)に押し出す。 |
リングダイス(円形ダイ) |
押出機から樹脂をチューブ状になるよう押し出せるようにするためのダイ。リングダイスを使うことでフィルムが円筒状になる。 |
インフレーション冷却 |
リングダイスの空気孔から樹脂に空気を送り込み、3~4倍の大きさにまで膨張させる。 |
ニップロール |
膨張した樹脂フィルムを引っ張りながら冷却して巻き取る。 |
巻き取り機 |
チューブ状になったフィルムを巻き取って、適切な位置でカットする。 |
Tダイ法(キャスティング法・フラットダイ法)
Tダイ法は、押出機の先端部分に「Tダイ」と呼ばれる直線状の金型を装着して、材料を平らな状態で押し出す成型法です。キャスティング法やフラットダイ法とも呼ばれています。
T字型の金型の先端部分から押し出されたシート/フィルムを冷却ローラーで巻き取り、次の工程に進むのが基本的な流れです。
インフレーション法と同様にシート/フィルムに特化した成型方法で、光学的性質に優れたシート/フィルムの成型に向いています。
【Tダイ法で用いられる設備名と役割】
設備名 |
役割・工程 |
押出機 |
溶融した樹脂をTダイに押し出す。 |
Tダイ |
樹脂を平らな状態にして押し出すためのダイ。ローラーを活用して溶解膜の冷却・圧延を行う。Tダイリップの幅を上限にシート/フィルム幅を調整できるのが特徴。 |
冷却ロール |
Tダイから押し出された溶解膜をよりフラットな形状にして冷却・成型する。 |
引き取り機 |
成型されたシート/フィルムを引き取って、巻き取り機に送り込む。 |
巻き取り機 |
引き取り機から搬送されたシート/フィルムをロール状に巻き取る。 |
溶液流延法
原料を溶媒に溶融させた溶液(ドープ)を加熱し、蒸発させることでシート/フィルムを成型する方法です。
具体的には、溶媒に溶融させた溶液(ドープ)を平らな表面を持つドラム(キャスティングドラム)やステンレス製ベルトに流し込んで付着させ、これをさらに加熱・蒸発させることで、シート/フィルムの成型を行います。厚みの調整精度が非常に高い成型法です。
溶融押出成型法と比較すると樹脂に与える熱量が低いため、熱安定剤などの添加量を削減できます。また、工程途中に溶液をろ過する装置を設置できるので、フィッシュアイなどが発生しません。さらにシート/フィルムに物理的な圧力を与えないためキズが付きにくく、透明度の高いシート/フィルムを成型できます。
カレンダー法
溶融状態に熱した熱可塑性樹脂を複数のローラー(カレンダーローラー)で挟み、圧力を与えながら延ばしてシート/フィルムを成型する方法です。複数のローラーで加熱または冷却しながら圧延・成型し、最終的にローラーに巻き取られて完成します。
カレンダー法は一般的に塩化ビニル樹脂などの材料に用いられる方法です。成型物に合わせて各カレンダーロールの太さや回転数を調整することで、シート/フィルムの厚みなどの精度を高める工夫が施されています。
実用するためには大型設備の導入が必要ですが、高い生産力・製造力を持っています。ただし、カレンダー法を用いた成型・製造には複雑な調整・加工が求められるため、実用には熟練の技術が求められます。
シートやフィルム製造でよく発生する不良
シートやフィルムの製造では、多種多様な成型方法があるなかから成型物の特性に合わせた方法を用いるのが基本です。しかし、いずれの方法であっても一定の割合で「フィッシュアイ」や「ピンホール」などの不良が発生する可能性があります。
ここからはシート/フィルムの製造で頻繁に発生する不良について、原因と合わせて解説します。
フィッシュアイ
フィッシュアイは、溶融された樹脂の一部が完全に混ざり合わず塊として残ったものです。
フィッシュアイが発生する主な原因は樹脂温度の低さです。溶融段階で樹脂温度が適温より大幅に低いと、ほかの原料と溶融せず残ってしまいます。または原料の不適切なブレンドもフィッシュアイが発生する要因のひとつです。
【フィッシュアイ発生の主な要因】
- 樹脂温度が低いため原材料が完全に溶融していない
- 原材料のブレンドが不適切(配合率・原材料の種類など)
- スクリューの回転速度が遅い
シート/フィルムの製造過程で発生する不良には「フィッシュアイ」のほかに、熱可塑性樹脂が製造途中でゼリー状になってしまう「ゲル」などもあります。
樹脂の溶融関係だけでなく、製造過程で空気が混入する気泡(ボイド)もシート/フィルム製造でよく発生する不良の一種です。気泡が発生する基本的な原因は微細なゴミやチリなどの混入がほとんどですが、気泡があまりに微細な場合は成型品としてそのまま納品されることもあります。
ピンホール
シート/フィルムに針で突いたような小さな穴が空くことを「ピンホール」といいます。シート/フィルムの厚みは数十ミクロンで「膜状」と呼ばれるほど薄いため、微細な突起物はもちろん輸送中の振動や衝撃でもピンホールが発生します。
【ピンホール発生の主な要因】
- 梱包物などの突起物による突き刺し
- ほかの梱包材や箱内部との摩擦
- 屈曲の繰り返し
- 落下の衝撃や輸送時の振動
シート/フィルムは食品の酸化防止・雑菌繁殖の防止目的でも使用されるため、たとえ目に見えないほど小さな穴でも空いていれば深刻な問題になってしまいます。
ピンホールの検査方法については以下の記事で詳しく解説しています。
ピンホール検査とは?その仕組みと活用シーンを解説
その他の不良(異物、キズなど)
フィッシュアイやピンホールのほかにも、異物の混入や搬送・搬出時の振動・衝撃によるムラ・スジ・シワ・キズなどができることも少なくありません。シート/フィルムそのものが非常にデリケートであることに加えて、静電気などの影響でゴミや異物が付着するケースも多いです。
いずれの不良であったとしても、発生した際にはまず外観検査や製造環境の見直しを行い原因を解明することが大切です。場合によっては不良要因を解消する設備やシステムの導入も検討すべきでしょう。
シートやフィルムの検査方法と課題
シート/フィルムは検査すべき範囲が広く、ピンホールやフィッシュアイなど微細な欠陥を人力で検査するには、相当の労力と手間がかかります。そんななかでこれまでシート/フィルムの検査の方法として用いられてきたのが「目視による外観検査」と「汎用センサーや汎用カメラ」などを活用した検査です。
しかし、年々製造ラインが高速化されるなかで目視による外観検査を行うには限界があります。人手不足や人材確保の難しさから、網羅的に実施するのは難しいケースがほとんどでした。
同様に汎用センサーやカメラでも数ミリ、数ミクロン単位の不良・異物を漏れなく検出するのは困難です。さらにシート/フィルム本体には透明・光沢・デコボコなど多種多様な性質があり、外部要因の影響を受けやすい画像センサーでの対応が難しく長年の課題となっていました。
上記のような検査方法の課題解決策として、近年注目を集めているのが最先端の「画像処理システム検査」です。
最新の画像検査を活用したシート/フィルムの不良検出
最先端の画像検査システムは高解像度の画像処理ができ、その大容量画像を高速転送できるラインスキャンカメラを搭載しています。検査が広範囲に及ぶシート/フィルムであっても一括スキャンが可能です。
さらに表面の影や光沢など外部要因による影響を感知し、検査に最適な画像に補正を行うリアルタイム補正も搭載されています。つまりシート/フィルムの素材や検査環境などの影響を受けずフィッシュアイやピンホール・異物の感知ができるのです。
1台のシステムで画像処理による外観検査・寸法検査ができることに加えて、高速ラインの検査にも対応できる精度があるため、手間と時間をかけていた検査がインラインで実現できます。
画像処理システム検査を活用すれば、シート/フィルム製造における検査業務を最大限効率化し、不良品の発見・人件費削減など数多くのメリットが期待できるでしょう。
その優れた機能性から、最新の画像検査システムは下記のような課題を抱えたケースに最適です。
- 生産性を向上させるために検査システムを高速化したい
- 汎用センサーで対応できないシート/フィルム検査を自動化したい
- 検査結果のデータを蓄積したい
- 検査に対する手間を減らして検査工程の人手不足を解消したい
外観検査で用いられる最新の画像検査システムは、各社からさまざまな製品が販売されています。まずは自社の課題を洗い出してから、目的に合った機能を持つ画像検査システムを選んでみてはいかがでしょう。
まとめ
シートやフィルムの製造においても、さまざまな不良が発生します。面積の広いシート/フィルムに対して、数十ミクロンという不良を目視や汎用センサーで漏れなく見つけるのは、困難を極めるでしょう。しかし、近年ではシステムを利用した外観検査の精度も上がり、細かな不良でも発見可能になっています。
外観検査をAIで自動化する方法などについてまとめた資料もございますので、検査システムの導入・見直しを検討中の方は、ぜひご覧ください。
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