製造現場において行われるさまざまな検査方法の一つである官能検査は、人間の五感を使った検査です。さらに官能検査のなかでも検査対象や手法が数多くあります。
そこで本記事では、官能検査の概要から種類・手法、メリットや注意点までご説明します。製造現場の検査について知識を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
官能検査とは
製造現場で行われる官能検査とは、人間の五感を活用して「見る」「聞く」「味わう」「嗅ぐ」「触れる」ことによって製品の品質を検査する方法です。
官能検査に合格して世の中に流通する製品は多岐にわたります。履き心地のいいスニーカー、高音質のステレオスピーカー、座りやすいイス、切れ味がいい包丁、高画質のテレビなどが身近な例です。
なお、官能検査を行う際はサンプルを用意して、検査対象の製品と比較して良否を判断します。官能検査の具体的な種類は後述しますので、参考にしてください。
官能検査の対象
ここからは官能検査の対象をもう少し深く見ていきます。
- 視覚:製品の色合い、光沢、模様など
- 嗅覚:食品や化粧品の香りなど
- 味覚:食べ物の味、舌触り、歯触りなど
- 触覚:触り心地、使い心地、肌触りなど
- 聴覚:音響機材の音質、ボルトの緩みなど
以上のように五感それぞれを使って、幅広い項目を対象に検査します。
視覚を活かした目視検査については以下の記事解説していますので併せてご覧ください。
目視検査に潜むリスクとは?解決方法まで解説!
https://products.sint.co.jp/aisia-ad/blog/visual-inspection#toc-0
官能検査の種類
官能検査の検査方法は大きく分けて2種類あります。分析型官能検査と嗜好型官能検査です。以下でそれぞれご説明します。
分析型官能検査
分析型官能検査とは、製品の特徴や品質の差を客観的に評価する検査方法です。例えば、食品であれば甘みや固さといった特性の評価や、製品間の差異を識別する際に行われます。
検査員の嗜好は問題になりませんが、高い識別能力が求められるため、検査の目的や求められる精度によっては専門的な研修や学習などが必要です。
また、分析型官能検査は出荷時、工程管理、処理効果の検出、品評会などの場面で行われます。
嗜好型官能検査
嗜好型官能検査は、製品に対する検査員の好みを調査する検査です。主観で製品の好き嫌いを判断できればよいため、分析型官能検査のように識別能力は必要ありません。
ただし、製品のターゲット層の代表となるような検査員を選ぶ必要があります。年齢や性別、生活環境などが検査結果に影響する可能性がある場合、検査員は慎重に選出しましょう。
嗜好型官能検査は主に、新商品開発などに向けて消費者の行動を調査する目的で行われます。商品モニターなどは嗜好型官能検査の一例と言えるでしょう。
検査員の人数が増えるほど市場の状況を正確に把握することができますが、調査に要する日数やコストも比例して増加します。
製造業におけるその他の検査方法
ここでは製造業におけるその他の官能検査の方法として、破壊検査と非破壊検査について解説します。
破壊検査
破壊検査とは製品の強度や耐久性、内部寸法、内部欠陥など通常の製品状態では判断できない品質を、製品を破壊することで検査する方法です。製品を壊すことが前提となるため、抜き取り検査で行われます。
破壊検査には、強度を確認する強度試験、製品や部品の寿命を確認する耐久試験、断面の寸法や空洞の有無などを確認する断面観察があります。
非破壊検査
非破壊検査は、破壊しないと確認できない品質を、代用の手法と品質特性を使って製品を破壊せずに検査することです。X線や超音波、電流などを利用して、強度や断面の状態などを評価します。
非破壊検査は製品を破壊する必要がないため製造コストを抑えることができますが、導入する検査装置によっては破壊検査よりコストが高くなる場合もあります。
官能検査の主な手法
官能検査にはいくつかの手法があります。ここからは官能検査の主な手法を3種類ご説明します。
二点識別法
二点識別法とは、差異がある2種類の製品を対象に、指定された特性に該当するサンプルを判断する方法です。指定される特性の例として、触感であれば「柔らかい/硬い」、味覚であれば「苦い/甘い」などが考えられます。
検査対象の製品間に差があるかどうか、検査員に製品間の差異を識別する能力があるかどうかを確認する際にも用いられる識別方法です。そのため、前述した分析型官能検査でよく用いられます。
また、二点識別法を用いて嗜好型官能検査を行うこともあります。製品の「正しい状態」ではなく、2種類の製品のうち、検査員の主観で「好きな方」「香りがいい方」といった質問に対して該当する方を選ぶ検査です。
三点識別法
三点識別法、は異質なものを1つだけ含む3つのサンプルを用意して、他のサンプルと差異があるものを選ぶ識別方法です。
ただし、二点識別法よりもサンプルが増えることから、検査員にはさらなる集中力が求められます。高い集中力をもって検査するため、精度が向上する点も特徴です。
なお、三点識別法は分析型官能検査で用いることが多い方法です。
一対比較試験法
一対比較試験法とは、3種類以上のサンプルを用意し、そのなかから2つずつ抜き出して1対1の比較を繰り返し、全サンプルの順位付けをする試験方法です。
1体1で検査することで、多くの製品をまとめて検査する場合に比べて検査員への負担が軽減されます。検査結果の矛盾も生じにくいでしょう。
この一対比較試験法は、検査員の判断の一貫性を確かめたり好みの傾向を調査したりする場合に活用されます。分析型官能検査、嗜好型官能検査のいずれでも使われます。
なお、食品の試験ではシェッフェの一対比較試験法も使われています。一対比較試験法では、強度や好みなどを判断しますが、シェッフェの一対比較試験法はその程度を尺度で評価する方法です。対象のサンプルの組み合わせや比較する順序の検査結果への影響を判断することができ、一対比較試験法よりも綿密な判断が可能となります。シェッフェの一対比較試験法も分析型官能検査、嗜好型官能検査のいずれでも活用される試験方法です。
官能検査のメリット
人間の五感を活用した官能検査にはさまざまなメリットがあります。
1つ目は低コストで実施できることです。特別な設備が不要であるため、設備費用や開発費用のイニシャルコストがかかりません。検査員を確保できれば実施できる点が官能検査の大きなメリットといえます。
2つ目は、検査対象の製品やサンプルについて顧客目線の判断が下せる点です。人の感覚や主観などを判断材料となり、よりユーザーに寄り添った製品を作ることにつながります。
3つ目は検査の際は検査対象が3次元形状であっても全面検査ができる点です。機械を使った検査では導入する設備によって全面検査ができないことがあるため、官能検査が適している場合があります。
特に目視検査では製品のキズの検知が的確に行えます。検査対象に付着したホコリなどが欠陥や異常として誤検知される可能性が低く、また、検査機の導入などのコストがかからない点もメリットとして挙げられます。
以上のことを踏まえると、官能検査が適するケースは以下の3点が挙げられます。
- 検査機では数値化が難しい場合
- 検査機での測定は可能でも、コストや工数がかかりすぎる場合
- 検査機よりも人間の五感の方が高い検査精度を期待できる場合
ただし、目視検査などの官能検査にはメリットばかりがあるわけではありません。官能検査は人間の五感を活用することから、検査員のスキルや体調などによって判断にばらつきがあったり、検査対象によってはダブルチェックやトリプルチェックが必要だったりします。また、熟練の検査員になるには経験や知識が求められ、育成に時間がかかる点も認識しておく必要があります。
官能検査の実施における注意点
ここからは官能検査の実施における主な注意点をご説明します。
検査見本を用意する
官能検査では製品の合否の判断基準となる検査見本が必要です。合否の判定に迷ったときには製品と見本を見比べて判断することになります。また、前述のとおり、検査員による判断のばらつきを防ぐ目的としても検査見本が必須です。
また、合格限度見本と不合格限度見本の両方を揃えることで検査精度が高まります。検査品質を維持・向上するためにも検査見本を揃えることは大切なポイントです。
検査環境を整える
官能検査は検査員の感覚に頼って行うため、検査環境によって精度が左右されます。検査する製品によっても適切とされる環境が異なるため、必要な環境の整備には注意が必要です。
例えば、食品の官能検査ならば検査スペースで匂いがしたり気温が高かったりすると、正確な判断が下せません。食品の官能検査は無臭・恒温・恒湿・無騒音といった検査環境が必要です。
複数人で検査する際は、ほかの検査員の評価の影響を受けないように、衝立や間仕切りで区切られたスペースが望ましいです。検査員の体調が判断に支障をきたさないよう、体調管理も徹底して行うことが重要です。
検査作業内容を標準化する
検査精度を維持するには、検査員のスキルやコンディションなど、検査精度が左右される要因をできるだけ取り除く必要があります。そこでポイントとなるのが検査の手順や方法など一連の検査作業の標準化です。
さらに検査の質を向上させるためには、製品が不合格となった理由を記録しておくことも重要です。蓄積されたデータが検査員の教育に活用できます。そして検査員の教育を継続的に実施することも検査品質の向上には必要です。
まとめ
製品を作る工程のなかではどうしても不良や欠陥が発生してしまいますが、不良品が市場に流出しないようにするために必要不可欠なのが検査です。
官能検査は人間の五感によって製品の品質を検査する方法で、コストを抑えながら検査機を使った検査とは異なる強みを持っています。
しかし、近年の製造現場では検査の高度化や人手不足により目視検査のみで検査を行うのが難しくなっています。そこで、AIを活用して外観検査を自動化する事例が増えています。AI化の始め方をまとめた資料もありますので、興味がありましたらぜひご覧ください。
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