住宅や車、スマートフォンなどガラスが使われている製品は多岐にわたります。そんなガラス製品は、仕上がるまでにさまざまな製造工程を経ています。
また、加工方法も豊富で、製品の特徴などに応じて最適な方法を選ぶ必要があります。
そこで本記事では、ガラス加工の種類や起こりうる不良の例、検査方法を中心にご説明します。一般的なガラス加工の工程だけではなく、特殊なガラス作りなども取り上げました。ガラスやガラス加工について基礎知識を身につけたい場合は、ぜひ最後までご覧ください。
ガラス製品の一般的な製造工程
ガラス製品の生産工程は、主原料の調合から始まり原料の溶解、成形、徐冷(冷却)を経て、最後に検査を行います。検査を通過した製品が出荷されます。
ガラスの主原料は珪砂(けいしゃ)と呼ばれる砂です。公園などでよく見かける砂場の砂も珪砂です。
珪砂を溶かすには1,700℃の高温が必要で、通常はこの温度で熱するのは困難です。そこで溶解までの温度を下げるためにソーダ灰という材料を加えた後、石灰を入れます。石灰を入れると水に溶けないガラスになります。
珪砂、ソーダ灰、石灰の3点を混ぜて加熱し、その後ゆっくりと冷やして板状にすると窓ガラスが完成します。ガラスの加工方法にはフロート法やロールアウト法があります。次章でそれぞれの加工方法をご紹介します。
ガラスの加工方法
ガラスの加工にはさまざまな方法がありますが、ここでは板ガラスの加工に用いられるフロート法と割れにくいガラスを製造するロールアウト法を主な加工方法としてご紹介します。
フロート法
フロート法は、ガラスの加工で最もポピュラーな手法といえます。フロート法は1959年にイギリスのピルキントン社が開発しました。歴史が長いこともあり、最もよく採用されています。
特徴は、溶けたガラスをスズなど溶解金属の上に流し込み、ガラスとスズの比重の差を利用する点です。
およそ1,600℃まで加熱・溶解されたガラスを溶解金属が敷かれたフロートバスに流し込みます。流し込んだガラスは溶解金属の上に浮かびながら広がっていきます。平らになって流れながら少しずつ冷却されたガラスを切断して成形します。
ちなみに、スズを溶解金属として使うと、平らできれいなガラスを作ることができます。フロート法により成形できるガラスの厚みは、2~25mmくらいまで調整が可能です。
厚みを調節する際は流入速度を変更します。フロート法で製造されるガラスはフロート板ガラスと呼ばれることがありますが、一般的な板ガラスです。型ガラスのように片側の表面に模様などはありません。
基本的には重力を使った加工方法なので、複雑な設備や特殊な性能がなく、コストをおさえられます。
ロールアウト法
ロールアウト法は溶融したガラスを上下の2本のロールで挟んで引き延ばす加工方法です。この方法でも板状のガラスが出来上がります。
ガラスの原料を液状になるまで溶かす点はフロート法と同じです。しかし、このロールアウト法ではその先の工程で溶けたガラスを2本のロールで挟んで加工します。
ちなみに、ローラーで挟む際に、片方のローラーに模様を入れることができます。そのため、模様付きのガラス板を作りたいときはロールアウト法が使われます。さらに、金網を入れておくと強度の高い金網入りのガラスが完成します。
なお、ロールアウト法は1920年代にアメリカのフォード自動車会社が開発しました。フロート法よりも長い歴史がありますが、フロート板ガラスの品質が向上したのはフロート法の登場によるものでした。そのため、フロート法で製造できない製品をロールアウト法で作ることが増えたのです。
特殊なガラスのための加工
ここからは特殊なガラスの加工方法を5つご紹介します。
耐熱ガラス加工
高温にも耐えられるガラスにする際は、低膨張がキーワードです。例えば、ガラスコップに熱湯を注ぐと、コップ内部が膨張します。コップの外側は温度の上昇が遅れ、膨張のバランスが崩れることでコップが割れてしまいます。
そのため、耐熱ガラスは熱による膨張が少ない素材が使われます。
石英ガラス
特に純度の高い二酸化ケイ素からなるガラスです。透明素材のなかでは膨張率も低く、耐熱温度はおよそ1,000℃となっています。石英ガラスはハロゲンランプやハロゲンヒーターなど、稼働後に高温が持続する製品に使われます。
ホウケイサンガラス
ドイツのSCHOTT社が開発した、酸化ホウ素を含むガラスです。パイレックスやハリオなど耐熱食器の素材として有名です。家庭にあるコーヒーポットやメジャーカップなどには酸化ホウ素ガラスでできているものがあります。
結晶化ガラス
1958年、アメリカのコーニング社が特許を発表したパイロセラムは、石英ガラスと同等の低膨張、耐熱性を持つガラスです。非結晶物質であるガラスを特殊成分と特殊工程の熱処理で結晶化します。近年の結晶化ガラスはさらに進化して、超低膨張ガラスも誕生しました。
これらの耐熱ガラスは、建材に用いられることもあります。
強化ガラス加工
強化ガラスは、表面にあらかじめ圧縮力を蓄えるよう加工されたガラスです。
ガラスに重力がかかると、上から圧縮の力が働き、下からは引っ張られる力が働きます。このとき通常のガラスは、上面に必要以上の荷重がかかると下方にたわんでいき、割れてしまいます。そこで圧縮力を蓄えさせるのが強化ガラスです。
強化ガラスはフロート板ガラスを650℃程度まで熱して、常温の空気を吹きかけて冷却します。これにより、ガラス板の圧縮応力層が形成されます。強度は3~5倍程度向上するといわれています。
強化ガラスはフロート板ガラスと同様に透明で、見た目では区別できません。強化ガラスが割れると粉々に砕け散りますが、フロート板ガラスは大きな破片に分かれます。
強化ガラスは、住宅のガラス窓やガラス棚板、テーブルトップ、近年ではiPhoneにも使われています。
複層ガラス加工
複層ガラスはペアガラスとも呼ばれ、複数のガラスの層から構成されています。ガラスとガラスの間に空間を持たせ、そこにアルゴンガスを注入することで、断熱効果や結露の防止効果を生み出します。
近年では3枚の板ガラスを用いる3層ガラスも登場しています。
なお、誤解されがちですが複層ガラスは1枚ガラスよりも遮音性が劣ります。
合わせガラス加工
合わせガラスは、2枚以上の板ガラスの間に中間膜を挟んで作られたガラスです。構造として複層ガラスと似ていますが、空間部分の構造が違います。
複層ガラスはガラスとガラスの間が空間となっています。一方の合わせガラスは樹脂による膜でガラス同士がしっかりとくっついています。
合わせガラスは1枚ガラスに比べて防犯や防音、紫外線カットの効果が高いことが特徴です。合わせガラスのなかでも防犯に特化したタイプを防犯ガラスと呼ぶことがあります。
Low-Eガラス加工
Low-Eガラスは、表面にLow-Eと呼ばれる金属膜をコーティングしたガラスです。複層ガラスの応用として用いられており、複層ガラスの中間層側のガラスにコーティングを施します。
ガラスとガラスの間にコーティングすることで高い断熱性や遮音性を実現します。赤外線も反射しやすく、室内の温度が外気の影響を受けにくい点も特徴です。夏は涼しく、冬は暖かくしたい場合にLow-Eガラスが用いられます。
なお、製造にかかる費用が高い点がデメリットです。
ガラスの加工において起こりうる不良
ガラスの加工にはさまざまな方法がありますが、その製造工程で不良が起こる可能性があります。ガラス加工において起こりうる不良の例をご紹介します。
キズ
ガラスは他の素材に比べるとキズに強いですが、振動や衝撃で表面にキズが発生することがあります。大きなキズがつくと、割れたり欠けたりする原因となります。特に指で触ってわかるくらいのキズは少しの衝撃でも割れることがあります。
欠け、割れ
強い衝撃や急な温度変化によって欠けや割れが生じます。特に板ガラスのエッジ部分は衝撃に弱いため、欠けたり割れたりしやすいです。
異物、汚れ
製造する際、ガラス素材に不純物やホコリ、チリなどが混入すると、成形後のガラスの内部に入り込みます。また、搬送時においても異物やホコリ、チリが表面に付着することもあるでしょう。静電気によってホコリなどが付着する可能性も考えられます。
気泡
溶解したガラス素材に不純物が含まれていると、成形時にガスなどが発生して気泡ができてしまいます。
泡
製造工程で高温で溶融状態のガラス内部に泡が発生すると、冷却後も泡が残る可能性があります。
逃げ
ガラスを折って割るときに切断面がガラスカッターの線から逸れたことで形が崩れたものを指します。
つの、欠け
ガラスを切断するときに、一部がガラスカッターの線からズレた状態です。凸にズレた部分をつの、凹にズレた部分を欠けといいます。
そげ
ガラスを切断するときに、切断面がまっすぐに割れていない状態です。突き出している部分は鋭利になるため危険です。
はま欠け
ガラスのエッジ部分に強い力が加わることで、貝殻状に表面が欠けることです。浅いはま欠けならば強度に大きな問題はありません。
以上のように、ガラス加工の工程ではさまざまな不良が起こることがあります。検査も含めて予防方法を検討する必要があります。
ガラスの不良を検査する方法
前章ではガラス加工で起こりうるさまざまな不良をご紹介しました。
ガラスは透明度が高いことから、カメラなどを活用した検査では不良を見つけることが困難です。透明度の高さだけではなく、光沢があることや製品によっては模様が入っていることも検査が難しいとされる理由です。金属皮膜が貼ってある場合を想定すると、カメラやセンサーなどを活用しても欠けや割れを検知するのが難しくなります。
そのため作業員が目視によって検査をすることが多いのですが、大きなワークとなれば検査範囲が広く、時間がかかります。また、検査員によって作業スピードや精度にばらつきがあったり、体調によって検査品質が左右されることが課題として挙げられます。さらに検査漏れのリスクもあります。
そこで近年注目されているのが、検査装置を活用した検査です。作業員のスキルや体調に影響されないため、一定の品質で効率的な検査を実現します。
近年では高性能な検査装置も登場しています。例えば、検査内容に応じて最適なカメラや照明を組み合わせて、瞬時にワークを撮影できるカメラがあります。AIを活用して外観検査を自動化する事例も増えており、検査の高度化や人手不足など製造現場が抱える悩みを解消する手段として注目されています。
まとめ
ガラス製品の製造過程ではさまざまな加工方法が使われますが、それぞれにメリット・デメリットはあり、不良品の発生を完全に防ぐことは難しいのが現状です。
不良品の流出を防ぐために不可欠なのが外観検査ですが、人手不足や検査の難化などによって検査員による的確な検査が困難になっています。そこでAIを活用した外観検査が近年注目を集めています。
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