製造現場では「歩留まり」や「歩留まり率」という言葉が日常的に使われています。歩留まりや歩留まり率は企業の利益にも大きな影響を与える指標となるため、現場の従業員も理解しておく必要があります。
本記事では、製造現場における歩留まりについて網羅的にご説明します。具体的な計算方法や改善方法なども取り上げますので、ぜひ参考にしてください。
製造現場における「歩留まり」とは
製造現場における「歩留まり」とは、原料や素材の量に対して生産された完成品の割合です。
製造現場ではロスの削減に取り組んでいますが、完全にロスをなくすことは難しいものです。特に食品加工業などにおいては、原料で使えない部分もロスに含まれるため、歩留まり率がゼロになることはありません。
また、製品が仕上がっても不良品が見つかる場合があります。当然のことながら不良品は市場に送り出すことができないため、利益につながりません。歩留まり率は、利益につながった良品の割合としても示されます。
製造業における歩留まりは重要な指標です。後述でその重要性をご説明します。
歩留まりの語源
そもそも「歩留まり」と呼ぶようになった理由は何なのでしょうか。歩留まりの語源を見ていきます。
歩留まりの「歩」は「歩合」からきています。歩合は、ある数量の、別の数量に対する割合を、「割・分・厘・毛」やパーセントで表したものです。「歩留まり」の「歩」は原料に対する良品の数量を指しています。つまり「歩留まり」は、利益につながる「取り分(良品)」が「溜まる」=「利益が残る」割合を表しているのです。
歩留まりは高いと低いどちらが良いか
「歩留まり」と聞くと、「とまり」という単語からネガティブな意味を想像する方も少なくないと思いますが、前述のとおり「溜まる」は残る利益を指しています。ここでは、歩留まりが高い・低いことが具体的にどういう状態を指すのかご説明します。
歩留まりが高い
製造業で「歩留まりが高い」と言う場合、製造品のうち良品が占める割合が高い状態を指します。逆に言えば、歩留まりが高いほど不良品が少ない状態ということです。出荷できる製品が多くなり、利益の増加につながるため、歩留まり率は100%に近ければ近いほど良いということになります。
歩留まりが低い
逆に「歩留まりが低い」場合は良品が占める割合が低く、それだけ不良品が多くなっている状態です。不良品=ロスが増えれば利益が下がってしまうため対策が必要です。
一般的に歩留まりは工程ごとに計測されます。どの工程で歩留まりが低くなっているのか、不良品が発生する原因を究明して改善に取り組むことになります。
歩留まりの使い方
では歩留まりは製造現場で具体的にどう使われるのでしょうか。以下に例文とそれぞれが表す状況をご紹介します。
- 前四半期は歩留まり率が15%向上した。
→前四半期は不良品の割合が15%減少した。 - 製造コストを削減するために、歩留まりを高める必要がある。
→不良品が発生すれば材料費や人件費などの製造コストが増えるため、コスト削減のためには良品の割合を増やす必要がある。 - 商品Aは販売価格が1,000円なのだから、原価が800円では歩留まりが低すぎる。
→商品Aの販売価格が1,000円で原価が800円もするということは、不良品の発生が多く余計なコストがかかっている。 - 歩留まりが想定よりも低く、納期に遅れが発生しそうだ。
→想定よりも多くの不良品が発生しているため納品数を確保するのに時間がかかっており、納期に遅れる恐れがある。
歩留まりの重要性
歩留まりの意味や語源を理解したところで、続いては重要性について見ていきます。
歩留まりは効率的な生産を行う上で重要な指標であり、製造現場における永遠の課題でもあります。不良品や欠陥品が発生して歩留まりが下がれば、原料費や製造コストが高くなります。逆に、不良品や欠陥品を少なくして生産性を向上させると企業の利益に直結します。そのため、製造現場ではできるだけ歩留まり率を上げ、生産性を高めなくてはなりません。
歩留まり率の計算
本章では歩留まり率の計算方法をご説明します。
歩留まり率とは
「歩留まり率」とは、文字どおり歩留まりを百分率で表したものです。例えば、投入した原料を100として、良品が90、不良品が10できた場合、歩留まり率は90%となります。
歩留まり率の計算方法
歩留まり率は、以下の計算式で算出できます。
歩留まり率(%)= 良品数 ÷ 生産数 × 100
では、具体的な数値を当てはめて計算してみましょう。
例)生産数300個、良品数275個の場合
歩留まり率(%) = 275 ÷ 300 ×100 = 約91.7%
具体的な良品数がわからない場合は、以下の式でも算出できます。
歩留まり率 = (生産数 - 不良品数) ÷ 生産数 × 100
例)生産数300個、不良品数30個の場合
歩留まり率(%)=(300 - 30)÷ 300 × 100 = 270 ÷ 300 × 100 = 90%
以上のように、良品数か不良品数のいずれかがわかっていれば歩留まり率を計算できます。
歩留まり率と良品率の違いとは
ここでは歩留まり率と混同しやすい良品率についてご説明します。
良品率は、生産数に対する良品数の割合です。以下の計算式で算出できます。
良品率(%) = 良品数 ÷ 完成品数 × 100
歩留まりが原料に対する完成品の割合を表すのに対し、良品率は完成品に対する良品の割合を表します。そのため、歩留まり率は良品率にも影響するという関係性を理解しておく必要があります。
例えば歩留まり率が80%の生産ラインで100個の完成品ができた場合、良品率が50%ならば良品として利益につながる完成品は50個です。歩留まり率が80%で100個の完成品ができたわけですので、原料は125個分あったことになります。つまり、原料に対する良品の割合を表す純粋な歩留まり率は、50 ÷ 125 × 100=40%となります。
製造現場の生産性を考える際には、良品率と歩留まり率、さらに純粋な歩留まり率の関係性を理解し、把握しておく必要があります。
歩留まりが低下する主な要因
歩留まり率は数値が高いほど利益につながる完成品が多い状態であることを示します。つまり歩留まり率の低下は原料費や生産コストの無駄、ひいては利益の減少につながります。生産性や利益率の向上のためには、原因を突き止めて歩留まり率を改善しなくてはなりません。
製造現場において歩留まり率が低下する原因は以下のようにさまざまです。
■歩留まり率が低下する原因(例)
- ヒューマンエラー
- 製造設備の老朽化
- 製造プロセスの不備
- 設計上のミス
- 材料不良 など
設備が原因である場合はコストをかければ比較的簡単に解決できます。しかし、例えばヒューマンエラーが不良発生の最大の原因であるとしたら、長期的に歩留まりの改善するためにはその要因をさらに深堀りする必要があります。部品の取り付けミスが多いのであれば生産管理に問題があると考えられます。製造手順で不備が起こっているとしたら、教育体制やマニュアルに原因があるかもしれません。こういった原因を突き止めるためには、不良の発生を記録したり、現場の作業環境を把握しておく必要があります。
次章では歩留まり率の改善方法を見ていきます。
製造業における歩留まりの改善方法
ここでは、歩留まり率を改善する方法を4つご紹介します。ぜひ自社の歩留まり改善の取り組みの参考にしてみてください。
適切な歩留まりの目標設定
歩留まり率は高ければ高いほどいいとされます。しかし、必ず100%を目指せばいいかというとそうではありません。いきなり「歩留まり率を100%にします」と目標を掲げても、非現実的で現場の理解を得るのは難しいでしょう。
そこで、段階的に目標を設定して徐々に歩留まり率を向上させていくことをおすすめします。この時のポイントは目標をできるだけ具体的に設定することです。歩留まり率の数値だけではなく、その数値目標を達成するための具体的な方法の策定や期日の設定も重要です。
例えば、歩留まりの低下の原因が作業員のスキル不足だとします。その場合、歩留まりを改善するためには作業員向けのスキル研修などが必要です。研修の効果を見込んで「歩留まり率を1か月で10%改善する」など具体的な目標を決めてください。
不良が発生する原因の究明
前述のとおり、不良が発生したり歩留まり率が低下したりする要因はさまざまです。何が原因で不良品や欠陥品が増えているのか原因を究明して、しかるべき対策を取る必要があります。
前項では従業員のスキル不足を例にあげましたが、設備に問題があるケースも考えられます。その場合は設備の修繕やリプレースなどで歩留まり率を大幅に改善できる可能性があります。人員配置に問題があるならば、作業内容の再確認、配置転換などの検討が必要でしょう。
しかし、原因をしてさまざまな対策をしても歩留まりが改善されないこともあります。歩留まり率は自社の利益を構成する要素の一つですが、歩留まりだけでなく、場合によっては事業全体を俯瞰して生産性や利益率の改善を考える必要があるでしょう。
直行率もチェック
製造現場において歩留まり率を改善するには、直行率もチェックしておきましょう。
直行率とは、すべての完成品のうち一発で検査に合格する良品の割合です。歩留まり率も良品の割合を示す数値ですが、不良品が差し戻され、手直しされて良品になったものも含まれています。
最終的に良品になっても差し戻しがあると、手直しのコストが発生します。製造コストがかさむと利益を圧迫しますので、一発合格した製品の直行率もチェックしておきましょう。
AIの活用による不良の発生防止と外観検査の実施
近年はITとIoTを活用して製造現場の歩留まり改善に取り組む事例が出てきています。生産ラインにIoTセンサーを取り付けて大量のデータを集約し、生産工程の最適化を測ったり、不良の発生要因となる兆候を検知するといった取り組みが例として挙げられます。
また、製造業の品質管理に欠かせない外観検査もAI化が進んでいます。従来、外観検査は検査員が目視で行ってきましたが、近年は人手不足や検査の高度化・複雑化などの影響で、検査機を導入する現場が増えています。しかし、検査機を導入しても精度が不十分で過検出が発生するといった新たな課題も出てきています。AIを使った外観検査であれば、過検出を抑制し、ロスや目視検査との併用による工数の削減を図ることができます。
まとめ
歩留まりは製造現場における重要課題のひとつであり、利益の向上のために避けては通れません。歩留まり率が低下している場合は、その原因を見極め、適切な改善策を検討・実施しましょう。
とはいえ、製品を作る工程ではどうしても不良や欠陥が発生してしまいます。不良品を市場に流出させず品質を保つためには、各種検査が必要不可欠です。外観検査もそのひとつですが、人手不足や検査の難化などによって検査員による的確な検査が困難になっています。そこでAIを活用した外観検査が近年注目を集めています。
外観検査を自動化する方法についてまとめた資料もありますので、興味がありましたらぜひご覧ください。
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