半導体は、電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」という2種類の物質の中間にあたる性質をもつ物質で、私たちの身近にあるさまざまな製品に使われています。
本記事では半導体の製造工程から、各工程で使われるさまざまな装置装置についてもご紹介します。製造時の注意点なども含めて、ぜひ参考にしてください。
半導体とは
半導体とは電気を通しやすい導体と電気を通しにくい絶縁体の中間の性質を持つ物質です。導体は金属、絶縁体はゴム、半導体はシリコンなどがそれぞれの代表例として挙げられます。
多くの方が半導体と聞くと集積回路やトランジスタなどをイメージすると思いますが、それらも慣用的に半導体と呼ばれています。
半導体は情報を記録したり数値計算をしたりする情報処理機能を持っており、電子機器などの頭脳部分として中心的な役割を果たします。身近な電気製品にも使われており、私たちの生活には欠かせない存在です。
半導体製造における全体の流れ
半導体の製造工程は大きく「設計」「前工程」「後工程」に分けられます。それぞれの工程はさらに細かな流れがありますが、次章以降で詳細をご説明します。
なお、半導体を含む各素材の製造工程や管理方法について以下の記事でご紹介しています。併せてご覧ください。
素材別の主な製造工程・管理方法・課題点を解説【金属・フィルムetc】
https://products.sint.co.jp/aisia-ad/blog/manufacturing_process#toc-5
半導体の製造工程:設計
まずは半導体の製造工程のうち「設計」段階についてご説明します。
設計の工程では、回路やレイアウトを設計します。必要な機能を実現する回路を設計し、シミュレーションを繰り返して効果的なパターンを検証する流れです。
検証後はフォトマスクと呼ばれる透明なガラス板の表面に、実際よりも大きく回路パターンを描きます。これは半導体ウエハーに移すための原版です。写真のネガに相当すると考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。
この一連の設計工程があるのは、半導体ウエハー表面に形成するトランジスタや配線が非常に細かく、ウエハー表面に直接配置できないからです。まずはフォトマスクを作成した後にコンピューターを使って転写していく必要があります。
なお、シリコンウエハーに関しては以下の記事でも詳しく解説していますので、ご覧ください。
シリコンウエハーとは?製造プロセスからニーズが高まる理由まで解説
https://products.sint.co.jp/aisia-ad/blog/what-is-silicon-wafer
半導体の製造工程:前工程
次は「前工程」に映ります。
この工程では半導体ウエハーの前処理として、シリコンウエハーの表面上にトランジスタなどを含む電子回路を形成します。
ちなみに、シリコンウエハーは超高純度に生成された単結晶インゴットを薄く切断して作ります。サイズによっては、薄く切断された1枚のウエハーから半導体チップが何百個も取り出されます。
現在製造されているシリコンウエハーは最大で直径300mmですが、最先端の製造現場では直径450mmのシリコンウエハーを使うことも検討され始めています。ウエハーが大きくなれば、1枚のウエハーから取得できる半導体の数が増え、コスト低減につながります。
シリコンウエハー上に一層の回路を形成するには、次の3つの工程を踏みます。
- 成膜:配線などになる薄膜層をウエハー上に形成する。
- パターン転写:薄膜上に感光剤を塗布して回路パターンを転写する。
- エッチング:現像されたフォトレジストをマスクする。エッチングによって薄膜を配線などの形状に加工する。
以上の工程を繰り返し行い、最下層にトランジスタ層を形成して、その上に何層もの配線回路層を重ねると半導体が完成します。形成する層は素子分離領域、ウェル、トランジスタ、電極、配線層です。
- 素子分離領域:トランジスタが隣接する素子の干渉なく動作するように設置する領域
- ウェル:トランジスタ領域の形成で少量の不純物を注入する領域
- トランジスタ:電子回路のスイッチング作用を持つ半導体素子
- 電極:チップ内部と外部を接続するための金属を埋め込んだ電気の通り道
- 配線層:電極とそれを配線する層を積み重ねた回路
以上のような領域を成膜、パターン転写、エッチングを基本とした加工を繰り返して形成します。
半導体の製造工程:後工程
後工程は、ウエハーから半導体を切り出し、所定の位置に固定・封入する組立工程です。組み立てが完了した後は検査を実施して半導体が完成します。
後工程は、ダイシング、パッケージング、最終検査という流れで行われます。
- ダイシング:ウエハーを切ってチップを切り離す。(切り離したチップをダイと呼ぶ)
- パッケージング:チップを所定の位置に固定する。金属などで固定して損傷を防ぐために樹脂などでパッケージして封入。
- 最終検査:外観検査や電気的特性検査、信頼性の検査を実施する。基準を満たさない場合は不良品として取り除いていく。
以上の工程をクリアした製品は完成品として、パソコンやスマートフォンなどのさまざまな製品に組み込まれます。
半導体製造で必要となる主な装置
さまざまな工程を経て半導体が完成しますが、完成まで多岐にわたる機械や装置が必要です。各工程ごとに必要な装置をご紹介します。
前工程で必要な装置
- 洗浄装置、乾燥装置:各製造プロセスに移る前の洗浄と乾燥に、バッチ式洗浄装置や枚葉式洗浄装置などが使われる。
- イオン注入装置:トランジスタとして動作させるためのイオン注入を行う装置。プラズマドーピング装置やレーザードーピング装置なども開発されている。
- 熱処理装置:イオン注入後の乱れた結晶構造を回復させるための装置。赤外線アニール装置やレーザーアニール装置などが使われる。
- リソグラフィー装置:半導体のパターンニングに活用するリソグラフィー技術。レジストの塗布などさまざまな工程に対応した装置が必要。
- エッチング装置:リソグラフィー装置で形成されたレジストパターンを微細加工する装置。低音プラズマのドライエッチングが一般的。
- 成膜装置:ウエハー上の絶縁形成などに使われる装置。
- 平坦化装置:複雑な半導体回路を作る場合に使われる装置。
- 検査装置:各工程の加工ばらつきや不良品を検知するための装置。
後工程で必要な装置
- ダイシング装置:ウエハーを1個1個のチップに切り離す装置。
- ボンディング装置:チップを支持体等に固定する装置。
- 外観検査装置:画像から異物やキズ、ボンディング不良を検知する装置。
このようにさまざまな装置を駆使して半導体が製造されます。
半導体製造における注意点
ここでは半導体製造における注意点として2つご説明します。
クリーンルームが必要
半導体製造にはクリーンルームが必要です。クリーンルームとは、一定以上の空気洗浄度を保つ部屋のことで、防塵室と呼ばれることもあります。
必要な空気の洗浄度は扱うものによって異なりますが、半導体の場合は高い空気洗浄度が求められます。半導体のチップにホコリが入るとショートを起こす原因となり、歩留まりを悪化させる可能性があるからです。
また、紛れ込むホコリやゴミは人間が目視できないほど微細なもので、クリーンルームの環境維持には細心の注意が必要になります。
クリーンルームに求められることは、異物を「持ち込まない」「発生させない」「堆積させない」「排除する」ことです。作業者もクリーンルームに入る際は、クリーンウェアを着用してエアシャワーを浴びることが前提となります。
半導体の製造においてクリーンルームの整備は不可欠ですが、クリーンルームは換気に多くの電力を消費するため、洗浄度の維持や向上には多額のランニングコストがかかります。目安として、クリーンルームのランニングコストのおおよそ半分程度が電気代と考えるといいでしょう。生産設備を動かすよりも空調にコストがかかる場合もあります。
コストを削減するためには、ウエハー搬送時など必要な部分だけクリーン化するなど工夫が必要になります。企業にとってランニングコストは大きな課題であり、近年はミニエンバイロメントの考え方が広まり、クリーンルームの利用を最小限に留める傾向が見られます。
必要最小限の工程と洗浄度に留めてクリーンルームを運用することで大幅にコストを削減でき、半導体製造における利益確保につながります。
製造装置の性能が半導体の品質と生産性を左右する
半導体製造は生産工程が多く、各工程でさまざまな装置が使われています。
要求される品質が高く、精密な作業が求められるため、人手ではなく専用の製造装置を使って自動化された生産ラインは不可欠です。
さらに近年は半導体製造装置の性能が向上しています。そのため、半導体の品質や生産性を維持・向上するには、装置を継続的に入れ替える必要があります。半導体不足が深刻化しても簡単に生産量や供給量を増やせない理由は、多種多様な装置が必要だからです。
しかしながら、日本はアメリカと並んで半導体製造装置の分野に強みがあります。コスト面がクリアできれば、より高い品質と生産性で半導体を製造できるでしょう。
半導体製造で発生しうる不良の例
半導体製造の前工程ではほとんどの設備が自動化されており、完成までに多くの検査工程があります。そのため、前工程に起因する不良品が市場に流出することは、それほど多くありません。ただし、人的ミスによって検査をすり抜け、不良品がの発生することがあります。
例えば、拡散工程での検査ミスがあり、不良ロット品を誤った値で検査して出荷した結果、動特性に起因する特性不良が発生することがあります。
また、後工程ではチップの分割時に不良が起こる場合も想定できます。チップの分割で使う装置は、切削時に切削カスを洗い流しながら作業していきます。ところが、十分に洗い流せない場合があり、切削カスが付着することがあり、結果としてウエハーの有効領域にクラックが発生します。
半導体製造は自動化されているとはいえ不良をゼロにすることはできないため、不良の事案を研究して対策を検討する必要があるでしょう。
まとめ
半導体の製造には、緻密で複雑な多くの工程を要します。不良品の流出は防がなければなりませんが、実際のところ人手不足や検査の難化などによって検査員の目視による的確な外観検査は困難になっています。
そこで、AIを活用して外観検査を自動化する事例が近年増えています。外観検査を自動化する方法についてまとめた資料がありますので、ぜひご覧ください。
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