製造業の現場でトラブルが起きた際に、「チョコ停」という言葉をよく耳にする方もいるのではないでしょうか。製造業に関する仕事に馴染みがない方は、初めて聞く言葉かもしれません。
「チョコ停」は「ちょこっと停止」の略です。かわいらしい名前に反して、チョコ停が発生すると製造ラインにおける生産性の低下や納期の遅れといった問題につながります。そのため、発生しても放置せず、きちんと対策を行うことが重要です。
この記事では、チョコ停が発生する原因や現場に与える影響、チョコ停防止の対策について解説します。併せて、ドカ停との違いや製造業におけるDXについても解説します。
チョコ停の定義
冒頭にご紹介したように、「チョコ停」は「チョコっと停止」の略です。製造現場で何らかのトラブルによって生産が短い時間停止してしまうことを指します。厳格な定義はありませんが、現場レベルで使われるようなローカルな概念でもありません。JIS(日本産業規格)でも取り扱われており、以下のような概念として紹介されています。
設備が生産ラインなどの大規模なシステムの一部となっていて、システム全体を停止に至らしめるような重大又は決定的な故障を大故障(通称としてドカ停)、逆に設備の部分的な停止又は設備の作用対象の不具合による停止で、短時間に回復できる故障を小故障(通称としてチョコ停)という
出典:JISZ8141:2001 生産管理用語 | 日本産業規格の簡易閲覧
つまり、チョコ停は「短時間で回復できるトラブルによる生産停止」とも言えるでしょう。
製造現場によってさまざまなチョコ停が起きますが、具体的にはオペレーターの操作ミスや材料の不良、機器の不具合などが原因です。短時間で復旧が済むことから、こうしたチョコ停は見過ごされてしまうことも多くありますが、そのまま放置してしまうと製造効率に悪影響をもたらします。
もし、繰り返しチョコ停が発生したり、頻度が多くなってしまったりすると、結果的に大きな損失を生むことにつながります。また、一回一回のトラブルは些末だったとしても、積み重なることで大きな故障につながる恐れもあります。
上記の規定にもありますが、チョコ停に関連した用語として「ドカ停」という大きなトラブルによる生産停止を指すものもあります。次章では両者の違いについて確認していきましょう。
チョコ停とドカ停の違い
チョコ停と似た意味で、同じように生産現場で使用される言葉に「ドカ停」というものも存在します。
ドカ停とは「どかっと停止する」の略です。チョコ停とは対照的に、工場の設備や機械、生産活動が長期間停止することを表します。
ドカ停にも明確な定義はありませんが、多くの企業では1時間以上の稼働停止をドカ停とすることが多いようです。ドカ停は長時間製造ラインがストップするため、一度起きてしまうだけで工場全体に大きな損害をもたらします。ドカ停の発生原因はチョコ停と同様にさまざまで、設備・機械の部品の故障や製品加工のプログラムミスなどで発生することもあるようです。チョコ停とドカ停の相違点は、トラブル発生後に短時間で復旧できるのか、それとも復旧に長時間かかるのかという点です。
ただ、チョコ停とドカ停を明確に分ける時間的な基準はありません。
チョコ停はトラブルといっても小さいものですが、機械設備の異常や劣化の前兆を表しているケースもあります。こうした小さなトラブルがいずれドカ停を招く恐れもあるでしょう。
チョコ停とドカ停の違いやリスクを理解し、ドカ停が発生しないよう対策を練ることが重要です。
チョコ停が製造現場に与える影響
チョコ停は、設備・生産の停止時間がドカ停と比較して短く、停止する範囲も部分的です。
しかし、部分的な少しの遅れが製造工程全体の遅れにつながり、納期の遅延につながる可能性があるため、放置するのは非常に危険です。納期が遅れると企業としての信頼を失いかねません。製造の流れがストップすることによって、製品の品質低下や不良品の増加を招いてしまう恐れもあるでしょう。また、チョコ停からの復旧を行う作業中は、製造における安全上のリスクがあるため注意が必要です。
チョコ停が発生する原因
チョコ停が発生する要因はさまざまです。特定の条件で起こるケースもありますが、同じ設備を使っていても製品によってチョコ停の発生率は変わります。しかし簡単な対応で復旧できるため、明確な対策を講じられていない現場が少なくありません。
チョコ停の代表的な原因として、定期メンテナンスを怠る、清掃が不十分、といったことが挙げられます。製品や部品のチェックを行うセンサー類など、工場には多くの設備があり、このような設備は製造ラインにおいて命綱と同等です。定期的な点検・メンテナンスを行うことで、チョコ停が発生する頻度を大幅に減らせるでしょう。
製造ラインが適切なバランスを保てていない場合も、チョコ停のリスクは高まります。どの材料・部品をどのくらい流すのか、ラインの速度、不良品の選別など、適切に設計しましょう。
なお、製造過程に加工品が含まれる場合、その加工品の品質が悪かったり揃っていなかったりすると、次の製造ラインでチョコ停のリスクが高まります。低品質なもの、不揃いなものは前もって選別し、次の工程に流れないように対策する必要があります。
チョコ停は見逃されやすい
チョコ停が発生すれば対応はするものの、多くの現場では対策や改善策を検討するに至らず、止められるはずのチョコ停が繰り返し発生しています。
製造現場では、設備効率を阻害する7つの大きなロスを「7大ロス」と呼びます。例えば、工場設備の立ち上げや、生産する製品を変更する際の段取り替え、製造過程で使用する刃具類の交換によるライン停止は事前に予定されているロスです。
しかし、チョコ停は突発的に発生してしまうことがほとんどで、設備の停止時間は長くありません。チョコ停の対応は現場の従業員が行うため、時間の余裕がなく記録を残していない現場がほとんどです。さらに、現場にいるメンバーだけで解決できる場合もあり、記録を残すまでもないと判断してしまうことも少なくないでしょう。
データ化できずロスが顕在化しにくいチョコ停は、その場の対応で完結してしまいます。工場の完全自動化が進められている企業ほど対策が後回しにされ、大きな問題につながる可能性が高まります。
チョコ停の発生を防ぐには、従業員や機械の稼働時間や設備稼働率低下の原因を発見し、チョコ停発生の要因を表面化させなければなりません。
チョコ停対策の実施の流れ
設備トラブルの発生から解決までの時間が短いチョコ停であっても、機械の稼働が停止してしまう以上、損害は発生します。そのため、製造業においてチョコ停の対策は重要課題といえるでしょう。
では、チョコ停の発生を抑えるためには、具体的にどのような対策を行えばよいのでしょうか。ここではチョコ停発生防止の対策方法を順序立てて解説します。
チョコ停によるロスを数値化する
チョコ停によるロスを数値化するためには、「ワークサンプリング」という調査を行う必要があります。
ワークサンプリングとは、トラブル発生の要因や従業員・機械の動作状況、かかった時間や工数を調べることです。「稼働分析法」とも呼ばれます。工場の作業・生産の状況を調査する際にも使用される調査方法で、ワークサンプリングを実施している企業は数多く存在します。ワークサンプリングは統計的手法の側面があり、数日〜数週間といったある程度の日数をかけて瞬間的観測を行うのが特徴です。1人で多数の対象を調査できるメリットがあります。
チョコ停の防止対策におけるワークサンプリングは、工場設備を稼働と非稼働に分け、非稼働はさらに設備トラブル・チョコ停・段取り替えに分類します。
ワークサンプリングによる調査でチョコ停の時間が明確化されたら、稼働率を計算しましょう。稼働率は、稼働時間と負荷時間を使って計算します。負荷時間は1日もしくは1カ月のうち設備が稼動しうる時間を指し、稼働時間はその負荷時間から計画停止時間と停止ロス時間を引いた、実際に設備が稼働していた時間です。
稼働率の算出方法は以下のとおりです。
■稼働率(%)の計算式
稼働率 = 稼働時間 / 負荷時間
■チョコ停を入れた稼働率(%)の計算式
稼働率 = 稼働時間 /(負荷時間 + チョコ停時間)
上記で算出された稼働率の差分が、チョコ停による稼働率低下(ロス)を表します。
チョコ停の原因を特定する
チョコ停ロスを明確にしたら、次はその対策を練っていきます。現場の負担を増やさないためにも、対策すべき要因は絞り込むとよいでしょう。その際は、簡単なワークシートに記録していくのがおすすめです。ワークサンプリングの調査で判明したチョコ停の原因と発生した回数を書き込みます。
チョコ停は発生してもすぐに解決できる軽微な問題に見えるため、現場で記録するフローを徹底させるのは難しいかもしれません。。しかし、チョコ停の対策を行うためには、発生の都度しっかりと記録していくことが重要です。
データが集まったらパレート図を作成し、チョコ停発生において優先的に改善しなければならない原因を特定しましょう。
パレート図とは、あるものの度数を大きい順に並べた棒グラフと、その累積比率を表す折れ線グラフを組み合わせた図です。パレート解析は、発生した問題の分析や、問題を軽減するための対策を講じるのに有効な方法です。チョコ停の対策においては、縦軸に発生の件数と割合、横軸に発生要因を置いて分析します。
対策実施と改善効果の分析
パレート分析で優先度の高い原因を特定し、対策案を検討します。実際に対策を実行するかどうかは、チョコ停の損失額を計算してから決定するとよいでしょう。チョコ停1回分の損失額を出す計算式は以下のとおりです。
損失額 = チョコ停の時間 × 時間あたりの生産個数 × 製品の単価
対策を実行したら、きちんと効果が出ているかを確認しましょう。対策をしてそれで終わりにするのではなく、対策後にチョコ停の発生が減っているかどうかをチェックすることが重要です。
同時に、対策を実施する際は、「予知保全」を行うことが重要です。予知保全とは、設備機械の故障や不具合などが発生する兆候を検知し、事前に問題を防ぐことを指します。予知保全を行うことで、重大な事故が発生する確率を下げたり、機械設備を長持ちさせたりする効果が期待できます。機械設備の状態を常に確認し、故障や不具合の兆候が見られればその都度メンテナンスを行いましょう。
ちなみに「予知保全」と同じように、機械設備を管理するうえで重要な「予防保全」というものがあります。機械の故障を防ぐ点は共通していますが、「予知」と「予防」では保全を行うタイミングが異なります。
予防保全とは、あらかじめ決めておいた機械が使えなくなるであろう期間、使用できる回数に従って部品の交換を行う保全方法です。突発的な不具合や故障による稼働停止時間を減らしたり、機械設備の保全管理が行いやすくなったりと、予知保全とはまた違ったメリットがあります。
予知保全も予防保全も、機械の故障前に部品交換をすることに変わりありません。しかし、予防保全では前もって決めていた交換日よりも前に機械や部品が故障してしまう可能性があります。予知保全の場合は、まだ使用できる部品を交換してしまうこともあります。いずれの保全方法でもデメリットがあることは認識しておくとよいでしょう。
「予知保全」については以下の記事で詳細に解説していますので、ぜひご覧ください。
予知保全とは?基礎知識や予防保全・事後保全との違いを解説
チョコ停はドカ停に比べ、停止時間が短く直ぐに復旧できることから軽視されがちです。しかし、対策を取らず放置を続ければ、後々工場の稼働に悪影響を及ぼすでしょう。チョコ停が発生した回数・原因をしっかり記録して対策することが重要です。
まとめ
今回は製造現場で起こりがちな「チョコ停」をご紹介しました。チョコ停はさまざまなトラブルに繋がる恐れがあります。仮に生産ラインが停止してしまうと生産性や工場全体の稼働率低下、納期の遅延にもつながるため、発生を未然に防ぐ対策が欠かせません。
しかし、こうしたトラブル発生時に人力で行える対策は限られています。そのため、近年はこうしたトラブル回避や生産効率向上のために、製造現場のDX化が進められています。製造業のDXについてまとめた資料がありますので、ぜひご覧ください。
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