どの業種・企業であっても、業務の効率化は収益率や顧客満足度を高める上で重要です。では、製造業において業務改善・生産性向上を図るには具体的にどうしたらいいのでしょうか。
ここで重要となるのが「タクトタイム」「サイクルタイム」「リードタイム」です。それぞれの意味や計算方法を正しく理解し、適切に使い分けられれば、生産能力を正しく把握して余剰在庫の発生や欠品・納期遅延といった事態を防ぐことができます。
この記事では、タクトタイムの意味やサイクルタイム・リードタイムとの違い、生産性向上につながるサイクルタイム・リードタイム短縮の方法をご紹介します。
タクトタイムとは
タクトタイムとは「1つの製品を作るのにかける目安の時間」です。指揮棒を意味するドイツ語の「Takt(タクト)」に由来しており、ピッチタイムとも呼ばれます。
顧客からある製品の生産依頼を受けた場合、「どのような製品を、いつまでに、いくつ作るのか」といった要望をまず伺います。たとえば製品Aを1ヶ月後に6,000個納品する場合、週または1日にどれくらい生産しなければいけないのか計算します。さらに工場の生産能力も加味した上で、1個生産するのにどれくらいの時間がかかるのかを最終的に算出する必要があります。
この製品1個あたりにかかる生産時間がタクトタイムです。タクトタイムは製品を生産する際の目安であり、ラインピッチを把握する上で重要な数値となります。
タクトタイムの計算方法
タクトタイムの計算方法は以下のとおりです。
タクトタイム = 1日の定時稼働時間 / 1日の生産必要数(最終的な生産必要数 / 納期までの日数)
前述した例に稼働時間8時間という情報を加えてみましょう。
8時間 /(6,000個 / 30日)= タクトタイム144秒
この場合、製品1個あたり144秒で生産していけば問題なく納期に間に合うという計算になります。
注意点として、稼働時間は休憩時間等を引いた定時稼働時間を用います。また、納期までの日数から工場の非稼働日を引くことも忘れてはいけません。
たとえば、稼働時間8時間のうち昼休憩が1時間あれば定時稼働時間は7時間です。さらに月間5日の非稼働日がある場合、納期までの日数は25日となります。それを踏まえると以下の計算式になります。
7時間 /(6,000個 / 実稼働日25日)= タクトタイム105秒
このように、タクトタイムは工場の稼働状況に合わせて計算する必要があります。
ちなみに、顧客からの受注や市場ニーズによって必要生産数が増加すればするほどタクトタイムは短くなります。そのため、後述するサイクルタイムとのバランスを考えて、受注量を調整する目安としてタクトタイムを活用することがポイントとなります。
サイクルタイムやリードタイムとの違い
意味 | 計算式 | |
タクトタイム | 1つの製品を生産するのにかける時間の目安となる理論値 | 1日の定時稼働時間÷1日の生産必要数(最終的な生産必要数÷納期までの日数) |
サイクルタイム | 1つの製品を生産するのに実際にかかる時間を示す実測値 | 定時稼働時間÷実際の生産数 |
リードタイム | 製品の発注から納品までにかかる時間 |
フォワード法:作業着手日を起点に、各工程にかかる日数を割り出して算出 |
製造業で使われる時間を使った指標にはタクトタイムのほか「サイクルタイム」や「リードタイム」があります。ここでは、それぞれの特徴や役割、そしてタクトタイムとの違いについて解説していきます。
サイクルタイムとは
サイクルタイムとは「製品1つ作る工程に実際にかかる時間」です。
サイクルタイムは正味時間であり、途中で行われる品質チェックや器具の交換・管理にかかる時間はサイクルタイムに含まれません。作業間の時間的余裕・損失を除いた純粋な作業時間を指します。
サイクルタイムの計算方法は以下のとおりです。
定時稼働時間 / 実際の生産数 = サイクルタイム
たとえば休憩を含む1日の定時稼働時間が7時間で1日250個生産できているのであればサイクルタイムは「420分 / 250個 = 100.8秒」となり、約100秒に1個生産できているということになります。
タクトタイムとサイクルタイムの違い
タクトタイムとサイクルタイムはいずれも「1製品の生産にかかる時間」を指すため混同されがちです。しかし計算方法からもわかるとおり、両者には明確な違いがあります。
サイクルタイムは、稼働時間を実際に生産した製品の個数で割ったものです。つまり、生産側の目線で計算された数値となります。
一方タクトタイムは、稼働時間を顧客からの依頼や市場ニーズによる必要生産数で割ります。顧客・市場目線で計算された数値です。
- サイクルタイム:1つの製品を生産するのに実際にかかる時間を示す実測値
- タクトタイム:1つの製品を生産するのにかける時間の目安となる理論値
タクトタイムとサイクルタイムにはこのような違いがあり、適切に使い分けることがポイントです。また、詳しくは後述しますが、サイクルタイムとタクトタイムには以下のような関係があります。
- サイクルタイム=タクトタイム:無駄なく生産できている
- サイクルタイム>タクトタイム:生産が追いついておらず欠品や納期遅延の危険性がある
- サイクルタイム<タクトタイム:目標より早く多く生産しているため在庫を抱えやすい
前述した例では以下の計算になりました。
- タクトタイム:定時稼働時間7時間÷(6,000個÷実稼働日25日)=105秒
- サイクルタイム:定時稼働時間7時間÷250個=100.8秒
この場合はサイクルタイムの方が4.2秒短いため、在庫を抱える可能性があると考えられます。
リードタイムとは
リードタイムは「製品の発注から納品までにかかる時間」を指し、さまざまなシーンで利用される指標です。先行日数、手配番数、手番などとも呼ばれます。
製造業で使われるリードタイムには以下のようなものがあります。
- 調達リードタイム:製品の生産に必要な材料・部品を発注して受け取るまでの時間
- 生産リードタイム:生産の開始から完了までにかかる時間
- 納品リードタイム:注文受注後、商品の出荷・配送・納品までにかかる時間
ほかにも開発リードタイムなど、その種類は多岐にわたります。それぞれ示すものがまったく異なるので、正確に理解して使い分けていきましょう。
リードタイムの計算方法は大まかに「フォワード法」と「バックフォワード法」の2つです。
フォワード法は作業着手日を起点にしてそれぞれの工程にかかる日数を割り出し、作業完了までにかかる全体の日数を算出します。
バックフォワード法は作業完了日から逆算して算出する方法です。各工程にどれくらいの時間をかけられるのか、どれくらいの人員が必要なのかを割り出しやすい点が特徴となります。
検品時間や待ち時間なども含まれるリードタイムを短縮するためには業務上の無駄をなくし効率の向上を図る必要があります。
タクトタイムとリードタイムの違い
タクトタイムとリードタイムは性質がまったく異なるものです。
タクトタイムとは「1つの製品を作る際の指標となる時間」です。必要生産数をもとに、どれくらいの時間で1つの製品を作ればよいのかを把握できる指標となります。
一方、リードタイムは「製品の発注から生産・納品すべての工程にかかる所要時間」です。製品1つ作るのにかかる作業時間だけでなく、待ち時間や検品時間などあらゆるものを含めて計算します。製造工程全体の予定を決める上で必要な数値です。
簡単に言えば、タクトタイムは製品を生産する上での理論値であり、リードタイムはそれぞれの工程が完了するまでの実質的な所要時間となります。
タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの関係性
タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムそれぞれの関係性や製造工程における役割は以下のとおりです。
- サイクルタイム=タクトタイム
顧客の要望や市場ニーズに合わせて過不足なく必要な個数を生産できている。 - サイクルタイム>タクトタイム
需要に対して必要な個数が生産できていない。欠品や納期遅延の恐れがあるため修正が必要である。 - サイクルタイム<タクトタイム
製品をスピーディーに生産できている。納期まで余裕を持てる反面、余剰在庫を抱えるリスクがある。そのため、サイクルタイムをタクトタイムに近づけることを検討すべきである。 - リードタイムが長い
生産工程全体が間延びしており需要に対して回転率が低い。収益率や顧客満足度が低下しやすいため、短縮する必要がある。 - リードタイムが短い
生産工程全体がスムーズに進んでおり回転率が高い。収益率や顧客満足度が向上しやすく良好な状態である。
サイクルタイムとタクトタイムについては、両者の数値が近い状態が理想です。
もちろん、欠品や納期遅延を防ぐためには「サイクルタイム<タクトタイム」にして余裕を持たせるように進めるという考え方もあります。とはいえ、あまりにサイクルタイムが早すぎると余剰在庫の増加につながります。余剰在庫の保管コストがかかる状況は工場にとって避けるべきです。無駄なコストをかけずに収益を伸ばすためには、サイクルタイムとタクトタイムの差をできる限り縮めることがポイントです。
リードタイムは、1つの製品を作る時間を表すタクトタイムやサイクルタイムとは異なり、生産開始から完成・納品までに要する時間です。そのため、リードタイムはできる限り短い方が顧客からの注文に対して回転率が高まり、収益率アップや顧客満足度向上につながります。
つまり、タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムには以下のような役割や機能があると言えます。
- タクトタイム:生産工程における目安
- サイクルタイム:生産時間の理論値に近づけるためにタクトタイムとの差を把握する
- リードタイム:短縮することで納期遅延や欠品を避けて収益率アップ・顧客満足度向上につなげる
サイクルタイムを短縮する方法
製造業にとって大きな問題となるのは、生産が追いつかず欠品・納期遅延が発生することです。そのような事態を招かないためには、サイクルタイムを短縮する必要があります。できる限りロスタイムを省くために、まずは生産工程の中でどの工程に時間がかかっているのかを確認しましょう。
たとえば、材料の加工に時間がかかっているのであれば、作業員を増やしたり加工方法を見直したりしてみましょう。また、新たな機械の導入や十分な作業スペースの確保などがサイクルタイムの短縮に有効になる場合もあります。
ほかにも以下のような施策がサイクルタイム短縮に役立ちます。
- 予知保全の実施:設備・機械の故障を未然に防ぎダウンタイムを回避する
- 歩留まりの改善:不良品・廃棄品を減らし生産性が向上する
- 品質検査の自動化:検査工程にかかる時間を減らし、検査品質が上がる
サイクルタイム短縮の取り組みは、欠品・納期遅延の防止や生産性の向上に直結します。ぜひさまざまな角度から行っていきましょう。
予知保全についてはこちらの記事もご覧ください。
予知保全とは?基礎知識や予防保全・事後保全との違いを解説
リードタイムを短縮する方法
前述のようにリードタイムには「調達」「生産」「納品」などさまざまな種類があります。そのため、短縮するためにはそれぞれの種類に合わせて見直しや検討を行うことが必要です。
たとえば、「調達」「生産」「納品」それぞれのリードタイムを短縮するには、以下のような取り組みが挙げられます。
- 調達リードタイム:部品・仕様を共通化し無駄をなくす
- 生産リードタイム:生産計画を見直して業務のスリム化を図る、人員配置の変更で作業効率をアップさせる
- 納品リードタイム:倉庫内を整理や人員増加によりスムーズに出荷できるようにする。配達方法を見直す など
また、生産リードタイムの短縮には前項で挙げた「予知保全」「歩留まり向上」「検査の効率化」といった施策も効果的です。
それぞれのリードタイムに合わせて方法を検討し、実現可能かどうか、状況や割けるリソースなどを加味した上で施策を進めることがポイントです。
リードタイムを見直し短縮が実現されれば、顧客・市場の需要に対する対応力が向上して収益率アップや顧客満足度向上を見込めます。また、滞留在庫を削減できれば利益率の向上にもつながります。自社の現状を見直して、適切な方法を模索してみましょう。
まとめ
製造現場において、生産性の向上は重要課題のひとつです。生産ラインを効率よく動かしロスを減らすためにはタクトタイムとのバランスを考えた上で、サイクルタイムの短縮を行うことが重要です。
サイクルタイムの短縮にはさまざまな方法があり、何から手を付けるべきか迷っている企業も多いのではないでしょうか。近年注目されている取り組みの一つが「外観検査の自動化」です。検査工程の効率化やロスの削減を図る現場が増えています。
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